デートの終わりは新たなデートの始まり。
どうも、続き書きました。
この話は主人公がお家デートの末に彼女との目的を達成?した話の続きでございます。
五月も後半に差しかかり、気持ちの良い暖かさが徐々に蒸し暑さになり始める土曜日。
まだ街も寝ぼけている朝の六時頃、俺はリビングのソファで一晩中悶々としていたせいで、固まった身体をほぐすために大きくのびをした。
「おはよう誠くん」
すると、そこに昨日は我が家の俺の部屋で寝息を立てた優花が、もう身支度を済ませたのか自分の荷物を持って朝の挨拶を告げに来た。
「ああ、おはよう。優花はもう帰るのか?」
と、俺は背後からの声にのびをした状態で上半身をねじりながら答える。
「ええ、これでも緊張はしていたから今日はゆっくりしようと思ってね。そういう誠くんは朝からユニークな体操かしら?」
「違うよ、たまたま振り向くタイミングで、そう見えただけだろ」
「なんだ、そうだったのね。とてもユニークな顔をしているから体操でもしているのかと思ったわ」
「顔のことかよ! 誰が朝から表情筋の体操なんてするか」
「ふふふ、誠くんは朝から元気なのね」
「少し寝不足だから、不必要に馬鹿にされたりしなければ朝っぱらから、こんなテンションにならなくて済んだけどな」
「あら、どうして寝不足になんてなるのかしら? 昨日、おやすみと言われてから同じ時間寝たはずなのに……」
「それは、アレだよ、ソファで寝てたから寝心地が微妙で、よく寝れなかったんだよ」
「それにしては早起きなのね、誠くんがこんな時間に起きるなんて」
「まったくだよな、おかげでまだあくびが出るよ」
ふぁぁ、と俺が大きくあくびをすると帰ると言っていた優花が何故か隣に座った。
「誠くんは愛する彼女が帰ってしまうというのに、どうしてさっきから目を合わせようとしないのかしら」
「うおっ⁉︎」
言いながら、顔を覗き込んできた優花の顔から離れようとする俺の退路を、ソファの背もたれは塞がれていた。
「むぅ、私の顔にもいい加減慣れて欲しいのだけれど」
俺の反応に、むくれた顔の優花が唇を尖らせて恨み言を言う。
「は、はい。頑張ります」
俺の誠意ある返事を聞いて優花も納得したのかご満悦そうに笑っている。
いや、優花がこういう笑顔の時は何か企んでいるに違いない。
そんな半眼になった俺に向かって、優花は徐ろに頬をさすりだした。
「私はそろそろお暇するのだけれど、なにか忘れものはないかしら?」
「わかったから早く帰ってくれ……」
その後、優花は満足そうにニコニコと口元を緩ませて帰って行ったのだった。
★
それから部屋に戻って、二度寝の末に目覚めた三時間後の事。
どうやら、さっきので完全に意識が覚醒してしまったようだ。
これ以上粘っても今は睡魔が訪ねてくる気配はないと諦めると、腹の虫が鳴った。
そういえば、まだ朝ごはんも食べていないしコンビニにでも行くとするか。
財布を持って部屋を出た俺は、一応隣の部屋に居る妹の安子に声をかける。
「俺、ちょっとコンビニ行ってくるから留守番よろしくな」
「ちょっと待って」
今朝から一度も見ていないので、まだ寝ているのか思っていたが、どうやら違ったらしい。
「あたし、アイス」
ドアを開けた安子が、俺にお金を手渡しながら短く告げる。
どうやらアイスを買ってこい、という意味のようだ。
「やだよ、自分で行けよ」
安子は欲しい物があるといつも俺に頼んでくるので、たまには自分で行って欲しい。
「えーついでなんだから、いいじゃん」
「あーそうだ忘れてた。俺の行くコンビニは、確かアイス売ってないんだよな」
「あたしが帰って来てない間に、そこまで変わり果ててる訳ないじゃん。電車だって普通に走ってたのに」
安子が反論してくるが、電車とアイスになんの関係があるのかわからない。
俺は安子に向き直るとさっきとは違う方法でやり直す。
「……アイス?」
「ついにお兄ちゃんの記憶からもなくなってるじゃん! アイス無しでこの街はどうやって夏を越えるの?」
どうやら安子の中では、アイスがなくては夏は越えられないらしかった。
この街にはクーラーも扇風機もあるのだが、
それら差し置いてアイスがなくては夏を越せないというのは、そっちの方が何事だよと思う。
「そういう事だから、たまには自分で行けな」
「……朝から彼女とイチャついてたくせに」
「おい、それは今関係ねえだろ!」
「そういえば、お兄ちゃん。あたしがお風呂上がった時、ソファでうつ伏せになって足バタバタしてたけど、アレどうしたの?」
「安子ちゃん、アイスはなにがいいんだい?」
俺は笑顔を作って迅速に尋ねる。
「さすがお兄ちゃん、優しいね」
「ついでなんだから、このくらい普通だよ」
「うんうん、そうだよね」
「そうそう、ははは……」
結局、安子の欲しい物(結局、アイス以外も)を聞き終えて玄関に向かう。
家を出た俺は、快晴な空を見上げながら思わずため息が出る。
「安子の奴、しばらくはこの話引きずってくるんだろうなぁ、はあ」
自分の空腹を満たすのと妹のついでを買って来るべく、俺は一人コンビニへと自転車には乗らず歩いてゆっくり向かうことにした。
★
帰って来た時にはお昼と朝の間のような時間で、わざわざ歩いたせいで喉が水分を要求している。
俺は食器棚にあったコップを出して、冷蔵庫から作り置きしている麦茶のボトルを取り出して、注ぐ。
「あ、おかえりお兄ちゃん。って、なんでアイスが袋に入ったまま床に置きっぱなしなの⁉︎」
「え、ああ。喉渇いたからお茶飲もうと思って、忘れてたわ」
空になったコップを置き、袋から自分の調達してきた食料のおにぎりを取り出してソファに座る。
「もう、お兄ちゃんほんとそういうとこあるよね」
「まあまあ、頼まれた物は全部買って来たんだしいいじゃないか」
「笑いごとじゃないからね? なんかあたしも喉渇いてきちゃったよ」
と、俺が置いていた麦茶を目の前のコップに注いで飲んでいた。
「おい、それ俺のコップだろ」
「え、うん。なんかまずいの?」
「いや、どうせ二人とも飲むんだから新しいのを出せよ」
「えーめんどくさいよそんなの。置きっぱにしてたお兄ちゃんが悪いんだよ」
安子はイタズラに成功したような顔で笑いながらすぐにダイニングテーブルに座ると、買ってきたカルボナーラをフォークで巻き取って食べている。
「ったく、お前も人の事言えないだろ」
俺は新しいコップを持って、再びソファに戻る。
それから包みから慎重に取り出したおにぎりを口に運ぶ。
「あ、そうだお兄ちゃん。午後になったら駅前に買い物行きたいからよろしくね」
安子が唐突にそんな事を言ってきたので、よくわからないが返事を返しておく。
「おお、いってらっしゃい」
「違うよ、お兄ちゃんも行くんだよ?」
「え、なんで俺強制的に参加者に含まれてんの?」
「お兄ちゃんだからでしょ?」
「おい、兄という立場を都合良く解釈するな」
「昨日、あの人とデートしてたんだから、休日くらい家族サービスしてもいいじゃん」
「いや、それはお兄ちゃんじゃなくてお父さんの仕事な気がするんだが」
「細かいことは気にしないでいいんだよ、ね?」
安子の念押しのような一言を言いながら手を合わせてお願いポーズをして、こちらをじっと見つめて俺の答えを待っている。
「まあ、俺も暇だから別にいいけどさ」
「やったー! ふふっ、お兄ちゃんとお出かけなんて久しぶりだなぁ」
荷物持ちが確保できて、よっぽど嬉しかったのか安子がちょっと浮かれ気味でニヤニヤしている。
正直、兄としてはその様子は少し心配になってしまう。
「まあ、そうだな」
でも、まあ、久しぶりに帰って来た妹のお願いを聞くくらいはしてもいいだろう。
「うまっ」
と、そんな事を考えながら口に運んだおにぎりの二口目に思わず声が出た。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
やっぱり会話劇を書いてるのは楽しいですね。
この話を面白いと思ってもらえたら、ポイント評価、ブクマなどしてもらえると作者が喜びます。
それでは、よろしければ次回もお付き合いくださいませ。




