二人きりの週末
続きを書きました。
今回は、お家デートすることになった主人公とヒロインの話です。
よろしくお願いします。
その後、優花の足から解放された俺は、家に着いて私服に着替えると、冷蔵庫から麦茶取り出し比較的いつも使っているコップに注ぐ。
麦茶を、ひと口で飲み干すと熱を帯びていた身体が体内で少しひんやりとして、暑さが和らいでいくのを感じる。
それから俺は忘れないうちに、お米を洗って、炊飯器のスイッチ入れておく。
さて、優花が来る前に。
俺は今朝机に置いてから、そのまま学校に向かって忘れてしまった物を財布にしまう。
それ両親が気前よくくれた……というか主に母さんの気持ちだったけど。
『優花ちゃんと美味しいもの食べていいから』
と、それはそれは楽しそうな笑顔で手渡されたお金である。
渡された時、寿司でも頼めって事か? と驚いたもんだ。
この数年、小遣いの金額はどれだけ頼んでも、微動だにしていないというのに。
そうして、俺は彼女という存在の恩恵に微妙な表情になりながら感謝しつつ、家を出た。
俺が玄関の前に出てから、優花は三十分後に遅れて来た。
「ごめんなさい、少し遅れたわ」
流石に、一回家に戻ろうかと玄関の扉に手を伸ばした時、俺の背後から優花が声をかけてきた。
その声に、流石に文句の一つでも言おうとした俺は、しかし、続く言葉は一向に思いつかない。
そこに居た優花の姿は、白い花柄のロングスカートに淡いピンクのパーカー(袖が余っており萌え袖というやつになっている)で、長い黒髪は一つにぐるぐると結って肩からおろしている。
普段、制服姿の優花を見慣れている俺はそのまま数秒間、彼女の私服姿に見惚れてしまった。
「えっと……大丈夫、俺も今着いたとこだ」
「あれから約一時間かけて自分の家に着いたの? それに、今着いたにしては着替えも終えて準備万端に見えるのだけど」
俺が働かない脳でした不可解なフォローに、不思議そうな顔の優花が首を傾げて、当然の疑問を口にする。
「ああ、そうなんだよ。俺着替えるの早いから鞄とか放り投げて出てきたとこなんだよ」
「まあ、よくわからないけれど、物は大切に扱った方がいいわよ」
若干、呆れ気味の優花に、俺は乾いた笑いを返すしかなかった。
それにしても、俺の彼女が可愛らしい格好をしただけで、こんなに可愛くなるなんて嬉しい発見だな。
ここは言葉にして褒めるのが、彼氏の鏡というものだろう。
「な、なあ、優花さん」
あ、終わった。
普段しない事をしようとした結果、俺の口から出たのは褒め言葉ではなく謎の敬語だった。
「どうしたの誠くん? なぜか話し方“も“おかしくなっているけれど」
「も、ってどう言う事⁉︎ 今おかしかったのは喋り方だけだよ!」
人の気も知らないで言いたいこと言いやがって、褒めるのやめるぞこのやろぉ。
いやぁ、やめないけどさぁ。
意識的に言おうとするとなんでこうも、言葉に詰まるんだろうか。
「いや、それで脱線しちゃったけどさ。そのその格好似合ってるって、可愛いよ。って、まあ、そんな感じの事が言いたかっただけ……です」
それを聞いた優花は、キョトンとして自分を拙い言葉で褒めていた彼氏を、まじまじと見つめている。
「ええ、ありがとう……ございます」
朱色に染まった顔で俯きながら、優花も不自然な敬語になってお礼の言葉を言うのだった。
そんな初々しさが極まったカップルのようにというか、そのものになっていると。
「あ、あれよね。そろそろ今日の晩ご飯の買い出しに行かない? もう日も暮れてきているし」
優花が空気を変えるように、ごもっともな提案をしてくれる。
「お、おう。そうだな、そろそろ向かった方がいいな」
てゆうか、彼女を褒める事ばかり考えてたおかげで、まだ俺は玄関の前から一歩も動いてないのだった。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、当然のように差し出された優花の手を、俺は当たり前のように握って歩き出す。
「おう、夜の飯を期待してるな」
俺の家からは最寄りのスーパーに行くのに、歩いて十五分ほどかかる。
そんな道のりを見慣れた俺とは対照的に、この街に最近越してきた優花は、初めて通る道なだけにどこか楽しげに歩いている。
「そういえば、今日の夜のご飯なんだけれど、誠くんからは何かリクエストはあるかしら?」
「うーん、特にはないかなぁ。あ、でもどうせなら優花の得意料理が食べたいかな」
「私の得意料理ね、わかったわ。必ず誠くんの胃袋を鷲掴みにしてみせるわ」
「うん、その気合いはいいと思うけど、なんか怖いから程々にな」
「ふふ、それは残念ね。メインディッシュにして出そうと思ったのに」
「怖すぎるわ⁉︎ てゆうか、メインまでの料理がチャラになってるじゃん!」
「いいえ、メインはそこまでに誠くんが食べ終えた料理で出来上がっているのよ」
「人の胃袋の中で、下ごしらえしてんじゃねぇ!」
そんな会話を続けているうちに、俺達は目的地である、スーパーに到着した。
俺は買い物かごを持って優花の隣を歩く。
「まあ、冗談はいいとして、誠くんは苦手な食べ物とかあるのかしら」
「特にはないかな? 俺は大抵の物は美味しく食べられる自信があるぞ」
「じゃあ、何を作るかは後のお楽しみという事で、買い物中に買った食材から考えてみてくれるかしら」
挑戦的な眼差しでいう優花の目からは、絶対に美味いと言わせてやるという覚悟が見てとれた。
「じゃあ、夜ご飯は楽しみに待つとして、これも買っておこうぜ?」
俺は陳列されている子供向けの食玩の棚の中に置いてあるトランプを手に取った。
「誠くん、それで手品でもするつもりなの?」
「あれ? 泊まりっていったらトランプで遊ぶのって定番じゃないのか?」
一人っ子の俺は、中学校の修学旅行でやったくらいの経験しかないのだが、大富豪とかババ抜きとか、そんなんで。
「そうなのかしら、私にはよくわからないけれど、それって二人でやって楽しいの?」
「……あ」
そういえば、そうだった。
今日は俺たち二人なんだし、トランプをやろうって、言っても盛り上がる訳ないよな。
さっきの反応を見るに、優花はトランプとかあまりやらなそうだしな。
俺は手に取ったトランプ棚に戻すと、今更ながら疑問に思う。
え? じゃあ俺って家に優花と二人で何すんの? ご飯食べたら寝るしかやる事なくないか?
「誠くん、大丈夫?」
「おう、大丈夫大丈夫。とりあえず今日食べるものを買って行こうぜ」
「じゃあ、まずは野菜コーナーに行きましょう」
その後も優花の指示通りの食材をかごに入れていく。
「それで、全部かしらね」
「おっじゃあ、レジに向かうか」
会計を済ませ目的を果たした俺たちはスーパーを出て帰路につく。
「袋一つ持たせてくれる?」
両手に荷物をむ持つ俺を気遣って、優花が言う。
「いや、これくらい大丈夫だよ。優花は帰ってから忙しいから今は楽してくれって」
「いえ、そうじゃなくてね。そのままだと手を握れないから、私に片方だけ持たせて手を空けて欲しいの」
「ああ、さいですか」
俺は言われて、二つの袋を一つの手で持ち優花が歩道側の手を空にする。
そこにギュッと、優花の手が俺を包み込んでお互いの手が温もりで溢れていく。
そんな温もりを感じたまま歩くこと、十五分。
我が家に到着。
「まあ、何もないとこだけど入ってくれ」
俺はズボンのポケットから、鍵を取り出して玄関扉を開ける。
「おじゃまします」
優花が靴を脱いだ後に、きちんと揃えて百八十度回して置いて入って行く。
真面目だなぁ、別に親とか居ないから脱ぎ散らかせばいいのに。
俺はもちろん脱いだ時のままで、家に上がる。
自分の家に彼女が居るって、結構違和感があるなぁ。
そんな事を思いながら、テレビをつけるとまだゴールデンタイムには早いので、夕方のニュース番組が流れていた。
俺はそれを眺めながら、袋から買ってきた食材を取り出している優花の隣に立つ。
「何か手伝える事はあるか?」
「ありがとう。じゃあ野菜の皮むきをしてもらっていいかしら」
俺は台所にあるピーラーで野菜の皮をむく。
優花は隣で、食材が切り始めている。
それから、しばらく会話もなく二人で料理を作り始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
やっぱり学生服姿を見慣れた彼女の私服というのは良いものだと思うのです。
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作者が喜びます。
それでは、よろしければ次回もお付き合いくださいませ。