乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です8巻発売記念SS 「ミレーヌ」
6月30日発売の「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です8巻」の発売を記念して「小説家になろう」にも特典SSを用意しました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※話の時期は書籍基準 (8巻) になっておりますので、その点はご注意ください。
8巻の特典情報ですが、
・とらのあな様
・メロンブックス様
・BOOK☆WALKER様 「電子書籍」
にて手に入ります。
電子書籍での特典SSは初めてもかも?
そして、今回も アンケート特典SSのマリエルート は頑張らせていただきました!
毎回編集さんにチェックをしてもらうので申し訳ないのですが、4万字は超えたはず?
こちらは書籍を購入し、帯裏、巻末にあるURLやバーコードからアクセしていただき、アンケートに答えると読めるようになります。
書き下ろしになりますので、Web版だけの読者さんたちも楽しんでいただけると思います。
それでは、今後とも応援よろしくお願いします!
ミレーヌ・ラファ・ホルファート。
レパルト連合王国からホルファート王家へと嫁いで来て十数年。
プラチナブロンドのサラサラした綺麗な長髪に、憂いを帯びた瞳。
三十も半ばを過ぎているというのに、その美しさは若い男たちを惑わしている。
その筆頭が、異例の出世を果たしているリオンだ。
家を継げない男爵家の三男坊から、今では侯爵へと陞爵している。
ファンオース公国との戦いで活躍し、その翌年には留学先のアルゼル共和国でも大暴れ。
国内では外道騎士と呼ばれ、外国からは「ホルファートの最終兵器」などと恐れられている。
留学生として受け入れたアルゼル共和国を哀れむ者も多かった。
傍若無人で扱いに困るリオンは、国王に対しても敬う姿勢を見せない。
それなのに、ミレーヌにだけは正しい騎士として接するのだから、口さがない者たちが「王妃様の若い燕」などと噂を流していた。
あの外道騎士すら魅了した王妃様、という扱いを受けている。
そんなミレーヌが、執務室の机に置かれた書類の山を見てため息を吐いた。
「私はどうしてこんなことをしているのかしら?」
本来であれば夫であるローランドが処理するような書類までもが、ミレーヌの所に回されてきていた。
ミレーヌ本人はとっくに諦めて受け入れているが、時々無性に腹立たしくなる。
書類を確認してサインを書いていると、一人のメイドが客人の来訪を知らせてくる。
相手は息子のユリウスだった。
許可を出すと、妙に明るくなった息子が爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。
「母上、お元気そうですね。今日はお願いがあります」
挨拶もそれなりにお願いをしてくる息子に、ミレーヌは心の中で落胆する。
無駄に長い挨拶も問題だが、王子としてもう少しだけ王城内のマナーを守るべきとも考えていた。
これが王太子であった頃のユリウスだったら、ミレーヌも厳しく指摘した。
だが、今のユリウスは扱いに困る王子でしかない。
本来なら王太子の地位を剥奪され、自暴自棄になってもおかしくない立場だ。
そんな息子が毎日楽しそうに過ごしていれば、ミレーヌは母親として「これでいいか」と思って返事をする。
「ユリウスは毎日元気そうね」
「はい! 素晴らしい日々を過ごしています」
瞳をキラキラと輝かせ、本当に楽しそうにしている。
「それで、要件は何ですか?」
嫌みの一つでも言ってやりたいが、こんなに楽しい息子の表情を見ては母親として嬉しくもある。
だが、ユリウスのお願いを聞いてサインを書く手が止まった。
「実は店を持ちたいと考えています」
「――店?」
「はい。やはり料理人を目指すならば、どこかで修行したいのです。ただ、俺の立場的にどこの店も受け入れてくれるとは思えません。ですから! 俺が店を構えて、お客を相手に腕を磨こうと考えました!」
ユリウスは自分が間違っていると思っていない真剣な表情で、熱くミレーヌに語った。
王太子の頃には見せなかった熱意に、ミレーヌは悲しくなる。
「王子が料理人を目指すなんて」
一体どこでユリウスは道を踏み外したのだろうか?
どう考えても学園に入学した頃だ。
(あのマリエという娘に誑かされたばかりに)
女性関係で失敗する男性が多いのはミレーヌも知っていたが、それが息子となれば文句も言いたい。
「――店を持つのは我慢しなさい。どうしても料理人になりたいのならば、王宮にいる料理長に指導を受けなさい」
「え? いや、俺が作りたいのは串焼きなので、料理長では専門が違うかと思いますが?」
「く、串焼き!?」
「はい。串焼きこそ俺が求める料理です。俺は一流の串焼き屋になってみせます!」
冗談だったらいいのだが、ユリウスの表情は真剣そのものだ。
ミレーヌは泣きたくなってきた。
頭痛がしてきたので手で額を押さえ、頼りないと思いながらも夫に相談することにした。
「陛下と相談します」
すると、ユリウスが何故か今の発言を好意的にとらえて、ローランドがどこにいるのかミレーヌに伝える。
「それでしたら、すぐに父上を捜しましょう。今は城下に出歩いているはずですし、出来れば急いで欲しい案件ですからね。俺も捜すのを手伝いますよ」
「――お待ちなさい。色々と言いたいことはありますが、本当に動かないで。それより、どうして陛下が城にいないのですか? 今日は予定があったはずですよ」
「知らなかったのですか? それはダミーの予定で、この時間は城下で民の暮らしを学ぶという理由でナンパをしていますよ」
ユリウスの言葉に、ミレーヌは書類を握りしめる。
「あのろくでなしっ! 私に仕事を押しつけて、昼間から遊び歩いているですって?」
「ひっ!?」
激怒するミレーヌの姿に、ユリウスが後ずさり冷や汗を流していた。
ミレーヌは呼び鈴を鳴らし、外に待機していたメイドを呼び出すと「陛下を連れ戻しなさい」と冷たい声で命令した。
ユリウスが串焼き屋を開く話は、有耶無耶に終わってしまう。
◇
夕方。
中庭にある噴水近くのベンチに座り、ミレーヌは夕日を見ていた。
「夫はろくでなしで、息子は王太子の地位を捨てて串焼き屋になりたがる。――私は何を間違えたのかしら?」
護衛やメイドたちを遠ざけ、ミレーヌは少し疲れた顔をしていた。
そんなところに、荷物を持ったメイドがやって来る。
「王妃様、バルトファルト侯爵からのお手紙とお荷物です」
「リオン君から? 何か急ぎの用事かしら?」
手紙と小包を受け取り、中身を確認するとミレーヌが泣きそうになる。
リオンからの手紙は『親愛なる王妃様へ』という書き出しではじまっていた。
急用ではなかったが、近況などがまとめられている。
そして、ミレーヌの健康を気遣う言葉が多かった。
小包を開けると、中にはお土産が入っている。
手紙には『旅行中にミレーヌ様にピッタリのお土産を発見したので贈ります』とある。
「まったく、あの子は本当に――」
ミレーヌが顔をほころばせる。
それを見ていた護衛の騎士やメイドたちが、ヒソヒソと話をしていた。
「きっと恋文だな。外道騎士は恐れ知らずか?」
「王妃様が喜ばれているわ」
「王妃様も大変だから」
お土産を見て喜ぶミレーヌに、周囲の話し声は聞こえてこなかった。




