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ある日、超能力に目覚めましたが、そんな事より彼女ができました。  作者: 明日栄作
第三章。妹の辞書に、『遠慮』の文字はない。
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妹はお出かけしたい

どうも、明志多です。


この話は妹との買い物に行く約束をした話の続きでございます。


どうぞ、読んでみてください。

土曜日の昼間ということもあって、駅前には多くの人がごった返していた。


普段から休日は自分の部屋から極力出ない俺には少しばかりきびしい空間だ。


「ごめんごめん、待った?」


と、駅の改札から出てきた妹の、よく聞くお決まりの台詞に俺は無感情で答える。


「そりゃあ、待ったよ」


「もう! お兄ちゃんそこは全然待ってないって言うとこでしょ」


「そんなこと言われても、同じ家から時間差で出たら、先に出た俺が待つ事になるに決まってんだろ」


「それは、雰囲気作りなんだからしょうがないの!」


荷物持ちに雰囲気の作りってなんだよ。


だったらお前も語尾にザマスとかつけなきゃ俺も荷物の持ち甲斐ってもんが出ないだろ。


「へいへい、分かったから早く行こうぜ?」


人混みから一刻も早く離れたい俺は、妹の言葉におざなりな返事を返して歩き出す。


「うぅん、なんか釈然としないけど……」


「まあまあ、帰りに安子の好きなお菓子買ってやるから」


「あたしはそんなんで釣られるほど、子供じゃない!」


流石に中学生をお菓子で釣るのは無理があったか。


「へーそりゃあよかった。なら、買うのは自分の分だけにしておくよ」


「……けど、いらないとは言ってない」


と、俺が思っているよりも、妹はまだまだお子様だったらしい。


駅前のロータリーを真っ直ぐ歩いて信号を一つ越えた先にあるのが、この街の唯一と言っても過言ではないショッピングセンター。


そこに妹である安子の買い物に付き合う為、他にやることのなかった俺は渋々同行することにしたのだった。


決して、鞄に入れたままの課題から目を背けて現実逃避しているわけではない。


「それで? 具体的にはなにを買いに来たんだよ」


店内へ入ってすぐに、久しぶりに地元へ帰って来た安子は館内の地図を見ているので、具体的にプランを聞いてみる。


「は? そんなの決めてるわけないじゃん」


と、俺達の冒険はここで終わってしまう一言が飛び出した。


「え、いや、お前買い物をしに来たんだろ?」


「そうだよ。だから色々見て回って、あたしが買いたいものがあるか探すんじゃん」


え〜なんだその買い物は、そんなん買うよりも探すのに時間使ってるじゃないかよ。


「なんかそれ、買い物ってより探し物って感じだな」


「うーん、そうかもね。でも、よく見ないで買って、後であっちの方がよかったとか思うのやだし、どうせ買うなら一番気に入ったのが良いでしょ」


ニカっと笑う妹の笑顔に、俺は少し驚いていた。


しばらく会っていない間に、安子も自分の考えをちゃんと言えるようになったのが嬉しくなる。


俺も釣られて口元が緩んでしまう。


「安子、歯にネギついてんぞ」


しかし、なんだかこのまま妹に感心して終わるのも尺だったので、ほんのちょっとだけいじわるを言ってやる。


今日のお昼は、少し季節が早い素麺だったので、安子は麺が隠れる程の薬味を器に入れていたのだ。


「え、嘘!? あたしちゃんと歯磨いたよ?」


なので、安子は手鏡で一生懸命、歯を見ている。


綺麗に生え揃った、なにもついていない白い歯を。


「ちょっとお兄ちゃん! ネギなんてついてないじゃん!」


腹を抱えて笑う俺の背中を叩く安子の手のひらは全然痛くはなかった。



「お兄ちゃん、なんであの女と付き合おうと思ったの?」


気を取り直して入った洋服屋で、安子が唐突にそんな事を聞いてくる。


「あの女って……」


まだ一度、お互いに目が合った程度の関わりしかないと思うのだが、安子は優花になにか恨みでもあるのだろうか。


「なんでって言われてもなぁ。そんなの告白されたからじゃないか、知らんけど」


「え!? お兄ちゃんがしたんじゃないの?」


「気持ちは分からなくもないが、なんだその失礼な態度は!」


「え、だって小学校の頃幼馴染みの咲ちゃんに振られて、そのあと中学生になってから仲良くなってメールも毎日のようにしてたにも関わらず再度振られて、部屋で何時間も泣いてたお兄ちゃんが女の子に告白されるなんて……」


妹よ……兄は限界を超えたよ。


もう怒りも悲しみすら湧いてこない虚無の兄がここに立っているのみ。


「それで……咲ちゃんが」


「もうやめろよぉ!! 無理矢理買い物に呼び出して、俺が必死に埋めた黒歴史を掘り起こすしやがって、一体なにが目的だ!?」


「今の目的だと……これどっちが可愛い?」


「………………は?」


「だから、この二つだったら、お兄ちゃんはどっちが可愛いと思う?」


と、安子は全体的にフリフリとした白いワンピースと、少し袖が長い気がするフードに猫耳の付いたピンク色のパーカーを前に出してくる。


「うーん、どっちでもいいけど、強いて言えば白い方かな」


俺は深く考えずに俺の好みで可愛いと思った方を指差す。


「ふーん、こっちなんだね」


安子はどちらも気に入らなかったのか両方とも、元あった場所へ戻してまた他の服の物色を始めている。


「でも告白されたからってことは、お兄ちゃんはあの女のことそんな好きじゃないの?」


「そんな事はないけど、優花の場合はいきなりだったから、驚きが一番大きかったってのが本音だな」


実際、最初は面白くて失礼な奴とは思ってたけれど、恋愛感情っていうのはピンとこなかったと思うんだよな。


今でも優花のいいところを言葉で説明するのは困難を極めるだろうしなぁ。


「そっか。彼女って、そんな曖昧な感じなんだね」


「ちょっと嬉しいそうに言うな。性根が顔に出てるぞ」


恋愛に不慣れな兄を見て、笑ってんじゃねえ。


「この前の感じだとお兄ちゃんの彼女、怖そうだったもんね……」


「……まあ、それはいいとして俺は何着妹の服を選べばいいんだよ?」


話題をすり替える為、先ほどから気になっていた事を尋ねた。


「いいじゃん、お兄ちゃんどうせ暇でしょ」


「そんな訳ないだろ。兄の休日の忙しさなめんなよ? お前の買い物に付き合わなかったら、あの後あと五時間は寝れてたぞ」


因みに朝飯を食べていた時は眠くて仕方がなかったけれど、昼を過ぎた辺りから睡魔を完全に見失っている為、今は全く眠くない。


「お兄ちゃん……よかったね、妹が居て……」


「可哀想な人を見るような目で俺を見るのはやめてくれ……」



その後も安子はしばらく服を手に取っては、俺にどっちが良いかを聞いてはどちらも戻していた。


「うん、もう服はいいかな」


「ん? 一着も買わないのか」


「ううん、買うよ」


そう言って、安子は通ってきたラックとラックの間を引き返して行ったので、女性用服ばかりの空間に一人取り残される。


「これ」


安子が持ってきたのは、俺が一番最初に選んだ白いワンピースだった。


「お兄ちゃん、これ選んだ時が一番反応よかったから」


「ああ、いいんじゃないか」


妹の笑顔を見てると、後半になるにつれて飽きてきたからだとはとても言えない。


会計を済ました安子が、ニコニコしながら店前で待っていた俺の元へ来た。


「嬉しいそうで、なによりだよ」


「へへへ、ほんとに今日は良い日かも」


「よかったな、それで買い物はもう終わりか?」


荷物持ちとしては、ここで終わっても全く問題はないのだが。


「ううん。お兄ちゃん、今度はあっちのお店行こ!」


洋服店を出た安子が、遊園地に連れてきてもらった子供が次のアトラクションを選ぶように、通路の向こう側にある雑貨店を指差してはしゃいでいる。


久しぶりだからなのか、地元のショッピングセンターでここまで喜べるもんなのか。


妹に彼氏ができた時は、だいぶ助かる事だろうな。


「わかったから走ったりはするなよ?」


「もう、そんなのわかってるよぉ」


まあ、兄としては妹は笑っている方が、可愛げがあって嬉しい限りなんだけどさ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


お家デートの後という事で、彼女不在回だったので少しばかり苦戦してしまいましたね。

もっとスラスラっと書けるようになりたいもんですねぇ。


この話が面白いと持って頂けたら、ブクマ、ポイント評価などして頂くと、作者が喜びます!


それでは、よろしければ次回もお付き合いくださいませ。

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