一時撤退
「エルルさん?エルルさーん!!」
辺りは真っ黒な煙で何にも見えない、エルルさん大丈夫かな……と心配していると、不意に手を掴まれた
「んあっ!?」
「シーッ…私だよ!」
「エルルさんでしたか…ビックリしました……」
「それよりも早く逃げよう…この霧なら聴覚以外は役に立たないから」
「そうですね……あれ?でもなんでエルルさんは俺を見つけられたんです?」
「ちょっと、これ用に暗視魔法掛けたモノクルを掛けてるの、だから私の手を離さないでね?」
「ふぉっ!?はっはい!」
エルルさんと手を繋いじゃった!いやっほぉぉい!っとと、そんなこと思ってる場合じゃなかった。
周りはエルルさんの煙幕で完全に視界が塞がれている、更にいろんな匂いが充満してる。鼻のいい動物だったら悶絶モノだろう……
「そういえば水は……」
「もちろん確保したよ!保護魔法もかけてるから溢れずに運べるよ」
「さっすがエルルさん!」
『ガルルァァァ!!ガルァッッ!?』
「どうやら煙幕の効果てきめんみたいですね…」
「うまくいったね!このまま森を抜けるよ!」
真っ暗で何も見えないがどうやら出口が近いみたいだ。
「よっし!やっと光が見えてきた、出口だ!」
「後もう少し……出るよ!」
森の外に出る、とめておいた馬車が見えるから入った道をそのまま戻ってこれたみたいだ。森の外から見てみると、まるで森だけが夜になったかのように真っ黒く染まっていた。
「エルルさん、この霧ってどれぐらいで晴れるんですか?」
「うーんと……多分後1時間くらいかなぁ…」
「へぇぇ…にしてもすごい拡散範囲ですね」
「ちょっと色々弄ったからねぇ…それよりもさっきのトゲうさぎ…」
「どう見てもおかしかったですよね…」
「うん…それでギルドに報告して討伐隊組んだ方がいいよね?」
「まぁ、武器があれば俺たちでも何とかなるでしょうけどあの数ですしね…」
「それにあぁなった原因も調べなきゃね」
確かにそうだ…大体にしてトゲうさぎから逃げてる時点でかなり異常だ。確かにエルルさんの言う通り、なんであそこまで大きくなったか…凶暴になったかを調べなきゃいけない。
「何はともあれ、さっさと此処から帰りましょう」
「そうだね!」
俺たちは再び馬車に乗った。今回はエルルさんが意地でも俺を休ませたいと操作をするって言ってくれたので、任せる事にした。
マジエルルさん天使……俺なんかを心配して休ませてくれるなんて…
それにしてもあのトゲうさぎは何だったんだろう…異常成長ならあんな凶暴性はおかしいし、かといって魔力関連なら何の魔力がとなるし……他の可能性として誰かが何かを弄った可能性とかもあるんだよなぁ……今は深く考えないでおこう……
「そういえば月の光ってどんな感じですか?」
「んーと……こんな感じだね」
エルルさんが月の光を掬った盃を見せてくれた、盃に水が満たされていてまるで今も空に月があるかの様に月が映っている。今は馬車の屋根で遮られているから普通ならこんな風に月は映っていない筈だが、あの湖に映った月を移したからこうなるらしい。
なるほどとても綺麗だ、それに目に見えて魔力を纏っている、これを使えば色んなものが作れるだろうなぁ
「綺麗ですねぇ……エルルさんには劣りますけど」
「そうだねぇ……ってぇ!?そんな照れるよ///」
「当然の事を言ったまでですよ」
「ロキオン君ってば…もぅ///」
真っ赤になって照れるエルルさんマジかわ!!1日の疲れが取れるぜ……
「えーと…あっちが東だから……コッチの道に進めば大丈夫だね」
「エルルさん、どれ位の場所まで来ました?」
「大体半分かな…?」
「そろそろ交代しますよ」
「大丈夫だって!ロキオン君休んでて!」
「えー…本当に大丈夫ですか…?」
「大丈夫大丈夫!」
「うむむ……辛くなったら言ってくださいね?」
「うん!分かった!」
実は馬車を魔力で制御するのは割と大変なのだ、使う魔力はそれほど多く無いが常に変化する馬車の傾きを補正したり、馬を暴走させないように制御したりとやる事が多い。
もちろん、ただ動かすだけならそんなに沢山やらなくても良いだが、エルルさんは俺と同じ様に色々やってるみたいだ。そのお陰でとても快適な馬車内となっている。
「じゃあ……せめてお茶を淹れよう…【ウォータ】【ファイア】……後は茶葉を入れて……」
「んー!良い香り、これ何の茶葉?」
「これはジャポネ産のですね……こっちの茶葉と比べると緑っぽくて、甘いですね」
「へぇぇ…良くジャポネの持ってたね?」
「近くのお茶屋さんと仲良くて、この前分けて貰ったんですよ。はいエルルさんの分」
「あそこのお茶屋さんかぁ……あっありがとう!ふーふー……美味しい!」ズズッ
「ふふっ喜んでもらえて嬉しいです」
「なるほど……苦味と渋みの中に確かな甘みがする……深い味だねぇ」
「こっちの飲み方と違ってミルクとか入れないんですけどねぇ…これが本来のお茶の甘味なんですねぇ……」ホッコリ
「ねぇ……」ホッコリ
こうして俺たちはホッコリしながらギルドに帰って行くのだった。




