【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です SS】悪夢 クレアちゃん
特に何もないけど更新してみました。
――五馬鹿に妹がいるとは知らなかった。
だが、考えてみれば当然の結果だろう。
この世界は危険な世界だ。
戦争もあるし、前世よりも人が死にやすい。
そのために、どうしても家族が増える傾向にある。
血を残そうと考えれば、自然と子供は多い方がいいという結論に導かれる。
俺の実家も同じだ。
兄、姉、俺、妹、弟と五人兄弟だ。
だから、五馬鹿に妹がいてもおかしい話じゃない。
『マスター、先程から動揺されていますよ』
「いや、予想外の展開に驚いただけだ。まさか、あいつらの妹と面会することになるとは思わなかったよ」
『これまでの行いを考えれば、恨まれていてもおかしくありませんね』
「何度俺が世界を救ってきたと思う? 恨まれる覚えがないね」
『たった二回を大げさに言いすぎではありませんか? その二回も、私の力があってこその成果ですよ』
「二回以上は複数だ。二回も三回も誤差みたいなものだろ?」
『相変わらずの性格で安心しました。マスターの太々しい性格には敬意を表しますよ。真似したいとは思いませんけどね』
「お前も十分に太々しいけどな」
落ち着きを取り戻すために、男子寮へと戻ることにした。
朝からグレッグとブラッドの妹に出会い、どうにも落ち着かない。
一度部屋に戻り、少し休もう。
そう考えていたのだが、男子寮の風呂場から声が聞こえてくる。
「お兄様、いったい何があったのですか!?」
男子寮から女子生徒の声がした。
◇
風呂場を覗けば、そこにいたのはクリスだ。
相変わらずふんどし姿だ。
それはいいが、朝からデッキブラシで風呂場を掃除しているではないか。
その傍らには、青髪ショートヘアーの眼鏡女子がいた。
真面目そうな性格の女子は、クリスと同じく眼鏡をかけている。
胸の方は――うん、慎ましやかだ。
マリエには勝っていると思うよ。
だが――勘弁してくれよ。
ここでも兄妹で遭遇するのかよ。
ソックリな妹を前にして、クリスが嫌そうな顔をしている。
「【クレア】、いったい何の用だ? 私は風呂掃除を終えて、さっさと登校したいんだ。お前も校舎に戻りなさい」
掃除をしているクリスを見て、クレアちゃんが拳を震わせていた。
「いいえ、引き下がりません。どうしてなのですか? 暇があれば木刀を振って剣技に磨きをかけるのがお兄様でした。それなのに、今は変な格好で掃除なんかして」
「変な格好?」
自分の姿を見て、不思議そうにしているクリスは末期だと思ったね。
ふんどしが当たり前になりすぎて、何を言われているのか理解できていない。
最近は、俺でも違和感がなくなりつつある。
ふんどし姿を見て、クリスかグレッグだろ? って気分だ。
だが、クレアちゃんからしたら、憧れのお兄様がふんどし姿で風呂掃除をしているのが嫌なのだろう。
「お兄様――前のお兄様にお戻りください。一緒に剣の道に戻りましょう」
クレアちゃんがクリスを真っ当な道に戻そうとするが、それを凄く嫌そうな顔で見ているのがクリスだ。
「剣の稽古はしている。だが、今は風呂の方が大事なだけだ」
「何故ですか! 昔はあんなに――」
「木刀を振り回すよりも、デッキブラシで風呂を磨く方が有意義だ」
言い切るクリスに、クレアちゃんがヨロヨロと後ろに下がる。
「お、お労しい。バルトファルトに負け、心が折れてしまったのですね。ですがご安心ください――私がお兄様の仇を取ります!」
クレアちゃんが持っていた剣を抜き、入り口で様子を見ていた俺に視線を向けてきた。
気付いていたのかよ。
「よ、止すんだ。人違いだ。俺はバルトファルトじゃない」
『咄嗟に自然と嘘をつけるマスターは、本当に流石ですね』
人違いだと言うが、クレアちゃんは信じなかった。
眼鏡の向こうに冷たい青い目が見える。
「お前さえいなければ、お兄様が道を踏み外すことはなかった」
「いや、俺がいなくてもお前の兄貴は道を踏み外していたよ」
そもそも、俺がいなくてもマリエに誑かされていた。
人のせいにしないで欲しい。
クレアちゃんが八相の構えをすると、俺に斬りかかってきた。
「問答無用! 成敗! ふぎゃ!?」
「いやぁぁぁ――え?」
風呂場で大きく踏み込んだクレアちゃんだったが、石けんを踏んでそのまま前のめりに倒れてしまった。
抱き上げると、クリスが腕を組んで溜息を吐いている。
「クレアは昔からドジっ子なんだ」
「ドジっ子!? ――それよりも、お前ってこの子に冷たくない? もしかして、仲が悪いの?」
「いや、別に仲は悪くないが、特別仲が良いとも言えないな」
冷めたクリスの態度を見ていると、クレアちゃんが目を覚ました。
そして、顔を赤らめて俺から飛び退く。
「ひゃ、ひゃにをひゅる!」
慌てているのかまともに喋れていなかったので、クリスが通訳をしてくれた。
「眠っている間に何かされたと思ったようだ」
「しねーよ!」
クレアちゃんが泣いている。
涙を拭っている姿を見ると、心が痛む。
「お、おい、何もしてないって」
「――こ」
「こ?」
「こう、こうなれば、責任を取ってもらいますから!」
立ち上がって走り去っていくクレアちゃんに、俺は右手を伸ばして動きが止まった。
「――え?」
理解できない俺に、クリスが風呂掃除に戻るついでに教えてくれた。
「意識を失っている間に、何かあったのでお前に責任を取らせるつもりだろう。あの子は思い込むと突き進むからな。じゃあ、後は任せたぞ、バルトファルト」
「ちょっと待て! 誤解を解けよ!」
「別にいいだろ。そもそも、あの子がお前に夢中になったら、私としても楽だからそっちがいい」
こ、こいつ、妹のことをこんなに軽く考えていたのか?
むしろ、お兄様! って慕っているクレアちゃんが可哀想だろうが。
「お前はそれでいいのかよ!」
「私は別に構わない。むしろ、剣しか学んでこなかったあの子が、色恋に興味を持ったのが嬉しいぞ。後は頼む、バルトファルト。――私は風呂掃除があるからな」
そのまま掃除に戻るクリスを見て、俺の方が間違っているのかと疑問が浮かんでくる。
俺の側に浮かんでいたルクシオンが呟く。
『マスター、残すはあと二人ですよ』
「――まだいるの?」
もうお腹いっぱいだよ。
若木ちゃん( ゜∀゜)「主人公が外道過ぎるw と話題の『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』は、1~5巻が絶賛発売中よ。まだの読者さんは購入してね!」
若木ちゃん( ゜д゜)「それより、私が登場すると罵声が飛んでくるっておかしくない? 私、後書きのヒロインだったのよ。今は後書きが消えて見られないけど、連載中は凄い人気だったのよ」
ルクシオン( ●)『そうやって後書きで人気だった、と嘘を流布するのですね』
クレアーレ( ○)『汚い。さすが若木ちゃん、汚いわ。本当に悪い奴ね』