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三嶋与夢のメモ帳  作者: 三嶋 与夢
せぶんす・あふたー
29/63

えぴろーぐ「俺なら走って逃げるね」

これにて外伝は終了となります。

何故か続くような雰囲気の感想欄を見てビックリ。

自分、ちゃんと一章分だけで、パラレル設定だ、って書いたよ。書いたよね?

『れおサマ素敵!』


「れおサマ素敵! 本当に最高でした。後で観賞できるように、機材を用意してステルスモードで撮影していた甲斐がありましたね。『俺を呼ぶときは様を付けろ』ですか。まさかの俺様タイムですね。ですが、図に乗らないでください。……チキン野郎のフィーバータイムには遠く及びませんよ」


『……お前、止めろよ。本当に止めろよ』


 古傷を抉られて先程までの威勢の良さがなくなったライエル。


 しかし、それ以上に落ち込んでいるのは、レダントコロニーの上層。そこにある小さな一戸建ての家を借り、自室のベッドの上で毛布に包まっているレオだった。


 もう朝だというのに、ハンター養成校へと向かう準備をしていない。


 いや、出来ないのだ。


「……なんでこんな事に。俺……俺は……」


 ライエルは弱っているレオを宝玉内から見て、大笑いをしていた。


『まぁ、衝撃的なデビューだったよな。それよりお前はウルハルトに感謝しろよ。ずっとフォローされていたんだぞ』


 初日の授業――成長後とあって、本来ならレオは自宅待機が可能だった。しかし、俺様状態のレオは「そんな事で俺の時間を無駄に出来るか。出席するぞ」そう言って、ナナヤを喜ばせてしまった。


 モニカも記録をしっかり残せてホクホク顔だった。


「だって。聞いていましたけど、普通は高揚感に包まれミスをしやすい、って。それだけだ、って!」


 言い訳をするレオに対して、モニカは笑顔で説明するのだった。


「成長には個人差がありますからね。体調不良が短く、あまり酷くない場合はそういった事もあります。でも、かなり酷かったので、その分だけレオ様は成長していると思いますよ」


 ライエルもその辺りのことをレオに説明する。宝玉との間にラインが出来ているのだ。レオの事はライエルの方が詳しい。


『全体的に成長後は能力が上がっている気がする。だが、一番は魔力関係だな。レオ、お前は魔力特化じゃない。他も伸びつつ、魔力が極端に伸びている。魔力の伸び率だけなら俺を超えているぞ』


 それを聞いて、本来なら嬉しがるはずのレオ。しかし、今は養成校に恥ずかしくて通う事が出来ない。


 恥ずかしさでそれどころではなかった。


「なんで誰も俺を止めてくれなかったんですか!」


 ライエルとモニカは嬉しそうに言った。


『馬鹿。俺はコレが楽しみで仕方なかったんだぞ』


「私もです。まぁ、チキン野郎には劣りますが、レオ様は私が知る中でも上位ですよ」


 かつて、帝国を見続けてきたモニカからすれば、ライエルの子孫の成長後を見るなど簡単だった。


 それらを記録するのが、モニカの楽しみでもある。


「でも、これから期待できるという意味では、チキン野郎に続いて二位ですけどね。今後が楽しみな逸材ですね」


 ライエルも興奮気味に言う。


『その他の才能とか、考えとか甘いし拙いけどな。だが、成長後のお前ならかつての俺を簡単に超えていけるはずだ。期待しているぞ、れおサマ』


 レオは毛布から顔を出すと、二人に向かって怒鳴った。


「あんたら楽しんでいるだけじゃないか! 俺のこれから先を少しは心配しろよ!」


 すると、ブザーが鳴る。


 誰かが家を訪れたのだ。モニカが確認しに行くと、どうやらウルハルトが迎えに来たらしい。






 養成校の教室。


 そこには、ウルハルトの隣で肩を落として暗い顔をしているレオがいた。


 ウルハルトが心配して家まで顔を出し、教室まで連れて来たのだった。周りでは、レオと同じ年齢の少年少女が、クスクスと笑っていた。


「れおサマ来たよ」

「よく来られたわよね」

「れおサマ落ち込んでるな」


 レオの事を“れおサマ”と呼ぶ周囲。


 その度にレオの心は抉られていた。もっとも、大きないじめに発展すると言うよりも、からかわれているだけだ。


 周囲にはレオを睨み付けている者たちもいる。衝撃的なデビューだったために、反応はそれぞれ、というところだった。


 ウルハルトは、そんなレオに声をかける。


「元気出せよ。誰にだって多かれ少なかれ、そんな思い出はあるんだ。お前はそれをたまたま見られただけだ。そう思えよ」


 レオは暗く、青ざめた表情でウルハルトの顔を見上げた。


「ウルハルトは優しいな」


 すると、ウルハルトが照れた。


「ば、馬鹿! 同郷の奴を気にかけているだけだ。当然だろうが! おっと、もう一人来たな」


 もう一人、とは、同じ長テーブルを使用している三人目。エレノアのことだった。


 コートを着て周囲を近づけさせない雰囲気を出している。フードをかぶっており、顔が見えなかった。


 ウルハルトは溜息を吐く。


「昨日はお前の隣で色々と迷惑をかけたから、謝っておけよ。俺も一緒に謝るから」


「う、うん」


 宝玉内のライエルは、ウルハルトの対応に驚いていた。


『なんだこいつ。本当にエアハルトの子孫なのか? 頼りになりすぎるじゃないか。まぁ、そんな奴に気にかけて貰って良かったね、レオ』


(本当に良かった。ウルハルトがいて、本当に良かったよ)


 一人だったら二日目から不登校になっていたかも知れない。レオはそう思いながら、自分のとなりに座ったエレノアに声をかけた。


「き、昨日はごめんね」


 すると、エレノアはレオの顔を見るとすぐに視線を外す。ライエルは、その様子を見て安心していた。


『ふぅ、良かったな。嫌われているぞ』


 レオはエレノアの対応にガックリしていた。ウルハルトもエレノアに謝っている。ただ、エレノアはウルハルトに対して小さく頷いていた。


(俺だけ嫌われた! 全然良くないよ)


 肩を落とすレオに、ライエルは声をかける。


『馬鹿、もっと喜べよ。この子、たぶん強いけどなんか地雷臭がするんだよね。どうにも俺の背中がゾクゾクする。いいか、レオ……女は怖いんだぞ』


 今までになく真剣なライエルの声に、レオは宝玉を指先で転がした。否定的、あるいは説明を求める時には、こうするようにライエルに言われている。


『お前は俺と同じだ。俺の勘がそう言っている。きっと女性で苦労するから言っておくぞ。お前……割と顔は良いよな。そんなお前が優しくすると、周りは勘違いするぞ』


 レオからすれば、十三番コロニーでは酷いいじめを受けていた。なので、顔が良いとか悪いとかを気にする暇がなかった。


 それに、女子にだっていじめられている。自分の顔が良いと言われてもピンとこない。


『それに俺は嫁が二十五人もいた。他にも色々と女性を見てきたから言うが、あれは危険だ。仲良くなると色々と面倒なタイプだ。レオ、俺を信じろ! 女性問題で苦労してきた俺には分かる!』


 力説するライエルだが、レオからすれば説得力がない。何しろ、顔が良いと言われても今まで気にしてこなかった。


 それに、恋愛感情はないが、出来るだけ養成校では友人を作りたかったのだ。


(はぁ、友達作りは失敗か。でも、ウルハルトがいるし、少し安心……)


 すると、隣のエレノアがレオの袖部分を引っ張る。そして、机の上に飴を置いた。


「え?」


 エレノアはフードで顔を隠しながら、ボソボソと言う。レオから見える位置では、エレノアの口元と頬しか見えない。


 ただ、頬が赤くなっている気がした。


「あ、あげる。それ、お気に入りだから……お、美味しいから」


 すると、レオは嬉しくなった。机の上にはいくつかの飴が載っており、ソレを手にしてエレノアにお礼を言った。


 すると、ライエルが驚愕していた。


『な、なんだ、と……すでに落ちているのか?』


 レオは複数あるのでウルハルトにもお裾分けをする。


「ウルハルト、エレノアさんから飴を貰ったよ。ほら」


「お、ありがとう。なんだ、仲良くなったのか」


 安心するウルハルトは、飴を口に入れた。美味しいのか、ウルハルトも笑顔になっていた。レオも飴を口に運ぶ。


 すると、エレノアはモジモジしていた。


「どうしたの?」


「え、あ……エ、エレノア。呼び捨てで良いから」


「うん! 俺もレオでいいよ!」


 顔の赤いエレノアに、レオは笑顔で頷いた。すると、更に顔は赤くなった。放心していたライエルが叫ぶ。


『ば、馬鹿野郎! なんで止めを刺すんだよ!』


 レオには理解できないが、エレノアに嫌われていなくて良かったと安心するのだった。


(なんだ、ご先祖様も大げさだな)


 叫ぶライエルの声を無視するレオ。


 しかし、レオが悪い訳でもない。今までいじめに遭い、まともな交友関係を育んでこなかったレオからすれば、エレノアの対応は嬉しいものだ。


 受け入れて当然だった。


 そしてなによりも……レオには女性に対して圧倒的に経験が足りていなかった。ライエルの忠告を聞いても、理解できなかったのだ。


 頬を染めるエレノアは、レオを見ていた。ライエルは叫び続ける。声がかれるのではないのか、というくらいに叫んでいた。


『に、逃げるんだ、レオ! お前は本当に馬鹿なのか! いいか、相手が頬を染めてこちらを見たら……全力で逃げるんだよ! 俺なら走って逃げるね。それこそ、スキルを全て使用してでも逃げるぞ! いいか、お前はそうやって気がつかない内に、泥沼にはまっているという事を理解――』


 すると、教室にナナヤが入ってきた。チラリとレオが教室にいるのを確認すると、軽く頷いていた。


 少しは心配していたのかも知れない。もっとも、登校拒否をしようものなら、喜んで個人授業をする可能性も高かった。


「さて、今日も全員が遅刻をしないで着席――」


「おはようございまーす!」


 ナナヤの後に教室に入ってきた少年がいた。赤い髪をした少年は、首元に赤い玉を下げている。


 昨日は気が付かなかった。というよりも、昨日は出席をしていない生徒だった。


 ナナヤは名前を確認した。


「……アルス・ロックウォード君、ね。昨日は無断欠席しているわね」


 すると、教室に滑り込んできたアルスは立ち上がりつつ服についた埃を払う。なんとも派手な服装をしており、頭にはバンダナを巻いていた。


「あ、あれ? 新しい先生? というか、ナナヤさん! おっと、無断欠席をした理由ですね! 実は、登校中に腰を痛めたお婆さんを見つけ――」


 ナナヤはアッサリと否定をする。


「はい、嘘ですね。その理由は前々回にも使用していると、報告書に書かれています。言い訳をローテーションするなんてなにを考えているんですか」


 アルスは項垂れた。


「す、すいません。本当の理由は、病気の妹が心配で――」


「はい、それも嘘ですね。貴方には姉はいても、妹はいません。しかもあなたの姉は現役のハンターじゃないですか」


 全ての言い訳が通じないと悟ると、アルスは顔を上げて堂々としていた。


「あぁ、そうだよ。嘘だよ。なら、どうする、って言うんだい、ナナヤ先生」


 先程とは違う態度に、ナナヤは腕を組んで少し考えた。すると、アルスはレオの方を見る。


「あれ、なんか新しい顔がいるな。そこのタンクトップは……あぁ、バウマンだ! 十三番コロニーのバウマン!」


 ウルハルトが嫌そうな顔をする。別に馬鹿にされてはいない。どうやら、ウルハルトの知り合いのようだ。レオがウルハルトにたずねた。


「誰?」


「レダントの名家出身だよ。ロックウォード家の姉弟――アリスとアルス。その弟」


 すると、アルスがレオを見た。


「ねぇ、あいつ誰?」


 教室内の生徒の一人が、レオについて話した。すると、アルスはいきなりつまらなそうにする。


「なんだ、雑種かよ」


「ざ、雑種!?」


 いきなりの雑種扱いに、レオは驚く。ライエルはレオが地雷女を引き当てたと言いながら、落ち込んでいて周りのことを見ていなかった。どうやら、過去を思い出しているのか、酷く落ち込んでいる様子だ。


『お前……俺が全力で逃げてもノウェムは笑顔で肩を叩いてきて、振り返るとそこにいて……ミランダなんか、逃げ出す前にそこら中に罠があって逃げられない状況で……なにが今日は久しぶりに、だ。俺は毎日だぞ。毎日。アリアとかヴェラとか……まぁ、オマケでシャノンがいなかったら本当に危なかったんだぞ。皇帝の死因が女性、って……ハハッ』


 アルスはレオを見て指を指した。


「ここはスカウトされた人間が集まるクラスだ。お前には不釣り合いなんだよ。いいか――」


 すると、ナナヤが出席簿をアルスに振り下ろしていい音を立てた。


 涙目のアルスが、ナナヤを見上げる。


「あの、俺はコレでも名家の――」


「そうですね。理解していますよ。だから、模範的な行動をするように心がけましょうね。まぁ、遅刻した上にクラスメイトを馬鹿にする発言……よろしい、今日は首にコレを下げましょうか」


 そこには、首から提げる看板があった。『私は遅刻をしました』と書かれている。抵抗しようとするが、ナナヤ相手とあってアルスも引き下がった。そして、首にその看板を下げて席に着く。


「……覚えていろよ、雑種。――ヒッ!」


 レオたちの座っている場所を横切る時、アルスはそう言って歩き去ろうとした。だが、レオの隣に座っていたエレノアを見て、アルスは小さな悲鳴を上げた。レオがエレノアの方を見るが、何事もなく普通にしている。


 ウルハルトは、アルスが通り過ぎると言う。


「あの性格だろ。好きになれないの。まぁ、悪い奴でもないんだけどさ」


 アルスに対して、ウルハルトは微妙な評価をしていた。そして、ナナヤが手を叩いて全員の視線を集めた。


「それではホームルームの時間です。それと、遅刻者が出たので改めてここで注意しておきます。いいですか、ここは将来優秀なハンターとなる者たちを育成する場。やる気がない者は出ていって貰って結構です」


 皆が真剣な表情になる。それを見て、ナナヤは微笑む。


「よろしい。では、今日からこのクラスで頑張っていきましょう」


 こうして、レオの新しい生活が本格的に始まるのだった。


『……あれ? 何かあったの?』


(もう、この場は黙っていてください、ご先祖様)


ライエル( ・д・)「……え? 嫁が頬を染めてモジモジしていたらどうするか、だって?」


ライエル:(;゛゜'ω゜'):「決まってるだろ! 逃げるんだよ! それでも駄目なら、明日の朝日を拝めるように祈るんだよ! もしくは子供や仕事を理由に拒否だ! いいか、俺の体は一つしかない。一つしかないんだよ……」


レオ(;゜Д゜)「なんだろう。こう、心の声というか悲鳴として伝わってきますね」


モニカ( ;∀;)「チキン野郎は……頑張りましたよ。頑張ったんです」


ライエル(ヽ´ω`)「書籍版のセブンスもよろしくね……一巻は発売中だから……だから……新しい女の子が登場しているのに、今から戦慄を覚えるけど」


レオ(;゜Д゜)「あ、宣伝はするんですね」

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[一言] 終わり……だと……!? せめて歴代全員起きてベストれおサマ賞審議会を!
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