過去の
ふと、気がつくと私は歩いていた。
でも、何も無かった。
そこには人も建物も、それだけでなく空も太陽も大地も本当に何もかもなかった。
なんだか、何かが終わってしまったのか、もしくはこれから何かが始まるのか、事の末端のような場所に感じた。
ここにいるのは私。
そして、隣には私の愛するあなた。
ただそれだけ。
こんなよく訳の分からないような場所にいるのにも関わらず、心は穏やかだった。
どこに向かっているのか、次に1歩を踏み出した時、足元があるかどうか、分からない。
けれど、その真相を知りたいとも思わなかったし、ずっとこのまま歩き続けていたいと思った。
きっと、あなたと2人なら他は要らないと思っているからだろう。
きっと、あなたの隣に居るためならどこへでも隣に居続けようと身体が感じているからだろう。
ここは、私が望んでいたようで望んでいなかったところのような。
ここは、幸せを感じさせてくれる代わりに大きな不安を感じさせるような。
ここは、初めて訪れたようで懐かしさを身に染みるような。
そして、ここは、、、私がここに来る前の事、何故ここに来たのかの理由を忘れさせようとさせて、なにかに怯えているような、緊張しているような。
「怖がらないで。大丈夫。」
聞き覚えのある声。言葉。
彼の声がこの空間全てに反響して、私の身体に跳ね返ってくる。
それを受け止めることは私にはあまりにも重すぎて。
私の強ばった身体を芯から破壊するような、同時に私の心を優しく包み込むような声。
しばらくの間、時が止まったような感覚に陥った。