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ある日、超能力に目覚めましたが、そんな事より彼女ができました。  作者: 明日栄作
第二章。彼女は、恋人に手加減をしない。
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鉢合わせ

イチャイチャ回の続きです。



今朝の一件の事もあり、隣の席でさらに逃げ場のない教室では、別段変わった事もなく俺と村川は普段から教室内であまり喋らないのにも関わらず、今は沈黙がつらい。


今までも、授業中はさすがの村川も話しかけてくることはないけれど、俺達はそこまで友人関係が広くない。


なので、授業が終わると、誰かの席やクラスに出向いて話すなんてわけもなく、お互い隣の席で座ったままで過ごしていた。


『いた』なんて言うと今は違う過ごし方をしているように聞こえるけれど、そこまでの変化は期待しないで欲しい。


ただ、授業が終わったばかりのクラス中が気怠さに満ちている中で、村川が読書をしていて、話し相手を失った俺は現在暇を持て余しているだけの事だった。


そんな事を、この気まずさを生み出しておいて気にしている様子のない村川の、横顔から熱心に読んでいる本の表紙へと目を向けると……


『異性からアプローチさせる10の方法』と書いてあった。


う、う〜ん。話し相手の居ない空き時間ってなんだか眠くなってきたりするなぁ。


やっぱり人間は睡眠欲には勝てないのかもしれなかった。


と、俺が眠気に白旗を掲げセルフの腕枕に顔を埋めた瞬間。


目を閉じてもう少しで腕枕のベストポジションを見つけられそうな所だった、俺の足に何者かが無情にも、つま先を打ち付けた。


当然の如く俺は真っ先に疑うべき人間、俺の隣で澄まし顔で本を読んでいた自分の彼女へと顔を上げ視線を向けた。


「うおっ⁉︎」


向けた視線の先で、こちらを見つめる村川と視線がぶつかる。


そして、村川の手には先ほど読んでいた本の表紙が、俺によく見えるようにご丁寧にこちらに向けられていた。


くそぉ、このまま何もなかった事にして目を閉じたいが、目が合った拍子に驚いて声出しちゃったし無視したら面倒くさいよなぁ。


「あのさ……」


「その先は……言葉を選ばないと死ぬ事になるわ」


「なんで俺は、こんな平和な教室でそんな危なすぎる選択を迫られてんだよ⁉︎」


「私を口説き落とす様な歯の浮く台詞を言ったのなら私の、それ以外なら誠くんの命が危ないわ」


「九割方、俺の命の危機じゃねえか……」


しかも、村川の琴線に触れる様な台詞が言えなかったら、結局俺の危機である為ほとんど出来レースだった。


「ごめんなさい。違うの、この本に根性なしのどうしようもないチキン野郎の彼氏には少しくらい強引に言った方が吉って書いてあったから……」


「なあ、ほんとにそう書いてあったか?ただ個人的に言いたいこと言ってるわけじゃないよね?」


あと、ナチュラルに今俺の事『根性なしのどうしようもないチキン野郎』って認めた上で喋ってなかった?


「当たり前でしょう?私がそんな酷いこと思っても、言うと思う?」


思ってることは認めんのかよ。


「まあ、今までの犯行を思い返してみても十中八九言うと思うんだが……」


村川は唇を尖らせて、机の上で体操座りを始めたかと思うと……


「ふーん、そうなんだ」


「?」


「誠くん、そういうこと言うんだ。彼女にそういうこと言っちゃうんだね、ふーん」


拗ねた。


頬をフグのみたいに膨らました顔で、あからさまにわかりやすく拗ねた。


その口調は村川にしては珍しく表情と相まって、彼氏としてはかなり可愛いと思ってしまう。


でも、めんどくせぇ、普段のお前だったら絶対に言いそうだと思うだろ。


「悪かったよ、機嫌直してくれよ。な?」


「ほんとにわるいと思ってる?」


「そりゃあ、もちろん全面的に圧倒的に俺が悪いと思ってるよ」


「とてもそうは見えないけど……まあ、今日のところは見逃してあげるわ。お楽しみはこれからだし」


村川が本をしまいながら明らかに怪しい一言を言い終わったのと同時に、次の授業の鐘が鳴った。


いやに素直に許してくれた村川の態度に、このあと何が起きるのか内心気が気じゃなくなった俺の頭はもう授業どころではなかった。



さて、午前の授業も終わりひと段落ついた昼休み。


俺の学校の昼食は購買で売られている数種類のパンの中から選んだものを食べるか、自分で弁当なりコンビニなどで買ってきたものを食べる。ちなみに俺は、購買を利用している。


三階にある自分の教室から、購買がある1階までは歩いて十分ほどで辿り着ける。


特に急ぐ理由もないので、購買を利用する生徒でごった返す時間帯は避けて、各々昼食の場に散らばって行くのを待ってから向かうのが、俺のいつもの習慣だ。


昼飯の為にあんな人混みに飛び込もうなんて、考えられないな。


時計に目をやると、そろそろ向かってもいい時間になっているので、俺は座っていた椅子にしばしの別れを心で告げて、そのまま席をたって教室を出た。


最近は村川と一緒に昼食を食べていたけれど、今日は村川は昼休みのチャイムがなるや否や、何故か鞄を手に持って、そそくさと一人でどこに行ってしまった。


村川は弁当派なので、見た目にだけは似合っている淡い桃色の手ぬぐいに包んだ弁当箱を持って昼食を取るのだが、今日は鞄しか持っていなかった。


もしかしてすると、友達に誘われたりして村川も購買で一緒に買っていたのかもしれない。


それか鞄に入っている別の物が必要で弁当箱を鞄に入れて行ったのか。


どちらにしても転校して来て日が浅い村川に友達が出来るのは俺としても大変喜ばしい事なので、久しぶりに1人での昼食。


たまには1人で静かに昼食を取るのも、案外のんびりできて俺は気に入っている。


そうと決まれば、今日は何パンが残っているのか、相手の力量を計りに行かなければならない。


今日は何パンを買おうかな。


などと考えながら歩くこと、数分。


一階に降りて、購買のある廊下に差し掛かる。


今日は珍しくこの時間帯に一人の女の子が購買のスペースの前で、壁に背中を預けて少し離れた所からすでに籠の中にまばらに置かれているであろうパンを眺めている。


邪魔にならない様に距離を開けて吟味しているのかと思ったが、その女の子に近づくにつれて確信に変わった事がある。


この子はパンが欲しくて、ここに居るのではない。


パンを必ず買いに来る奴を確実に見逃さない為に、ここに居たのだ。


「時間ぴったりね」


「俺は約束した覚えはないけどな」


「誠くんが今日この時間に、ここに来る事は調査済みよ」


「いや、そもそも一緒に食べるならクラスの時点で誘えばよかったじゃん」


「仕方ないじゃない。クラスで一緒に行こうとしたら誠くん絶対鞄のこと聞いてきたでしょう?」


村川が自分の背後に両手で隠す様に持った鞄に視線を向けて、不満気に言う。


「確かに、今ですら疑問には思ってはいるからな」


いつもは弁当箱だけで昼食に向かっている村川が今日は鞄を持って行こうとしたら聞かないほうが不自然だろう。


「教室でそれを聞かれると……“これを”教室で誠くんに渡すことになるもの。クラスメイト達の前で」


そう言って、村川は青い手ぬぐいに包まれたお弁当を俺の前に差し出した。


「あ、ありがとうございます」


謎の敬語で、もにょりながら受け取った俺の事を見つめる瞳と目が合った。



俺の視線に気付くと、そっと優しい笑顔で微笑ましそうに、購買のおばさんが俺達を見ながら笑っていた。


あの、勘弁してください。


俺は気まずさから逃げるように、いつも村川と昼食を食べている場所へと向かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

次は今回よりも面白いモノが書ける様に頑張ります!!

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