姫様、ご機嫌いかが?
第135回フリーワンライ
お題:
君の甘さは気味悪い
人魚姫は泡と消える
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
私は恭しく手を差し出した。大事な「君」への贈り物。あるいはご機嫌取り。
手のひらの上、台座に座っているのは小柄な人型の女性だ。光を艶やかに照り返していて、半透明にも見える。
下半身の尾びれを優雅に畳んで、まっすぐに背を伸ばしている。彼女からすれば大きな怪物の手の上になるわけだが、まるで臆した様子もなく、凜として前だけを見つめていた。
さすがはおとぎ話に謳われる人魚の姫君といったところだろうか。
塞ぎ込んでいた「君」は笑顔を閃かせ、人魚をそっと受け取って顔を寄せた。
「やっとわたしのところにきてくれたのね。なんていいにおい」
言うが早いか、犬が親愛を示すように大口を開けてひと舐め。唾液まみれになっててらてらと光っても、人魚の凜々しさは変わらない。
気付くと「君」は見せびらかすように、人魚を私に近付けていた。珍味のお裾分けかな? 一呼吸置いてぺろり。
……まいった。これはなんとも予想外だった。人魚のイメージから来る味とはかけ離れていた。ほんの少し塩気があるとか、爽やかな酸味がするとか、そういったものを想像していたのだが。
甘い。途轍もなく甘い。しかも口の中にしゅわしゅわと刺激が残り続ける。
「君」はとても大事だけれど、「君」と感動を分かち合えなくて残念に思うよ。
幼い手つきで掴まれた人魚姫は、みるみるうちに口の中に溶けて泡と消えた。これで次のアトラクションまでは保つだろう。
『姫様、ご機嫌いかが?』了
……いやあ、随分久しぶりの投稿ですね。
しばらく参加してなかったっていうのと、ワンライが開催されてなかったということと、事情が二つ重なって期間が開いてしまいました。
モンスター目線のファンタジーかと思いきやそれかよ、みたいに思って頂ければ思惑通り。