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幽世の竜 現世の剣  作者: 石動
第4章 オペレーション 『ブラック・サンダー』
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第7話 『決壊』

ルルェド西門付近

2013年 2月15日 01時39分



「突っ込めェ! 命を惜しむな!」


 必死の号令に呼応して、ルルェド家臣団で編成される城兵たちが城門に突撃する。それに対して門の周辺から矢が放たれ、数名の城兵が倒れた。兵たちは慌てて円楯をかざす。矢から身を守ることには成功したが、代わりに足を止められてしまった。

 ルルェド西門守備隊長コーバスは、その様子を見て足の震えを抑えることが出来なくなった。間に合わぬ、このままでは。

 何処からともなく現れた恐ろしく手練れの〈帝國〉兵によって、すでに西門は奪われていた。門に立て篭もった〈帝國〉兵は、からくりを操作し鋼鉄製の鎧戸を開こうとしている。

 門が開かれれば、外には数千の〈帝國〉兵。ひとたまりもない。わかりきったことだった。コーバスは混乱の中で30名程の予備隊を無理やり捻出すると、西門の奪還に向かっていた。ここを取り返さねば、西壁は──いや、ルルェドは陥落する。


「ルルェド家臣団前へッ! 今こそ名を上げる時ぞ! 門を開けさせるな!」

「だ、駄目だ。隊長、顔を上げられねぇ」


 焦る城兵をあざ笑うかのように、鋭いやじりを備えた矢が確実に円楯や鎧の隙間を射抜いていく。兵たちの士気は徐々に砕かれ、鎧戸は不気味に軋みを上げる。僅かずつだが、引き上げられ始めているのだ。

 終わるのか。俺もティカ様も、このルルェドと共に滅ぶのか……。

 コーバスの全身は無力感に包まれていた。腹に力が入らない。目の前に滝があるのに、自分の乗る小舟にはかいの一本も無い。俺では止められない。

 その思いを必死に隠し、コーバスは声を張り上げ続けた。疲れ切った城兵は幾度となく前進を試みるが、どう足掻いても城門の奪還は間に合いそうに無かった。




 一方、〈帝國〉軍選抜猟兵隊はあと少しでその任務を完遂しようとしていた。

 後背地からの奇襲を受けたことで混乱した守備隊の隙を突き、選抜猟兵隊は20名程度を城門に突入させることに成功した。目的はただ一つ──城門の開放だ。

 蛮声を上げて城兵の横隊が迫る。鍛え上げられた猟兵たちは、下知を受けずとも短弓を放ち敵を削る。怒号にも似た号令。敵の指揮官はいよいよもって追い詰められているらしい。西門に続く水路脇の石畳の上を敵兵が進んでくる。

 矢の刺さる鈍い音と共に猟兵が崩れ落ちた。敵の射撃が門周辺に集中しているのだ。


「傍から見れば、あとが無いのは我らだな」


 選抜猟兵を率いるアズレトは、皮肉な笑いを口元に浮かべた。重い鎧戸を引き上げるために配下の半数を門内に送っているため、敵を防ぐ兵は8名しかいない。

 部下は鎧戸の操作にてこずっているようだ。彼の隊は非力なコボルトと身の軽いものを優先した人族兵ばかりなのだ。アズレトは、いつもは毛嫌いしているオーク兵がこの時ばかりは配下にいてくれたら、と思った。



 ルルェド城兵がようやく〈帝國〉兵に接触した。水路の脇で激しく斬り結ぶ。

「く、こやつら手練れぞ!」

 手槍を繰り出した城兵が敵の湾曲刀シミターに穂先を切り落とされ、槍を引く間もなく首筋を斬られた。兵は悲鳴をあげ水路に落下する。後続も手首を傷つけられ堪らず後退する。

 (あのような芸当をこなす兵だ。只者ではないのだろう)

 だが、コーバスには力押し以外の手段をとる時間は無かった。声を嗄らして兵を鼓舞する。敵は小勢だ。押し切れ。鎧戸を取り戻せば──まだ!

「死ねや!」

 彼は身体ごと〈帝國〉兵にぶつかると、長剣を突き込んだ。コボルト兵の腹を割く。はらわたが湯気を上げて石畳に落ちる。その後方にいる者は指揮官らしい。殺す。奴を殺すのだ。

 首を狙ったコーバスの一撃を〈帝國〉兵は湾曲刀の峰で逸らした。刃の擦れるけたたましい音が鳴り響き、火花が散った。コーバスは膂力の限り長剣を振るう。小細工はいらなかった。


 鈍い音と柔らかい手ごたえ。コーバスの長剣は〈帝國〉兵の胴体に深々と刺さっていた。

「敵将を討ち取った! 皆、門を取り返すのだ!」

 だが〈帝國〉兵は倒れなかった。その男が己の身体に突き立ったコーバスの長剣を両手で握ると、押せど引けどいわおのように動かない。コーバスは〈帝國〉兵の顔を見た。



 アズレトは嗤った。

 熱い塊が喉奥からこみ上げてくるのがわかる。我はもはや長くは持つまい。だが──勝ったぞ。

「今一歩、遅、かった、な……」

 アズレトは辛うじてそう言うと、敵兵に向けて血反吐を吹き付けた。熱い塊を吐くたびに、身体が冷えていくのがわかる。だが、気分は良かった。


 我らの勝ちだ。この城は落ちた。


 薄れ行く意識の中、アズレトは背後で持ち上がる鎧戸の、軋んだ音を聞いた。





徴用兵団 ルルェド城塞西門前

同時刻


「隊長、門が!」


 それまで泣き言ばかりだった部下が、突然明るい声を上げた。約800名の徴用兵を率いるロンバスは、粗末な小舟の上で身体をひねり、城門の方向を見やった。今まで、固く閉ざされていた鎧戸がゆっくりと引き上げられている。


「ひ、開いた。門が開いたぞ」


 ロンバスは呆然とつぶやいた。先鋒という名の下でひたすらに人命を浪費させられ続けていた徴用兵団の目の前で、攻撃を跳ね返し続けていた城門が開かれようとしていた。

 おお、確か事前の話では──


 彼が参謀魔導士に告げられた合図を思い出そうとしたその時、城壁から赤色の光弾が立て続けに3発、夜空に向けて放たれた。彼はようやく確信した。敵城に侵入した味方が、城門を奪ったのだ。

 歓喜が心に満ちた。〈帝國〉に降伏した故郷を救うため徴用兵として我が身を差し出した仲間たち。ろくな鎧も武器も持たず、城塞に血と臓物をぶちまけるだけの虫けらのようだった自分たちの前に、道が拓かれたのだ。

 征くぞ。我らの手で手柄を立て、見返してやろう。

 ロンバスは雄雄しく立ち上がると、周囲の部下たちに命令を発した。


「皆、良く聞け! 見よ──見たか? 城門だ! 我らの進むべき場所だ。あの中に我らの未来があるぞ!」


 ロンバスは周囲を見回した。配下の徴用兵に戦意が沸き起こるのを感じる。そうだ。勝てるのだ。


「よぉし、かかれェ!」


 効果は劇的だった。小舟の上で城壁からの矢に射すくめられるだけだった男たちが、いきり立っている。降り注ぐ矢をものともせず、櫂をとり舟を漕ぎ始めた。配下の兵たちが一斉に開かれた城門へと殺到し始めたのだった。

 城壁からの防御射撃は当然門周辺に集中した。ライトニングボルトが直撃し、舟が転覆する。水面に投げ出された兵が矢を受けて沈んでいく。楯すらまともなものを持たない徴用兵に被害が続出した。

 だが、全てを押しとどめるほどではなかった。少なくない兵を失いながら、徴用兵団を満載した小舟は群れを成して西門に殺到した。

 うむ、いいぞ。我らが一番槍だ。敵将をこの手で討ち取って、身を立てるのだ。ロンバスは高揚感に全身を包まれていた。

 事前の打ち合わせでは、城門を確保した後は後続するオーク重装歩兵団に道を譲る手はずとなっていたが、守る気などさらさら無かった。

 

 事前の手筈を無視した徴用兵隊長の命令に引きずられる様に、〈帝國〉軍ジャボール兵団は徴用兵を先頭としてルルェド城内に突入を開始した。





戦神〈ドゥクス〉神殿 ルルェド城内

2013年 2月15日 01時44分


 戦神ドゥクスに仕える敬虔けいけんなる信徒ホーポーは、長い手足をしなやかに躍動やくどうさせ先端に半月刃の付いた宝杖をぐるりと旋回させた。戦神に祝福された得物である宝杖が鋭利な刃を煌かせた。行く手を塞いでいた〈帝國〉兵の首が纏めて吹き飛ぶ。

 〈帝國〉兵に動揺が走る。それを見逃すホーポーではなかった。


「血路を拓くぞ。各々(おのおの)精進せよ!」

「応!」

 厳しい鍛錬で養った筋骨隆々とした体躯を躍らせながら、ドゥクス神官戦士団が敵勢に斬り込んだ。チェインメイルを着込み、その上に裾の長い法衣を着込んだ神官たちは、メイスやモーニングスター、ハルバードで武装している。彼らは体格に似合わない素早さで通路に展開したコボルト兵たちをあっという間に塵殺おうさつした。

 戦いと勇気を尊ぶ神官たちは、皆熟練の戦士である。戦場にて己の信念に基づき戦いに臨む者たちに加護を与え、身をもって之を助けることを修行と定めている。また、卑怯な振る舞いは禁忌である。



「……ホ、ホーポー師! ねえさまが!」


 回廊の片隅から、甲高い声がホーポーを呼んだ。ホーポーは安堵と焦燥の入り混じるその声の主を探して辺りを見渡した。視界の端にこちらに背を向けうずくまる〈帝國〉の特殊兵がいる。

 ずるり。

 その〈帝國〉兵は、力無く崩れ落ちた。胸によく見知った短剣が突き立っている。カーナのショートソードだ。


「むぅ……」


 ホーポーはうなった。崩れ落ちた〈帝國〉兵の向こうから現れたのは、主を護らんと身体を投げ出したカーナ・ハヌマと、そのカーナを必死に支えようとするルルェド城主ティカ・ピターカであった。

 二人とも、全身を真っ赤に染めていた。しかし、よく見るとティカのそれはすべて敵かカーナの流した血で、ティカ本人は全くの無傷だ。

 一方、カーナの全身は無数の刃を受けぼろ切れのような有り様であった。溌剌としていたその顔に生気はなく、青ざめた肌は濃密な死の香りを漂わせている。ホーポーは、過去に戦野を共にした仲間たちのことを、わずかな時間思い出していた。


「……う、みかた? あ……ティ、カ……はやく逃げ……おねが……い」


 ティカは朦朧とする意識の中で、それでも、主を護ろうとしていた。その姿は、ホーポーをして宝杖を掲げさせるほどのものであった。


「うむ、見事。あとは拙僧に任せなされ」


 ホーポーは慈愛あふれる声で呼びかけた。その声が聞こえたのかどうか。カーナは意識を手放し、ティカの細腕の中に倒れ込んだ。


「ねえさま!」


 ティカの悲痛な叫び声が響くのと同時に、回廊の向こうから足音を殺した集団が迫ってくるのが感じ取れた。〈帝國〉の兵である。神聖なる神殿を血に染め上げた不遜な奴腹だ。


「お二人を御護りせよ」

 

 ホーポーの指示に一人の僧が素早く駆け寄り、脱いだ法衣にカーナを包んだ。

 それを確認したホーポーは、改めて敵に向き直った。敵への怒りは、尊ぶべき戦士なかまに戦を捧げられる歓喜によって、全身に満ちる闘志へと変わった。

 おお、偉大なるドゥクスよ。御照覧あれ。


 神官戦士たちが、長柄の穂先を揃え敵に走り出した。


「拙僧も参ろうか。ティカ殿はあとに続かれるがよかろう」

「は、はい」

「カーナ殿のことは案ずるな。本営で手当ても出来よう。いまはここを切り抜ける」


 ホーポーはそう言うと、一際長い裾を翻し、敵に突っ込んでいった。首から提げた宝具がしゃらりと澄んだ音を鳴らす。髭面で巨漢揃いの神官戦士たちの中でホーポーは背丈こそ並び立っていたが、華奢に思えるほど細身であった。つるりとそり上げた頭はまるで茹でた卵のようだ。

 しかし、その実力は見た目ほど優しくはない。彼が宝杖を振るう度に〈帝国〉兵の腕や頭が宙を舞う。嵐のようなその戦いぶりは、遭遇した〈帝國〉兵にとっては災厄そのものであった。




 神殿に駆けつけてきた神官戦士の一団は、恐るべき戦闘力をもって選抜猟兵に襲い掛かっていた。

 化け物め。神殿内の掃討を指揮していた選抜猟兵隊小隊長ウトキンは、素早く後ずさりながら思った。避け損ねた部下が纏めて血煙に変わる。彼は、最も重要な目標を取り逃がしたことを理解した。

 (珠は敵の懐に戻ってしまった。俺の小隊如きではドゥクスの糞坊主どもに対抗できぬ)

 山岳戦や後方攪乱に特化した選抜猟兵は、重装備の敵部隊との正面戦闘には不向きである。武器は片手の湾曲刀や手槍、短弓がせいぜいで、鎧も簡単なものだ。全身をチェインメイルで覆い、多種多様な長柄武器を振るう神官戦士と正面から戦えばあっさりと敗北してしまう。そう、今目の前で起きている戦いのように。


「下がれ。一旦態勢を立て直す。間もなく門は落ちようぞ」


 ウトキンは部下を下げた。神官たちは距離をとったウトキンたちを無視し、本営に繋がる回廊へと駆けて行く。まあいい。神殿を制圧し、敵の後方を掻き回しただけでも上出来だ。


 確かにその通りであった。ウトキンの選抜猟兵に対処するために守備隊は貴重な予備兵力を拘束されていた。このあとルルェド守備隊は神殿の奪還に成功するかもしれない。だが、その時には城外の〈帝國〉軍が城壁を突破しているはずだった。そうなれば、何の意味も無い。


 最後に勝つのは俺たちだ。あの糞坊主どもは、取り逃がした小僧と小娘と一緒にあとでくびり殺してくれる。



 2月15日02時07分。ドゥクス神殿は〈帝國〉軍が制圧。ルルェド領主ティカと家臣カーナ・ハヌマを救出したドゥクス神官戦士団は、回廊を渡り本営に撤退した。






ルルェド南方約120キロ マワーレド川上空

2013年 2月15日 02時20分


 月明かりの蒼い光が、マワーレド川を照らしている。風は無い。川面はのっぺりとしていてまるで鏡のようだ。密林の奥では夜行性の獣たちが騒がしく動いている。その鳴き声は祭囃子にも似て、うっそうとした森を賑やかに彩っていた。


 その鳴き声が突然止んだ。


 猿が首を伸ばし周囲を窺う。小さな生き物たちは息を潜め、雌への求愛に余念の無かった鳥たちも、羽を畳んだ。川面に顔を出していた獰猛なわにですら、静かに水中に沈んだ。全ての生き物たちは南を見ている。


 羽音。それも複数の羽音が、微かに聞こえたかと思うと、あっという間に辺りを圧するまでになった。密林の生き物たちは聞いたことの無い音に怯えた。正確にはその音を発している何かに。



『ワイバーンリーダー、こちらオメガ01。ビーコンを確認、ポイントC通過。針路015。送レ』

『ワイバーンリーダー了解』


 陸上自衛隊第1ヘリコプター団と第3対戦車ヘリコプター隊の混成部隊は、高度150フィートの低空を這うように飛行していた。先頭を行くのは2機のOH-1改観測ヘリだ。2基のTS1-10ターボシャフトエンジンによって与えられた軽快な運動性能と複合センサーによる索敵能力を生かし、編隊の露払いを務めている。

 タンデム方式に配置されたコックピット内では、センサーマンが戦術支援システムのコンソールを操作している。編隊の飛行を支援するため先行した特別挺身班が設置したビーコンが、部隊が正しい経路を飛行していることを示していた。

 その後方に続く4機のAH-64D対戦車ヘリコプターの編隊は、先行するOH-1改からデータリンクを介し周辺の地形データを受信、複数のセンサーを作動させ何者も後続する輸送ヘリ隊に近付けさせない構えだ。機体主要部に23ミリ機関砲に抗堪可能なセラミック装甲を纏った姿は、王の車列を護る重騎兵の姿に似ていた。


「あと、30分ってとこか。なぁ正木!」

「はっ、15キロ手前で地形追随飛行(NOE)に移行。その後は地上からの誘導に従い、降着地点へ進入する予定です!」

 UHー60J輸送ヘリコプターのキャビンを満たす騒音に負けぬよう声を張り上げた第1普通科大隊長、里見太郎さとみ・たろう二等陸佐の問いかけに、大隊幕僚の正木時雄まさき・ときお一等陸尉が答えた。

 里見の率いる第1空挺団第1普通科大隊は、二個増強中隊が8機のCHー47JAと4機のUHー60Jに分乗し、ブンガ・マス・リマ北方200キロで〈帝國〉軍包囲下のルルェド救援に向かっている。


 陸自唯一にして最『狂』の空挺部隊であるとされ様々な逸話で彩られた第1空挺団だが、里見たち空挺隊員は『狂ってるも何も、そもそも俺たちの任務が狂ってるんだから仕方ないよ』と涼しい顔である。

 彼らは、その任務性質上孤立した状態で優勢な敵部隊と交戦する可能性が高く(精鋭とはいえ彼らはいわゆる軽歩兵でしかない)、任務完遂に必要な能力と精神力を養っていたらこうなった、というわけなのだ。


 陸上自衛隊内に、その能力を疑う者は存在しない。開隊以来厳しい訓練を重ねてきた第1空挺団は、昨年発生した南スーダンでの内乱に派遣されている。孤立した施設科部隊が立てこもる国連難民キャンプ周辺に空挺降下した彼らは、中国製96式戦車十数両を擁するスーダン陸軍戦車大隊を中心とした一個旅団規模の攻撃に対し頑強に抵抗、米軍到着までの間これを死守したのだ。

 ちなみにこの『ジュバ・ポケット』を戦い抜いたのは当時即応態勢にあった第2・第3普通科大隊であり、第1普通科大隊長である里見は大いに悔しがったという。現在その二個大隊は部隊再建途上にあり、今回の『サンダー』作戦には第1大隊の出番が回ってきたというわけだ。当然、里見以下隊員の士気は旺盛である。


 機上クルーが里見の肩を叩いた。ヘッドセットが差し出される。里見はおう、と頷くと鉄帽を脱ぎヘッドセットを被った。雑音に混じって、女性の声がした。

『ナラシノ、こちらクレ。感度いかが?』

「こちらナラシノ。よう聞こえる。送レ」

 声の主は第1河川舟艇隊司令、西園寺三佐だった。漫画みたいに派手なネェちゃんだったな。里見はやたらとゴージャスな西園寺の外見を思い出した。

『問題が発生。0200時の報告によれば、ルルェド西門が突破された。〈帝國〉軍は城内に侵入を開始』

「そりゃ、大事だ」

 城門を突破されたということは、手遅れになる確率が跳ね上がったことを示している。それほどまでに彼我の戦力差は絶望的なのだ。

『このままではいくらも持たないわ。ということでプランBよ。そちらには大変申し訳ないのだけれど、先に始めさせていただくわ』

「そいつはずるいな。だが仕方あるまい。こっちも急ぐ」

『あたくしたちで渡河中の敵を叩く。これで、城内の敵を局限できるはずよ。中はそちらにおまかせするわ。それから、慌てて駆けつけたからって、くれぐれも敵と間違えないでちょうだいね』

「了解した。ナラシノ終ワリ」


 ねぇちゃん、よほど余裕が無いらしいな。里見はヘッドセットを外しながら思った。西園寺三佐は、いつもならそれなりに通信規律を守るのだが、今日に限っては素が出ている。彼は正木一尉に視線を送り、大声で言った。


「俺たちは煮えたぎった地獄の釜に降りる羽目になりそうだ。楽しいことになるぞ。全員の褌をしっかり締めさせろ!」

「乱戦に備え、航空支援の手順を確認させます! 海自部隊の識別手順を含めて!」

「おう、頼むぞ!」


 事前計画ではAH-64Dによる地上掃討ののち部隊を降下させる予定だが、敵味方の混淆こんこうが発生している場合厄介な状況になりそうだった。友軍相撃は絶対に避けねばならない。

 絶体絶命の友軍。夜間戦闘。そして初陣。情勢は悪化の一方だった。だが、そんな状況下でも里見の戦意に翳りは無い。部隊にも不安は無い。そのつもりで今まで部下を鍛えてきたのだ。自然と口元が緩むのがわかった。


「おい、正木!」

「はい!」

「ところで、プランBって何だ?」

「……知りませんよそんなの」


 もちろん冗談である。黎明時の同時奇襲攻撃が実施不可能な場合、第1河川舟艇隊または第1空挺団側の判断により強襲作戦に切り替える代案計画は用意されている。


 『サンダー』作戦参加部隊は、刻々と悪化する情勢に対応し作戦を奇襲から強襲に切り替えた。

 


 複数のローターブレードが巻き起こす猛烈な旋風と轟音を撒き散らしながら、ヘリコプターの群れは北へと飛び去っていった。

 あとには静寂が残された。唯一、河畔に設けられた〈帝國〉軍監視哨の魔導士が、必死に精神を集中し本隊への報告を行っていた。




お待たせしました。


神官戦士団は、概ねモストマスキュラーとかで検索していただいた感じの見た目です。

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