【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です SS】 タイトル 「パパ」
元王太子ユリウス――彼は今、とても悩んでいた。
旧王国の元王子という微妙な政治的な立場であるのも問題だが、それ以上に悩んでいることがある。
「俺は一体どうすればいいのだ?」
今のユリウスは、リオンの師匠――宰相のもとで働いていた。
教育を受けてきたユリウスを遊ばせておく程に、ホルファート王国に余裕はない。
帝国との戦争から三年もの月日が流れたが、王国の人材不足は深刻だ。
ユリウスの立場は、以前の身分を考慮して伯爵にして三位下となっている。
それを本人は不満に思ってはいない。
今更、国王になるつもりもない。
あまりにリオンが強すぎるために、ユリウスを担ごうとする勢力もいなかった。
復興で忙しいという理由もあるが、今の王国は改革が進んでいる。
帝国という脅威を肌で感じた貴族たち。
彼らがその脅威を忘れない内に、王国は国力増強に乗り出したのだ。
おかげでユリウスも忙しい。
問題があるとすれば、忙しすぎて――串焼きが食べられないことだ。
最近は道具の手入れくらいしか出来ていない。
大問題だ。
「くっ! どうしたらいいんだ」
串焼きも問題だが、ユリウスにはそれ以上の問題があった。
王宮の廊下で反対側からやって来るのは、文官として働いているジルクだった。
実家のマーモリア子爵家をリオンによって無理矢理継がされ、今はこうして王宮でこき使われている。
事務処理能力を高く評価されたのもあるが、ほとんどリオンの私怨である。
「む、ジルクか?」
「おや、殿下――ではなく、ユリウス」
言い直したジルクを見て、ユリウスは呆れるのだった。
「殿下は止せと言っただろうに」
「申し訳ありません。何せ、長年殿下呼びでしたからね。それはそうと、何を悩んでいるのですか? 息子さんの件でしょうか?」
「それもあるんだが――」
戦後――マリエはユリウスたちから逃れられず、五人と結婚してしまった。
跡取りを残すため、かつてリオンが手に入れた浮島で一人につき一年という期間を過ごすことが決まっている。
「私の番はまだなので羨ましいですよ」
ジルクがそう言うと、ユリウスは肩をすくめる。
「最初だからいいとは限らないぞ。一年が過ぎれば、マリエとは四年も会えないからな。時折、カーラが息子を連れてきてはくれるが――」
もちろん、周囲はユリウスたちにマリエ以外の相手を娶るように言った。
だが、五人揃って拒否である。
マリエ以外は考えられない。
政略結婚も不可という態度を崩さなかった。
正直、旧王国の主力的な立ち位置の五人だ。
周囲はこのまま問題を抱えてもいいだろうと、放置した。
本人たちはそれで幸せだが、マリエが幸せかどうかは微妙である。
ユリウスは首を横に振る。
「ジルク、実は父親違いの妹が生まれた」
それを聞いたジルクは何を今更、という表情をする。
「存じておりますが? そもそも、二年前の話ですよね?」
「それは俺も理解している。だが――」
「納得できないと?」
自分の母親が再婚して、歳の離れた妹が生まれました!
確かに微妙だ。
ユリウスだってミレーヌが幸せなら嬉しいが、納得できないこともある。
「いや、それは別にいい。母上も幸せそうで何よりだ」
「ですよね~」
――どうでもよかったようだ。
ジルクが首をかしげる。
「では、何について悩まれていたのですか?」
「実は呼び方だ。普段は陛下でいいが、プライベートでは何と呼べばいいのか分からない」
「お義兄さんでは?」
「母上が再婚したんだぞ! ――義理の父親ではないだろうか? いや、義父ではないが、親的な存在だろう? それをお義兄さんと呼んでいいものだろうか?」
「これは盲点でしたね!」
「だろ!」
盛り上がる二人。
その横を呆れた顔をした女性が通りかかる。
「何を話しているんですか?」
分厚い本を抱きしめているリビアだった。
ユリウスがリビアにも相談する。
「いや、実は陛下を何とお呼びすればいいのか考えていた。義父では味気ないからな。まだ、お義兄さんの方が言いやすい」
リビアが真顔で首を横に振る。
「勘違いをする人が多いんですから、止めてくださいと言いましたよね?」
マリエの前世の兄であるリオンを、ユリウスたちは「お義兄さん!」と呼んでいた。
それを聞いて勘違いをする者たちが多い。
リオンの姉妹とユリウスたちが結婚したのか? という噂話が広がったのだ。
そのせいで、フィンリーの婚約話が破談になった事がある。
本気で怒ったフィンリーが、リオンのところに乗り込んできたのは最近の話だ。
ジルクは笑っていた。
「いや~、その節は申し訳ありませんでした」
「笑い事じゃありませんよ!」
ユリウスはアゴに手を当てて考える。
「だが、呼び方は問題だな。義父では何か違う気が――むっ! そうだ、これならいいぞ!」
リビアは嫌な予感がしたのか、とても冷たい目をユリウスに向ける。
◇
「エリシオン、俺の仕事って多くない?」
執務室の机の上を見れば、書類だらけだった。
新しい相棒のエリシオンが、俺の言葉に賛成してくる。
『多すぎますね! マスターの処理能力をオーバーしていると思います。ですが、アンジェリカはこの倍を処理していますよ』
国を動かすって大変なんだね。
俺はこの三年で嫌になってきた。
『私が処理しましょうか?』
「駄目だ。お前、放置すると帝国とか、新人類側の人たちを滅ぼそうとするし」
『マスターが一言、やれと言ってくれれば――』
本当に悔しそうにしているから困る。
エリシオンは素直だが、新人類は嫌いだ。
真面目に滅ぼそうとするから、俺が見張っていないと怖いのだ。
さっさと仕事に取りかかろうとすると、執務室のドアが乱暴に開かれた。
そこにいたのはユリウスだった。
「パパ!」
「――え? パパ? 誰が?」
「お前に決まっているだろう、パパ」
朝から変な汗が出てきた。
驚いている俺を前にして、ユリウスは自信満々だった。
「リオン、お前のことを何と呼べばいいのか考えていた。母上のこともあるし、つまりお前は俺の父みたいな存在だ。しかし、父上とは違う。義父でもない。だからこそ、俺はお前をパパと呼ばせてもらう!」
――こいつ馬鹿じゃないの?
何やら世迷い言を言い出したので、俺はエリシオンに命令する。
「エリシオン、やれ」
『イエス、マスター』
エリシオンから発せられる電撃で、ユリウスが感電して痺れていた。
「何故だあぁぁぁ!!」
こいつらの突拍子のなさには慣れたつもりだったが、俺もまだまだのようだ。
若木ちゃん(ノД`)「そろそろ、乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 7章 の後書きが消えるらしいの。あちしの活躍が消えちゃうけど、みんな悲しまないで。あちしはみんなの心の中に根付いているわ。あちし、ずっとみんなのアイドルだから!」
ルクシオン( ●)『後書きが消えれば、この五月蠅い植物に関する記憶も消えそうですね』
クレアーレ( ○)『きっと、後で本編を読んだ読者さんたちが感想欄を読めば、苗木ちゃんって誰? 状態ね。ワクワクするわ』
エリシオン(-●)『苗木ちゃんって誰ですか?』
若木ちゃん(#゜Д゜)「黙ってろ、球体共! あと、そこの新入りは先輩を敬え! それから、あちしのことは、きっとみんな忘れないでいてくれるわ!」
若木ちゃん(゜Д゜)「ね、みんな!」