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第二話 勇気

「お爺ちゃん。午前は店番したから、今日も山で遊んできていい?」

「店番だぁどうせこのクソ田舎の鍛冶屋に来るやつなんて滅多に居ねえよ。どこでも好き勝手行っちまえバカヤロー」


 そこら辺の女子供だって自分で包丁を研ぐんだから客なんざこねえに決まってんだろ、とかまだぶつぶつ言っている。

 昨日はたまたまお客さんが来なかったけど、刃直しの依頼とか、そこそこ仕事の依頼はあると思うんだけどな。


 爺さんきっと寂しいんだな。ごめんね。


「爺ちゃん。レイにプレゼント作ってやりたいから、なんか良い感じのアクセサリーの作り方を今度教えて」

「カァァーーー! 女にプレゼントたぁーー色気づきやがって、このませガキめぇー!」


 口調は激怒しているようだが顔は満面の笑みだ。

 小さい孫の恋路がよほど嬉しいのか爺。


 孫としては若干うざいが、爺にしてみれば面倒を見れる唯一の孫だろうし可愛くてしょうがないのだろう。


「そんなんじゃないし! もう、からかわないでよ! もう……」

「ガハハ! わりぃな! とびきりのやつを教えてやるからな! そうかそうかレイちゃんかぁ……別嬪さんになるんだろうなぁ……」


 遠くを見ている爺は放っておいてもう行こうかな……。


「じゃぁ行ってきます!」

「おう、気を付けてこいよ。山はあぶねえからな! 絶対ェに深いところまでいくんじゃねえぞ」

「わかってる! 日が沈む前には帰るー!」


 そう言いながら家を飛び出す。


 家は村の中でも、やや丘の上の方の高い位置にある。


 長く緩やかに続く曲がり坂を駆ける。

 下り坂でスピードに乗って、全身で空気を切る。


 乾いた風が頬を撫でる。


 心地良い。


「ハッ……ハッ……ハッ……おじさんっ……こんにちはっ! ……サム、いますか?」

「おっローレイ少年! 今日も元気だな! サムは鳥小屋の掃除が終わってないから少しうちにあがって待っててくれ」


 サムのお父さんはちょっと芝居がかった話し方をする変な人だ。


「いえ、お気遣いなく! サムが戻ったら、レイの家に先に行っている、と伝えてもらえませんか?」

「お安い御用だローレイ少年、サムが戻ったらそのように伝えよう。行くが良い、しょうねにょ」


 あ、噛んだ。


「ブグッ……」


 笑いを堪えて鼻から豚のような声が出た。


「ははは……」

「す、すみません! ……では、また」

「おう、いってらっしゃい」


 レイの家へ歩き出して少し離れてから、サムのお父さんのぼやきが風に乗って聞こえた。


「お気遣いなく、失礼します、か……。あのがさつで言葉遣いの悪いローレイ爺さんからなんであんなに礼儀正しい子に育つんだか。敬った話し方だってどこで覚えたのやら。神童か……少しばかり頭の良い子供なだけか……考えても仕様があるまいな」


 少し気が抜けると子供らしさが抜ける。

 子供らしい演技しているわけじゃないけど大人相手だと、つい地の生前の大人としての自分が出てしまう。


 サムやレイと一緒にいる時の自分は紛れもなく、演技ではない子供の自分で居られるのに。


 ───


「こんにちは、ヴァル君。いらっしゃい。レイは中でご飯を食べているから家にあがっちゃって」


 髪を後ろで束ねて洗濯物を干すレイのお母さんは今日も麗しい。


 エプロンをしているのに胸のあたりの膨らみが隠せない。

 洗濯物にシワがつかないように布をバッ、バッ、と広げるたびに服の中の爆弾が上下運動を繰り返す。


 きっと俺が生前なら爆発寸前だっただろう。


 ははぁー!今日も素晴らしいものをありがとうございます。

 心の中でおつぱい神に手を合わせる。


 そう、何を隠そう私はパイオツカイデー教の教祖なのだ。


「ヴァル君……? ヴァル君もお洗濯やってみたいのかな? あれ……反応がない。どうしちゃったのかな?」

「あ! いえ! お邪魔します!」


 この世のものならざる神々しい光景に少し惚けてしまった。


 恐るべし破壊力。


 しかし、子供の時からこんなにエロいガキの俺は、大人になったらろくでもない大人になりそうだな。

 いや、今も中身は大人なんだけど。


 よく思うことだが、このコナン君状態は正直ずるいと思う。

 年齢に対して期待される能力以上を発揮すれば、それだけで周囲より評価される。


 あんなに若いのによくできたやつだ、って。


 一度認められれば、よっぽどへまをしなければその認識は変わらない。

 むしろへまをしたって、何度もしなければ普通の人より寛容に見られるだろう。

 

 生前の俺は小さい頃から努力することなく漫然と生きてきた。

 むしろ困難に立ち向かおうとせず、できるだけ回避してきた。

 

 それが俺の処世術だった。


 なぜなら生前の世界はストレスや煩わしいことが、とんでもなく多すぎるのだ。

 いちいちまともに対処してたら気疲れして死んでしまう。


 だから逃げる。

 

 それが俺の生き方だった。


 そうやって生きてきたから、友人も疎遠になったし、仕事もうまくいかなかったのかもしれない。

 

 今回の人生では前の人生よりは少し頑張ってみてもいいかもしれない、そう思っている。


 まずは、人間関係や友達は大事にしよう。

 レイやサムはかけがえのない宝物だ。



 中に入るとレイがもぐもぐとおいしそうに食べていた。イモと豆とソーセージかな?


 生前の知識で言えば、中世とか近世とかの西欧とかのファンタジー世界って、実際は飢饉、疫病、貧困とかなり苦しい!みたいなイメージを持っていた。


 そういうものだって本にも書いていたけど、この国……この村だけかもしれないけど食料は滞りなく供給されている。


 豚や牛などの家畜、トウモロコシや麦と思われる穀物、葉物の野菜や、野菜か果物か迷うトマトのようなものまであった。

 言葉は英語でも日本語でもないので、とりあえず便宜上すべてそれらしいものは似たもので翻訳している。


「ヴァル君ちょっと待って! 今ぜんぶたべるから」

「レイ、ゆっくり食べていいよ。急いで食べて詰まらせたらあぶないよ」


 こくんと頷く。


 このリスみたいな食べ方は可愛いらしいんだけど、太ってしまわないか心配だ。

 

 洗濯物を干し終えたレイのお母さんが戻ってきた。


「ヴァル君、今日も山に行くんでしょう? あんまり小言は言いたくないんだけど、本当に気を付けてね? 絶対に深いところまで行っちゃダメよ?」

「はい、村が見えなくなるような深いところまでは怖いので、僕も行ったことがないんですよ。大丈夫です安心してください。何か危ないことがあっても、命に代えてもレイは守ります」

「お母さん! 大丈夫だよ! ヴァル君はレイのこと守ってくれるもん!」

「ふふ……ヴァル君はレイの勇者様だものね」

「そ、そんなこと言ってないもん! ヴァル君いってないからね!」

「ははは……」


 ちょっと気障だったかな……。


 俺がレイやレイのお母さんから信頼を得ている理由は、俺がレイと知り合った理由と同じで、レイが村のクソガキにいじめられているところを助けたからだ。


 半年ほど前なのでうろ覚えだが、こんな感じだった。



 ─── およそ半年前 ───



 爺さんが直した依頼物を依頼人のもとへ送り届けるのが俺の仕事。


 今日の依頼物はやったらめったら重い。

 きっと鎌だの包丁だのぎりぎりのところまで使い込んでまとめて依頼するからこんなことになるのだ。

 

 是非ともやめていただきたい。

 

 うちが村のはずれの丘の上で確かに不便な位置にあるから仕方ないのだが……。

 

 この世界で、あまり良い事がなかった。

 生前より煩わしい事がないぐらい。

 

 毎日爺さんの手伝いをして、のどかな村を歩いたり眺めたり。


 もともと人見知りの気質で、人になるべく関わろうとしなかった俺の性分と、精神年齢は30歳を超えているという自意識で友達なんかできなかった。

 っていうかガキと友達ってどうなん?みたいな変なプライドもある。


 自覚しているけど、なんとかしたいなぁ……友達が欲しい……。

 

 遠くでは同世代ぐらいの女の子と男の子ふたりが何やらはしゃいでいる……。

 クソッ……あんな子供でさえ乳繰り合っているというのに……。


 俺はなんなんだ! なんなんだちくしょーーー!!


「おーい、女ってちんこ生えてないんだろー! 見せろよー!」

「やめてよ! ばか、えっち!」

「兄貴! こいつ胸がないなら女じゃないのかもしれないですよ!」

「男なら触っても大丈夫だよな! えい! ほらほら! いつもみたいに早く泣けよー! ぎゃはは」

「やめてよ! やめて! うぐっ……ひっぐ……」


 あれ……。


 これはいじめってやつじゃないでしょうか……。

 しかもあんな小さい子に、っていうか俺より少し年上かも。


 なんだこれ……無性に腹立たしい。

 でも相手は年上で俺より少し体格が大きい。

 

 喧嘩になったら勝てるかな……正直殴られるのは怖い。


 あっ、泣いちゃった。

 もう考えている暇はないな。


「おい、やめろよ。可哀想だろ」

「あ? お前誰だ? あ、鍛冶屋の爺のところのガキか」


 ガキってお前も大してかわらねーだろ……


 だが間近で見ると二回りは大きい。

 デカいってだけで正直怖い。


 あーーーこえええ……足が震える。


「その子がなんかしたのかよ。何かしてたとしても泣かせるのはやりすぎだろ」

「は? お前に何が関係あるんだよ。俺はこの村の村長の息子だぞ。俺に逆らうとどうなるかわかってんのか? 」

「そうだ! 兄貴に逆らうとかお前バカだろ! 謝ったら許してくれるかもな!」

「謝る? 謝るのはお前らが、その子に、だろデブ」

「お前……あーもう謝ってもゆるさねえ。調子のってんじゃねえぞっ……!」


 言い終わると同時に、リーダー格と思われる兄貴?が殴りかかってくる。


 のだが……。

 

 あれ……。


 思ったよりなんかとろい。


 体格は大きいが、村長の息子というだけあって、ややふとましい。

 パンチもキックも子供の喧嘩という感じだ。

 

 そういえば、子供の喧嘩だった。


 鍛冶の手伝いやら力仕事を手伝わされている俺の体は小さいながらも思う通りに動く。


 ただ、やはり当たると怖いのでびびって避けてしまう。


「くそっ、逃げんな! 臆病者!」


 お前がとろいだけだろ……って言い返したかったけど、そのまま突っ込んでタックルしてきたので言い返す余裕はない。


 そのままぶつかって、もつれ合う。

 お、重い……。


 ヤバい、このままだと馬乗りになって一方的になる。


 生前の俺は格闘技を見るのが好きだった。

 マウントポジションの抜け方が脳裏に浮かぶ。

 

 相手が殴る前の動作で重心が上に移動したときに、自分の腰を突き上げるようにすると、相手は態勢を崩す……!


 案の定デブが態勢を崩して地面に手をついて四つん這いになる。

 俺の方が小さいので股からすり抜けてマウントポジションから脱出する。


「兄貴やっちまえー!」


 取り巻きが参加して二対一にならないだけありがたい。


 一撃で決めなければ……。


 マウントポジションを抜けて、互いに立って距離を取った状態からの再スタート。

 あれを決めるしかない。


「……ふぅっ……!!」

「なぁっ……!?」


 相手にやや突っ込みながら、右足で相手の左わき腹を狙って蹴る。


 デブはビビッて両手でガードしながら俺の右足をつかむ。


 そのまま押し倒そうという作戦だろうが、それは好都合だ……!


 右足がつかまれた状態でもう片方の足で勢いよく飛び上がり、デブの左腕あたりの布をつかむ。


 そのまま俺の左太ももがデブの顔に覆いかぶさるように当たり、引き剥がそうとデブは両手をじたばたとさせる。


「このっ……ふぐっ……くそっ、このぉっ……!」

「はっ……!……っぁああ!!」


 デブが俺の右足を離した。

 ここしかねえ……!!


 デブの左腕を、両手でホールドし、そのまま体を起こす。



 飛びつき腕ひしぎ十字固め……!!



 実践でやったことはなかったけどなんかうまくいった……が……。

 互いにそのまま態勢を崩して俺は頭の方から地面に激突する。

 

 やべえ……!!


 衝撃でくらくらして意識が飛びそうになる。

 

 土の上でよかった……。

 もしかして頭から血は流れてるかも。


 そのまま背筋と両腕に力を込めて、極める。


「でででで、ぎゃあああああ”あ”あ”あ”ぁぁああああああ」

「あ……!? うっせーよ! デブ!! おらぁっ!」

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”がぁ……ごめんごめん許してごめんなさいあああああああ」

 

 このまま関節を外すか迷う。

 

 子供の喧嘩にしたらやりすぎかもしれないけど、俺は喧嘩慣れしていない。


 あと俺は超がつくほどの臆病だ。

 復讐が怖い。

 やりすぎても復讐が怖いけど、中途半端にやって復讐されても怖い。


 相手に尋常じゃないほどの恐怖を与えるしかない。


「おいデブ!! このまま肩ぶっ壊してやろうか、おい! もういじめとかだせえ真似するんじゃねえぞ! おいデブ聞いてんのか!!」

 

 どっちがいじめっ子かわからない。


「っひゅう……っひゅう……ご、めん、なさい……もうじまぜん……」

 

 デブは痛みと恐怖で過呼吸になってる。

 なんか漏らしてるし、泣いてるし、可哀想だからこの辺にしておこう。


 取り巻きAはどうしていいのかわからずおろおろしている。


 が、俺と目が合って決意したようだ。


「よ、よくも兄貴をやりやがったな!」

 

 まずい……。

 

 連戦になりそうだ……。


 素早くホールドを解除して立ち上がる。

 やばい。大分体力を消耗したから戦えそうにない。


 どうする……。


「おいブブガ! もうその辺にしとけよ」

「……!? なんだよサム! 邪魔すんな!」


 なんか新キャラが出てきたぞ……サム?

 

 取り巻きAはブブガっていうのか。

 どうでもいい名前を憶えてしまった。


 明日には忘れてると思うけど。


 大体取り巻きAなのにブブガって、余計覚えづらいわボケ!


「サム、お前そっち側につくのかよ」

「だからやめとけって言ったんだよ。父ちゃんが言ってた、女は男が助けるもんだって。お前らのやってること最低だよ」

「ぐっ……」


 二対一。

 そして完全な正論で論破。

 手も足も口も出ない。


 やがてデブは取り巻きAに寄り添ってもらい、立ち上がって捨て台詞を吐いた。


「お前ら、この村から追い出してやる……! 覚えておけよ!!」


 下衆すぎて笑いすら出てきた。

 

「お兄ちゃん……あり」

「お前やるなぁっ!! 名前なんていうんだ!?」


「ヴァレリー。ヴァレリー・レムルス・ローレイ。サム……でいいのか?」


「俺、サム・マクゴビッツ! すっげーな! なんださっきの技!?」

「ねえっ……」

「ドガは村長の息子で、二つ上で体もデカいから威張り散らしててよ! 俺も好きじゃなかったんだ!」

「ねえってば!」

「なんだよ!」

「あなたじゃないの!!」

「ヴァレリーに何の用だよ!? ああ……」


 もじもじしてる。

 かわいい。

 YESロリータNOタッチ。


「あの……ありがとう……」

「う、うん……いいよ。怪我してない?」

「っていうかヴァルが怪我してるぞ。ヴァルはお前のあだ名な! どう!? 気に入ったか!?」

「ずるい! レイもヴァル君って呼んでいい!?」


 そんなことよりお前ら俺の頭を心配してくれ……。

 血が結構流れているんだがァ!?


 ……。


 その後は、村から追い出されるとか、レイが薄暗い納屋に閉じ込められて辱められてエロゲーみたいな展開になるとか、そんなことはなかった。


 大人と子供を集めて話し合いが行われた。

 

 結果は喧嘩両成敗。

 むしろドガが悪いと非難される結果になった。

 そりゃそうだ。


 ドガには外傷がない。


 本人が肩が痛むというが見た目には全くの無傷だ。

 ヴァレリーの後頭部にはそこそこ大きい裂傷があって出血の痕がある。

 

 喧嘩の理由は、レイという女の子がいじめられていたところ助けるため、という女の子側の言い分。

 レイは村で一番別嬪の奥さんが居るミクト家のお嬢さん。


 しかも二対一だったという。


 まぁそこは俺に有利な証言になってしまったけど。

 実際は一対一だし。


 止めはブブガの一言だった。


「兄貴は悪くねえんすよ! ただ俺と一緒にガキを泣かせる遊びをしてただけなのにあいつがいきなり殴りかかってきたんすよ!」


 哀れドガ。

 どうしようもなく頭の悪い仲間を持つと可哀想だな。


 話し合いが終わってから、レイの両親から感謝された。


 娘を助けてくれてありがとう、と。

 お礼がしたいということで、夕飯をご馳走になった。

 

 のだが……家族の話になって、とても同情されてしまった。

 それから、毎日のように誘われるようになった。


 タダ飯はありがたいのだが、爺さんを一人にしてしまうのは可哀想だと断ったら、今度は泣かれてしまった。ちょろいぜ。


 まぁ、わざと狙って言ったわけじゃないんだけど。

 

 サムは見かけるたびによく話すようになった。


 一緒に遊ぶことが増えて、色々話すようになった。

 親友ってこういうことなのかな。 


 サムは開けっ広げで裏表がない。

 素直でバカで正義感がある。

 

 良い友達ができてよかった。

 一生大事にしたい。

 

 少なくとも今は本気でそう思っている。


 ───


 それが二人との出会いだった。 


 「ヴァル君聞いてる!? もうっ……いっつもぼうっとしてるんだから。しっかりしてよねっ!」


 レイは年の割にはしっかりしている。


 まだ小さいのに恋愛感情らしきものもあるし、おませさんだ。

 大人になったら尻に敷かれそうだな……。


「あはは、ごめんごめん……。サムまだかな?」

「ごめんくださいー! すまねえ待たせたな! 思ったより時間かかっちゃってさ! クソの匂いが取れないから川で水浴びしてきたんだ! あ、飯食ってたところか! 悪ぃな!!」

「サム君ほんとにでりかしーないよね! 将来、絶対結婚できないとおもう!」

 

 レイは難しい言葉を覚えている。俺の影響かも……。


「ごめんって! でもレイが、ヴァルと一緒に山に行きたいって言ってたから、レイを山に一緒に連れていくか?って誘ったのは俺なんだぜ!? 機嫌治せよ~」

「~~~~!! もうさいてー! もうヴァル君! サム置いていこ!」

「ちょ! 待てよ!」

 

 どこの拓哉だお前は。


「あはは……じゃいってきまーす」

「うふふ……いってらっしゃい! 本当に気を付けてね? あんまり深くまで行っちゃダメよー!」

「はーい!」


 三人で家を飛び出して、山の方へ走り出す。


 ふと、空を見上げる。


 さっきまで晴れていたのに、ほんの少し曇り空になっていた。


 なぜだろうか。

 胸がざわつく。


 ほんの少しの、違和感と不安感を、胸の片隅によぎらせて。

 歩きなれたいつもの山道。

 

 子供三人。

 

 わいわいと、喧しく、歩みを進める……。

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