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幽世の竜 現世の剣  作者: 石動
第4章 オペレーション 『ブラック・サンダー』
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第14話 『Open』

陸上自衛隊西部方面普通科連隊(WAiR)第1中隊 ルルェド西方樹木線付近

2013年 2月15日 04時45分



 〈帝國〉軍予備隊所属の斥候が発見したのは、ルルェド南方5キロ地点に上陸し密林を強引に踏破とうはしてきた『サンダー』作戦陸上挺身隊──有馬信大ありま・のぶひろ一等陸尉率いる西普連一個中隊と、獣人ボスフェルト率いる南瞑同盟会議水軍刀兵隊400名の混成部隊だった。

 ルルェド攻囲中の〈帝國〉軍主力後背を襲撃するために密林を踏破したかれらもまた、旅団規模の〈帝國〉軍部隊(シリブロー率いる予備隊である)が集結していることを確認している。



「敵部隊陣形を変更しつつあり。正面に歩兵横列、左右に騎兵部隊展開中」

「発見されたな」有馬はそう言って双眼鏡を下ろした。

「定石通りだ。来るぞ」

 刀兵隊長ボスフェルトが、銀色の毛並みで覆われた精悍せいかんな顔面に笑みを浮かべて言った。人狼種である彼はもとより戦闘的な雰囲気をまとっているのだが、犬歯をのぞかせ毛を逆立たせる姿を目の当たりにすると、実戦経験のある有馬をして瞠目どうもくするところはある。


 周辺の地形はほぼ平坦であり、南側に密林、北側には平原が広がっている。

 〈帝國〉軍予備隊は平原に部隊を待機させていたが、南側樹木線付近で陣地構築作業中の水軍刀兵を発見、すぐさま南を正面として陣形を組み替えた。

 一方の陸自挺身隊は、樹木線付近に中隊主力と迫撃砲、さらに水軍刀兵を配置。平原西側にある小高い丘に前進観測班を推進し、攻撃準備を整えている。

 この時点で〈帝國〉軍斥候は陸自部隊を発見できていない。彼らが目視できたのは、水軍刀兵だけであった。日本の植生に合わせて開発された2型迷彩は、アラム・マルノーヴの密林でもその威力を遺憾なく発揮していた。


「迫は準備どうだ?」

「撃てます」

前進観測班(FO)も配置についているな……よし、射撃開始」




〈帝國〉軍予備隊 ルルェド西方

同時刻


 

 間もなく夜明けを迎えようとしている平原に〈帝國〉正規兵の怒鳴り声が鳴り響いている。数百の男たちが草を踏む音と装具のこすれあう金属音が周囲に満ち、部隊の熱気は徐々に高まりつつあった。

「パナイ、ジャナンジー、ログワ、タッカン、デミナー各隊戦列組みました」

 参謀魔導士がシリブローに報告した。

 徴用兵は出身地ごとに約二百名で一個隊を編成させられている。予備隊の徴用兵団は五個隊を横に並べ、主攻部隊として準備を整えていた。所属を示す旗印が林立し、装備も体格もばらばらな男たちが正規兵に追い立てられながら並んでいる。その後方にオーク重装歩兵が魁偉かいい風貌ふうぼうをひけらかしながら控えていた。


「見よ、獣人どもがうろうろとしておる。三百ほどか」シリブローが銀色の口ひげをなでながら言った。その口調には余裕がある。

「しかし、獣人は剽悍ひょうかんにして剛健ごうけん。徴用兵では倍でもきついかと」

「よい」

 本営付の騎士が発した懸念けねんに、シリブローは即答した。

「馬鹿な敵が森を出て徴用兵に喰らいつけば、左右から騎兵が付け入ってしまいよ」

「敵が応じねば如何いかがします。奴らが森奥に引き込もうとした場合は?」

「森で陣形を維持できる軍は無い。やつらがわざわざ散るのであれば、こちらに付き合う義理は無い。徴用兵と重騎兵を抑えに残して、我らは本軍の後詰めに向かう」

 シリブローの構想は明快であった。予備隊の最優先任務は兵団主力の救援である。後背を突かれないためにも水軍刀兵を叩く必要があるが、敵が森へ撤退するようであれば残置部隊を残して兵団主力へ向かう。一度森の中で散開した水軍刀兵が平地で戦うためには集結して戦列を整える必要があるが、残置部隊がそれを許さない。必勝の構えである。

 その時、伝令が本営に駆け込んだ。

「申し上げます! 同盟会議軍に新手を確認いたしました!」

「いかほどか?」

「数は約百ほど。見たことも無い軍装にて、何処の軍かは分かりませぬ」

「なんだそれは? なぜ今まで見つけられなんだ?」

 シリブローの問いに、伝令は頭を捻りながら答えた。

「奇妙な柄の軍装にて、まるで森に溶け込むように見辛うございます。夜が白んでくるまでは全く気付かず……」

「ふむ……まあよい。百名程が加わったところで、我らの優位に変わりはない。伝令を出せ! 攻撃を──」


 勢い込んだシリブローが命令を下そうとした瞬間、予備隊の前方数十メートルで、轟音と共に地面が抉れた。土塊つちくれが徴用兵の列に降り注ぎ、部隊に動揺が走る。


「な、何事だ!?」


 



『射撃要求、修正射。増せ50──』


 前進観測班からの通報と陣地からのレーザー測距により得られた諸元が各砲に伝えられると、砲員たちは親の仇に向かっていくような勢いで、L16 81ミリ迫撃砲の修正に取りかかった。何しろ敵は目の前だ。射撃機会はいつまでもあるわけでは無い。


「弾の余裕も無いしな」


 特大のシャンパンの栓を抜くような音と共に修正射が発射される中、迫撃砲小隊長の千々石直(ちぢわ・なおし)二等陸尉はぼやいた。いくら屈強な獣人の力を借りたとはいえ、背負子で運べる弾薬には限りがある。


「弾ちゃーく、いま!」

 計測員の声と同時に、敵集団のど真ん中で土煙が上がった。それを見た千々石二尉は小躍りして喜んだ。

「よくやった! 次回より小隊斉射。急げ!」


 彼の部下たちは指揮官の期待に応えた。各砲が速やかに基準砲の諸元に合わせ、手持ちの砲弾を片っ端から〈帝國〉軍の戦列に叩き込み始めたのだった。




〈帝國〉軍ジャボール兵団徴用兵ジャナンジー隊 ルルェド西方

2013年 2月15日 05時01分


 目の前が赤く染まり、そのあと土煙で何も見えなくなった。


 弾着点の数名は跡形もなく消え去り、その周囲にいた最も運の悪い男たちは、破片を全身に受け即死も出来ずのたうち回る。質の悪い鎧は身を守るのに何の役にも立たず、逆に傷を深めるばかりであった。

 最悪なことに、それは終わる気配がない。




「ひょう! 何だぁこいつは?」

 戦列中央付近で起きているこの世の終わりを、ジャナンジー隊指揮官のワトサップは首を伸ばしてどうにか見てやろうとした。

 彼の隊は戦列最右翼に位置している。素人揃いの徴用兵団にあって、彼の隊だけは例外的に高い戦闘力を保持していることで知られていた。

 隊を構成する男たちの多くが、ジャナンジー庄とその周辺の村々から徴用されており、マワーレド川流域のその一帯に住む人々が、少々荒っぽい生業で生きてきたことがその理由だ。


「兄貴! 真ん中の連中ひでぇ有様だぜ!」


 早い話が水賊とか川賊と言われる連中なのである。もちろん常にそういうことをしている訳ではなく、普段は漁師や農民として生活しつつ、ちょっと間抜けな隊商辺りが通りかかったときに、期間限定で商売替えをするのだった。


「わかってる。ちょっと肩貸せ」


 ワトサップはそう言って、手ごろな手下の上に登った。味方の横陣は真ん中あたりから引き裂かれ、大混乱に陥っている。彼は敵が潜むと言われた森の方角を見た。土煙がかすかに見える。何をしているのかは分からないが、味方が酷い目に合わされているのだからきっと奴らの仕業だろう。


「どうしやす?」禿頭はげあたまの手下が言った。明らかに怯えている。

「どうもこうも……」ワトサップは皮肉げな笑みを浮かべた。「逃げられりゃ苦労はねぇよ。この場に留まっても爆発にやられるだけだ。なら、行くしかねぇだろうよ」


 ワトサップはゆったりとした動作で腰の剣を抜き放ち、頭上で振り回した。大音声で命じる。


「ジャナンジー隊、出るぞ! 押せやァ!」


 不安と恐れを抱いていた男たちは、その命令にすがった。各々が得物を抜き放つと、蛮声を上げて駆け出す。



 ここに至って、本営付近の太鼓手が軍太鼓を猛烈な勢いで連打し始めた。突撃命令だ。本営も現状に留まることを危険と判断したらしい。

 最右翼ジャナンジー隊、再左翼デミナー隊が突撃命令に反応し前進を開始した。中央付近の3隊は叩かれ続けている。

 さらに左右に待機していた騎兵部隊も、ゆったりとした旋回運動を開始した。


 弾着の衝撃と〈帝國〉兵の足音が大地を揺るがす。東の空が赤く染まり、密林から真っ黒な影が強制的に剥ぎ取られつつある中、戦闘は急ピッチでその烈度を上げ始めていた。

繋ぎの話です。次も早めに。

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