クロスオーバー注意 ハレトモ
こちらは「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」の感想でいただいたコメントで、ライエルを気にされている方が多いので書いてみました。
読者サービス向けで、ストーリーには関係ありません。
あと、宣伝です。
「お腹い~た~いのぉ!」
ゲラゲラと腹を抱えて笑っている男がいた。
――ライエルだ。
もう、笑いすぎて泣いており、とても嬉しそうに床を転げ回っていた。
「本当に最高! まさか、犬と囲っていた女の子の……ぷぷぷ」
お腹が痛いほどに笑っているライエルに対して、冷めた目を向けているのはエアハルトだった。
自由騎士エアハルトは、目の前の男がどうして笑っているのか分からない。
だが、どうせろくでもないことで笑っているのを察していた。
「お前は本当に最低だけどな」
立ち上がったライエルは、床を転げ回り汚れた服を手で払う。
「見苦しいところを見せてしまったな、友よ」
「誰がお前の友人だって?」
エアハルトの言葉に、ライエルは酷くショックを受けた顔をしていた。
「俺たちは、同じハーレムで苦労したハレトモじゃないか!」
ハーレムで苦労した友達。
略してハレトモだ。
「俺がハーレムで苦労した理由は、お前のせいだけどな!」
ライエルは胸に手を当てて、とても清々しい笑顔でエアハルトに語りかける。
「俺とお前は、共通の苦しみを知っている。望んでいないのに出来てしまったハーレム。女同士の戦いに胃を痛める日々。どっちが好きなのに、なんて答えに困る質問をして、君が好きだよと言えば喜んで周囲に暴露して火種をばらまく。正確に何番目に好きだよ! なんて言ってしまえば、一気に冷めたムードだ」
ライエルを見て、苦労しているのは分かっても納得できないエアハルトだった。
「お前、言っているほど酷くなくない?」
「馬鹿野郎! お前、ハーレム――後宮なんて本当にドロドロしているからな!」
リアルでそういった場所は、権力闘争やら女の戦いやら大変な場所だ。
甘く優しい理想などそこにはなかった。
世の男たちの夢と希望がそこにあるのなら、現実と絶望もちゃんとそこにある。
エアハルトが、解決するのは簡単だと言う。
「なら、人数を減らせば良いだろうが」
「減らせるか! 減らしたら大変なことになるんだよ! いいか、俺に『うちの娘はいかがでしょう?』なんて言ってくる奴がどれだけいると思うの! 一人減ったら、そこに枠があると思って、自分の娘や縁者を押し込もうと――あぁぁぁ嫌だぁぁぁ!」
皇帝になってしまったライエルは、昔は予想もしていなかった辛さに苦しんでいた。
肩を落としている。
「……俺はもっと、内政とか外交で苦労すると思ったんだよ」
「跡継ぎの問題も大事だろ」
「大事だよ。けど、毎日腰を振れ、なんて言われたら――あれ? 俺の価値っていったい何? って思うだろ」
グチグチと文句を言っているライエルに、エアハルトは――。
「でも、お前って結構幸せそうだよな」
「何が?」
「内政やら外交問題は、優秀な家臣が片付けてくれるだろ? 何だっけ? あのメイドたちとか、大活躍じゃないか」
モニカを筆頭としたオートマトンが、日夜帝国のために頑張っています。
「後宮のことで悩める、ってまだいいじゃないか。俺なんか、誰もハーレムをまとめようとしないから、俺が頑張るしかないんだぞ。お前はそういうの、ノウェムさんに全部丸投げしているだろ。あとはミランダさん?」
後宮の――ハーレムの管理をしているのは、ノウェムとミランダです。
「あと、俺の癒しはアリアとかヴェラだけだ、みたいに言っていたよな? シャノンの名前もよく出てくるし、結構楽しんでない?」
「……い、いや、それは」
苦労していると言いつつ、結構楽しんでいるのがライエルです。
「お前狡いよ」
ライエルは輝きを失った宝玉を握りしめ、涙を流すのだった。
「ご先祖様たち……ハレトモが俺の悩みを理解してくれません」
きっと彼らも言うだろう。
『いや、お前が悪い』
――って。
そんなハレトモ同士の、心温まる会話をしている部屋を覗いている男がいた。
黒髪黒目のモブは――クスクスと笑っている。
ライエルもエアハルトも、少し開いたドアから覗き込む男に気が付いた。
「――お前は!」
「え、誰?」
モブは笑顔で部屋に入ると、べらべらと喋りはじめる。
「いや~、笑われていると思って仕返しに来たんですけどね。話を聞いていると、苦労されているんだと思いまして」
二人の苦労話に心が痛いと言いながら、モブはとても嬉しそうにしていた。
その態度に、ライエルもエアハルトも苛々している。
こいつは人を苛立たせるのが得意である。
「俺は三人で苦労しているわけですが、やはり皇帝はスケールが違いますね。何人でしたっけ? 二十五人? それは素晴らしい! たった三人で『どうして俺がこんな目に!』なんて言っていた俺は、まだまだでしたね。反省しました」
反省したと言いつつ、ライエルを見てモブが笑っていた。
「あ~、でも俺は思うんですよ。素朴ながら心優しく胸の大きな可愛い女性と、男前で凜々しい女性……二人がいて良かったな、って。色々とありますが、お二人の話を聞いて思ったんです……俺、恵まれすぎかなってさ!」
ゲラゲラ笑い出すモブは、明らかにライエルとエアハルトの二人を煽っていた。
そのままモブは部屋から出ていく前に、
「二人とも……ご苦労様で~す!」
最後に満面の笑みで去って行った。
ライエルが手を握りしめ……。
「あいつは絶対に許さない」
……仕返しを決意するのだった。
いかがだってでしょうか? 楽しんでいただければ幸いです。
ライエルが嬉しがっている、と言われたとおりですね。
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