幕間 ベイムでの日常 シャノン編
外伝は終わったけど、更新は続けるよ。
幕間とか。
ライエル一行がベイムに入ってしばらくした時。
依頼も終わって戻ってくると、ライエルは手帳を広げていた。そこに記されているのは、仲間たちの名前と日付。そして、これまでの対応が書かれている。
それらを見ながら、ライエルは満足そうに頷いた。
「もう、これで大丈夫ですよね。今月はこのままノンビリできますよ」
そこに書かれていたのは、ノウェムからメイまでの仲間たちへの対応だった。プレゼントをしたか、デートをしたか、話をしたか……細かく書かれており、しっかりと管理していたのだ。
しかし、普段は他の歴代当主たちよりも口数の少ない五代目が大声を張り上げた。
『馬鹿野郎ぉぉぉ! シャノンが極端に少ないだろうが!』
慌ててライエルが手帳を確認すると、確かにシャノンとの時間が少なかった。ただし、ライエルは安堵している。
「なんだ、シャノンですか。大丈夫です。あいつは俺の事が嫌いみたいなので」
すると、六代目が納得したような声を出してきた。
『そうだな。まぁ、ミランダについてきた部分もあるから、まだそういう関係でもないからな。五代目、ここはゆっくり――』
ただ、焦っている五代目は六代目の意見を退けだ。
『お前は黙っていろ、バーカ! お前がいったいそうやってどれだけの失敗を……俺は散々フォローさせられたんだぞ! それと言わせて貰うけどな……お前ら甘いんだよ! いいか、お前ら全然危機感がない!』
言い切る五代目は、息を切らしながらもライエルに説明する。
『いいか、そういった勝手な考えで、これくらいいいだろう、なんて女には通じないんだよ! 俺がどれだけ細心の注意を六代目の嫁にしてきたか……こいつが地雷女ばかり連れてくるから』
すると、三代目が不思議そうな声を上げた。
『あれ? でもさぁ、家訓通りの嫁だったんだよね?』
その問いに答えたのは七代目である。七代目は、少し哀愁を漂わせるような声を出していた。
『えぇ、間違いなく一人一人では優秀でしたよ。三人の中で、一人がウォルト家に嫁いできていれば、きっとなんの問題もありませんでしたね。三人同時だったから大変だったんですよ』
六代目がか細い声で周りの意見に対して反論する。
『……俺だって二人目でまずいと思ったさ。だけど、二人だと対立して困るから、三人目を見つけてきて……』
ライエルは六代目の解決方法を率直に。
「それ、火に油を注いでいませんか?」
五代目はイライラしている様子だった。
『おかげで俺が苦労したんだぞ。息子の嫁に構うから、俺の方の嫁にもフォローが必要で……とにかくだ! いいか、ライエル。油断だけは絶対にするな。思い込みも捨てろ! お前が囲っているのはか弱い女の子じゃない。虎や熊のような猛獣だと思え!』
流石にソレは言いすぎではないだろうか?
他の面子がそう思っていたが、よく考えればどの面子も一癖も二癖もある。猛獣までとは言わなくとも、危険であるのは確実だ。
そして、シャノンは要注意である魔眼を持っていた。
「まぁ、分かりました。これからシャノンと出かけてみます。どうせ屋台とか歌い手のところに行けば喜びますし」
安易な考えを捨てられないライエルに、五代目は怒鳴った。
『そんな安易な考えでどうするんだよ! もっと細心の注意を――』
すると、ライエルの部屋にノック音が聞こえてきた。宿屋の従業員ではなく、モニカであるのをライエルはスキルで確認すると「どうぞ」と声をかける。
入ってくるモニカは、ライエルが出かける準備をしているのを確認した。
「おや、お出かけですか? 昼食のリクエストを聞こうと思ったのですが、それなら外食ですかね? それで、どちらにお出かけでしょうか? 荷物持ちには、このモニカをご利用ください」
見た目は美少女だが、中身は大人でも負ける力を出すオートマトンだ。荷物持ちには便利だが、外見が女性なのでライエルが本当にモニカを荷物持ちとして利用すると周りの目が冷たいものになる。
ライエルは支度をしながら。
「昼食は外で食べる。シャノンと出かけるからお前は留守番だ」
モニカはライエルの言葉を聞いて愕然とした。
「な、なんですと。このモニカをお供に外出しないと言うのですか!」
ライエルは笑顔で。
「そうだよ。留守番よろしくね」
部屋を出て行こうとすると、しゃがんでいじけながらモニカはライエルを見送るのだった。
「い、いってらっしゃいませ。ちくしょうぉぉぉ!! チキン野郎の、バーカ!」
シャノンに声をかけてベイムの街に出たライエル。
旅芸人が多い場所へと向かうと、その中でも歌い手がいる場所に足を運んだ。しかし、シャノンの機嫌が悪い。
手を繋いで歩いているが、ライエルはそんなシャノンを見て言う。
「なんだよ。歌とか好きだろ」
シャノンは胸元を気にしながら歩いており、そしてライエルに文句を言うのだ。
「五月蝿いわね。ここには最近も足を運んだから、歌とか語りとか聞き終えたのよ。もっと違うところに連れて行きなさいよね!」
(……こ、こいつ、外に連れ出しても文句を言いやがる)
ライエルが腹を立てながらも、聴き終えた歌ばかりでは飽きるだろうと他の場所へと向かう。
「というか、よく外に出かけるのか?」
シャノンは髪をかき上げながらライエルの疑問に答えた。
「お姉様もいるし、エヴァとかよく外に出るからついていくわよ。アリアの場合は屋台巡りとかが多いけど」
「なんだ、エヴァとは仲が良いのか」
ノウェムとミランダ、二人が争っているのでハーレムメンバー内に派閥が出来ている。そのため、ミランダの派閥であるシャノンが、エヴァと出かけているのがライエルには嬉しかった。
「ノウェムが誰かと一緒に出なさい、って。でも、あんまり会話とか弾まないわね、私もお姉様の事があるし、向こうもなんか距離を置きたい感じ?」
ライエルはそれを聞いて、引きつった笑みを作った。
「そ、そうか」
(なんで仲良くしないのかな)
ノウェムとミランダを中心に派閥争いが出来てしまった。出来れば、シャノンを切っ掛けにでも仲直りをして欲しいというのがライエルの意見だ。
そして、最近になってベイムに到着した一座が歌を披露するらしく、それを聞くためにライエルとシャノンはその場に向かうのだった。
エルフの一座で、規模は小さいが元気のある一座だった。
「これから歌いますのは、遠くカルタフスの英雄の歌! 皆様、もしも興味がおありでしたら、是非とも足を止めて聞いてみてください!」
男性エルフがそう言うと、周囲ではカルタフスに興味がないのか客が離れていく。残っている客もいるが、どうやら人気がないようだ。
しかし、エルフたちは表情を変えずに歌を歌い出した。
過去にバンセイムとの戦争で活躍した、カルタフスの英雄の歌だった。
それは小さな姫君を守り戦った騎士の話。
ただ、最後に姫君は主君の血縁者と結婚し、騎士は独身を貫いたという話だった。
ハッピーエンドではない歌だった。
(なんか微妙だな。ラストを知っているから、客が離れていったのか?)
ライエルが歌を聴きながらそんな事を思っていた。しかし、シャノンの方は手を握って真剣に聞いており、水を差すのも嫌なので黙っている。握った手を顔の近くに持っていき、真剣な様子のシャノン。
すると、四代目が呆れたようにライエルにアドバイスをした。
『ライエル、シャノンの胸元を見なさい。セントラルで購入したお土産が見えるかな? 終わったらそれを褒めてあげるんだよ』
三代目が、四代目に言う。
『なんだ、もう言っちゃうの? 気付くまで待てば良いのに』
四代目は呆れつつも、三代目に言うのだ。
『ライエルの成長はともかく、シャノンが可哀想でしょうに』
言われて気が付くと、シャノンは胸元にバンセイムの首都セントラルで購入した首飾りを付けていた。安物だが、まだ大事に持っているようだ。
歌が終わって拍手が起きると、シャノンは大きく拍手をしていた。硬貨を投げ込む客たち。ライエルは、シャノンの喜び様を見て、財布から銀貨を一枚取り出した。
どうやら、今回の歌を気に入ったようだ。
「新しい歌よ! いいわね、私は気に入っちゃった」
喜ぶシャノンに、ライエルは微笑みながら硬貨をエルフの一座が置いた入れ物に入れた。すると、エルフたちが慌てて綺麗なお辞儀をしてくる。
大銅貨でも貰えれば良い方だ。客足を見ても人気はなかった。
だが、ライエルが銀貨を一枚投げ入れたのだ。
(まぁ、シャノンも喜んでいるし、いいか)
「また来るよ」
「ばいばい!」
シャノンの手を引いてその場を去る。
ライエルは周囲に人がいなくなると、シャノンに言うのだった。
「その首飾り、ちゃんと持っていたんだな」
すると、シャノンが少し驚きつつも、照れたようにライエルに言うのだ。
「あ、当たり前じゃない。今更気付いたの?」
二人で笑いながら食事をするためにどこか店を探して歩くと、五代目は本当に安堵したように言うのだ。
『ほら見ろ。ほら見ろよ! ……もう、デレデレじゃないか。危なかった。これ以上の放置は絶対に危なかったからな!』
六代目が、五代目に詰め寄られているのか慌てたように言う。
『そ、そうですね。お、俺の間違いでしたから、そんなに責めないでくださいよ』
五代目は、意外なところで六代目に苦しめられていたようだ。
五代目(;´Д`)「嫁いできた息子の嫁三人のフォローが一番大変でした」
六代目嫁s( ゜言゜)「お義父様、なにか言われましたか? それよりも……ファインズはどこでしょう? それと、愚痴を聞いて頂けませんか?」
六代目(; ・`ω・´)「すみませんでしたぁぁぁ!! あ、【セブンス 1】は重版が決定したみたいだな。そのついでに許してください!」
五代目(ヽ´ω`)「ハハハ……絶対に許さない。絶対に、だ。今日も動物たちだけが癒しだ」
五代目嫁s( ゜言゜)「旦那様が息子の嫁に取られそう……絶対に許さない。これだから嫁は嫌いなのよ」