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幽世の竜 現世の剣  作者: 石動
『ブラック』作戦
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第27話 『逆襲(1)』

800ブックマークありがとうございます! うれしいです。たくさんの感想をいただき励みになっております。

OH-1改 第3対戦車ヘリコプター隊 モース市上空

2013年 3月10日 13時05分


CP(指揮所)こちらオメガ01。〈帝國〉軍前進を開始した。おそらく旅団規模。会敵まで約30分』

『CP了解。オメガ01は触接を継続せよ』


 報告を終えたOH-1改観測ヘリコプターは、緩やかに右旋回をかけた。眼下に〈帝國〉南方征討領軍の姿が、まるでアリの群れのように見えている。明らかに人より巨大な体躯を持つオーク重装歩兵を先頭に、色とりどりの軍旗を掲げた槍兵が続く。操縦士が思わず観測員に声をかけた。


「奴ら、ついに始めやがったぞ。見ろ、すげぇ眺めだ」




諸都市徴募軍本営 モース市近郊

2013年 3月10日 13時18分


「〈帝國〉軍が進軍を開始しました! その数約一万!」


 宿営地前方に配置されていた斥候が、汗まみれの姿で本営に駆け込んだ。その報告は、本営に詰める徴募軍の指揮官たちを凍り付かせた。一瞬の沈黙。すぐに浮足立ったざわめきが満ちる。


「一万だと……ついに来たか、くそっ!」

 ザバーニハ農兵団長が、籠手を着けたこぶしで机を強く叩いた。その音に、周囲の男たちが怯えた表情を浮かべる。兵権を預かっている立場の男たちに相応しい態度ではなかった。


「勝てるはずはない。我らは三千ほどしかおらぬ」

「バールクーク王は、後詰に付けばよい、と言っておったのだ。これでは話が違う」


 弱気の虫が場を支配していた。諸都市徴募軍はその言葉の通り、バールクーク王の号令により西方諸都市から集められた寄せ集めの軍勢だ。多くて数百。少ない部隊は十名ほど。これをかき集めて並べているだけの部隊なのだった。彼らについては、第5連隊戦闘団本部も『組織的戦闘能力は皆無に等しい』という評価を下している。


「ジエイタイとかいう軍は何をしている? 〈二ホン〉とかいう国の軍だ」

 スノウバル市民軍長が言った。その声にはすがるような響きがある。すぐさま、吐き捨てるような声が上がった。


「あんな連中。数百しかおらぬではないか。少々変わった物を持っておるが、数は少ない。あれは頼りになるまい」

「バールクーク王国遠征軍も当てにはしておらなんだ。無理じゃ」


 作戦期間を通して、彼ら諸都市徴募軍は自衛隊との接点をほとんど持っていない。事前の情報ブリーフィングにも参加しておらず、ごくごく狭い視野で、たまに見る風変わりな軍勢を評価している。そもそも、普段は村の世話役をしている程度の男たちにまともな軍事的素養を求めることが無理な話だった。

 一方、第5連隊戦闘団側も、諸都市徴募軍と積極的に関わろうとする動きはない。モース市近郊に展開してからも、である。明らかに不自然ではあるのだが、現時点で徴募軍側にそれを疑問に思う者たちはいなかった。


 彼らには、もっと大切なことがあったのだ。


「……どうする?」

 小ずるそうな顔つきの傭兵隊長が、辺りを伺った。何人かがそれに反応する。

「しかし、どうせよと言うのだ」

「我らは既に義務を果たした。王も将軍も討ち死にしたのだ。ここを離れても文句を言うものなど──」

「しかし、バールクーク本国に知れたらなんとする」

「はっ、王を討たれたのだ。我らに仕置きする余裕などなかろう」

 ささやきは、徐々に大きくなった。


「いっそ、姫を手土産に〈帝──」


 誰かが決定的な一言を発しようとした、その時だった。


 甲高い響きが、本営にいた全員の耳朶(じだ)を打った。ハーピーの金切り声のようなその音に、眉根をしかめ耳をふさぐ者。慌てて周囲を見回す者。


「な、なんじゃこの音は?」


 本営での会話はぴたりと止まり、謎の音に皆の意識が集まった。




第5連隊戦闘団 モース市近郊

2013年 3月10日 13時22分


「いやぁ、頭蓋骨に響くな」

 ハーピーの金切り声──強烈なハウリング音を鳴らした張本人はそう言って笑った。


「放送の準備はできました。連隊長、本当にやるんですか?」


 松永一佐の指示で組み立てられた高さ5メートルの演台から周囲を見下ろしつつ、高山三佐が言った。

 その周囲にはスピーカーが設置されている。それに加えて、演台脇に停車した軽装甲機動車(LAV)上にはLRAD(長距離音響発生装置)が据え付けられていた。


「やるよ。きちんとお披露目しないと、意味がないだろう? それよりも、特科の連中は準備できているだろうな?」


「すでに射撃命令まで発令済みです。諸元の修正も終わっていますから、あとは撃つだけです」


「よろしい──うん、あっちも間に合ったか」西から接近するヘリのローター音に頷きながら、松永はマイクを握り締めた。「さて、お客さんも集まったようだ。頃合いだな」


 嬉々としてのどの調子を確かめる松永の様子を見て、高山は(年頭訓示の時より気合いが入ってやがる)と心の中でそっと呟いた。





『勇敢なる南瞑同盟会議軍の将兵よ!』


 突然の大音量に誰もが呆気にとられた。平原に布陣する諸都市徴募軍全軍に響き渡るほどの声なのだ。

 軍議を打ち切り、陣幕を出た指揮官たちは、せわしなく周囲を見渡し声の主を探った。耳慣れない音の連なりにもかかわらず、意味が通じる。おそらく『通詞の指輪』を用いているのだろう。


「誰じゃ、こんなバカでかい声を出す奴は?」

「あれか?」

 

 声のした方角を見ると、いつの間にか建てられた(やぐら)が一つ。〈二ホン〉国のジエイタイが布陣している辺りだ。白地に赤い太陽の意匠が刺繍(ししゅう)された彼らの軍旗が、翩翻(へんぽん)とゆれている。櫓の上には外套を羽織った〈二ホン〉軍の兵が(ワンド)のようなものを口元にあて、周囲を見渡していた。


『時は来た。いまこそ暴虐(ぼうぎゃく)なる侵略者を撃ち払う好機である! 我ら日本国自衛隊と同盟会議軍が力を合わせれば、勝利を得られよう!』


 自信にあふれた声に対し、将兵からは疑問の声が上がる。


「何が好機だ! 敵は大軍。我らは王を討たれ烏合の衆ではないか」

「その〈二ホン〉軍とやらはどこにいる? 僅か数百では揉み潰されて終いぞ」

「あの偉大なバールクーク王を討つほどの〈帝國〉兵に、どのようにして勝つというのだ!」


 当然の反応であった。この世界での戦いは、いかに士気を維持するかにかかっている。それを維持する手段が兵数や堅固な陣形であるのだが、その中でも最も重大な要素が『将』の存在であった。つまり、その武威をもって軍を統率する存在が必要不可欠とされるのである。


 そして、南瞑同盟会議軍は先の戦闘でそれを失っている。


 騒ぎ立てる将兵の声をかき消すように、ひときわ大きな声が櫓から鳴り響く。


『偉大なる王は(たお)れた。だが、忘れるな。我らにはその遺志を継ぐ存在があるのだ』


「遺志を継ぐものだと? いったいだれが──」


 (いぶか)し気にしかめられたザバーニハ農兵団長の日焼けした顔面は、すぐに驚きの表情に変わった。

 演台の上に新たに掲げられたのは、バールクーク王国の将旗である三面獅子の旗であり、その根元に立つのは華奢な体躯を竜麟鎧(スケイルメイル)に固め、陽光に長い金髪を煌めかせた少女の姿だった。


「……アイシュワリヤー姫」


『バールクーク王国正統継承者、アイシュワリヤー・バールクーク王女殿下は此れに在り。忠勇なるバールクーク王国並びに諸都市徴募軍将兵は、この旗のもとに集い、〈帝國〉軍に立ち向かうべし!』


 どよめきが将兵の間をさざ波のように広がっていった。




 こわい。


 アイシュワリヤーは思った。11歳になったばかりの彼女には、周囲の風景全てが悪夢のように見えていた。「仇を討ちたい」彼女がそう伝えてすぐ、異国の将軍は彼女をここへ(いざな)った。周囲には見慣れぬ軍装の異国の兵たちと、疑念・不安・哀れみ、そんな感情を浮かべた徴募軍の将校(おとな)たち。

 彼女が親しみ、共に過ごした王国の将兵や側仕えたちは一人もいない。櫓に登ってきた将校たちのあいさつにぎこちなく応えたところで、彼女はどうして良いか分からなくなってしまった。


「それで」スノウバル市の軍長を名乗る男が、疑わし気な態度を隠さないまま言葉を発した。「マツナガとやら、あの大軍をいかなる手段をもって打ち倒すというのだ?」


 その言葉にアイシュワリヤーはびくりと身体を(すく)ませた。自分が非難されているように感じる。草原の向こうに濛々(もうもう)と土煙が上がり、それは徐々に迫ってきている。一面を埋め尽くす〈帝國〉兵の姿に足が震えた。


 眼下に布陣する味方の軍勢も同じ気持ちのようだった。きちんと整列しているはずの軍勢は、どこかふらふらと揺れていた。あんなにたくさんの軍隊をどうやったらやっつけられるというの? こわい、助けておとうさま──


「姫様」

 柔らかい声色が彼女を呼んだ。アイシュワリヤーが見上げると、マツナガがにっこりと頷いた。口ひげを蓄えたその顔は、彼女に「安心していいよ」と語りかけているように見えた。


 マツナガは、顔を起こし背筋を伸ばすと、ばさりと音を立て外套を翻し居並ぶ将校たちに振り返った。


「此度の戦、このマツナガ・ヒデミチ麾下のジエイタイ五千にお任せいただこう!」


「だから、どこにいるのだその兵は!」

「たわごともいいかげんにせねば斬り捨てるぞ!」


 口々に将校たちが叫ぶ。マツナガはそれを無視するかのように、ゆったりとした口調で言った。瞳には得体のしれない光が宿っている。


「皆さまは、いかなる神々を奉じておられる?」


「……神だと? 一体貴様はなにを──」


「軍人であれば戦神ドゥクスか、はたまた大地母神に帰依しておられるか。至高神や知識神の信徒もいらっしゃるやもしれませんな」

 意味が分からず目を白黒させる面々を尻目に、マツナガはにやりと笑った。その瞳を覗き込んでしまったアイシュワリヤーは、そこに浮かぶものに、小さく震えた。


「我らの(くに)には八百万(やおよろず)の神々が御座(おわ)します。こたびはその中の一柱、とある女神の御力をもって、敵を打ち破りましょう」


 まるで神官のように朗々と言い放ったあと、マツナガは筒が二つ並んだ奇妙な器具を目に当て、〈帝國〉軍の方向を向いた。小さく唸る。


「敵の前衛中央を外せ。諸元伝達後、射撃開始」


 マツナガの言葉に、彼の魔導士が頷くと、光る板を覗き込みながら呪文を唱え始めた。


「FDC、大隊、基準砲修正射。榴弾瞬発、装薬白7、方位角1550。3発、射角──」




第1特科大隊 モース市西方 

2013年 3月10日 13時31分


 まだらに染めた緑色の軍装と鉄兜を被った兵たちが、恐ろしく規則的な動きで破城槌の周りを動き回っている。長大な筒が空を睨み、号令が矢継ぎ早に放たれる。 

 ぽかんと口を開けてその様子を見ていたブンガ・マス・リマ市自警軍の兵士たちの目の前で、突然〈二ホン〉兵たちの動きが止まった。おい、どうした? 皆が首をひねる。一部の兵士は、二か月前の戦いを思い出し(あれは破城槌ではないんじゃないか?)と思い始めていた。


「ん? なんだなんだ?」


 〈二ホン〉兵が何かを叫んでこちらに手を振っている。あいにくと『通詞の指輪』を持つ者がおらず、何を言っているのかわからない。


「離れろってことかな?」


 雰囲気を察した兵士たちが距離を取り始めたその時、鋭い号令が鳴り響いた。〈二ホン〉兵たちが耳を塞ぐ。


 彼らがその動きの意味に気づく前に、轟音と強烈な風圧が彼らを襲った。突然の事態に腰を抜かす兵が続出し、辺りは大混乱に陥った。そうしている間にも、轟音を響かせながら破城槌が白煙をあげ続ける。



「ありゃ、あの騎士の馬、逃げ出しちまったぞ」

「向こうでは横倒しですよ。可哀そうに」


 155mm榴弾砲FH-70の放列の側で指揮を執る、特科大隊長四出井(しでい)三等陸佐は、すまなそうな顔で言った。

「大隊長。各砲修正よし。効力射指示受領しました」

 通信員が報告する。

 四出井は気を取り直すと、大きく頷いた。


「よし、大隊全力射撃の威力を見せてやるぞ。どーんといけ」


 次の瞬間、15門の155mm榴弾砲が一斉に発砲し、ひと際強烈な砲声を辺りに叩き付けた。





アダモフ槍兵団 〈帝國〉南方征討領軍 モース市東方

2013年 3月10日 13時32分



 下草を踏みしめる音と、鎧の擦れあう音、興奮を抑えきれない兵士の雄たけびが、禍々しいうねりとなって平原を満たしている。〈帝國〉南方征討領軍最精鋭を誇るアダモフ槍兵団二千は、堅固な横陣を組んで着々と前進を続けていた。


「我らが触れた時が奴らの死ぬときぞ!」


 敵陣には兵の姿すらまばらであった。アレなら、一瞬で片が付く。そのあとは殺戮と略奪が待っている。誰もが勝利を確信していた。左を眺めれば、オーク重装歩兵の下品な喚き声が聞こえる。奴らに先を越されてはなるまい。


 

 突然、百歩ほど前の地面が、爆ぜた。


 土塊(つちくれ)を浴びた数名が、悲鳴をあげて倒れた。血塗れの仲間を見下ろして、兵士の一人がぽかんと口を開ける。何が起きたのか理解できない。


「もしや、魔導士? しかし、この威力はなんだ──」

上位古代語(ハイエンシェント)魔法だとしても、この威力のものをそう多くは放てまい。そう簡単には当たらぬ。今少し耐えよ!」


 魔法知識を持つ指揮官クラスは、己の常識に従い命令を下した。大規模魔法は威力も多いが、連発はできない──はずであった。

 しかし、どこからかもわからない攻撃は、終わることはなかった。初撃に続いて、それに数倍する鉄量がアダモフ槍兵団に降り注いだ。上空で炎が爆ぜる。轟音と爆炎が槍兵の戦列を飲み込んだ。悲鳴をあげる暇もなく、血肉を引き裂かれ、その命を消し飛ばされていく。最精鋭の槍兵はその戦技を発揮することなく細かく砕かれていった。


 それは、死と破壊を司る女神の哄笑(こうしょう)にも似た理不尽さをもって、彼らに襲いかかった。


 同時刻。軍左翼バジョーヴァ槍兵団でも同様の光景が出現している。

 陸上自衛隊第5連隊戦闘団隷下第1特科大隊──155mm榴弾砲15門の効力射は、それほどの威力をもって〈帝國〉軍に相対していた。




演台上 第5連隊戦闘団 モース市近郊

2013年 3月10日 13時55分



「なにが起きておるのですか?」

 アイシュワリヤーはおろおろと左右を見渡した。遠くに見える〈帝國〉軍の両翼が、爆炎に包まれて前進を停止している。攻撃を受けていることは分かった。でも、どうやっているのか理解できない。


「これは……一体?」

「敵が、敵が吹き飛ばされてゆくぞ」


 理解できないのは彼女だけでは無かったようだ。周囲の徴募軍将校たちも、茫然と景色を眺めている。


「我が部隊の砲撃により、敵を叩いております」


 松永一佐が、こともなげに言った。何も言えない周囲をよそに、笑みを深める。


「敵の両翼を崩しました。我の騎兵を投入します」


「騎兵がいるのですか?」

 アイシュワリヤーが尋ねた。不思議だった。ジエイタイの陣中に馬を見たことがない。

 

「ええ、姫様。剽悍(ひょうかん)な鉄騎兵が14騎おります」

「たったの14騎ですか? 危険ではありませんか?」

 いくら崩れたとはいえ、一万の敵に14騎ではあまりに数が違いすぎる。


「ご安心を。一騎当千の鉄騎兵ですので」松永は傍らの部下に命令を下した。



「第301戦車中隊、前進。敵両翼を撃破せよ」


 アイシュワリヤーの耳に、猛獣の唸り声が聞こえた。

 第5連隊戦闘団が参戦しました。次回も戦闘は継続します。


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[良い点] 反撃開始! あと、かっちりした鎧姿の美少女は良いものです。ビキニ鎧は邪道。 [一言] 続けての更新、たいへんお疲れ様です。 未だ直截な儀式的演出が社会において力を持つ世界、どこかで向こ…
[一言] 更新ありがとうございます。 いよいよ自衛隊が活躍しだしましたね。 面白かったです。
[一言] 今回の更新すごく早くて驚きました。お疲れ様です。 >放送 LRADを使って演説をかます松永1佐、心の中では「よっしゃ、退役後の自叙伝にデカデカと書き残しておこう」とか思っていそう。 まあで…
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