はじまりのはじまり
「追い詰めたぜぇくそ野郎が!」
「良いカッコした坊ちゃんがてこずらせやがって!」
夜も更けた人通りの少ないいかにもな路地裏にて
これまたいかにもな少年達の姿がそこにあった。
三人の学ランを着崩したいかにも少年達が、一人異なる制服を着た少年を囲うようにして立っている。
囲まれている少年は仕立ての良さそうなブレザーの制服をきっちり着込んでおり、その雰囲気からそれなりの家柄なのだろうと推測させる。
この状況から察すれば、まあカツアゲか何かだろう。
しかし、単なるカツアゲにしては少々様子がおかしい。よく見れば追い詰めているはずの不良少年たちの方がぼろぼろなのだ。学ランに引きずられたような跡があり、顔にも擦り傷がある。呼吸は乱れ、険しい表情で少年を睨んでいる。
それに対し、ブレザー少年に怪我をしている様子はなく息切れもしていない。つまらなそうな表情で彼らを眺めている。
「てめぇこんなことしてただで済むと思うなよ!!」不良少年1が叫ぶ。
「お前だけは絶対に許さねえ。ぶっ殺してやるよ!」
不良少年たちはそれぞれに汚い罵声を浴びせる。
まくしたてが一通り終わった後、それを黙って聞いていたブレザー少年は、小さく溜息を吐いた。
「こんなことって先に仕掛けてきたのはお前たちだろう?」
良く透き通るその声には呆れすら含まれている。
「おめえが金持ってるって言われたから優しくちょうだいしようと思ったけどよ!気が変わった!!お前はぜってぇぶっ殺す!!」
「ものすごいとんでも論だな。というか誰かに言われて俺を襲ったのか?」
「そんなのお前にゃ関係ねえ!!」
「いや、めちゃくちゃあるだろ。」
「うるせぇ!どうでもいんだよそんなこと!状況わかってんのか!?」
「お前こそ分かってんのか?自分の恰好見てみろよ。すげえぞ」
「誰のせいだと思ってんだ!!」
「その恰好に関しては俺のせいだがそもそもの原因はお前らにあってな」
「黙れぇぇぇ!とにかくお前をぶっ殺す!!行くぞお前ら!!」
あまりにも理不尽な主張をしながらリーダー格らしき少年が叫ぶ。
その呼びかけに三人が一斉に飛びかかった。
「埒が明かん。同じ言語を話しているのか疑問に思うぞ。」
_仕方ない。
ブレザー少年は小さい声で呟くと、勢いよく両手を胸の前で合わせた。
「古の縁この血に従い我を守らんと誓え。第十一の使い、出てこい戌野郎!」
ドン!!
少年が言葉を発した直後、大きな爆発音のような音とともに突風が巻き起こった。
「うお!!!」
真正面からその風をもろにくらった少年たちは言葉通り吹き飛ばされる。
「な、なんだ!?」
ふっとばされた少年達は体を打ち付けた痛みに呻きながら叫ぶ。
突風が起きた方向、つまりブレザー少年の方を見る。
すると、そこには先ほどまでは居なかった人影が立っていた。
「!?」
彼ら目を見開いてその人影を見る。
「は!!?」
そこに立っていたのは、同じ年ぐらいの少女。袴の道着のようなものを着ており、手には竹刀を持っている。
突然現れた少女の方はこの状況に驚いた様子もなく、地に這いつくばっている少年たちを見下ろしている。
すると、しばらく人形のように動かないまま少年たちを見ていた少女が急に動き出した。
「ヒッ!!」
正体不明の人物が動き出したことに一人の少年が情けない声をあげる。
少女はそんな彼らには目もくれず、後ろで相変わらず優雅にその様子を眺めていた少年の方を見る。
その少年の姿を確認した少女は少しだけ顔をしかめて彼の方に歩きを進めた。
「?」
不良少年たちはもう息をひそめてその様子を見ているしかなかった。
スタスタスタ
軽い足取りで進む少女は、やがてブレザー少年の前で歩みを止める。
どちらも口を開くことなく見つめあう。
その穏やかじゃない雰囲気に、不良少年達が唾を飲む。
しばらくの沈黙の後、やがて少女が静かに口を開いた。
「ご主人、今日って私定休日ですよね?」