異質なトゲうさぎ
「グファッ...ふぅふぅ」
そんなこんなで森の近くまで来た、魔力の消費よりも血の消費の方が危なかった……
「エルルさんエルルさん、着きましたよ」
「んむぅ…?」
「森のすぐ側まで来ましたよ」
「そうなにょ……って、半分まで来たら起こしてって言ったでしょ!?」
「いやぁ思ったより大丈夫だったんで忘れてましたよ」
「んもぅ…そうやっていつも頼ってくれない……」
「ここからが大変なんですから、それに俺はエルルさんに頼りっぱなしですよ」
「うー……分かった、ここから存分に頼ってね!」
「もちろんですよ、エルルさん」
そんな話をしながら馬車から降りる、辺りはだんだん暗くなりつつあり月もそろそろ登ってくるだろう。
「じゃあ早速エルルさん、場所の案内をお願いします」
「うん!任せてね!」
エルルさんを先頭に森の方へ入って行く、暗いので魔法の光球を出して明るくしておく。
森の中は割と湿度が低く、そよそよと小風が吹いていて涼しい。こんなところで月を見ながらお酒でも飲んだら美味いんだろうなぁ…
「にしても暗いですね」
「そうだねぇ…完ぺきに頭の上が木で覆われてるし…」
「転ばないように足元気をつけてくださいね?」
「ありがとう、ロキオン君!」
どんどん奥へ向かって行く、エルルさんは一切迷いが無く右へ左へと道を選んでいる、おそらく相当此処に来てるから大体の道は頭の中に入っているのだろう。
「えーと…ここの道を左に曲がって……この岩とかは見覚えがある……あっここだここだ!」
「着きましたか?」
「うん!ほら小さいけど湖があるよ!」
「へぇぇ……ここだけ木が丸く無くて、天井から月の光が差し込んでいる……」
「不思議だよねー、今まで頭の上は木で覆われて月なんか見えなかったのに、ここだけはハッキリと見えるんだよぉ」
着いたその場所は、エルルさんの言う通り今までの暗い道とは対照的に明るかった。湖の周りは様々な植物が生えており、心なしか大きく成長してる様に見える、もしかしたら月の光が関係しているかもしれない。
「少しこの景色見ていきましょうか」
「そうだねぇ…満月が湖に映っていて綺麗だねぇ…」
「そうですねぇ……」
月夜に照らされているエルルさんはいつもと違って見えてドキッとする…月明かりは女の人を魅力的にする効果がありそうだ……
とエルルさんに見惚れていた時だった。
ガサガサガサッガサガサッ
「ん?何の音でしょう?」
「多分この辺に住んでる動物じゃ無いかな?この辺だと……トゲうさぎとかがーー」
『グルルァァァァァアアアアアアア!!!!』
「なっなに!?!?」
「この雄叫びは一体!?」
雄叫びが聞こえた方を向くと、そこには沢山のトゲうさぎが居た……だが、通常ではありえないサイズの奴が1体、それ以外の奴も何処か普段とは違った凶暴性を感じられた。
そして次の瞬間1体が飛びかかって来た!
「エルルさん!!防御を!!!」
「大丈夫、任せて!!【トリスウォール】」
『グルァァガァッ!?』バチバチィッ
エルルさんが呪文を唱えると、俺たちの前に雷の壁が出来た。そこに飛び込んで来たトゲうさぎは弾き飛ばされて焼き焦げていたが、まだ元気みたいだ……
「1、2……12体くらいですかね、1体やけにデカイの居ますけど」
「月の魔力の所為かな…それともなんか異常成長したとか……」
「周りのも普通じゃないんで魔力の所為っぽい気はしますね…っと話してる場合じゃないですね」
俺は剣を抜いて臨戦態勢に……あっもってこなかったんだった……
仕方ない素手と魔法で何とかするしかない
「【マジックショット】!」
俺は無属性の魔力の塊を飛ばす、普通のサイズのトゲうさぎにぶつかったが怯む程度で全然効いていないみたいだ。
「…トゲうさぎってこんなに強かったですっけ」
「戦いの心得が無くても普通の大人なら捕まえて食べられる位…だよね」
「ですよね……?」
どうやら凶暴性やサイズだけで無く強さも上がってるみたいだ…これは厄介だなぁ……
「うーん…全部倒すのは骨が折れそうですね」
「そうだねぇ……あのデッカいのもどうにかしないといけないし」
「ちゃっちゃと水確保して帰りたいですね……」
「…よし!私が水汲んで、道を開くから少しの間時間稼いで!」
「分かりました!任せて下さい!!」
エルルさんに策がありそうなので俺は全力で引きつけ役になる事にした。
「よし…【トライショット】!」
俺はさっきのマジックショットを3つ飛ばす、それを飛ばしつつ巨大なトゲうさぎの方に突っ込む。
『ガァァッ!!!』ビュンッッ
「よっ!!」ヒョイッ
突っ込んで来たトゲうさぎの上を飛んで、背中を踏み台にして躱す。そしてそいつを後ろから掴んで…
「おらっ!仲間を食らっときな!」グルンッ
『ピギィィッ!?』ドガァッ
そいつを投げ飛ばして、別なのにぶつける。
これを繰り返して大きい奴の近くまで行く。
「さて…問題はお前だ……」
『グルルル……』
「今は武器が無いからコレを使わせてもらう!」スッ
俺は特製の札を取り出し、自分の腕に貼り付ける。そして…
「【鉄硬纏】!!!」
詠唱によって俺の手は札を媒介して、周囲の魔力と自身の魔力によって鉄の硬さを得た。本来は一時的な保護などに使う札だがこんな使い方も出来る。
「行くぞ!!」ヒュッッ
『ガァァァァッ!!』ギュォッッ
先に俺が鋭いパンチを繰り出す、奴は後ろに下がり回避する。間髪入れずどんどん前に出て距離を詰めて行く。
「ハァァァァッッ!!」ズババッ
『グルァッ!グルァッ!!』
「なっなにッッ!?」
こっこいつ!他のトゲうさぎに命令して壁を作りやがった!!俺はスピードを緩められずトゲうさぎの壁にパンチしてしまう。
「ぐぬぅっ!!抜けないぃ!!」ズブリッ
『グルルルゥァ……』ザッザッ
「お、おい…なに距離とって……まさかっ味方ごと!?」
『グルァッ!!!!』ドドドッ
他のトゲうさぎに足止めさせて、そのトゲうさぎごと吹っ飛ばそうとしてきやがった!!
「アレを食らったらヤバイッッ!!破ァッ!!」
『『『グルァッ!グルルァッ!?!?』』』
強引に突っ込んだ腕に魔力を集めて爆発させて脱出する、何とか回避する。だけど無茶な魔力の爆発の所為で腕が焼けてしまった…
「くぅぁっ……ふー、幾ら保護しても中から爆発すりゃ痛いわな……そろそろエルルさんも準備がーー」
「ロキオン君!今から行くよ!脱出する!」
「ナイスタイミングです!エルルさん!!」
エルルさんの方を向くとエルルさんはフラスコを掲げてた、そしてそれを地面にぶつけると……
『グルルァ!?ガァァッ!?!?』
「これは……煙幕?」
次の瞬間、辺りは黒い煙で覆われていた。
何とか10話いきました!




