幕間 歴代当主に聞きました3
今回は宣伝あるよ。
場所は宝玉内、円卓の間。
『俺の嫁は普通だったよ』
そう語るのは、自分は地味だったという二代目だ。
初代が自分の嫁を皆に見せてしまい、亭主関白が嘘だと発覚して肩を落としている。ただ、二代目の言葉に対して――。
『嘘を吐け!』
三代目も笑いながら。
『はい、嘘』
二代目の言葉を嘘だと決めつけるのだった。
二人に否定され、四代目以降の当主たちも二代目に懐疑的な視線を向けていた。
『嘘じゃない! 本当に普通だったんだよ。ようやく見つけた嫁だぞ。そんな変な奴を連れてくるかよ』
呆れている四代目が、二代目の意見に対して、
『もう後がないので妥協したのでは?』
五代目が馬鹿にしたように笑った。
『それは四代目だろ』
本当にウォルト家の親子は仲が悪い。まぁ、二代目の意見が正しいかも知れない。ここは調べた方が早いだろう。
「見た方が早いのでは?」
『……え?』
初代の記憶を全員で確認したというのに、自分の記憶は見られることがないと思っていたようだ。
初代がゆらりと立ち上がる。
『よく言った、ライエル! そうだよ。最初から俺だけこんな目に遭う必要はない。こうなれば全員の嫁を見に行くぞ』
それを聞いて青ざめるのは、六代目と七代目だった。
六代目は視線を泳がせていた。
『いくらなんでも全員分を確認する必要は……』
七代目も同じだ。
『そうですね。皆さんのように面白いエピソードもありませんし』
しかし、初代が二人の肩に手を置いて笑う。
『そう言って逃げるつもりだろ? 俺には分かるんだからな』
有無を言わさず二代目の記憶の扉へ二人を投げ込んだ初代。
『行くぞ!』
二代目を置いたままに、三人が記憶の扉をくぐって行ってしまった。
二代目が手を伸ばして三人が消えていった扉を見ている。三代目が、肩をすくめ二代目の背中を押した。
『ほら、行こうよ』
二代目は大きく肩を落とすのだった。
四代目と五代目は、
『楽しみですね。二代目の普通がどんなものか見ておかないと』
『同感だ。行くぞ、ライエル』
「あ、はい」
全員で二代目の記憶の扉を通ると、そこに広がっていた景色は普通とはほど遠い物だった。
のどかな景色が広がる農村の光景。
ウォルト家の始まりは開拓村だった。そのため、過酷な土地を切り開き、畑を広げるのに必死な時代だとも言える。
ただ、その景色は緑豊かだ。
そんなのどかな光景が広がっている場所で、いがみ合っている女性が二人。
農道で互いに武器を持って構えていた。
一人はアマンダ――初代の妻だ。グレイブを右手に持ち、左手で女性を指差していた。
『何度言ったら分かるんだい? 味付けが薄いんだよ、小娘!』
以前見た時よりも歳を取っているが、それでも背筋もしっかりしており体付きも変わっていない。
相変わらずの女傑だった。初代と結婚してからいったい何年の時が過ぎたのか……。
そんなアマンダさんに立ち向かっているのは、金属の輪を持った女性だ。
濃い緑色の髪はストレートのロングだ。サラサラしており風に揺れている。
垂れ目で優しそうな瞳は、本来ならお姉さん、とでも言うべき優しさが感じ取れるはず……なのに、今は憤怒とでも言えば良いのか、表情が怖い!
『何度も言わせないでくださいよ。北の方の味付けが濃すぎるんですよ。夫や義父だって私のスープは文句を言わずに飲みますよ』
『良い度胸だ、小娘!』
アマンダさんが大きく踏み込み、その鉄塊のようなグレイブを横に振り抜くと女性――【マイネリーネ】が跳ぶ。
手に持っていた金属製の輪をわざと手放し、そして掌を上に向けると金属の輪が掌の上に浮んで回転を始めた。
その回転音が空気を裂くというか、普通に回転させては聞こえそうにない音を出している。
『出しゃばりの姑が!』
左手を振るうと、金属の輪が高速で回転したままアマンダさんに襲いかかった。
それをグレイブで弾き飛ばす。
火花が飛び散り、そしてマイネリーネさんが着地をすると周囲に集まってきた村人たちが……。
『大奥様と奥様か。飽きないねぇ』
『家はまだ穏便な方だな』
『嫁と姑は仲が悪いからねぇ』
農具を担ぎ、仕事に向かう男性たちは喧嘩を見ても巻き込まれないように逃げていく。いや、あまり関わろうとしていなかった。
しかし、奥様方は違う。それぞれが、同じ世代を応援していた。
『姐さん、嫁に負けないで!』
『若奥様、そんな年寄りぶっ飛ばして!』
なんとも過激な発言が飛び交っている。
弾かれた金属の輪が農道を抉り、グレイブも破壊している。
『あの道はしばらく使えないな』
そう呟いて仕事に向かって行くのは、白髪が目立ち始めたバジルだった。というか、初代もこの頃は関わろうとしていない。
『なんだこれ……』
誰の声だったのか。歴代当主たちの気持ちを代弁した声。
慌てて振り返ると、他の歴代当主たちも唖然としている。ただ、初代と三代目はこの光景を知っていたわけで……。
『これが普通だと思うのか? 俺は思わねーよ』
『僕の場合、生まれてからずっと見て来たから慣れているけどね。最初は母さんが不利だったんだけど、スキルが発現したら互角になったんだよ。まぁ、スキルが発現してもしばらくは試行錯誤の日々だったらしいけど』
まさか、姑と戦うためにスキルを発現させ、磨いたというのだろうか?
俺は二代目を見る。
「二代目、普通って……」
『こ、ここだけ見たらそう思うだろうが! こんなの毎日じゃないからな! 週に二回とか』
慌てて説明してくる二代目だが、週二で嫁姑戦争をしているとかドン引きだ。しかも農道が破壊されて修理が大変そうである。
二代目が咳払いをした。
『こ、ここは普段の生活をだな……』
周囲の景色が灰色に染まると、グレイブを振り下ろすアマンダさんと金属の輪でそれを受け止めようとするマイネリーネさんも止まる。
まさに接戦と言える戦いを繰り広げていた二人が消え去ると、そこは屋敷の中の光景が広がっていた。
『あら、この味付け薄すぎない』
それは食事での光景だった。屋敷の中、家族で食事をしている一家団欒の場は、ギスギスした空気が流れている。
二代目が頭を抱える。
『なんでこの光景! いつもこんなんじゃないぞ!』
アマンダさんの一言に、マイネリーネさんが眉をピクピクと動かしていた。
『これでも濃いですけどね』
すると、記憶の中の二代目――クラッセルが慌ててフォローをするのだ。
『お、俺はこれくらいがいいかな』
アマンダさんもクラッセルに言われると追撃を止めるのだが、それでも納得できないのか孫である二人の子を見ていた。
『デューイ、スレイ、二人はどう?』
すると、バジルが――。
『おい、孫にまでそんな――』
『あんたは黙ってな』
『……はい』
ここでも亭主関白()なバジルは無視するとして、問題は二人の少年だった。三代目が笑っている。
『この時のプレッシャーは凄かったね』
すると、マイネリーネさんが立ち上がる。
『いい加減にして貰えますか?』
アマンダさんも立ち上がる。
『あら、やるの? そう、やるのね? いいわよ。得物を持って外に出な! 誰がこの家を預かっているのか教えてやるよ!』
子供が生まれて丸くなったとか嘘としか思えない口ぶり。
二人が武器を回収しに行くと、クラッセルが慌てて二人を呼び戻しに向かうのだった。
ただ、そんな時……。
『ひっぐ』
スレイが泣き出す。アマンダさんもマイネリーネさんも、子供が泣き出すと弱いのか武器をしまった。
『……今日は孫の顔に免じて許してやる』
『それはどうも。スレイ、お婆ちゃんが怖かったわね。ごめんね』
マイネリーネさん、終わってもアマンダさんを煽っている気がした。
二代目がこの光景を見て、
『まさかお前、この頃から腹黒かったの?』
三代目は意味深げに笑うのだ。
『だったら? でも、これで何度も喧嘩が止まったからいいでしょ』
すると、四代目がアゴに手を当てた。
『それにしても、曾お婆さまの口ぶり……母や嫁とも似ていますね。煽る時に二度同じ事を言う癖的なものが』
六代目も気が付いたようだ。
『俺の嫁も言ってた!』
七代目も同じだった。
『わしも聞いた! 嫁のクレアも言っていたような?』
五代目がその場をしめる。
『嫁姑の煽り的な物まで引き継いでいたのか。知りたくない真実、ってあるんだな』
~過去~
五代目(;゜д゜)「よく考えると、ウォルト家は知らない方が良かった真実の方が圧倒的に多かった」
ライエル( ゜д゜)「初代の家訓に始まり、色々と駄目な部分が目立ちますね。これでよくバンセイム最強になれましたよね」
六代目(ヽ´ω`)「馬鹿だな、ライエル。過酷な土地で鍛えられ、女も嫁姑で争い己を磨く……最強にならない理由がないだろ。お前も気を付けろよ」
ライエル(;゜Д゜)「俺はこの流れを引き継がないから楽でいいけど」
~現在~
ライエル(´;ω;)「……誰だよ、俺はウォルト家の流れを引き継がない、って言った奴は。一番濃いウォルト家を引き継いじゃったじゃない!」
ノウェム(#゜Д゜)「ウォルト家の家訓が!!」
ミランダ(#゜Д゜)「ウッセ、ボケェ!! 表に出ろ!!」
ノウェム(*´∀`)「あれ、怒ったんですか? 怒ったんですね? 良いですよ、表で決着を付けましょう」
モニカ( ゜∀゜)o彡°「争え! もっと争え! チキン野郎とヒヨコ様だけを残して消え去ってください!」
シャノン....φ(・ω・` )「今日も日記には普通でした、って書いておくわ」
シャノン(´・ω・`)ノシ「あ、それと二巻は今月の三十日。つまり、4/30日に発売だから」