【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です SS】 タイトル 「憧れの人」
ホルファート王国の学園。
入学したばかりの【コリン・フォウ・バルトファルト】は、とても微妙な立場に置かれていた。
外道騎士と呼ばれた兄の弟にして、現在兄は新王朝の王になっている。
ただし、王位を継げるのはリオンの子供であり、コリンに継承権はない。
王弟ではあるが、実家であるバルトファルト“子爵家”の三男に過ぎなかった。
「――世の中間違ってる」
純粋無垢だった少年が、青年へと成長すると――無気力になっていた。
リオンが活躍した激動の三年間は過ぎ去り、今の王国は復興や新しい制度が始まり変革期に入っている。
アンジェが主導で新しい国家体制へと移行しているのだ。
子供としてそんな時代を遠巻きに見て過ごしてきたコリンが無気力になっているのは、何も激動の時代で活躍したかったからではない。
正直、兄たちと同じようなことは出来ないと考えていた。
リオンのようにはなれないし、ニックス――長兄にしても、今は実家を支えて父の補佐をしている。
大きな戦争にも参加して生き残り、直に当主の地位を継ぐはずだ。
ローズブレイド伯爵家から嫁をもらい、ニックスが跡を継ぐ頃は“伯爵”になっているはずだ。
リオンがそう言っていた。
ドロテアという義姉に苦労しているニックスを前に、リオンは「俺の実家が子爵家とか格好がつかないから、兄貴が当主になったら陞爵して伯爵ね!」と、笑いながら言っていた。
ニックスのこれまでに見たこともない鬼のような形相をしていたのを思い出す。
ただ、外から見ればニックスも勝ち組だ。
それに、地味だが仕事ぶりも評価されていた。
長兄は男爵から伯爵に。
次兄は王に。
優秀な兄たちのおかげで、コリンは肩身が狭かった。
ただ、それもコリンを無気力にした理由ではない。
学園のベンチに座って項垂れていると、三年生になったフィンリーが近付いてきた。
かなり荒れている。
「あの腐れ元王太子――ぶっ○してやる!」
かなり物騒な発言をしているが、コリンには興味がなかった。
「姉さん、今日も荒んでいるね」
フィンリーがコリンに気が付き、その無気力な顔を見て怒鳴りつけてきた。
「普通に頭にくるでしょ! あいつのせいで、私の婚約がなかったことにされたのよ! 兄貴の伝で伯爵家の嫁になれるはずだったのにぃぃぃ!」
甲高い声で叫ぶフィンリーを、コリンは五月蠅いと思うのだった。
正直、姉の結婚にも興味がなかった。
婚約の話が破棄されたのも「そうですか」という気分だ。
「身の丈に合った相手を捜しなよ。姉さんには男爵家か子爵家くらいがいいよ」
無気力になったコリンを見て、フィンリーが苛々する。
「はあっ!? それ、自分に言いなさいよ。不釣り合いな相手に、いつまでこだわっているのよ」
コリンが肩を落とした。
「そ、それは」
コリンが無気力になった原因――それは。
「あ、いたいた。お~い! 二人とも元気~」
学園の生徒ではない女性が、二人に手を振って近付いてくる。
その人を見て、コリンは立ち上がり背筋を伸ばした。
死んだ魚のような目は、輝きを取り戻す。
「ノエル姉ぇ!」
ツインテールだった髪は、今では下ろしてロングにしていた。
ノエルは護衛に話をしてから、コリンたちに近付いてくる。
コリンは鼓動が速くなった。
憧れの人は――今日も綺麗だ。
そんな相手をフィンリーは邪険に扱う。
「卒業生が何の用よ?」
ノエルは笑っていた。
「酷いわね。これでも仕事なのよ。今日は学園の視察。ついでに二人の様子も見ておこうと思ってさ」
微笑むノエルの顔を見てコリンは思うのだ。
(ノエル姉は今日も綺麗だな)
一児の母親には見えなかった。
そう、ノエルはコリンにとって憧れの女性で――人妻だ。
しかも、相手は実の兄――リオンだ。
幼い頃に抱いた恋心を打ち砕いたのはリオンだった。
何が悲しいと言えば、リオンが昔からコリンに優しく憎めないことだ。
これが嫌な奴なら文句も言えるし、奪ってやると思えるのだが――。
「うん、コリンも制服が似合っているわね。あのちっちゃなコリンが、もう私よりも背が高いなんて不思議だよ」
――ノエルはとても幸せそうだった。
「う、うん」
近付いてきた憧れの人は、良い匂いがした。
すると、フィンリーが気付く。
「あれ? 少しお腹が大きいわね」
ノエルが照れていた。
「えへへ、二人目なんだ」
それを聞いてコリンは心の中で絶叫するのだ。
(ちくしょうぉぉぉ!!)
何が悲しいと言えば、リオンを恨めないことだ。
色々と言われているが、リオンは基本的に家族には優しい。
小さい頃は随分と可愛がってもらった。
だから恨めない。
ノエルがハッとする。
「そうだ。リオンからコリンに頼みがあるんだって」
「兄貴から頼み?」
忙しい兄が――いや、忙しいのはアンジェで兄が何をしているのかを知らないコリンは、何用かとリオンの手紙を受け取る。
そこに書かれていたのは――。
『コリン! お前の将来を考えて、俺はお前を伯爵にすることにしたよ! ――兄を助けてくれるよね?』
――簡単に言えば、そんなことが書かれていた。
ホルファート王国の直轄地は、戦争やら色々とあって貴族が減って広くなってしまった。
それを面白く思わない貴族たちがいるため、リオンが自分の関係者を置いて実質的に王国が管理する方法を考えたのだ。
言ってしまえば代官――いや、太守のようなものだ。
普通の伯爵よりも身軽な立場だが、あの兄のことだ――きっとこき使われるだろう。
「ノエル姉――こ、これはちょっと」
断ろうとするが、ノエルは嬉しそうにしていた。
「あのコリンが伯爵になるのも凄いよね。きっとこれからモテモテだぞ」
コリンは泣きたくなる。
(他の子に好かれても嬉しくないよ!)
しかし、嬉しそうなノエルの顔を見ると断ることも出来ず――コリンは承諾するのだった。
「卒業したら前向きに考えておくよ」
それを聞いたノエルがコリンの腕に抱きつく。
「ありがとう、コリン!」
それが悲しくて、妙に嬉しくて――複雑そうな顔をしていると、フィンリーがやさぐれた顔をして呟くのだ。
「男って本当に馬鹿よね」
ニックス(#゜Д゜)「可愛い弟を無気力にした上に、こき使おうとか――お前は鬼か!」
リオン(´;ω;`)「――よかれと思って」
若木ちゃん( ゜∀゜)「などと犯人は供述しており――って、それより宣伝しないと!」
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