友達との学校
誠と優花が友達になった翌日の話です。
どうぞ、読んでみてください!
翌日、村川優花は本当に俺のクラスに転校して来た。
彼女は教室に入り黒板の前で自己紹介をして、担任から自分の席を聞くと、俺の隣の席へと座る。
隣に座った村川は、俺にしか聞こえない抑えめな声で
「よろしくね」
と囁いて、そそくさと次の授業の準備に取り掛かった。
その日の昼休み。
学校の各教室の場所や食堂使い方なんかの案内も終わって、廊下を二人で歩いていると、村川から一緒に昼食を食べようと誘われた。
断る理由もないので、俺は校舎裏にある人気のないベンチまで案内する。
「誠くんって、いつもこんな所で昼食をとっているの?」
「ああ、飯を食べる時間に人と喋る必要なんて、
あまりないだろう?」
「誠くんの場合は、聞きたくなくても聴こえてくるものね」
「いや、どうやら俺の能力は片耳でも塞げば心の声は聞こえなくなるみたいなんだよ」
昨日の夜風呂に入っている時に、両親がイチャつきですという事件が発生。
その時、咄嗟に耳を塞いだら両親の心の声を聴かずに済んだのだが、離すとまた聴こえてしまう。
なので、昨日は自己最高記録を大幅に更新する程の長風呂となった。
「そうなの? じゃあどうして一人で昼食なんてとるの?」
「え? だから飯食べる時間に会話なんて、どうしてもしないといけない事じゃないだろ」
村川が俺の顔をまじまじと見つめる。
「ああ、つまり誠くんはただのぼっちということね」
「いや、それは違うだろ? 俺は望んで一人で食べてるんだから」
「それは、一緒に食べる友達がいないだけじゃないの?」
「いや、それくらいは居ただろ」
能力に目覚めた今となっては、村川か一人しか選択肢はなくなってしまったけど、
「じゃあ、誰かに一緒に食べようと誘われた事はあるの?」
「ああ、言われてみれば……ないな」
俺が話しかけられる言葉は基本「何してんの?」だった気がする。
「たぶん、そういう人の事をぼっちというのよ」
「え? 俺ぼっちなの!?」
初めて知った。
俺はいつのまにかぼっちになっていたのか。
「そういえば、誠くん。今日の運勢は見たかしら?」
「いや、急に話変えるなよ!」
相変わらず人の話を聞かない奴だなぁ。
「いえ、違うのよ。この話題の先に悲しみしかなさそうだからよ」
「いや、だから話変えてるじゃん!」
「まぁ、いいじゃない。これからは昼食くらい私が一緒に食べてあげるわ」
「いや、なんで上から目線なの? そもそも一緒に食べようって言ったのはお前だよ?」
てゆうか、これ毎日やる気なのかよ、せめて週3くらいにしてほしい。
「そうね、じゃあそれでいいわ」
「いや、なんで俺が悪い感じになってんだよ……」
「まぁ、誠くんも年頃だから素直になれないのは仕方がないことね」
「いや、大人の対応してる感じやめてくれない? 今ふり回されてるのこっちだからな?」
「わかったわ、じゃあ誠くんの話したい話題に合わせるから言ってみて?」
え〜なんだその無茶振りは、ほんと勝手なヤツだなぁ。
「それじゃあ、こんな話を知ってるか?」
「まだ、どんな話か聞いていないのに知ってるわけないじゃない」
「……うん、ごめんな」
確かにちょっと、言ってみたさだけで口にしてしまった自覚は俺にもある。
だからって、そこまで真っ向から否定しなくてもよくないか?
「それで、どんな話なの?」
「ああ、うん。なんでもこの街の時計塔がある丘で夕暮れ時に一緒に居た男女は永遠に結ばれるって噂があるらしいぞ」
「どうして、その話を私にするの?」
「いや〜好きかなって思って」
「確かに、好きだけれど。なぜ分かったのかしら?」
「いや、分かったっていうか、そうなのかなって思っただけなんだけどな」
昨日の会話で、それっぽい感じはあったしな。
「でも、やっぱり好みに合ったか。村川、占い好きって言ってたもんな!」
「…………ええ、好きよそういう話。それでその噂にはどんな話があるのかしら」
好きな割には村川のテンションはもの凄く下がっている。
「え、いや、話はこれで終わりなんだけど……」
「はあ、あなたに話題選びを任せた私が間違っていたわ」
「なんだその哀れみの眼差しは!? 俺なんか変なこと言ったか?」
「変なことしか言ってないじゃない、なんなのそのつまらない話」
「そんなこと言われても、クラスメイトが話してるのを聞いたことあるだけだから、詳しい情報まではちょっとな」
「今の誠くんの話で褒める所があるとしたら、昨日の会話を覚えていた記憶力と誠くんの二足歩行できる所だけよ」
「なんだと!? 俺をどんな鳥頭だと思ってんだよ! しかも二足歩行って、誰が進化途中の類人猿だとコラ!」
話題選びの失敗だけで、よくもまあそこまで侮辱の言葉が思いつくもんだ。
コイツ、絶対性格悪いな。
「私が予知夢で知っていたら確実にあなたを止めてあげられたのに、ごめんなさい」
「謝るな、そっちの方がダメージが大きいから! って、お前この会話、予知夢で見えてないのか?」
「ええ、私の予知夢は私の周囲で起きることを見せるけれど、私が予知夢と違う行動をすると、私に関わってる人も行動が少し変わってしまうことがあるの」
「つまり、お前は予知夢を変える事が出来るのか?」
「ええ、絶対とは言えないけれど、私に関わっている人は行動が変わる事があるわ。でも、私が予知夢と同じ事をした物や人はそのまま予知夢通りなのよ」
「そうか、今日知り合うはずだった俺と昨日すでに会っていたから俺の言動がお前の予知夢と変わったって事か」
「そうね、今日の段階では、ここまで気安く喋れてなかったわね」
「でも、予知夢通りに行動しないと未来で起こることがわからなくなるのに大丈夫なのか?」
「ええ、だってなにが起こるかわからないのは普通のことでしょう? 」
「まあ、そうかもしれないけど」
「大丈夫よ、今の所わからないのは誠くんがどこまでつまらないのかって事だけだもの」
「お前だって、人の事言えるほど会話得意じゃないだろ!」
「そうよ? だから一日早く誠くんと友達になっておいたんじゃない」
「え、俺はお前が退屈しないために友達にされたの?」
「まあ、そんな事より私達もそろそろ教室に戻りましょう」
そう言われて、時計を見るとちょうど昼休みが終わりそうな時間だ。
「全然釈然としないんだけど、そうだな。そろそろ行くか」
そう言って立ち上がった俺たちは、次の授業の為に教室に向かった。
★
それから数時間後の放課後。
時計の時間をから察すると、どうやら俺は授業中に寝てしまったみたいだな。
俺はぼんやりとした頭で静かな教室を見回したが、どうやら他のクラスメイトは各々部活や家に向かった後らしい。
それにしても教室に一人っていうのは、いつも教室で、存在感消してるせいか中々居心地が良いなぁ。
まるで、今この瞬間だけは俺がこの教室の所有者にでもなったような気分になってくる。
「なに一人でニヤニヤしているの? 気持ち悪いからやめた方がいいわよ」
突然背後から聞こえた声の方に顔を向けると、扉の前で村川が可哀想な人を見るような表情を浮かべて立っていた。
「なんだ、村川はまだ帰ってなかったのか? 」
「私はのどが渇いていたから飲み物を買いに行っていただけよ」
そう言って、飲み口にストローの刺さったいちごオレと書かれた紙パックを見せてくる。
「いや、じゃあなんで戻って来たんだ? そのまま帰ればいいだろ」
「教室に忘れ物をしたのよ。それで、ついでに誠くんを起こしてあげようとしていたの」
「そうなのか、わざわざわるいな」
「いいえ、お礼はいいわよ。あなたは自分で起きていたわけだし」
「……忘れ物持って、行かないのか?」
「誠くん今、私の心の声が聞こえてないの?」
「ああ、今は右耳に耳栓をしてるから心の声は聞こえてないぞ?」
村川は「はあ」とため息ついた。
「じゃあ、早く帰りたいから誠くんも早く帰る準備をしてくれないかしら?」
「ああ、一緒に帰るのか? そうか、じゃあ早く帰ろう」
すたすたと歩いて行く村川に、俺もすぐに準備を終わらせて隣に追いつく。
「誠くんって、心の声が聞こえないとめんどくさいわね」
「いや、だってお前ついでに起こしに来たって言ったじゃん」
「ええ、だからそういう所がめんどくさいのよ」
村川はもう一度、大きなため息をつく。
「は? どういう事だ?」
「この話はもういいわ」
「お、おう。そうかお前がいいならいいんだけどな」
うーん、村川がなにを言いたいのかさっぱりわからんな。
そんな話をしながら、俺達は下駄箱で靴を履き替えて学校を出る。
「そういえば、授業中に居眠りをしていたけれど、昨日は夜更かしでもしていたの?」
校門を出て少し歩いた所で、村川はそんなことを聞いてきた。
「いや特にはしてないな? 家に着いて飯を食べて風呂入ってゲームを少しして寝たよ」
「そうなの? じゃあどうして居眠りをしていたの?」
「それがさあ、ゲームの敵が強くてな。最初右左前の順番で攻撃してたのがHPが五割減った所で急に腹から雑魚キャラ出してきてな! しかもその雑魚キャラが近くに一定時間いると爆発するタイプの奴で、爆発する前にその敵を倒しつつボスの攻撃を避けて攻撃するっていうのをやらないといけなかったんだよな! それで4回目の挑戦でやっと倒したと思ったら、まさかの第二形態に変身してしかも最初動きが鈍いデカブツだったのに主人公と同じくらいの人型なんだよ! そして何よりそのボス、女だったんだよ! しかもデカブツの時は鎧みたいな身体でわかんなかったけど、それが全部剥がれたら、細身の可愛い女の子なんだよ! しかも自分よりデカイ大剣を振り回して攻撃してくるんだけど、これが大剣とは思えないくらい早いわけ、それで大剣が地面や壁に食い込んで……
「ごめんなさい、私こっちの道だから」
「お、おう。そうだったな、また明日な!」
村川は感情の薄くなった顔で歩き出すと俺の声も聞こえてないかのように歩いて行く。
もしかすると具合でも悪かったのかもしれないな。
なのにわざわざ俺を起こすために戻って来てもらって悪いことをした。
そんな事を思っていると鞄の中のスマホがマナーモードで震えている。
スマホを見ると村川からメールが届いていた。
【本文】長すぎるつまらない話をする人は相手の顔を見て話せと、今朝の占いに書いてあったわよ。誠くんも気をつけてね。
「いや、直接言えよ!?」
俺は一人になった帰り道で、自分のスマホを相手に盛大なツッコミをした。
とりあえず帰ったら『すまん、気をつける』と返信しておこう。
最後まで読んでくれた方ありがとうございます。
次はもっと面白い話が書けるように頑張ります!