第十三話「お前はよくやったと思うよ」
去年の今頃にスタートした【セブンス】は完結し、今は外伝の【せぶんす】を書いている。一年通してセブンス漬けの毎日でした。
そして、明日の12/28日は【セブンス 1】が発売!
セブンスを、これからもよろしくお願いいたします!
互いにスキルを発動したレオとウルハルト。
試合会場では、そんな二人の戦いに注目が集まっていた。元々、名門であるバウマン家のウルハルトを見ていた観客たち。
それが、レオというダークホースの登場に試合から目が離せなくなっていたのだ。魔具によるスキル使用者同士の戦い。
時代は移り変わり、魔具による強化が一般的となった世界。魔具の使用が、勝敗を分ける事も多かった。
レオの赤い刃と、ウルハルトの黒い刃がぶつかり合う。
しかし、レオの持っている武器の性能が高いために、黒い刃は欠けが目立っていた。ウルハルトの表情には少しだけ焦りが見えている。
剣技では圧倒的にウルハルトが優位だが、レオには【オール】というスキルがあった。自身を中心とした球体状の空間内――レオは、ウルハルトの動きを感じ取っている。
そのため。
「そこ!」
「くっ!」
防戦一方だったレオが、ウルハルトに対して攻撃を仕掛ける場面もあった。刃を短くし、振りやすい長さに調整しているのだ。
拙い動きだが、少しずつ――レオは、ウルハルトの動きに対応し始めていた。
基礎だけ教えられたレオの動きは、ウルハルトのように積み上げられた技術のような美しさはない。
だが、荒々しく力任せな部分も見えるが、ある種の我流というものが出来ていた。対極に位置するような二人。
そうした戦いが続く中、ウルハルトの大剣には限界が来ていた。どちらも希少な素材を使用した武器。しかし、レオの武器【ヤマタノオロチ】は、ライエルとモニカが作りだした帝国時代の傑作とも言えるものだ。
確かにウルハルトの黒い大剣も素晴らしい出来だが、素材からして違う。
レオが横薙ぎに剣を振るうと、刃が伸びて遠心力が高まった。ライエルのスキルである【エクスペリエンス】が、戦いの中でレオを成長させていく。
「これならぁぁぁ!!」
ウルハルトは伸びた刃に舌打ちをしていた。受け止めるための構えをしており、今更変更する訳にもいかなかった。
黒の大剣で受け止めると、そこで大剣にひびが入る。
そして、スキルが刻まれた大剣が破壊されるという事は、ウルハルトがスキルを使用できなくなるのと同じ事だった。
「ちっ!」
飛び退くウルハルトは、レオから距離を取る判断をする。
だが、そんなウルハルトをレオは逃がそうとしない。気持ちで負けないために、レオは前に出ようとしていた。
ライエルが溜息を吐く。
『まぁ、戦い慣れてないから仕方ないか』
周りもまさかウルハルトの黒い大剣が壊れるとは思っていなかったのか、武器を持っているレオの勝利を確信していた。
三階では、ベイラルが息子の方を見ていた。
武器が破壊されたというのに、慌てる様子がない。ハルバがベイラルに向かって上から目線で言うのだ。
「審判に言って試合を中断させましょうか? なに、流石にハンター試験は合格させてあげますよ」
勝敗に関係なく、実力を示せばハンターにするのがこの試験の目的だ。だが、ハルバはその辺りを勘違いしていた。いや、ハンターの才能を見抜けないでいた。
フランディアは、ベイラルに言う。
「息子が不利だね。相手の武器を見るに、棄権させた方がいい。一撃でも貰えば致命傷になりかねないよ」
レオの持つ武器は強力だ。なので、棄権させろとフランディアが言う。しかし、ベイラルは首を横に振った。
「確かに不利ですな。しかし、相手が魔具を持っていなくても、ウルハルトは魔具を持って相手を倒したはず。不利になったからと棄権させる訳にはいきません。それに、これは好機です」
好機というベイラルの言葉に、フランディアは少し笑っていた。
「確かに、好機ではある。総合的に見れば互角か、少し格下の相手。状況は不利になったが、それでも――勝てないわけでもない」
ウルハルトとレオ――違いは環境だ。
レオは中層の下部で、貧しい生活をしていた。日々の生活に時間を取られ満足に自身を鍛える事も、情報を集めることもできなかった。更に言えば、周りから馬鹿にされ孤独な環境だ。
対して、ウルハルトはS級ハンターである父を持ち、上層出身で鍛える環境が整っていた。
名門――積み上げられた知識や経験を元に、ウルハルトは最高の環境で鍛えられていたのだ。
地力が違って当然である。
ベイラルは言う。
「この不利な状況でこそ、息子の価値が問われます。不利になった程度で逃げ出すのなら、ハンターになどならない方がいい。ここが正念場です」
当初、この試験への参加を不満に思っていたベイラルだが、レオの登場でそんな事は気にしなくなっていた。
むしろ、ここまでウルハルトを追い込んだのだ。レオに賞賛の言葉を送りたいくらいだ。
五人の中で無視されるハルバは、苦々しい表情で試合をしている二人を見ていた。
エレノアはそんなハルバを横目で見た後に、試合に視線を戻す。
そして、ポツリと。
「――発現する」
そう言うのだった。
ウルハルトは、目の前のレオを見ていた。
赤い刃を振るうレオの動きはデタラメだが、試合中に自分の動きに合わせた動きを見せていた。
(こいつ、強いな。武器も破壊された。タンクトップもボロボロだ)
胸辺りを薄く斬られていた。
デタラメに剣を振り回すために、ウルハルトはレオの動きを予測できない。なのに、相手は自分の動きを予測した動きをする。
(丸腰。しかも下手に踏み込めない。くそっ! 最初に侮って大振りなんかしなければ良かった)
自分の行動を反省しつつ、ウルハルトはレオの動きを見ていた。壊れた大剣の柄を握り、なんとかレオの攻撃をしのいでいる。
ただ、幸運なこともあった。
レオがウルハルトを倒すために前に出るようになった。今までの受け身中心から攻めへの変更。
それにより、当初の関係が逆転していたのだ。
今は、ウルハルトの方が冷静だった。
(せめて、もう少しだけ相手の動きが見えれば……)
レオの一撃を避け、そしてウルハルトは間合いを詰めた。レオに対して一撃を与えるためだが、それを予見していたレオのよって防がれる。
(デタラメな癖に、基本はしっかりしてやがる。いったい、誰に戦い方を習ったんだ?)
チグハグなレオ。
デタラメな戦いをしているが、基礎だけはしっかりとしていた。しかし、これだけ基礎をしっかり教える相手なら、戦い方ももう少し整った――いや、これだけデタラメな戦いを教えるとも思えなかった。
(基礎だけ教えられたのか?)
ウルハルトはレオの現状を知らない。しかし、チグハグであるのは感じ取っていた。
(……センスはある。だが、積み上げてきたものは俺の方が上)
ウルハルトは、これまでの特訓を思い出す。父や周りに鍛えられてきた。教えられた事が出来なくて、泣いたこともある。
それが悔しくて、手の平から血が出るまで剣を振るった日もあった。
レオが刃を短くして短剣並にすると、ウルハルトとの距離を詰めた。
「あぁ、もう! そういう嫌な事ばかりしやがって!」
不利な状況。しかし、ウルハルトは落ち着いていた。すると、ドクンッ――と、自分のからだが脈打つのを感じた。
「これなら!」
短剣並に短くした剣で、レオはウルハルトに斬りかかってきた。だが、ウルハルトは持っていた剣の柄をレオに投げる。
すると、レオがそれを避けたので――。
「ここっ!」
――レオを蹴り飛ばした。
脇腹を蹴られたレオは、口を開けて少し唾を吐いた。剣でウルハルトに攻撃を繰り出すが、ウルハルトはそんなレオの攻撃を避けて拳を叩き込む。
「甘い!」
「ッ!」
レオは頬を殴られ、体勢を崩した。レオの動きが手に取るように分かる。いや、まるでスローに見えていた。
ウルハルトの動体視力が、強化されていたのだ。レオがウルハルトから逃げるように転がり、そして距離を取った。
ウルハルトは拳を構えると、呼吸を整える。
「へぇ、これがスキルか。……【アイサイトブースト】。いいね」
視力を強化するウルハルトのスキルが発現した。それは支援系のスキルだ。視力を強化することで、動体視力も向上したのだろう。ウルハルトには、レオの動きが手に取るように分かる。
そうなると、後は簡単だ。レオのデタラメな動きに対応すればいいだけなのだ。そして、ウルハルトは言う。
「お前には感謝する。俺は、スキルを手に入れた」
駆け出すエアハルト。レオは足が少し震えていた。
三階では、ウルハルトの動きが目に見えて変わるとベイラルが目を見開く。
「……でかした!」
やはり息子を心配していたのか、ベイラルは拳を握って安堵していた。
エレノアは、コートのポケットに両手を突っ込んでいた。
「視力が向上しています。支援系ですね」
フランディアは口笛を吹く。
「視察に来た甲斐があったね。スキルの発現をこの目で見られた。しかし、地味だが便利な支援系か……どちらかというと、好戦的だから発現するなら前衛系のスキルかと思ったよ」
ナナヤは、スキルの発現を目の前にして興奮する一同を横目で見ていた。
(青い宝玉に干渉を受けましたね。宝玉はスキルが発現しやすくなりますから。それにしても、これで一気に形勢は不利になりましたか)
レオが一気に不利になる状況を見て、会場はやはりウルハルトには勝てないのだと興奮が冷めている様子だった。
(ここからの巻き返しは流石に不可能でしょうね。ですが、これからが楽しみな少年でもあります)
レオの事を評価するナナヤ。
ただ、レオはまだ諦めていない様子だった。
『良いのを貰ったな。足が震えているぞ』
「あ、くっ!」
先程まで攻勢をかけていたレオが、ウルハルトのスキルの発現と同時に立場が逆転した。
今度はレオが防戦一方になっていたのだ。
『まぁ、基礎が違う上に厄介な支援系みたいなスキルが発現か。勝率がかなり下がったな。でも、これだけやればいいだろ。レオ、負けを認めるか?』
「い、嫌です!」
レオが剣を振るうと、剣の腹部分をウルハルトは蹴り、レオの体勢を崩すとそのままボディに拳を叩き込む。それだけではない。ローキック。そして顔面にジャブを放ってきた。
体術も鍛えられているウルハルトに、武器を持っているレオは太刀打ちも出来なかった。
『別に恥でもないぞ。地力が違う上に、相性の良さそうなスキルまで発現したんだ。相手が一段上に上がったようなものだしな』
レオは、それでも。
「それでも!」
前に出ると、ウルハルトが一歩下がってレオの腹に蹴りを入れた。先程までのウルハルトとは、動きがまるで違っていた。
いや、動きに迷いがなかった。それだけで、レオでは太刀打ちできない相手になってしまったのだ。
ライエルの言う通り、今のウルハルトにとって視力を強化するスキルは相性が抜群だった。積み上げてきた地力を惜しみなく発揮できるスキルだ。
ウルハルトは、レオを見て黙って構えている。
油断などしていない。
『……この試合で一皮むけたか? まぁ、相手は格上だ。ここまでよくやったよ。それに、ここで負けても別に問題ないぞ。お前はよくやったと思うよ』
ライエルの投げやりな物言いだが、実際問題としてそれだけの実力差が生まれてしまったのだ。
レオが、息を切らしながらライエルに言う。
「か、勝てない勝負はしない主義だと言っていましたよね。俺はどうやれば勝てますか?」
まだ諦めないレオ。
『若いね。世の中、嫌でも戦わないといけないときが来るんだよ。勝てる勝負だけしていられない時もあるの。それに試合だし、負けても次がある。お前に足りない物は自分でも分かっただろ? 収穫もあったんだ。今はそれでいいじゃない――』
「――勝ちたいんです!」
大声を張り上げるレオ。周囲は、レオがおかしくなったのかと思った。ウルハルトも目を細めている。
「俺は、勝ちたい。ここで負けたら……負けてもいいなんて思ったら……もう、手が届かない気がして」
ライエルは少し嬉しそうだった。
『ここで負けて無難な選択肢も悪くないんだが……悔しいと思えるなら、まだお前は先に進める。強く願え。お前はどうなりたい? 強いイメージを思い浮かべろ』
レオは、そう言われて魔法が思い浮かんだ。自分が得意な火の魔法。
発動した時は感動した。
すると、レオは体が温かくなったのを感じた。動き回り体温が上昇した、というものではない。炎が纏わり付くイメージだ。
レオは真っ直ぐウルハルトを見た。ウルハルトも驚愕している。
ライエルは笑い出した。
『レオ……お前も才能あるよ。まさかこのタイミングで発動するとは思わなかった。ほら、お前のスキルの名を叫べ。お前の新しい力だ。お前だけの力だ』
レオの周りに炎が纏わり付くと、レオは剣を鞘にしまい込んだ。拳を構える。
剣を握ったのはここ一ヶ月。しかし、これまで鍛えてきたのは己の拳だ。何をしていいのか分からず、拳を振るっていた。
我武者羅に、そして初めて披露したのは学校を卒業した日にガキ大将を殴り飛ばしたときだ。
構えると、ウルハルトがレオを警戒する。
「【ガーディアンフレーム】……俺のスキル」
炎はレオを焼くことなく、纏わり付く。それはまるで、レオを守っているようだった。
系統的には後衛スキルとも言えなくはない。だが、支援系のスキルだ。青の宝玉を持つレオには、他の系統のスキルは発現しにくい。
ライエルがレオに言う。
『一撃で決めろ。もうお前の体力も魔力も限界だ。それに、発現したばかりのスキルだ。相手を焼くなんて出来ない。器用に扱えていないからな』
発現したばかり。扱いの難しいスキルだった。
『一撃だ。炎を盾に相手に突っ込め。勝てる可能性があるとすれば、もうそれだけだ』
レオは床を蹴って駆け出すとウルハルトに向かう。ウルハルトも、勝負を仕掛けてきたレオのあわせて駆け出した。
互いに勝負を決めるために相手に向かった。
レオヽ(*´∀`)ノ「やりました! やりましたよ、ご先祖様! 俺のスキルが発現しました! これで劇的な勝ち方を――」
ライエル(`・ω・´)「素晴らしい! ……ハッタリに使おう」
レオΣΣ(゜Д゜;)「……え!?」
ライエル(; ・`ω・´)「いや、それ以上の事は無理だからね」




