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皇帝の憂鬱

2018/08/31 発売のセブンス7巻の宣伝となっております。


作者の別作品

【星間国家が存在する異世界に転生したので悪徳領主を目指してみた!】

の要素も多少あるのでご注意ください。


とうとう、セブンスも七巻が発売になりました。


これも購入してくださった読者さんたちのおかげです。


大変ありがとうございます。

「世の中、どうして報われないんだろうな」


「はい?」


 皇帝となったライエルの執務室。


 大きな窓からは、大量の光が差し込んでいた。


 無駄に豪華で広いのは、皇帝の権威を示すためである。


 そんな部屋で、モニカが紅茶の用意をしていた。


 室内に良い香りが広がっている。


「だから、どうして俺は報われないのかな、って話だよ」


「はぁ、そうですか」


 気のない返事をするモニカは、紅茶をライエルに差し出すのだった。


 受け取ったライエルは一口のみ、愚痴の続きをはじめる。


「俺ってどう考えても名君だろ?」


 図太くなったライエルの自慢に対して、モニカは涙を拭う仕草をした。


「昔はあんなに純粋で無垢だったのに、今のチキン野郎は図々しくていけませんね。でも、そんな駄目なご主人様がいて、このモニカは嬉しいですよ」


「自分でも分かっているよ! 冗談で言ったんだよ!」


 自身を名君だと言って、少し恥ずかしかったライエルは椅子に深く腰掛けた。


 そして溜息を吐く。


 飲んだ紅茶の香りが鼻の奥からしてくる。


「そうじゃなくて、俺って頑張っているよね?」


 モニカは頷く。


「そうですね。朝から晩まで働き、夜は腰を振って頑張っていますね。このままでは腹上死もあり得ると、このモニカは心配しております」


 皇帝となり、後宮に大勢の女性を囲っている。


 それはつまり、大勢の女性を相手にする必要があるという意味だ。


 皇帝ならば好き勝手にしていい、というものでもない。


 何しろ、彼女たちは――初期からライエルを支えてくれた仲間もいれば、国を背負ってライエルに嫁いだ娘もいる。


 下手に相手にしないと、色んなところから不満が出てくる。


「本当だよ。まさか、こんなことになるなんて昔は想像しなかったよ」


 昔――まだ、何も知らなかった頃。


 冒険者になって旅をしたばかりの頃を思い出していた。


「あの頃は楽しかったな」


 過去を振り返ってみれば、あの頃が一番楽しかった。


 目標もなく、多少――多少? の喧嘩もあったが、女性陣同士の争いも少なかった。


 モニカも笑みを浮かべていた。


「あの頃と言いますと、アレですね。ベイムを目指す前でしょうか? 私はチキン野郎と出会ってから、毎日が楽しいですけどね」


 昔は良かった。


 そんなことを考えている自分が、歳を取ったとも思うライエルだった。


「童貞なのがよかったよな。周りも牽制して手を出してこなかったし、夜は自分だけの時間がちゃんとあったし――まぁ、手を出すのも出されるのも困る時期だったけど」


 首に提げた光を失った青い宝玉を、指先で遊ばせる。


 五月蠅いご先祖様たちに監視されていては、部屋に女を連れ込むなど不可能だ。


 そもそも、昔の自分はそんなことを考えもしなかった。


 それがどうだ?


 今では、女性のいる家に毎日通っている。


 正確には、全てがライエルの家。


 そこに、女性が住んでいる。


 まるで小さな街のような後宮で、家々を渡り歩いているようなものだ。


 ライエルが涙を腕で拭う。


「――あの頃は楽しかった。あの頃に戻りたい」


「無理ですね」


「分かっているよ!」


 モニカの即答に苛立ちを隠さないライエルは、紅茶を飲みながら当時を思い出していた。


 あの頃は――そう。


 セレスと戦うと決めた頃だ。


 初代、二代目と、宝玉から二人が姿を消して寂しさがあった。


 冒険者としてそれなりの実力を持ち始め、少しは自分に自信が持てるようになった頃だ。


「随分と遠い昔に感じるな」


 ライエルの感想にモニカはアッサリとしていた。


「ほんの十年前ですよ」


「人間には十年も、なの」


 どこかの世界みたいに、成人するまで五十年もかかるような世界ではない。


「さて、本題に戻ろうか」


「昔は良かった、という話では?」


「違う。どうしてこんなに頑張っているのに、俺は評価されないのかって話だ」


 どこかの悪代官気取りの男は、仕事のほとんどを丸投げにしているのに名君扱いである。


 本人は自分のことしか考えていない。


 対して、ライエルは真面目に仕事をして、色々と周りのことを考えているのに――名君とは呼ばれなかった。


「フィデルのお義父さんとか酷いよな。あの糞ガキ、とか。暴君、とか。他にも色々と俺の悪口を言うんだ」


 落ち込むライエルにモニカが言う。


「それは、チキン野郎がフィデルを煽り倒しているからです。この前、借金をいくつか踏み倒しましたよね?」


「アレのこと? いや、ヴェラに頼んで帳消しにして貰っただけだよ。踏み倒したなんて人聞きが悪いな」


 モニカがジト目をしていた。


「女を誑し込んで、借金を減らして――フィデルからすれば、チキン野郎は大事な娘を誑かし、借金を踏み倒す外道ですよ」


 フィデルは大商人だ。


 その娘であるヴェラは、ライエルの側室の一人である。


「そんな風に見えているだけだろ。ヴェラに頼んだら、借金を減らしてくれたんだ。俺は悪くないね」


 開き直ったライエルを見て、モニカは呆れて肩をすくめるのだった。


「昔の純粋で世間知らずのチキン野郎の面影は、少しも残っていませんね」


「あの頃の俺は純粋だったよね。これも世間が悪いんだ」


 厳しい世間が悪いと言い切ったライエルに、モニカは笑いながら答えた。


「その太々しさも大好きですよ」


「ありがとう。俺もこんな自分が嫌いじゃない。さて、仕事をするか」


 書類仕事を再開するライエルは、一度だけ宝玉を手に取り眺めてから小さく笑うと黙々と手を動かす。


 セレスと戦うと決めた頃の情けない自分を思い出して、少し恥ずかしくなるのだった。


ライエル( ゜д゜)「ちょっとおかしくない? 何でこんなに頑張っている俺が評価されないの? それにさ、モニカみたいなオートマトンに仕事を丸投げしているくせに、名君扱いを受けるリアム君ってどうなの? 俺の方が頑張っているよね?」


リオン( ゜д゜)「はぁ、そうっすね (それより俺と名前が近いから、改名してくれないかな。リオンとリアムって間違われない? 俺、悪徳領主とかイメージにないから、ちょっと勘弁して欲しいのに)」


ライエル( ゜言゜)「お前、ちゃんと聞いてる? 俺、お前にも怒っているんだよ。何だよ、お前の嫁二人――可愛すぎだろ」


リオン(*´∀`)「でしょ! もう、二人とも外見だけじゃなくて中身もおっぱいも可愛くて大好きっす」


ライエル( ゜言゜)「やっぱり俺、お前の方が嫌いだわ」


リオン( ゜∀゜)「奇遇っすね! 俺もっすよ!」

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