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幽世の竜 現世の剣  作者: 石動
『ブラック』作戦
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第28話 『逆襲(2)』

 戦闘です。


第301戦車中隊 第5連隊戦闘団 モース市近郊

2013年 3月10日 14時07分



 鬱蒼(うっそう)とした熱帯雨林の広がる一帯の中に、ぽっかりと空いたモース市周辺の草原地帯は、人々の営みが作り上げた人工的な地形である。商業活動にともなう隊商の往来や、糧を得るための営農、そういった人間たちの様々な活動がこの景色を形作っている。


 そして今、その風景の中に、人々の新たな営みの結果が深々と刻み込まれつつあった。



0-6(中隊長)より全車。間もなく特科の砲撃が終了する。前進用意」

1-0(第1小隊)準備完了』

2-0(第2小隊)了解』

3-0(第3小隊)了解──我々の出番なんて残ってますかね?』


「無駄口叩くな3-0──まぁ、気持ちは分かるが」


 車長用ハッチから上半身を乗り出させた、第301戦車中隊長柘植甚八(つげ・じんぱち)一等陸尉は、その丸顔に苦い笑みを浮かべて無線に答えた。タスコ社製軍用双眼鏡を使わなくても、数キロ先の地獄が容易に想像できる。遠雷のような音が繰り返し大気を震わせるたびに、何かが空へと吹き飛ばされ、大地に撒かれていく。青々としていた草原は無残にも掘り返され続け、今では赤茶けた大地の中身をさらけ出していた。いや、あれは本当に土の色だろうか? そんな疑念が柘植の脳裏をよぎった。


 彼の90式戦車とその13両の同族たちは、三菱重工製水冷2サイクルV型10気筒ディーゼルのアイドリング音を響かせながら、戦場へ解き放たれる時を今か今かと待ち構えている。その姿は、この地に居合わせた異世界(アラム・マルノーヴ)の人々を畏怖させるのに十分な存在感を示していた。


1-0(第1小隊)及び2-0(第2小隊)は左に展開、3-0(第3小隊)は右だ。行進射で敵を撃破しつつ距離1000まで前進する。対戦車火器は確認されていないが、個人携行火器(まほうつかい)程度は装備している可能性がある。距離を詰めすぎるな」


 中隊長車を合わせて14両の90式戦車(MBT)が躍り込めば、たかが一万名(すでにそれは五千名かもしれないが)の軍勢など、あっという間に蹴散らすことができるだろう。柘植は確信していた。彼はすでに戦場でそれを証明している。そして、それが気分の良いものではないことも知っている。


「中隊長、どうして左右だけ叩いて真ん中を残すんですか?」

 操縦手の村上3曹が首を傾げた。おそらく各小隊長も同様の疑問を覚えているだろう。

「知らん、連隊長の命令だ」そして、柘植も疑問に思っていた。「あの真ん中の旗がしこたま立っている辺りは絶対に撃つなというお達しだ」


「真ん中にいる敵将をビビらせようってことですかね?」

 砲手の根来2曹が冷静な口調でつぶやいた。


「だとしたら趣味が悪い話だが……あの狸おやじの考えは分からん。捕虜が欲しいのかもしれん」


 柘植はそう独り()ちると、背筋を伸ばした。無線に向けて命令を発する。


「中隊、前進する。戦車前へ!」


 柘植の号令に呼応するように、14両の90式戦車はエンジンの回転数を上げ勢いよく前進を開始した。泥を撥ね上げ轟音とともに動き始めた巨大な鉄騎兵を、南瞑同盟会議軍の兵士たちはただただ見送るだけしかできなかった。




第5連隊戦闘団本部 モース市近郊

2013年 3月10日 14時12分


 呆気に取られているのは、兵士だけではない。


 演台の上に並ぶ諸都市徴募軍の指揮官たちもまた、魂を抜かれた人形のように青白い顔で、眼前に繰り広げられる惨劇(さんげき)を見つめていた。何しろ、少し前までは絶対的な暴力そのものに見えていた〈帝國〉南方征討領軍主力が、猫にいたぶられるネズミより酷い扱いを受けているのだ。奴らがあのありさまなら、それから逃げ出そうとしていた自分たちは何なのだ? そう想う者がいてもおかしくはないだろう。


()()()()()()、あれはなんなのだ? まさか、隕石を召喚(メテオ・ストライク)したとでもいうのではあるまいな?」

「隕石ですと? いやいや、アレはその様なものではありませんぞ。私の部下が放った──そうですな、長射程の投石器のようなものです」

「莫迦なッ! ──いや、失礼。しかし、投石器とは威力が違いすぎる」

「本当に魔導士の業ではないのでしょうか、マツナガ殿?」


 上機嫌に返答する松永一佐に対して、質問する指揮官たちの態度は先ほどまでとは豹変していた。特科大隊による面制圧射撃によって現出された地獄のような風景と、突如現れた巨大な魔獣の群れ(異世界の将校たちは戦車を的確に言い表す表現を持ち合わせていない)を目の当たりにして、目の前の胡散臭い男が持つ力を、ようやく実感し始めたのだった。


「あれは何という生き物で御座るか?」市衛騎士の一人が90式の群れを指さして言った。

「あれは『90式戦車』という物ですな。生き物ではありませんが、軍馬のようなもの……まぁとにかく私の部下はあれに乗って戦いに向かうのです。柘植一尉が指揮を執ります」

 松永の指示した先には、車長席に立つ柘植一尉の姿がある。その姿は、見ようによっては馬上の騎士のようにも見えたのだろう。感心したような唸り声が上がった。


「ツゲ? ツゲ──おお、もしやあのブンガ・マス・リマ防衛戦で功を挙げたツゲ殿か! 市警軍の者が噂をしておりましたぞ。なんでも東岸の防衛線を僅かな手勢で守り通した剛の者とか」

「儂も聞いたことがある。所詮(しょせん)噂と眉に唾つけておりましたが──あの姿を見て合点がいき申した」


 口々に誉める指揮官たちの様子ににんまりとしていた松永に、そっと囁く者が出始めていた。


()()()()()()

 そう声をかけてきたスノウバル市軍長に松永一佐はにこやかに返す。

「なんでしょう?」


「閣下は、アイシュワリヤー姫殿下を奉ずるおつもり、それで相違ないでしょうや?」

 それは探るような響きを持っていた。


「私は日本国に奉職する身ゆえ、姫殿下に仕えるわけではありませんぞ」

「しかし、先ほどはあのような演説を」


「そうですな──姫殿下が日本国と手を携え〈帝國〉に立ち向かわんとする意志をお持ちである限り、我が国は協力を惜しまないであろう──私はそう申し上げたまで」


「なるほど……」

 松永の返答を聞いたスノウバル市軍長は、納得した様子で後ろに下がり何名かの指揮官と相談を始めた。



「連隊長」いつの間にか隣に並んだ高山三佐がジトっとした視線を向けながら言った。「……私は今朝まで『3対戦のアパッチを使えばさっさと撃退できたのに』と考えておりました」

「ふむ、妥当な判断だな」胡散臭い笑みを貼り付けたまま、マツナガが鷹揚(おうよう)に頷く。


「これが狙いだったのですね?」

 どちらかというと潔癖な性格の高山は、複雑な表情で言った。先ほどの松永の言葉は『日本に協力する限りはアイシュワリヤー姫の後ろ盾になりますよ』という意味だ。そして、今朝の時点では徴募軍の将校たちにとって何の保証にもならない空手形に思えたはずだ。だが──


「そりゃ、『いつの間にか敵が撤退していました。めでたしめでたし』じゃあ、いつまでたっても俺たち〈ジエイタイ〉は、得体の知れない変な連中のままだからな」

「だから、こんな舞台まで作って目の前で叩いて見せた」

「何事も魅せ方次第だぞ。あと、無料で何でもやるのもよろしくない」


 悪徳転売屋のような顔で(もっとも高山はそんな連中を実際に見たことはないが)、松永は口ひげを撫でた。

 高山は嫌悪感を覚えつつも、その効果を認めざるを得なかった。仰々しく悪趣味な手段を用いているが、日本国と自衛隊の立場は格段に強化されている。それは、巡り巡ってアラム・マルノーヴに派遣されている自衛隊員と政府関係職員の安全に繋がるのだ。


 周囲を見渡せば、不安げに椅子に腰かけたアイシュワリヤー姫の周囲に人だかりができている。打算に満ちてはいるが好意的な態度で(ひざま)く指揮官たちの腹の内は、強大な後ろ盾を得た姫殿下に早めに渡りをつけておこう、という物だろう。幼い姫にとって、味方が増えるのは悪いことではない。


──しかし。


 高山は、ある疑念を言い出すことはできなかった。目の前で、松永は親しげにアイシュワリヤー姫に話しかけている。


(連隊長。あんた、ヘリと空挺を使っていれば、バールクーク王と彼の軍を救うことができたんじゃないか?)


 それは可能性でしかない。混乱した戦場に無理に投入すれば、何が起きるかわからない。リスクを考えると、高山が指揮官だったとして、決断できるかどうかはすぐに答えることができない。だが、のどに刺さったとげの様に、その考えは高山の脳裏からいつまでも消えなかった。



「お、始まったようですぞ。姫殿下、我が鉄騎士の戦ぶり、どうぞご照覧あれ」

「はい、マツナガ殿」





 第301戦車中隊の各車は斜行陣を組みつつ、特科の砲撃で混乱する〈帝國〉軍の両翼を包み込むように前進した。蠍のステンシルで砲塔側面を飾った90式戦車の群れが、履帯で泥を撥ね上げ、大地に引っかき傷を刻みながらあっという間に距離を詰める。2000メートル。すでに十分射程内だった。

 車長用視察装置が敵影をはっきりと映している。血と泥に塗れた重装歩兵の成れの果て。堅陣を誇っていただろうその姿は、戦場の女神にいたぶられ、すでにボロボロだ。

 可哀そうにな。あんな立場にはなりたくないものだ。柘植は哀れみを覚えつつ、冷徹な命令を下した。


「前方敵歩兵、対榴、班集中行進射、撃てッ!」


 2両の90式戦車が同時に多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)を発射する。日本製鋼所製44口径120mm滑腔砲が閃光と白煙を上げ、50トンの巨体が揺れた。発射された榴弾は、狙い違わず〈帝國〉軍がもがくど真ん中に着弾する。

 柘植の部下たちも獲物を狩り立てる猛獣にも似た動きで、〈帝國〉軍に襲い掛かっている。


『2-0左へ──前方敵歩兵、対榴、小隊集中行進射、撃てッ!』

『射撃効果大! 敵潰乱します』

『続けて撃て』


 第2、第3小隊8両が食らいついた〈帝國〉軍右翼は、既に軍の体を為していない。逃げ惑う兵士が次々と吹き飛ばされている。

 こっちも早く終わらせてやろう。柘植は漂ってくる臭いに気づいていた。人間だったもの──肉の焼ける臭いだ。嘔吐感と食欲を刺激する呪いのようなそれは、柘植の口中に苦味を充満させた。柘植は決心した。その方が部下と自分の精神衛生上もよい。揺れる車内で敵情を確認する。距離は1000メートルを切った。




アダモフ槍兵団 〈帝國〉南方征討領軍 モース市近郊

2013年 3月10日 14時20分


(なんだこれは……)

 耳鳴りが収まらない。視界が赤黒く染められている。頭の中が真っ赤に燃え上がっているような感覚に、思考がまとまらない。


「──ぁあ──」

 

 誰かが何かを叫んでいるのだろう。しかし、地面にへたり込んだアダモフの耳には、意味のある言葉として伝わってくることはない。彼の鼓膜は破れてしまっていた。


 赤黒い視界が僅かに回復した。口の中の泥を吐き出したアダモフは、武人としての矜持(きょうじ)を支えに体を起こす。あちこちがひどく痛む。その痛みが徐々にではあるものの、彼の思考を回復させつつあった。


(何が起きた? いや、それよりもまず兵を立て直すのだ)


 最精鋭の重装歩兵を任されるだけあって、アダモフはひとかどの武人であった。ごく短時間で衝撃から立ち直り、部隊の立て直しを図ろうとしている。普通ならその試みは上手くいっただろう。

 彼の部隊を攻撃したのが尋常ならざる存在だったことが、彼の不幸だった。



 周囲は控えめに言って地獄だった。少し前までは上質の鎧と兜を装備した重装歩兵隊が、鮮やかな軍旗と赤いふさの付いた長槍を並べて敵を威圧していたはずだった。充分な訓練と食事を与えられた兵士たちは、戦技体格とも抜群でオークと正面からぶつかっても戦える部隊だった。


 しかし、今やその姿はどこにもない。周囲には人間と人間だったものが転がる荒野があるだけだ。矢や斬撃から身を守ってくれるはずの鎧兜もまったく意味をなしていない。むしろ、破片を受けて砕けた鎧の欠片が、中の人体をめちゃくちゃに引き裂いていた。


(なんだ、これは? 儂の槍兵団はどこへ行ったのだ?)


 アダモフと生き残ったわずかな槍兵たちは、夢遊病者のようにのろのろと辺りを見回し、ある一点を見て身体を硬直させた。土煙を上げて迫りくる何か巨大なもの。それは群れを為し、長大な角を振りたててこちらを威嚇している。


「ば、化け物……」

「いや、邪神だ、あれは」


 恐れ、嘆く兵たちの中で、アダモフだけがあることを思い出していた。


 ブンガ・マス・リマ攻略に失敗し、処断された将校、魔導士、徴用軍の指揮官たちが口を揃えて主張した『巨大な魔獣』と、それを操る〈二ホン〉軍という敵。


(まさか、真実であったというのか? あんな荒唐無稽(こうとうむけい)な……)

 

 破壊と炎を振りまく巨大な魔獣。空から全てを薙ぎ払う人食い蜂。有翼蛇を撃ち落とした『光る矢』。一兵卒に至るまで強力な魔導を操る魔法戦士の群れ。

  

 全て罪を逃れるための戯言と、〈帝國〉軍将校たちは一笑に付した。


(莫迦な。こんなはずでは。バールクーク王国三万を打ち破った我らの勝利はなんだったのだ)


 アダモフは人生で初めて泣きたくなった。剛勇をもって鳴らし、敵と敵国の民に対しては冷酷非道をもって当たってきたこの漢は、後悔という概念に初めて触れていた。反省すらしていた。敵情を見誤ったことが、この結果を招いたのだと。


 だが、すべてはすでに終わっていた。魔獣の群れが一斉に閃光を放つ。次の瞬間、彼の意識は暗黒神の御下へと溶け散った。


 第301戦車中隊長柘植甚八一等陸尉が指揮する6両の90式戦車からの集中射は、彼と彼の槍兵団を纏めて吹き飛ばし全滅させたのだった。



第5連隊戦闘団本部 モース市近郊

2013年 3月10日 14時47分


 第1特科大隊の統制された射撃と、綿密に調律されたかのような動きで左右に展開した第301戦車中隊の攻撃を受け〈帝國〉軍両翼の槍兵たちは壊滅した。15門の155mm榴弾砲と14両の90式戦車が放った砲弾は、一切の容赦をしなかった。


 開豁地(かいかつち)、密集陣形という要素がその被害に拍車をかけたのは間違いない。



 高山三佐は、目の前の悲劇的な光景に思わず息を呑んだ。これほどあっさり死ぬのか。現代兵器の持つ威力と情け容赦の無さを目の当たりにし、背筋を震わせる。


 一方で、鶴翼に似た陣形を組んでいた〈帝國〉軍のうち、左右の槍兵団は完膚なきまでに叩き潰されたのと対照的に、中央に布陣したオーク重装歩兵団約千名が無傷で残されていた。奇妙な状況だった。戦術的な意味は無い。

  

 作戦幕僚として、指揮官のその意図を確認する必要があった。


「で、このあとどうされるんです?」


 高山の声は冷たく響いた。きっとろくでもない理由があるに違いない。第3対戦車ヘリコプター隊の〈ロングボウ・アパッチ〉を見せびらかそうとか、その辺りか。連隊長はいやらしい笑いを浮かべているんだろうな。そう思いながら視線を松永のほうに向ける。


「ん」


 予想は外れた。松永一佐はとても真剣な表情を浮かべ、短く答えた。手に持っていた双眼鏡を高山に渡す。見ろということだろう。高山は、双眼鏡を構え〈帝國〉軍中央に視線を向けた。


 動揺を見せながらも陣形を保つオークの群れ。その中央には多数の軍旗が立ち並んでいる。その中に、高山は奇妙なものを見つけた。長槍の穂先付近に何かがぶら下がっている。


「あれは?」


 目を凝らす。ピントが合った。そして気づいた。


「首……」

 

 それは、首だった。細かいところまでは判別がつかないが、誰の物かなどはすぐに理解できる。王の首だ。武運拙く討ち取られた、バールクーク王とその側近たちの首。我が国でも為されてきた戦場の作法だった。


「あれを吹き飛ばすわけには、いかんよ」


 憂いを隠さない声で、松永一佐が言った。驚くべきことにそこには真摯な何かが込められていた。背後に座るアイシュワリヤー姫にちらりと視線を送る。気丈に振舞う少女に対する視線は、いつもの松永とは全く異なっていた。


「首は取り返す。それくらいしてやっても罰はあたらんだろう?」


「しかし、どうしますか? 特科と戦車中隊の攻撃は範囲が大きすぎると判断されたのでしょう? となると──」


「戦闘を終わらせられるのは、歩兵だよ作戦幕僚」


 松永はそう言って笑った。高山は幕僚としてその言葉の意味を探る。第1、第2普通科中隊を投入して、小火器で敵を叩く気だろうか? あまり賛成できないな。高山はそう考えた。

 装輪装甲車と軽装甲機動車を装備する普通科中隊の火力なら、オークに敗北することは万に一つもあり得ない。しかし、生身の普通科隊員を正面に出す以上、敵の攻撃により被害を受けない保証はない。せっかく機甲戦力と航空戦力が揃っているのである。わざわざリスクを冒す必要があるだろうか?


「近接戦闘になれば、不測の事態が考えられますが……」


 死人が出たらどうするんだ? 高山は言外にそう含みを持たせて言った。


「高山、あの首は然るべき者の手によって奪還されるべきだ。それは、俺たちじゃない」松永は演台の後方を指さした。「第1ヘリコプター団は間に合ったようだぞ。主君の無念を晴らすのは彼らだ。俺たちはその支援を行う」




「姫様! ご無事ですか? 姫様!」


 大股で演台に駆け寄る将校の姿に、アイシュワリヤー姫が口元を抑え、思わず立ち上がった。精一杯の声で呼びかけに応える。


「その声は、アンガブート卿? 無事だったのですね?」


 壊滅したと思っていた配下の声を聴いたアイシュワリヤーは、その金色の瞳に涙を浮かべた。5メートルの高さから、地面を見下ろす。

 ぼろぼろの軍装を纏ったアンガブートの後方には、同じような見た目のバールクーク王国槍兵数百名が、UH-60JAとCH-47JAから降り立ち、整列を始めていた。彼ら前衛部隊は、ゴブリンの追撃を受け敗走しているところを救出され、ここまで運ばれてきたのだった。

 演台の下で、アンガブートは深々と頭を垂れ、跪いた。震える声で姫に向けて叫ぶ。彼は号泣していた。


「姫様! 御無事でしたか……このアンガブート、前衛を任されながら敵を撃ち破ること能わず、王をお護りできず、生き恥をさらしてしまいました」

「いえ、アンガブート卿。そなたらはよく戦ってくれました。おとうさ──父王も満足していたでしょう。わたくしはそなたらが無事に敵の手から逃れてくれたことこそをうれしく思います」


「勿体なきお言葉。我らゴブリンどもの追撃を受けもはやこれまでと思ったところを」アンガブートは後方のヘリを指した。「彼の『へりこぷたー』なる乗り物に救われ、はせ参じた次第。すべてジエイタイの助力によるものです」


「まぁ、マツナガどの。敵を討つばかりでなく彼らをすくっていただいたのですね」

「殿下の幕下には人が必要でしょうから」

 感謝の笑みを浮かべるアイシュワリヤーに松永はうやうやしく一礼すると、演台下のアンガブートに声をかけた。


「アンガブート殿、もう一度いくさをする元気はあるかね?」


「一度と言わず何度でも戦うぞ! この命とうに捨てたもの。姫のために投げ打って悔いはない」


 間髪入れず、威勢の良い返事が返ってくる。松永は、周囲の将兵に聞かせるように、ひと際大きな声で言った。



「よし、ならばもうひといくさだ。姫様の大事なものを取り返す大仕事だぞ!」




挿絵(By みてみん)

 自衛隊が参戦すると、あっという間に片が付きます。正面戦闘の場合、互いの戦闘能力を考えれば当然の結果ですが、なんというか容赦ないですね。

 次回は、王国槍兵+普通科+αで、王様を取り返しに行きます。


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― 新着の感想 ―
[一言] >松永一佐の考え アイシュワリヤー姫を象徴にして、徴募軍には武威を見せつけながら日本との関係構築を行う、ここまでの演出を考えたとは悪どいけど有効なやり方です。彼一人での演出ですかね。  高山…
[一言] これ松永一佐の凄いところは現地民の価値観を考えて折衝してるところじゃないかって思う、たぶん歴史好きなんだろうな 軍功には敏感に反応するだろうし、血統の権威は現代より強い 自分たちの手で敵を倒…
[一言] 更新お疲れ様です。 蹂躙される帝國軍にスッキリ^^ 王の首級奪還の為に救助した残存部隊と普通科の合同部隊が吶喊!? いくら小銃ら現代火器が優れていても、乱戦になれば隊員にも少なくない犠牲が…
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