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携帯電話を持ちましょう

作者: 山本哲也

 机の上の充電器兼スタンドに立ててある携帯電話のデジタルの時刻表示が、今、次の日に変わった。

 椅子の上にパジャマ姿のまま膝を立てて座っていた美登里みどりは、思わず、ふう、と溜息をつき、それから、自分がもう十分間もそうやって時刻表示を見つめていた事に気づき、突然、腹立たしい気分になった。

(何してるんだ? 私は…。馬鹿みたいに…)

 美登里は乱暴にドスンと音を立てて立ち上がると、つかつかと部屋の壁に歩み寄り、灯を消す。それから、ひっぺがすように布団をめくり、ベットの中にもぐり込むと、布団を頭の上まで引っ張り上げた。

 カーテン越しに入り込んで来る街灯の灯で、部屋の中がぼうっと照らされている。

 布団から顔を出し、暫く天井を見上げていた美登里は、再び、机の上にちょこんと置かれている携帯電話の方をちらっと見る。

 相変わらずそれは黙ったままだ。

 突然、美登里はがばっと起き上がり、机の所まで行くと、スタンドからそれを取り上げ、赤い字で「電源」と書かれたボタンを押す。

 ピ、という音と共に緑色のバックライトが点灯し、液晶ディスプレーを浮かび上がらせた。

 時刻は零時十分だ。

 と、何を思ったのか、美登里はボタンから指を離した。美登里の持っている携帯電話を含め、大抵の物は電源ボタンに関しては誤動作を防ぐため、何秒間か押しつづけなければ電源が切れないようになっている。束の間、暗闇のなかにこうこうと浮かび上がる時刻表示を見つめていた美登里は、パタンとディスプレー側を下にしてそれを机の上に伏せると、ベッドに戻り、再び布団をかぶる。

(やっぱり、かけて来やしないじゃないか!)

 美登里は智之ともゆきの人なつっこい笑顔を思い浮かべながら、心のなかでそう、悪態をついていた。


「ふぁ…」

 やっと授業から解放された美登里は大きく欠伸あくびをした。一応手でおおってはいるものの、大欠伸であることに変わりはない。別に、美登里は誰に見られようと頓着とんちゃくはしていなかったのだ。

「相変わらず豪快な欠伸ですね」

「ふるふゃい(うるさい)」

 すぐ後ろで聞き慣れた声が聞こえ、そう言いながら美登里は振り返る。相手は美登里の予想通り、智之だった。

「ね、携帯買いましょうよ、美登里さん」

 智之がいつもの人なつっこい笑顔を浮かべ、そう言ってくる。もともと細い目が糸のようになり、まるで大黒様か何かのようだ。

「…またか。お前は二言目にはそれだな」

 眠そうな目で、美登里は智之を呆れたように見る。

「ね?」

 智之はそんな事など全く頓着していないかのように、にこやかな笑顔で美登里を見つめていた。

「嫌だと言ってるだろうに。金が余計にかかるし、第一かけてくる奴などいない」

 この美登里の答えは、もう何遍なんべんとなく言った、いつも通りのものだ。智之の方も美登里に携帯電話を買わせようという気は既にないのだろう。言ってみれば、これは二人の間の挨拶のようなものだ。

 萩原はぎわら美登里(みどり)。とある大学に通う、普通の―少なくとも本人はそう思っている―女子大生。大学生活も四年目となり、いよいよ就職活動とやらをしなければならなくなる時期だ。

「それなら僕がかけてあげますから、ね?」

 人なつっこい笑みを浮かべ、そう答えるのは中島なかじま智之(ともゆき)。美登里とは同じ大学の二年下の後輩にあたる。言葉づかいが男っぽく、ずけずけと物を言う性格の美登里に何を思ったのかひどくなついている。

 『なついている』などと書くと、まるで動物か子供のようだが、確かに智之は美登里の前ではひどく甘えるのだ。白のジーンズに黒の薄手のセーター、茶色のホーキンズの靴、と言う格好の智之は、美登里よりは少し背が低い。いつも笑っているような、俗に『四眉しびの相』と呼ばれる細い目のふっくらとした顔つきと美登里の顔を見上げて話すその仕草が子供っぽさをより一層強めている。

「それこそお断りだ。ほら、次の授業が始まるぞ、とっとと行け」

「美登里さん、一緒に受けません?」

 美登里が言うと、智之はまた人なつっこい笑みを浮かべ、甘えた声で聞いてくる。

「アホかお前は。何で私が今更語学なぞやらねばならんのだ」

 いつもこの調子なので、美登里は自然と智之の時間割を覚えてしまっていた。

「ふえーん」

 シッシッとまるで犬や猫を追い払うように右手で智之を追い払うと、美登里はキャンパス内のお気に入りの場所である日当たりのよい噴水広場へ行く。四月の始めのさわやかな風と、ぽかぽかした陽気が美登里は好きだった。

 噴水広場は広いキャンパスのちょうど中央ぐらいの位置に当たり、校門からキャンパスを縦断する広い煉瓦れんがで舗装された道のなかにある。そこは丸い噴水を中心に、それをぐるっと取り囲むように植え込みやベンチが置かれ、その分かり易いロケーションから良く待ち合わせ場所として使われている。

 美登里はいつものように噴水の縁に腰を下ろした。ブルージーンズに焦げ茶のパンプス、それに薄いブルーのアンサンブル、といった格好の美登里は余り服が汚れるといった事には頓着しないたちだ。もっとも、だからといって地べたにぺたぺた座り込むのは大嫌いだったのだが。

 背中の辺りで切り揃えた髪は無造作にゴムで束ね、ポニーテール風にしているのだが、これも実験などの時に髪が落ちてこないように、という実用上からの事だ。

 すらっと背が高く、スマートな体形の美登里はよく友達から

 『黙って立っていればカッコいいお姉さんで通るのに』

 と言われる。美登里のぶっきらぼうな口調やずけずけとものを言ってしまう所が言い寄ってくる男共を遠ざけてしまうのだそうだ。だが、美登里本人にしてみれば、うるさく言い寄って来る男が一人を除いては追っ払えるので別に丁寧ていねいな口調にしようとも思ってはいない。

 そう、たった一人を除いては。

(…その一人が一番うるさい奴なんだからな…)

 智之の人なつっこい笑顔を思い浮かべながら美登里は溜息をつく。それから、また辺りをぼんやりと見回した。

 辺りには何人もの男女取り混ぜた学生たちが、思い思いの場所で語らったり、本を読んだりしている。

 美登里の通っている大学は最近、都心にあった校舎を郊外に移転し、同時にあちこちに散らばっていた各学部を一つの土地に統合させていた。そのため、理系が中心の大学ではあるが、他学部の生徒もいるため女性の姿も多く見かけられる。

 ピロロロ…。

 と、すぐ近くであの耳障りな電話のベルの音が聞こえた。そちらの方を振り向くと、美登里のすぐ側に座っていた、赤っぽく染めたショートカットの髪に薄紫のキャミソール、その上に同系色のフード付きのカーディガンを羽織り、薄手の膝丈までのスカート、と言ったいかにも今風の格好をした女の子が黒のトートバックから派手な蛍光色のストラップの付いた銀色の携帯電話を取り出していた。

 美登里は頬杖をついて何か楽しそうに電話している女の子を横目で見る。

(携帯電話ねぇ…)

 確かに、見回してみても携帯電話を持っている人は多い。

(ま、使わないな。第一、誰がかけてくる?)

 そう思った時、まず第一に浮かんでくるのは智之の人なつっこい笑顔だった。

(やっぱり要らない)

 ふっと微笑むと、美登里は立ち上がって校舎の方へ向かった。

2


 美登里達の通っている学校の校舎は大きく三つに分かれている。

 一つが本部棟と呼ばれる建物で、これには教務課、学生課、就職指導課などの事務施設や、研究室などが入っている。もう一つはたくさんの教室や講堂などが入っている建物。そして最後の一つは体育館や食堂、図書館などの入っている建物だ。サークルの部室などはキャンパス内に点在しているプレハブが割り当てられていた。

 本部棟へ行き、就職指導課の方へ向かおうとして途中で長い行列を見つけ、美登里は立ち止まった。行列を目で追っていくと、その先には一台の公衆電話がある。

(…あちゃ。しまったな)

 美登里は内心舌打ちをした。美登里もこの公衆電話に用があったのだ。

(仕方ない、他を当たるか)

 美登里は待たされるのが大嫌いだった。

(…ええと…他には…)

 うろ覚えな他の公衆電話の場所を思い出そうと努力しながら歩いて行く。確か、ここから一番近いのは食堂の側にある奴のハズだ。

 だが、そこにもさっきと同じ様な行列が出来てしまっていた。

(…じゃ、じゃあ次…)

 嫌な予感を覚えつつ、美登里は別の公衆電話の場所へ向かう。

 そして、自分の予感が正しかった事を知った。

 この時期から就職活動をしているらしい生徒達。

 友達に遊びの連絡でもしようとしているらしい生徒達。

 そんな生徒達でいっぱいだ。

(…止むを得んな、待つか…)

 イライラしながら美登里が電話の順番を待っていると、

 キーンコーンカーンコーン…。

 遠くで授業の終わりを知らせるチャイムが鳴っている。その時、前の生徒が受話器を置き、漸く美登里の順番になった。

(…やっと…)

 心の中で溜息をつきながら電話をかける。相手先は友達の携帯電話だった。この前、ノートを貸したらそれっきり戻ってこないので催促さいそくするつもりだったのだ。

 暫くの沈黙の後、ノイズ混じりの無機質な声が聞こえてくる。

「…おかけになった番号は、電波の届かないところにおられるか電源が入っていないためかかりません…」

(…こんな事のために私は九十分も費やしてしまったのか…)

 がっくりと気の抜ける思いで美登里は受話器を置いた。

 ピロロロ…。

 とぼとぼと美登里が噴水の前まで戻ろうと歩いていると、すれ違った女子生徒の鞄から電子音が響いた。

「…もしもし…あ、光広…」

 楽しげに話している女子生徒を横目で見ていると、

 『ね、美登里さん、携帯買いましょうよ』

 という智之の台詞せりふといつもの人なつっこい笑顔が浮かんで来る。

(携帯電話か…)

 ぼんやりと考えながら噴水の近くまで戻ると、智之がさっき美登里がしていたように噴水の脇に腰掛け、見知らぬ女の子と話している。

(へえ、珍しいな…)

 驚いた美登里はちょっと立ち止まって二人を観察する。相手の女の子は智之より少し背の低い、肩に届くか届かないかの長さの髪の痩せた、眼鏡をかけた女の子だ。パステルブルーのニットのワンピースに白のスニーカーというちょっとあか抜けない格好からして、入りたての一年生のようだ。

 その女の子は腰に手を当てて、強い口調で何かを話している。どうやら智之に説教でもしているようだ。対する智之はと言えば、いつもの人なつっこい笑顔をちょっと困ったように曇らせ、ぽりぽりとほほいていた。

(…やれやれ、あいつは誰にでも怒られるんだな)

 自分の他にも誰かに付きまとって怒られているのだろう、ぐらいに思った美登里は内心溜息をつく。

(私は気にしてないからいいが、他の女の子にやったら気味悪がられるだろうからなぁ。私だけにしとけばいいのに…)

 ふと、胸のどこかがちくりと痛んだような気がした。

(…何を考えているんだ、私は…)

 ふっと自嘲じちょうするように微笑み、不意に浮かんだ疑問を振り払うと、美登里は二人の方へ近づいて行く。

「おい、智之」

 ストーカー、などというのが話題になる昨今だ。もう少しわきまえて自重すればいいのに、と思いながら美登里は智之に声を掛けた。助け船を出してやろうというのだ。

「あ、美登里さん」

 その声で振り返った智之が少し気まずそうな声を出す。

「全くお前は…」

 前髪を掻き上げ、ぶつぶつ言いながら美登里が近づいて行くと、相手の女の子はぱったりと話を止め、

「それじゃ、智之先輩」

「あ、愛ちゃん!?」

 ぺこりと一礼すると、つかつかと怒ったように美登里の方に歩いて来る。そして、美登里に怒りのこもった鋭い一瞥をくれるとそのまま去っていく。

 キョトンとして美登里が振り返った時には、既に近くの建物の角を曲がって見えなくなるところだった。

「…何だ、あれは?」

「…後輩、らしいんですけど…」

 ぼそりとささやくように何とも頼りない答えでお茶をにごすと、今度はいつもの人なつっこい笑顔を浮かべ、うって変わって明るい声で話しかけてくる。

「それより、何処どこ行ってたんです? 帰っちゃったのかと思いましたよ」

「何処だっていいだろ。一々お前に報告する義務など無い。ところで、今日これから空いてるか?」

 ぶっきらぼうに美登里は訊き返す。

「あ、デートのお誘いですか? いいですね…」

「アホ。電話を買いに行くんだ」

 一人勝手な解釈をして、鞄から手帳を取り出し、何やらページをぺらぺらめくっている智之の頭を小突き、美登里は言う。

「はぁ?」

 顔を上げ、キョトンとした顔でまじまじと美登里を見つめる智之。いつもは糸のようになっている目が珍しく見開かれ、黒目がのぞいていた。

3


 それから二人は新宿にある量販店へと向かった。

「すごいな、この辺りは」

 狭い路地を挟んでライバル店同士が軒を並べていたり、同じ店の何号店、というのが無秩序に並んでいるのを見て思わず美登里は呟く。多いのは店だけではなく人も同じ事で、狭い路地にたくさんの人々が店頭に並べられた品物を眺めながらうろうろと歩き回っていた。これから自分たちもその人の群に入って行かなければならないのかと思うと、うんざりとしてくる。

「そうですね…慣れないとどこがどこだかよく分からなくなりますよ」

 同じように人混みを眺めながら、智之が呟く。それから、

「美登里さん、手、つないで下さい」

 不意にそう言って手を差し出す。

「な、何だいきなり!? 安く見るなよ!」

 差し出された手をぱしっとはたき、美登里は言う。たかが買い物に案内してもらったぐらいで勘違いされては困る。それに、それはそれとしても、そんな恥ずかしい事など出来るわけがない。

「…美登里さーん、いくら何でもそれは酷いですよ…」

 傷ついたような表情で智之が美登里を見上げる。

「この人込みじゃ離ればなれになっちゃうじゃないですか。そしたら、僕、背が低いから見つかりにくいですよ?」

「…あ、そ、そうか。スマン」

 酷い勘違いをしてしまったものだ。美登里は決まりの悪さを覚えながらおずおずと手を差し出し、智之の手を握る。智之の手は意外と筋肉質な上に、骨太で想像していたよりずっと大きかった。それに、猫のように暖かだ。

(…こいつもやっぱり男だからな…)

 ついつい今までその子供っぽい仕草のせいで忘れがちだったが、智之も一応は二十歳になろうとしている男なのだ。

(…後は頭の中身の問題か)

「何か珍しいですか? トイレ行った後はちゃんと手、洗ってますよ?」

 いつまでも握った手をぼんやりと見つめている美登里に、キョトンとした顔の智之が尋ねてくる。

「え? あ、い、いや、スマン。ちょっとぼーっとしてた」

 美登里は引きつった笑いを浮かべながら慌てて誤魔化し、照れ隠しにポリポリと頬を掻く。

「…」

 不思議そうな顔をして智之は美登里を見つめている。

「な、何だ、行くぞ、ほら」

「わ、ち、ちょっと美登里さん、お店、分かってるんですか?」

 つないだ手をぐいと引っ張って美登里が人混みに入り込もうとすると、逆に美登里が智之の方に引き寄せられてしまう。

「あ…」

「わ!」

(しまった、向こうの方が重いんだ…)

 妙に冷静にそんな事を美登里は考える。

 トクン、トクン…。

 すぐ間近で智之の心臓の音が聞こえる。あるいは、それは美登里自身のそれだったのかも知れない。

 ふと気が付くと、美登里は智之の胸に抱きかかえられるような格好になっていた。

 トクン、トクン…。

 相変わらず心臓の音が聞こえている。それに何故か安心感を覚え、美登里は何とはなしに聞き入ってしまう。

「あの、美登里…さん?」

 困ったような智之の声ではっと我に返ると、美登里は慌てて智之から身体を離した。

「す、スマン」

「大丈夫ですか?」

 俯いてぶっきらぼうに謝る美登里に、智之が気遣わしげな声を掛ける。

「大丈夫だ。い、行くぞ」

 美登里は努めて素っ気なく答えるが、心臓は高鳴ったままだった。

4


「…あ、ここです」

 別段迷う様子もなく、智之は体つきに似合わぬ敏捷さですいすいと人混みをかき分け、目的の店に着いた。そこは店頭に派手な色をした様々な携帯電話やPHSが所狭しと並べられ、メタリックシルバーのジャンパーや派手な黄色のジャンパーを羽織った係員達が、お客達にしきりに自社の電話の良さを説明している。その辺りはこの辺でも特に人口密度の高い一角だった。

「あ、そだ、美登里さん、身分証明書は学生証があるからいいとして、ハンコ持ってます?」

「まさか、そんな物持ち歩くわけないだろ」

 いきなり何を言い出すのか、という表情で美登里は智之を見る。

「…やっぱり…。あの、携帯買う時には身分を証明できる物とハンコが要るんです」

 智之が申し訳なさそうに答えた。

「何だ、そういう事は早く言え」

 本来、買いに行くと急に言い出したのは美登里の方なのだが、そんな事は百万光年の彼方に置いて、非難するような口調で美登里が言う。

「す、すいません」

 智之は人の良さそうな顔を困ったように曇らせて、申し訳なさそうに謝った。

「しょうがないな、じゃあまた明日にでも…」

 そう言ってくるりと踵を返した美登里の視界に、一軒の文房具屋が映る。

「…おい、ハンコは実印とかじゃないとダメなのか?」

 暫く考えてから、美登里はそう尋ねた。

「…いえ、所謂いわゆるシャチハタ印じゃなきゃ大丈夫だと思いましたけど…」

 突然の質問にいぶかしげな声で答えていた智之が途中で、

「あ」

 と小さく声を上げる。

 どうやら美登里の考えていた事に気が付いたようだ。美登里が振り返ってみると、智之はいつもの人なつっこい笑顔を浮かべて

「行きましょう、美登里さん」

 と言った。


 店内は外以上の混みようだった。

 所狭しと並べられた色とりどりの小さな機械に、沢山の人が群がっている。

「おい、これとこれとはどう違うんだ?」

 美登里が横に並んだ二台の携帯電話を見比べながら智之に囁く。

「あ、えと、これはですね、こっちのはメモリに電話番号を六百件登録できて、こっちのは音声で操作が出来て…」

 智之は二台を見比べながらぺらぺらと説明を始める。よどみなくセールスポイントを説明していくその様はまるで本物の店員のようで、もしかしたらこういう所でバイトでもしているのでは、と美登里は思う。

「わかった、もういい。智之、お前ならどれにする? ここはお前に任せる」

 ぺらぺらと説明を続けていた智之を遮り、美登里は疲れたような声で言った。いい加減、智之の説明にはうんざりしていたのだ。曰く、こっちの電話には何の機能が充実している、こっちには着信音のパターンがどうの、あげくの果てはこっちの機械は十グラム軽い、だの。

 どうせ登録する電話番号なんてたかが知れているし、十グラムの違いなんて持ってて分かるものか。美登里に言わせればどうでもいいような違いばかりだ。それに、この色とりどりの小さな機械の並べられたフロアにこれ以上、一分たりとも長くいたいとは思わなかった。小うるさい女子高生や高校生のガキンチョの集団を始めとしてたくさんの人がひしめき合っているのだ。様々な話し声、店員の説明している声、キャーキャーという歓声、それらの後ろに流れている脳天気なBGM。五メートル離れた所からでも匂ってくる安っぽく、むせ返りそうな女子高生の香水の匂い。人いきれ。むっとするような蒸し暑さ。

 よくもまあこれで平気なものだと美登里は思う。智之はといえば、キョトンとした顔で美登里のほうを見つめているのだ。

「あの、いいんですか? 美登里さん?」

「いい。お前に説明されても何が何だか分からん。ドイツ語の授業でも聞いているようだ」

 おすおずときかえす智之に、美登里はうんざりしたようにそう答え、シッシッと手で促す。と、智之は鎖を解かれた犬のように喜々として動きはじめた。

「えーと、じゃあこれなんかどうでしょう。エリアの広いMTGの800MHz方式で…あ、でも…」

 智之はそう言いながら近くにあったメタリックシルバーの電話を手に取るが、途中で思いなおしたように別の会社の所に行く。

「…こっちのDayPhoneの方が繋がりやすいし、音もいいし、通話プランが…待てよ、JIDOの新方式も…いや、でもA・UNも…」

 ぶつぶつと独り言を言いながらあちこちの機械を検討する智之。これでは何の解決にもなっていない。

「もういい、これにする」

 また別の機械の所に行こうとしていた智之の手を捕まえて、美登里は、今、智之が手に取っていた機械を手に取る。

 もうとっととここから抜け出せるのなら何でもよかったのだ。

5


 だが、実際はそれで終わりではなかった。

 携帯電話は他の買い物と違い、携帯電話会社との手続きも済ませなければならなかったからだ。まあ、A4ぐらいの紙に住所だの名前だのを書いたり身分証を見せたりするだけなので、ものの十分もあれば終わったかも知れないが、手続きをしているのは美登里一人だけではないのだ。

 十七、八分も待たされただろうか、ようやく美登里の番がやって来た。

 ボールペンと用紙を渡され、名前などを書き込もうとした時、側で忠実な番犬のように待っている智之の事に気がついた。ただでさえ狭いフロアに、ただぼーっとしているだけの智之は、邪魔者以外の何者でもない。

「智之、お前はゲームでも見てろ。終わったら行く」

「え? いいですよ。ここで待ちます」

 嬉しそうな、ちょっとびっくりしたような表情で智之が答える。自分の事を気使ってくれていると勘違いしたのだろうか。

「行け。そこにいると邪魔だ」

 美登里は素っ気なく命令口調で言い放った。智之はそれで気がついたのか、きょろきょろと辺りを見回すと、

「あ、は、はい。じゃ、上のゲームフロアにいます」

そう言ってそそくさと去っていく。

(…やれやれ、手のかかる…)

 美登里はその後ろ姿を見送りながら、そっと溜息をついていた。


 手続きを終えた美登里はゲームフロアに行き、智之を見つけて連れだ出した。そして、そのまま近くの喫茶店へ行く。

「おごりですか?」

 席に着くと、悪戯っぼい笑みを浮かべて智之が尋ねてくる。

「ま、色々面倒な事に付き合わせたからな。ここは私が持とう」

 美登里がそう答えると、

「え? いいんですか!?」

 びっくりしたように智之が訊き返す。口では「おごりですか?」などと言っても、まさか美登里が奢るとは夢にも思っていなかったようだ。

「…私はそんなにケチなように見えるか?」

「いえ、そうじゃないんですが…。さっきの買い物で、ずいぶん使ったじゃないですか」

 今度は気づかわしげに智之が言う。

「いくら何でも、お茶をおごるぐらいは残ってる。まさか、メニューにある物全部、なんて注文はしないだろ?」

「あ、それ、いいですね」

「じゃ止めるぞ」

 悪戯いちずらっぽく笑う智之にそう言って立ち上がり、すたすたと歩いて行こうとする美登里を、智之があわてて引き止めた。

6


「そーれーでー、美登里さん、番号はいくつなんですか?」

 ウェイトレスに注文を告げ、一息ついた所で、智之が待ってましたとばかりに切り出す。

「あ? ああ…」

 そう言いながら美登里は電話の入った紙袋をごそごそとやる。余程楽しみにしていたのか、智之がわずかに身を乗り出した。

「…教えない」

 不意に美登里は顔を上げてそう告げる。期待に身を乗り出していた智之はそのままつんのめりそうになり、テーブルに手をついて何とか身体を支えた。

「そ、そんなぁ。美登里さん、そりゃないですよ」

 今にも泣きだしそうな情けない顔で、そう言いながら智之は身体を起こす。

「お前に教えると、際限なく電話して来そうだからな。それに、借りは返すし」

 美登里がそう言うと、智之は一瞬むっとした表情になった。

「そんな、借りだなんて僕はそんなつもりじゃ…」

「だー、分かってるって、冗談だよ。だからそんなに怒るな。ただ、出すのがメンドクサイから明日な」

 軽くそう言ってフォローするが、内心はちょっと驚いていた。今まで智之の怒ったような顔を見た事など無かったからだ。

「…ホントですか?」

 疑わしげに智之が尋ねる。

「ああ。だからそんなに怒るな。気分を害したんだったら謝る」

(…コイツの事だったら大体は分かっているつもりだったんだがな…)

 自分の軽率な言葉を後悔しながら美登里は謝る。と、

「じゃ、明日ですね。約束ですよ」

 智之の表情がパッと明るくなったかと思うと、またいつもの人なつっこい笑顔が浮かんだ。何のことはない、智之も美登里をかついでいたようだ。

「あ、お前…いい。もう絶対教えてやらない」

 怒らせてしまったと本気で心配していたので、余計に腹が立ってくる。美登里はぷいっと横を向いた。

「あ、ホンの冗談ですってば。ごめんなさいー」

 額をテーブルにこすりつけて智之が謝る。ふと気が付くと、ウェイトレスがやって来ていて、智之の様子を唖然あぜんとして見つめていた。

「おい、智之、そこをどけろ。邪魔だ」

 美登里がそう言うと、智之は慌ててテーブルの上から頭をどける。ウェイトレスが行ってしまうと、早速、美登里はコーヒーに手をつけた。ぬるいコーヒーなど飲めた物ではないからだ。

 一息ついた所でふと気がつくと、智之はまだうつむいたまま下を向いていた。

「どうした?」

 カップを片手に持ったまま、美登里はそうたずねる。

「…まだ怒ってます? 美登里さん」

 智之は悪戯を見つけられた子犬がしゅんとして飼い主を見る時のように、上目遣いに美登里の方を見て、囁くようにそう言った。

「ん? いいよ、もう。それより、早く飲まないと冷めるだろ」

 そう言って美登里は智之に飲むように促した。智之は「お預け」をされていた犬が「よし」と許可をもらった時のように喜んでカップに手をつけ、スプーンでかき回す。智之の頼んだホットココアにはすでに膜が張ってしまっていたのだ。智之はそれからまた普通に色々と喋り始めたが、まるで忘れてしまったかのように、携帯電話の事については一言も言わなかった。

7


 二人は暫くしてからその喫茶店を出て、新宿駅に向かう。辺りはもうすっかり暗くなっていた。

「…今日は済まなかったな。付き合わせて」

 改札口を入った所で、美登里は別れの挨拶代わりにそう言う。

「いえ、こちらこそ御馳走さまでした。じゃ」

 智之はぺこりとお辞儀をすると、くるりときびすを返した。

(…何だ、やけにおとなしいな)

 てっきり智之が電話の事を言うのではないかと思って身構えていたので、美登里はいささか拍子抜けする思いがする。と、智之は二、三歩歩いてから何かを思い出したように立ち止まり、振り返った。

「何だ?」

「…番号、明日教えてくださいね」

 不審げに見つめている美登里にそう言うと、智之はいつもの人なつっこい笑顔を浮かべて微笑む。

「…分かってるよ。明日な」

 美登里はちょっとうるさそうにそう答えると、智之が階段を上がっていくのを見送り、自分もホームへ向けて歩きだす。暫く経ってから、自分がなぜか微笑んでいる事に美登里は気づいた。周りを見回してみると、側を通りかかったサラリーマン風の男が怪訝けげんそうな顔で美登里を見ている。

「…コホン」

 慌てて咳払いをして誤魔化すと、早足で歩き出す。

(何やってるんだ、私は)

 歩きながら、美登里はそう自分を叱責しっせきしていた。


 翌日。

 美登里がいつものように噴水の所に行くと、智之はまだ来ていないようだった。特にこれといって急ぐ用もないのでそのまま噴水の脇に腰掛け、ぼんやりと景色を眺めていたが、やがてそれにも飽きたので鞄の中から文庫本を取り出す。

 その本は、古本屋で特価百円の物を適当にまとめて購入した中に混ざっていた物で、内容は高校生の男の子と女の子の恋の話らしい。読んでいる所は男の子が女の子の親友とデートしたのがバレて修羅場になっている場面だった。

 『裏切りよ!!』

 本のなかの女の子が叫んでいる。

 『信じてくれ、俺は、その…今は言えないけど…』

 男の子の方が女の子の肩を掴んでそう言うが、女の子はその手を振りほどき、行ってしまう。

(やれやれ、何でこんな本買っちゃったのかね)

 美登里はページをめくる手を止めて、しげしげと見つめながら心のなかでそう呟く。美登里は子供の頃からずっとそういう関係の話には興味がなかったのだ。

 ふと、すぐ側で人の気配がする事に気がついた。

「…?」

 智之かと思って顔を上げた美登里の前に立っていたのは、昨日、智之と一緒にいた女の子で、確か名前は愛と言ったはずだ。愛は暫く敵意のこもった視線で美登里を見下ろしていたが、やがて乱暴に美登里のすぐ隣に座った。

「…」

 美登里はわずかに視線をそちらに向けるが、すぐまた膝の上の本のほうに戻す。

 そして、美登里がページをめくろうとした時だった。

「どういうつもりなのよ」

 美登里のすぐ隣、愛の方から、刺のある声が発せられる。

 だが、美登里はそれが自分に向けられたものだとは思っていなかったので、そのまま本を読み続ける。直射日光に照らされた本は、少し目にまぶしく感じられた。

「どういうつもりなのよ!?」

 再びページをめくろうとした美登里の手を掴み、愛が止める。美登里がそちらを向くと、すぐ横にいどみかかるような顔があった。

「…人違いをしてるんじゃないのか?」

 美登里は眼鏡の奥の相手の目を見つめ返しながら、そう告げる。

「ふざけないでよ、あなた、智之をどうするつもり!?」

 愛は語気荒くそう答えた。

「智之…って?」

 言いながら、美登里は我ながら間抜けな声を出しているなと思う。これは別に演技でも何でもなかったのだが、愛はそうは解釈してくれなかったらしい。

「とぼけないで!! 智之はね、純粋なのよ! あんたの気まぐれになんか付き合わすのは、止めて欲しいわ!!」

 激昂げっこうした様子でそう言い放ち、立ち上がる。

「…何か誤解をしてるんじゃないのか? 別に私は…」

「そう。しらばっくれるのね。いいわ、私が智之をあなたから離れさせてやるから!」 愛は美登里の話など聞こうともせず、そう捨て台詞を残して行ってしまった。

「…勝手にしてくれ」

 うるさい智之などいない方がかえってせいせいする、と思いながら美登里は暫く憮然ぶぜんとして相手が去って行った方を見つめていたが、やがて小さく溜息ためいきをつくと本の方に視線を戻す。

「美ー登ー里ー。いい所で会ったわ、今日空いてる?」

 それからいくらもしないうちに、今度は二人連れの女子生徒からそう声を掛けられた。 ウエーブのかかったセミロングの髪で、薄ピンクのサテンのブラウスに白のタイトパンツというスタイルの、すらっとした女の子の方が晃子(あきこ)で、その隣にいるのが美保みほだ。美保はダークグレーのスーツに白のブラウスというリクルートスタイル、内巻き気味にしたショートカットの髪という格好で、細い金属フレームの眼鏡をかけている。二人はほとんど同じぐらいの背丈で、長身だが美登里よりは少し低い。声を掛けてきたのは晃子の方だった。

「何だ?」

「へへ…実は今日、合コンがあるのよね。でさ、人数が足んないんだけど…」

「断る」

 ニヤニヤ笑いながら話す晃子をさえぎって、美登里は即座に答える。

「ま、そう言わないでさ。いい男、いるかもよ?」

「要らん」

 答えながら、美登里は『またか…』と思っていた。この二人は美登里の友達で、同じ学部の四年生なのだが、仲間内から「宴会部長」と呼ばれるほどしょっちゅうコンパを開いている。学校に男を捜しに来ている様なタイプなのだが、その割に男と歩いている所は一度も見た事がなかった。

「ほれ見い、だから美登里はきぃーへん言うたやろ。美登里にはちゃーんと心に決めた男がおるねんで」

 どことも知れぬなまりでそう言ったのは美保だ。

「ちょっと待て。何だそりゃ?」

 美登里は聞きとがめる。

「とぼけよって。いっつも一緒にくっついてる男がおるやん」

 やっかみのこもった口調で美保は続ける。美登里の頭に、智之の人なつっこい笑顔が突然浮かび、昨日、智之の胸に倒れ込んでしまった時の事が頭をよぎり、さっと顔が赤くなった。

「…誤解だ! あいつが付きまとってるだけで別に私は…」

「ほなら、なんで顔()こうしとるんや?」

 美保が意地悪くニヤニヤ笑いながら尋ねる。

「な、何言ってるんだ、別に顔を赤くなど…」

「ホントだー。美登里、顔真っ赤じゃん。ははーん、さてはもう…」

 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、晃子もそう言って値踏みでもするようにあごに手を当てて、ジロジロと美登里を見つめた。

「な、何考えてるんだ!?」

「さーねぇ。ま、アレはちゃーんとしといてもらった方がいいわよ」

「だから誤解だって!」

 美登里は立ち上がって晃子に詰め寄る。

「ほな、仲良ぅしいや」

 真っ赤な顔でムキになって否定する美登里に、二人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてそう言うと、手を振って行ってしまう。

 と、少し歩いたところで晃子が振り返った。

「あ、そうそう、どうせならもう少し、言葉遣いとか態度直した方がいいかもよ。好かれてるからってその上で胡座かいてると、すぐ愛想尽かされちゃうんだから」

「な…だから…」

 何かを言おうとして絶句してしまった美登里を残し、二人は喋りながらすたすたと歩いていく。

「へえ、いい事言うやん。経験か?」

「うるさいわね、放っといてよ…」

 後に残された美登里は一つ溜息をつくと、がっくりとうなだれて座り込んだ。

8


「あ、美登里さん、遅くなりましたー」

 そう言いながら智之がやって来たのは、それから暫く経ってからの事だった。

 智之はいつものように人なつっこそうな笑みを浮かべている。ふと、先程の愛の事が頭をよぎり、美登里は暫くその顔をジロジロと見つめた。

(…まさかコイツの事を好きになる奴がいるとはな…)

「な、何ですか? 顔に、何か付いてます?」

 見つめられ、居心地悪そうにあちこちに視線を移しながら智之が言う。額には汗まで浮かんでいる。

 美登里はあまり理想の男性像、などというものは考えた事がないのだが、それでも、恋人にするんだったらもっと落ち着いた、頼りがいのある男を、と思う。智之は子供っぽくて、頼りなくて、まるでその反対だ。

(…そう…もっとがっしりとした…)

 そう思った時、不意に昨日感じた智之の手の感触を思い出した。

(コイツも結構がっしりとして…)

「美登里さん?」

 美登里が黙ったままなので智之が不審げに訊き返す。その声で我に返った美登里はカーッと顔に血が上るのを感じ、智之に気づかれないように慌てて俯いた。

「美登里さん…?」

 智之がもう一度尋ね、俯いた顔をのぞき込もうとする。

「あ、ああ。付いてるぞ」

 俯いたまま、美登里はそう言って智之の注意を逸らす。心臓がドキドキいっていた。それが、智之の中に男を感じたからなのか、それとも内心の動揺を智之に悟られてしまうのでは、という恐れから来ているのか、今の美登里には分からなかった。

「え? 何処です?」

 そう言いながら智之は手のひらで額や頬をこすってみる。だが、手には何も付かなかった。当然の事だ。美登里が時間稼ぎのために言っただけなのだから。

「どこ、何処ですか? 何が付いてます?」

「目と鼻と口」

 どうやら心が落ち着いてきたようだったので美登里はそう言って顔を上げた。

 一瞬、智之が唖然あぜんとした顔で黙り込む。それから、いつもの笑っているような表情の顔を、困ったようにゆがめて、

「美登里さーん。何か怒ってません?」

 と甘えた声で尋ねてきた。

「別に」

 素っ気なく美登里は答え、ぷいっと横を向く。本当は機嫌が悪いわけではなく、あまりジロジロと顔を見られたら、まだうっすらと残っている赤みに気づかれてしまうかも知れない、と思ったからだ。それに、顔を合わせているとまた思い出してしまいそうで怖かった。実際、まだ心臓の方はドキドキいったままなのだ。

「美登里さ…」

「そ、それより、電話番号。言うぞ。090‐○●☆◎…」

「あ、ち、ちょっと、待って下さいよ。えと…」

 そう言いながら、智之は飴色の革の鞄から、同じ様な色の手帳を取り出す。付いていたボールペンにはお尻の所に白いマークが入っていた。ドイツのブランドの物だ。

「待って下さいってば。えーと、090‐○●☆◎の…」

 智之は慌てて手帳に乱暴な字で書き取ろうとする。

「★◇■▲。私の誕生日と同じだ」

 だが、美登里がそう言った時、智之の携帯電話がけたたましく鳴り出し、作業は中断された。

「もしもし? もしもし…? あ、愛ちゃん? 今ちょっと…え? 何?」

 よく聞こえないのか、智之は空いている方の耳を手で塞ぐ。

(…愛ちゃん…?)

 美登里の脳裏に、さっきの眼鏡の女の子の怒ったような顔が浮かんだ。

「もしもし? え? 何…」

 相変わらず苦労している智之を暫く見ていた美登里は、しょうがないなという風に小さく溜息をつくと、脇に置いてあった手帳とボールペンを取り、途中まで智之が書いていた電話番号の、続きの四桁を書き込む。手帳を元通りに鞄にしまってやると、智之は片手で祈るような仕草をして感謝の気持ちを伝えた。

「え? もしもし? ち、ちょっと!? もしもし? もしもし!?」

 どうやら、電話は切れてしまったらしかった。電話機を見て、智之は小さく舌打ちをして、美登里に向き直る。

「すいません、美登里さん、僕ちょっと行かなきゃならない所が出来ちゃったもんで…あ、後で、電話します!!」

 慌てた様子でそう言うと、智之はどたどたと小走りで校舎の方に走って行く。ふと、冷たい風が吹いたような気がして、美登里は上着の襟を合わせた。

(…愛…ちゃん…)

 後ろ姿を見送った美登里の心に、智之の漏らしたその言葉だけが妙に引っかかっていた。

9


 ふと気が付いて枕許の時計を見ると、あれから三十分ぐらい経っている。どうやら、ウトウトしながら夢でも見ていたらしい。

 美登里はちらりと机の方に目をやる。携帯電話はさっき倒したままだった。

(…もしかしたら…)

 眠っている間に電話があったかも知れない、と思い、立ち上がろうとして止める。

「ばかばかしい」

 そう呟くと、美登里はごろりと寝返りを打って机の方に背を向けた。

 耳を澄ますと、コチコチという時計の音がやけにうるさく聞こえてくる。普段は全く気にならないその音が、今日はやけに耳障りに思えた。

 『いいわ、私が智之をあなたから離れさせてやるから!』

 不意に、そう言い放った愛の顔が浮かぶ。

(勝手にしろ。かえってその方がせいせいする。余計な誤解をされずに済むからな)

 そう思いながら、昼間美登里をからかって行った晃子達の事を思い浮かべ、ドキッとした。

 『どうせならもう少し、言葉遣いとか態度直した方がいいかもよ。好かれてるからってその上で胡座かいてると、すぐ愛想尽かされちゃうんだから』

(な、何で―)

 美登里は自分がその台詞にぎくっとした事に気づき、そんな自分自身に動揺する。

 『…愛ちゃん?』

 今度は智之の台詞が脳裏に響いた。

 『すいません、美登里さん、僕ちょっと行かなきゃならない所が出来ちゃったもんで…』

 続いて、慌てた様子でそう告げた智之の、困ったような表情が浮かび、やがてそれらは次々と美登里の頭の中に浮かんでは消えて行く。

 『智之は行ってしまった』

 不意に、その言葉が頭の中に響き、他のものがぱったりと止んだ。

(行ってしまった? 何の事だ?)

 何故そんな言葉が頭に響いたのか、美登里は戸惑う。

(行きたきゃ何処へでも行けばいい。それが私に何の関係がある?)

 そう、美登里は自問した。

 『裏切りよ!!』

 今度は例の小説の中の女の子の台詞が強く、頭の中に響いた。そしてその言葉はずっと頭の中に響き続け、徐々に大きくなっていく。

(うるさい! あいつがどうしようとあいつの勝手だ!! 私は…私は別に裏切られてなんか…)

 いつの間にか小説のその場面が頭の中に浮かんでいた。だが、『裏切りよ!!』と叫んでいるのは美登里自身だった。そして、その前には学生服姿の智之が俯いて立っている。

 その側には、智之の腕に自分の腕を絡めるようにして、愛も立っていた。

 『智之は私を選んだの。お気の毒様ね』

 愛が勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。

 『…勝手にしろ…。わ、私には…関係ない事だ。と、智之などいない方が…かえってせいせいする…』

 美登里はぷいとそっぽを向いた。だが、内心では別のことを考えていることに気が付き、愕然がくぜんとなった。

 智之が何か言い出すのを待っていたのだ。

 馬鹿な事だ、と美登里は思う。一体、何を期待しているというのだ。小説のように、『信じてくれ、俺は、その…今は言えないけど…』等と言って欲しかったというのだろうか。普段、あれほど邪険に扱い、うるさく思っていた智之がいなくなってくれると言うのに?

 『…ふふ…あなた、智之の事何もかも分かっているつもりで、実は何も分かっていなかったのよ。もちろん、あなた自身の事も、ね』

 『何?』

 愛の言葉を、怪訝そうに美登里が訊き返す。

 『…いつまでもそうしてればいいわ。さ、智之、行きましょう』

 クスリと勝ち誇った笑みを浮かべ、愛が促す。

 智之は黙って悲しげな顔で俯いていたが、やがて愛に連れられ、一歩、また一歩と美登里の許から遠ざかって行く。美登里と智之の距離に反比例するかのように、美登里の心の中で何かが徐々に膨れ上がって行く。

 『行くな…』

 不意に、言葉が美登里の口を衝いて出ていた。

(…行くな…? 一体、何を言っているのだ…)

 それがまた美登里を戸惑わせる。だが、『何か』はそんな美登里を無視するかのように急速に膨れ上がって行く。

 『行くな! これからは、もっと言葉遣いも直すから!!』

 だが、智之は悲しげに首を振り、また一歩、遠ざかって行く。

 『ま、待って!!』

 美登里は、ついに最後の仮面もかなぐり捨てていた。

 『…私は…』

(私は…)

 それは、今まで美登里の心の中のずっと奥にしまい込まれていた言葉だった。

 『私は…お前が…』

(…お前が…)

 智之が悲しそうな顔をゆっくりと上げる。

 『…サ…ヨ…ナ…ラ…』

 智之の唇が、ぽつりぽつりと言葉を刻んでいく…。

 『好きなんだ!!』

 心の中にしまっていた言葉が、一気に言葉となって噴き出していた。

 だが智之の姿は何処にもない。

 もう、遅すぎたのだ。

 『…何で…今頃…』

 そう呟くと、泣きながら美登里は頽れた。どうして今まで気が付かなかったのか。いや、気か付かないフリをしていたのか…。後には後悔しか残っていなかった。

10


 ピロロロ…ピロロロ…。

 不意に、けたたましい携帯電話の音が鳴り響き、美登里を現実へと連れ戻した。

 気が付くと辺りはもとの静寂せいじゃくに包まれており、ただ携帯電話の音だけが鳴り続けている。

 美登里は額に浮かんだ汗を拭うと、起きあがって机の上に置いてある携帯電話を手に取った。

 ピロロロ…ピロロロ…。

 ディスプレーやボタンが音に合わせて一斉に光り、懸命に自己主張している。ディスプレーには『着信』の文字が表示されていた。

 ピ。

 緑色で通話のマークが書かれたボタンを押すと、美登里はゆっくりと、それを耳に持っていく。心臓が、いつかのようにドキドキと高鳴っていた。

「もしもし? もしもし? 夜分遅く大変申し訳有りません、わたくし、中島と申しますが、そちら、萩原美登里さんでしょうか?」

 電話から、緊張した智之の声が聞こえてきた。

「…」

「もしもし? もしもし? すいません、人違いでしたでしょうか…」

 不意に、なま暖かい物がぽたりと足に落ちる。

 涙だった。

「もしもし? もしもし?」

「…あ、ああ…。何だ今頃…」

 美登里は、自分が泣いている事を智之に気づかれまいとして努めて眠そうな声を出す。

「あ、美登里さんですか!?」

 電話の向こうからほっと安堵したような智之の声が返ってきた。どうやら、美登里が泣いているのはバレなかったようだ。ふと、美登里は買う時に『音が悪い』と智之が言っていたことを思い出す。『音がいい』と言うふれこみの奴にしなかったことを感謝したい気分だった。

「あの…美登里さんがメモしてくれた番号、違ってたんで…」

 受話器の向こうから言いにくそうな智之の声が返ってくる。

「え?」

「いえ、あの、メモの番号、違ってたんです。で、色々調べてみたんですけど、ダメで…。でも、さっき、美登里さんが『私の誕生日と同じだ』って言ってたの思い出して、かけてみたんです」

(…番号が違ってた…)

 それではかけられようもない。いや、むしろよくかけて来られたものだ。

(何が裏切りだって?)

「…ふふ…」

 不意に、可笑おかしさがこみ上げてくる。

(…やれやれ…何を泣いたりしてるんだ…私は…馬鹿だな…)

 そう思うと、美登里は可笑しいやら、恥ずかしいやらでくすぐったいような気持ちになり、照れ隠しに髪を掻き上げた。

「…あ、あの…美登里…さん?」

 受話器の向こうから、心配そうな智之の声が聞こえてくる。いきなり笑い出したのでどうしたのかと思っているのだろう。

「あ、ああ…何でもない。それにしても馬鹿な奴だな、そんなの、明日にでも『間違ってる』って言えば良かったじゃないか。間違い電話をあちこちにかけたんだろう? はた迷惑な奴だな」

「え、ええ…まぁ…。でも、今日…いや、もう昨日になっちゃいましたけど、美登里さんの誕生日じゃないですか。学校では『おめでとうございます』って言えなかったから…」

 そう言われてから、はっとしたように美登里は壁のカレンダーを見る。確かに、今日―もう昨日になってしまっていたが―は美登里の誕生日だった。

「…馬鹿だな…たかがそんな事で…」

 そう言いながらも、美登里は再び足になま暖かい物がしたたっているのを感じた。視界がぐにゃりとにじんでいく。

「ま、全く…。こっちは寝てたんだぞ…」

 心の中とは裏腹に、精一杯不機嫌そうな声を出して美登里は言った。

「…す、すいません…」

「まあいい。じゃ…」

「あ、美登里さん?」

 別れの言葉を言いかけた美登里を、智之が思い切ったように遮る。

「…何だ?」

「愛ちゃんの事…すいませんでした。失礼な事言っちゃったみたいで…。僕、美登里さんの事‥‥‥だから一緒にいるんですから」

「え?」

 途中、雑音が入り、よく聞こえなかった。

「…お休みなさい」

 聞こえなかったのか、もう言いたくなかったのか、繰り返す事はせずに優しい声で智之がそう囁く。美登里は肩の力がふっと抜けたような気がして、もう訊き返さなかった。

「…お休み。もう切るぞ。また明日…いや、もう今日、だな」

 時計をちらりと見て、そう言い直す。

「あ、はい。それじゃ」

 智之が答えた。

 ボタンを押し、通話を終わらせると、美登里は再びベットに横になり目を閉じる。

(…ゲンキンなものだな、私も…)

 さっきの夢の中での様子を思い出し、自嘲気味にふっと笑う。いつの間にか再び仮面をかぶっていたのだ。

 やはり、年下に向かって丁寧な口などきけそうにない。今までが今までなだけに、恥ずかしいのだ。まして、素直に気持ちを表す事など夢のまた夢だった。

 だが、それでは何も変わらないのだ。

「…馬鹿馬鹿しい…」

 そう呟きながらも、少しずつでも変えていこうと思う。言葉遣いはともかくとして、少なくとも、もっと自分自身に正直になろう―そう、思っていた。

 ふと、ある考えが脳裏をよぎり、美登里はクスリと笑う。

 音がいいと言うふれこみの電話にしなかった事を、少しだけ後悔したのだ。

 だが、又すぐに別の考えが脳裏をよぎり、もしかしたらこれで良かったのかも、とも思った。

 どうせなら、その言葉を直に聞いてみたくなったから。

 もし、それが出来たら、なのだが…。

(…ま、そのうち、な)

 美登里はもう一度、クスリと笑った。

11


「ふぁ…」

 いつもの噴水の所に座って、美登里は眠そうに欠伸をする。手で隠してはいるものの、大欠伸だ。寝不足の上に今日もまたぽかぽかと春めいて暖かな陽気なので、つい眠くなってしまう。

 実は、美登里はあの後、ふと気になって例の小説を明け方までかかって読んでしまったのだ。

(ったく…次からはちゃんと中身確かめてから本買わなくちゃ…)

 自分でも馬鹿馬鹿しいと思いつつも読んでしまった、しょうもない本の内容を思い返しながら、美登里がもう一度欠伸をした時だった。

「あ、美登里さん。眠そうですね」

「んぐ」

 途中で智之に声を掛けられ、慌てて口をつぐんで俯く。

「だ、誰のせいで寝不足になったと思ってるん…ですか」

 『思ってるんだ』と言おうとして、慌てて美登里は言い直した。少し、いつもの言葉遣いを直すつもりだったのだ。

(べ、別に…晃子に言われたから、とか、智之のためとかいうんじゃないぞ。し、就職活動の準備のためだ)

 美登里は何度もそう言い聞かせ、自分を納得させようとしていたが、あまり効果が上がっているとは言い難い。

 気が付くと、怪訝そうな顔で智之が見つめていた。

「…な、なん…何か…?」

 『何だ』と言おうとした所を言い直し、美登里は尋ねる。顔が少し熱くなっていた。

「…どうしたんですか? 美登里さん。いつもは欠伸、平気でしてたじゃないですか。それに、言葉遣いも何だか変だし、ノースリープのブラウスに、スカートはいて髪もしっかり決めてるし…」

「う、うるさい、就職活動するのに必要なんだ…ですから」

 隣に座った智之をうるさそうにはたき、美登里が答えた。智之はいきなり「ぷ」と笑いかけたが、どうにか手で口を押さえ、必死に堪えている。

「お、おま…君ねぇ…」

 声には出さないように必死に苦労しながら、笑いを堪えている智之を睨み付け、決まりの悪さと腹立たしさで美登里は顔を真っ赤にして俯いた。一体、誰のために言葉遣いを直そうとしていると思っているのだ、という言葉を、ぐっと飲み込む。

 まさか、言えるわけがない。

 しかし、言葉遣いはともかくとして、スカートはいているのが「変」だとはどういうつもりだろう。確かに、今まで学校に来る時はほとんどズボンで来ていたし、髪もあまりきっちりとセットしたことはなかったのではあるが…。

 美登里はまだ必死に笑いをこらえ続けている智之を、もう一度睨み付けた。

「…あ、す、すいません。で、でも、就職活動って大変なんですねー」

「そらそうや、美登里のは『永久就職』やからなぁ」

 しみじみと智之が言うと、妙な訛のある声で合いの手が入った。

 美保だ。

「へ?」

 智之がキョトンとしていると、美保がひょっこりと美登里達の後ろから顔を出す。

「偉いじゃん、美登里、あたしの忠告聞いたんだー」

 晃子がそれに続いた。

「あんた、苦労するでぇ。こないにがさつな女もろたら…」

「そうそう。お姉ーさん達に任しとけばもっと粒選つぶよりなひとをご紹介…」

 二人は後ろから智之の肩に手を置いて、囁くように、しかし美登里にも十分聞こえるように話しかける。

「美保! 晃子!」

 機関銃のように喋る美保と晃子の顔を、キョトンとした顔で交互に見比べている智之に、お構いなしに話し続ける二人を美登里は一喝する。だが、捕まえようとする美登里の手をすり抜けて、二人は

「おー怖。式の時には呼んでねー」

「ま、仲良ぅしいや」

 そう言ってウインクすると、さっさと何処かへ行ってしまう。後にはキョトンとした智之と、顔を赤くしたままの美登里が残されていた。

「…永久…就職…」

 ぽつりと智之が呟く。それからハッとしたように緊迫した顔で美登里の方に向き直った。

「美登里さん…」

 驚いたような顔の智之がそう呟いた。

「あ、い、いや、べ、別に、私は…」

 頬を真っ赤に染めて、慌てて美登里は誤魔化そうとする。さっきまで口調を変えようと努力していたのは自分だったのに、いざとなると恥ずかしくて、格好悪くて心を知られたくないのだ。

「…誰かと、結婚しちゃうんですか!?」

 泣きそうな顔で智之が言い、美登里の動きが一瞬止まる。

「…へ?」

 という間抜けな声が美登里の口から出たのは、よほど暫く経ってからの事だった。

「美登里さん…そんな…いつの間に…」

 智之が美登里の胸に縋って泣き声を上げる。美登里は暫くぼんやりと、智之のなすがままに任せていたが、やがてゆっくりと右手を肩の高さに上げ、

「いつまで触ってんだこのスケベ!!」

 怒声と共に拳を智之の頭に思いっきり振り下ろした。

 ガツン。

 鈍い音が響く。

「だ…誰が結婚なぞするか!! このたわけ!!」

 美登里はそう捨て台詞を残すと、頭を押さえてかがみ込んでいる智之を残し、校舎の方にツカツカと足音荒く歩き出す。

(やっぱり、携帯電話なんか要らない!!)

 ぷりぷりしながら美登里が歩いていると、ふと、背中に敵意のこもった視線を感じ、立ち止まった。振り返ってみると、しゃがみ込んだままの智之に寄り添い、こちらを睨み付けている人物がいる。

 愛だ。

 愛は美登里と視線が合うと、ツカツカとこちらに向かってくる。そして、

「あたし、諦めないから! あんたなんかに絶対、智之を渡さない!! 勝負はこれからなんだから!!」

 と一息に言い放ち、また智之の許へ戻っていく。

「…勝手にしろ」

 暫く、美登里は愛に付き添われている智之を見つめていたが、やがてそう呟くとくるりときびすを返し、歩き始める。

 だが、二、三歩歩いてから、再び美登里は立ち止まった。そして、腹立たしげに髪を掻き上げると、振り返ってこう怒鳴った。

「智之、授業が始まるぞ! さっさと行け!!」

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