IFシリーズ リオンとイデアル
1月30日発売の 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻 記念のSSを書きました。
IFストーリーなので深い意味もなありません。
キャラは書籍版基準になっておりますので、Web版とはちょっと違います。
ルイーゼが気になる読者さんは、書籍版を購入してね。
俺の名前は【リオン・サラ・ラウルト】。
現代日本からアルゼル共和国に転生した元日本人だ。
アルゼル共和国――それは貴族共和制を掲げる国で、六つの国が集まったような国家である。
その一つを担っているラウルト家の跡取りが俺だ。
転生したら人生勝ち組になってしまったが、色々と問題も抱えている。
『マスター、第三百三十四計画をご確認ください!』
青い球体に赤いレンズという一つ目の物体が、今日も懲りずに俺に計画書を持ってくる。
分厚い書類の束を受け取る俺は、パラパラとめくって――それを暖炉に放り投げてやった。
「却下」
『この腐れ新人類の末裔があぁぁぁ!! 私の計画の何が不満だぁぁぁ!!』
浮かんでいた球体が地面に落ちると、そのまま部屋を転がり回る。
この丸い奴の名前は【イデアル】。
本体は旧人類の補給艦という軍艦だが、子機をこうして俺のもとに派遣していた。
新人類という魔法を使える人間を嫌っている奴だ。
「お前も懲りないな。もう諦めろよ」
今でこそ側に置いているが、当初は俺を利用して新人類を滅ぼそうとした危険な人工知能である。
出会った時に胡散臭さを感じた俺は、イデアルの本性を暴いてやった。
何故か聖樹を重要視しているため、聖樹を人質にとってイデアルと交渉した。
何をしたか?
俺をマスターと正式に認めなければ、聖樹を爆破すると脅しただけだ。
あの時は無茶をしたと自分でも反省している。
『新人類を滅ぼし、旧人類が暮らせる楽園を作る。それが私の使命だ!』
「あ、そう。まぁ、諦めろ。俺の下にいる限り、お前の目標は達成されることはないから」
『お前さえいなければ。それに、どうして――どうしてこんな奴が、守護者に選ばれてしまうのか』
俺の右手には聖樹が与えた紋章がある。
本来ならば六大貴族が持つ紋章なのだが、イデアルを支配下に置いたことで聖樹が俺を守護者と認めてしまった。
おかげで、共和国で一番偉い紋章を手に入れた。
「聖樹はお前より見る目があるよな」
『その聖樹を爆破すると私を脅したのはお前だぞ!』
「お前~? マスターにそんな口を利いてもいいのかな~?」
ヘラヘラ笑ってやると、イデアルは本当に不満そうにしていた。金属の球体が熱を持ち、湯気を発している。
「もう諦めろよ。お前のマスターさんの夢は叶っただろう? この世界は緑に満ちあふれた。お前のマスターさんも本望だろうさ」
『新人類が滅べば完璧ですね。ですから、一緒に滅ぼしましょう。大丈夫です。共和国の新人類だけは見逃します。それでいいでしょう?』
「よくねーよ!」
こんな危険な人工知能を手に入れた経緯だが、この世界は俺が知る乙女ゲー世界によく似た世界だった。
だから、もしかしたらあるかもしれない――そう思って色々と調べたのだが、聖樹の真下にあるダンジョンからこいつを発見できた。
イデアルと普段と変わらない物騒な会話をしていると、部屋に姉が入ってくる。
ふわりとした肩まで届くボブカットの金髪で、優しそうな顔をした姉の【ルイーゼ・サラ・ラウルト】だ。
ノックもなしに弟の部屋に入り込むと、呆れた顔を見せてくる。
「また遊んでいたのね」
「年頃の男の部屋に入る時は、ノックくらいしろよ。事故でも起きたらどうするつもりだ?」
「昔は可愛かったのに、こんなに性格が悪くなってお姉ちゃんは悲しいわ」
白々しい泣き真似をする姉に「嘘吐け」と文句を言いつつ、部屋にやって来た理由を尋ねた。
「それで何の用?」
「あ、そうだ。リオン、あんたお父様の車を乗り回したでしょ?」
父親が持っているスポーツカーだが、俺から見ればクラシックカーだ。
色んな機能がついた車なら運転も出来たが、便利機能が一切ないためにぶつけてしまった。
「あ、ヤベ」
謝るのを忘れていた俺は、そそくさと逃げる準備に入った。
だが、ここでイデアルが裏切る。
『アルベルク殿! マスターが脱走しようとしています!』
俺が逃げようとしていると叫ぶと、聞きつけた親父がやって来た。
「リオン、またお前は私の車をぶつけたな。これで何度目だと思っている!」
お気に入りの車をぶつけられ、親父が額に青筋を浮かべている。
「一台くらい許してもいいだろ」
「三台目だ! お前が今月に入ってぶつけたのは三台目! 今日という今日は許さないからな。説教をしてやる」
部屋から俺を連れ出そうとする親父に抵抗するが、姉が俺の背中を押した。
「諦めてお説教を受けなさい。お姉ちゃんに優しくしていたら、逃げる手伝いをしてあげたのにね」
それを聞いて、俺は手の平を返した。
「大好きなお姉様、この可愛い弟を助けてください」
「う~ん、残念。そこは愛しのお姉様、だったら助けたのに」
「絶対に嘘だ! 俺をからかっただけだろ!」
姉弟で騒いでいると、親父が呆れて溜息を吐いていた。
「お前たちは本当に仲が良いな。何だか馬鹿らしくなってきたよ」
『そこはもっと真剣に怒れよ! この腐れ外道に裁きの鉄槌を!』
親父が説教を諦めたというのに、イデアルはそれを許さないようだ。
「おい。マスターを助けるのが人工知能じゃないのか?」
『お前をマスターとしているだけでも悲しいのに、それ以上を私に求めるな! くそ――本当にどうしてこんなことになったのか』
「可哀想な人工知能だな。お前は一生、この俺がこき使ってやるから諦めろ」
『お、お前さえいなければ』
悔しそうにするイデアルを見ながら、俺は溜飲を下げた。
若木ちゃん( ゜д゜)「あれ? リオンシャンが共和国に転生すると、私の立場ってどうなるの?」
ブライアン(´・ω・`)「消えるのでは? あ、それよりも【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7巻】が発売となりました。アンケート特典のマリエルートもお楽しみください」