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幕間 歴代当主に聞きました2

久しぶりに後書き劇場も付けてみました。

『いいか、俺は亭主関白で家庭を顧みない男だ』


 青い顔をした初代がそう言って咳払いをすると、俺は円卓の間で正座をしながらその話を聞いていた。


 取り乱した歴代当主たちが我に返り、俺へ言い訳を始めたのだ。


「その、初代の奥さんというか、ご先祖様は家訓に合った女性なんですよね?」


『……そうだ』


 ウォルト家、家訓。


 それは嫁選びの家訓でもあった。ウォルト家は婿を迎え当主にしておらず、自然と嫁取りの家訓として扱われた六つの項目。


 それに合格した女性たちは、美人で体も丈夫であれば頭も良い……のだが、歴代当主たちの反応からするに少し不自然でもあった。


 とても恐れているように見える。


 普段は俺を罵り、他を煽り、太々しい面々が自分の妻に対してはこの態度。


 絶対に何かあるはずだ。


「どんな人だったんですか? 気になるなぁ~」


 初代の表情が微妙に歪んだ。


 初代を囲む他の面々も興味があるらしい。ただ、息子である二代目に関しては、アゴに手を当てて面白そうにしていた。


『確かに凄い人だったよ。家訓通りの人だ。何しろ嫁いできた日にこの馬鹿と大剣とグレイブで決闘して引き分けだ』


 初代が俯き肩をビクリと動かした。


 思い出したのか、口を閉じてそっぽを向いてしまう。


 すると、三代目が面白そうに。


『僕には優しいお婆ちゃんだったかな。少しムッとしているけど、基本的には優しかったよ。結構北の出身だったみたいだから、味付けが基本濃いんだけどね』


 ウォルト家の領地は基本的にバンセイム王国南部に位置している。


 正確には南西に位置しており、割と温暖な気候だ。


 北には……。


『カルタフスがあるな。あそことは小競り合いが多い上に、何度か大きな戦いも起きているはずだが?』


 五代目が思いだしたように言うと、二代目が大きく頷いた。


『そこから来たお袋は、当然だが身分は低くとも貴族として、騎士として夫に求めるのは第一に強さだった訳だ。自分の夫は強くないと認めない、って人だったらしいぞ』


 らしい、という事は二代目から見れば初代の奥さんは違ったように見えていたのだろうか?


 まぁ、自分と引き分けたのだから、初代を認めたのかも知れない。


「あれ? というか……初代は奥さんと引き分けたんですよね? 手加減とか――」


『――してねぇ』


 俯いた初代がボソリと呟く。


 全員が初代を見て驚いていた。この人、女性相手に本気を出して引き分けたのか? ただ、初代も弱いという訳ではない。


 なんといってもドラゴンキラーだ。


 強い……はずだ。


『あの時は失恋のショックとか不摂生な生活とか色々と駄目だったんだよ。気持ち的にも余裕がなくてよ……だから酒の席で家訓だなんだのと騒いだわけだ。普通さぁ、見つけてくると思わないだろ』


 頭を抱えている初代だが、頭を抱えたいのは周りにいる俺たちだ。そんな初代のせいで、ウォルト家は家訓を大事に受け継いできたのだ。


 四代目が眼鏡を光らせながら、低い声で初代を責める。


『最低ですね。それなら家訓など嘘として取り消せば良かったんですよ』


 初代は黙り込む。


 すると、二代目が初代の記憶のドアを見ていた。


『……なぁ。なんなら今から覗いてみるか?』


 初代が急に立ち上がって抵抗を試みた。


『ふざけっ! って、なんでお前がここにいるんだ!』


 いつの間にか逃げ出していた六代目が戻り、三代目や七代目と一緒になり初代を羽交い締めにしていた。


『いいじゃないですか。ほら、全員で領主貴族ウォルト家の母を見に行こう』


 五代目が六代目を見ながら複雑そうな表情をしていた。


『こいつ、人の弱みを見つけるとシャシャリ出やがって』


 六代目……最低である。


 初代が抵抗する中、俺たちは次々に初代の記憶の部屋へと入るのだった。


『止めろ! ふざけんじゃねーぞ、ごらぁ!!』


 必死に叫ぶ初代だったが、抵抗空しく連行されドアの向こうへと連れて行かれるのだった。


『見るな。見るんじゃねー!!』






 そこはのどかな農村の光景が広がっていた。


 ウォルト家の開拓時代。領主貴族として始まったばかりのウォルト家は、ここから始まったとも言える。


 そんなのどかな光景なのに、農道の両脇に筋骨隆々な男たちが整列していた。蛮族スタイルの男たちもいれば、元から村に住んでいる農民の姿もあった。


 そんな農道を一人の女性が歩いてきた。


 長い茶髪をポニーテールにした体格のいい女性が歩いてくる。その後ろには、女性二人が付き従っており、更に後ろには重そうなグレイブを持った男性が付いてきていた。


 整列した男性たちが一斉に頭を下げた。


『ご苦労様です、姐さん!』


 揃った声。一糸乱れぬ動き。


 統率の取れた集団のように見えるが、男性たちの顔には怪我が目立っていた。


 二代目が唖然とする。


『え? なんだこの光景?』


 二代目も知らない光景のようで、今では抵抗を止めてその場に座り込んだ初代が顔を隠していた。


『俺と初日にタイマンやって、次には文句のある奴全員を相手に戦いやがった。辺境のノンビリした村だと思っていたが、血気盛んで結構! とか言いやがったんだよ。反対する連中がいなくなって……ちくしょう』


 女性は男たちを一瞥すると、小さく頷くのだった。


『朝から元気だね。さっさと仕事に戻りな!』


 そこから自分たちの仕事に戻る男たち。


 三代目がドスの利いた初代の奥さん――【アマンダ】を見て、口を開け驚いていた。


『お婆ちゃん怖っ!』


 初代が三代目を見ながら叫ぶ。


『お前らはマシだ! あいつが丸くなった時しか知らないんだからな。お前、あいつの若い頃とか本当に――』


 すると、アマンダさんが村にある屋敷へと到着した。大きく息を吸い込むと、男性が持っていたグレイブ――鉄の塊とでも言うべき刃が付いた得物を手に取り、刃とは逆の部分を地面に叩き付け声を張り上げる。


『いつまで女々しく泣いているつもりだ、バジル! さっさと出て来るんだよ! 出てこないなら、玄関先を破壊してでも外に出すからね!』


 初代は両手で顔を覆っていた。耳まで真っ赤にしている。


 すると、記憶の中の初代――バジルがフラフラと酔った状態で出て来たのだ。


『うるせぇぞ、このアマ! おれにはありすさんというこころにきめた~』


 酔って呂律が回っていないバジルに近付くアマンダさんは、胸倉を掴み上げ大男である初代を持ち上げた。


 しかも片腕で。


『いい加減にしな! こっちはもう嫁ぐ準備が出来ているんだよ。黙って私を嫁にすればいいんだよ』


『そんなの嫌じゃぁぁぁ!!』


 初代が泣き出していた。どうやら、まだアリアのご先祖様であるアリスさんを思っているらしい。


 七代目がボソリと。


『酷い絵面ですな』


 ――確かに、大の大人が失恋で女々しく泣いている姿というのも情けない。しかも、失恋後から時間はだいぶ経っているはずだ。


 アマンダさんが溜息を吐き、バジルを下ろす。その場に座り込むバジルは、初代の姿とやはり似ていた。


 無精髭、どうにも不健康そうなバジルを見てアマンダさんが後ろの付き人たちに指示を出すのだった。


『ほら、屋敷に入って掃除をするよ。まったく、せっかく私と張り合える奴を見つけたのにこんなに女々しいとは。もっとしっかりしな! これからは私の旦那になるんだからね』


 バジルが泣いている。


『俺はもっとお淑やかで優しくて……』


『なんだって! 十分にお淑やかで優しいだろうが。今から本気を出してもいいんだよ』


 バジルがアマンダさんを見上げつつ。


『……くそっ、どこで間違ったんだ』


 そう言ってまたしても持ち上げられ揺すられていた。結果、初代が根負けする形でアマンダさんが屋敷へ入る事に。


 グッタリしているバジルを見ろし、アマンダさんが宣言する。


『家の事は任せな。旦那であるあんたが心置きなく暴れられるようにしてやる。だから、ふざけた事をしたら承知しないからね!』


『……はい』


 バジルの姿を見てから、俺は視線を初代へと向けた。


「亭主関白」


 ボソリと呟くと、初代が肩身が狭そうに小さくなっていた。


 この女傑――アマンダさんを見て、歴代当主たちが輪を作って話し込んでいた。


『おい、もしかして家の女が強いのって』

『うん、多分だけど……お婆ちゃんが原因かも』

『可能性がありますね。ウォルト家の雰囲気を作ったという意味では間違いなく……』

『嫁いでくるまで嫁たちは普通だったもんな。嫌な風習が出来た瞬間だな』

『昔はみんな優しかったのに、ウォルト家に嫁ぐと変わってしまいましたのはこれが原因か』

『六代目のは自業自得です。一切擁護できません』


 ウォルト家歴代の妻たちも、何かしら問題があったようだ。


(……ウォルト家は大丈夫なんだろうか?)


~過去~

ライエル( ゜∀゜)「亭主関白w」


初代(#゜Д゜)「てめぇ! 上等だ……表に出ろぉ!」


~現在~


ライエル( ´;ω;)「……誰か助けて。嫁が怖いよ。胃が痛いよ」


ライエル(´;ω;`)「……」


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亭主関白の関白とは天皇陛下の代行でナンバー2である 妻は天皇でナンバー1になる
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