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三嶋与夢のメモ帳  作者: 三嶋 与夢
せぶんす・あふたー
23/63

第十一話「こんなに立派になって」

 四つに区切られた試合会場が、最後と言う事で全てを使用して行われることになった。


 目の前には会場全ての期待を背負っている黒髪のツンツン頭――ウルハルトが、大剣の柄と鍔だけという魔具を持って待ち構えていた。


 動きやすそうな恰好をしているのだが、問題は上着だ。


 黒いタンクトップを見て、宝玉内のライエルが叫ぶ。


『タンクトップだと。あいつ、まさか二千年も受け継がせていたのか。なんていう執念。ここまで来ると逆に応援したくなるよな。それに、なんかエアハルトに似ているし』


 レオにしてみれば、どうしてそこで食いつくのか理解できない。


 ただ、相手の少年――ウルハルトを見た。


 自分よりも少し背が高い。体は鍛えられており、自信に満ちていた。自慢の魔具を握りしめ、目をつむっている。集中力を高めているようだ。


(今までの人たちみたいに油断していない)


 どこか自分を侮っていたモヒカンのハンター。


 そんな相手とは違い、相手は名門――しかも、十三番コロニーが期待しているバウマン家の嫡男だった。


 レオが緊張して呼吸が乱れてきていると、ライエルが相手を見て言う。


『しかし、随分と鍛えられているな。立ち姿だけでも鍛えているのが分かる。それにあの武器――いや、魔具か。随分とエアハルトをリスペクトしているね』


 レオは少し驚いた。小声で聞くのだ。


「あの、エアハルト、ってもしかして……英雄エアハルトですか? 冒険者として初めて自由騎士になったとか聞いていますけど」


 ライエルは呆れ声だ。


『あいつを自由騎士に任命したのは俺だよ。まぁ、嫌がらせだったんだけどね』


 エアハルトもライエルも単体で有名な人物だ。だが、詳しくなければ、両者の繋がりを知る者は少なかった。


 歴史好きなら知っていても、レオのような子供にはエアハルトとライエルの繋がりまで詳しく知ることはなかった。


(嫌がらせで自由騎士に任命? この人、やっぱりおかしいよな)


 レオがウルハルトの前に立った。


 ウルハルトが目を開け、そしてレオを見るのだった。力強い黒い瞳をしていた。


「俺の相手は君か。よろしく頼む」


 短い挨拶。笑顔でもなければ、侮辱している気配もない。ただ、自分を試合の相手として見ていた。


「よ、よろしく」


 対して、レオは言葉に詰まった。それがとても対照的にみえた。自信のあるウルハルト。不安なレオ。


 すると、ライエルも驚きながら言うのだ。


『嘘だ。あのエアハルトの子孫が、こんなにまともな訳がない! レオ、こいつは偽物かも知れないぞ!』


(黙っていてください!)


 審判が二人の間に立つ。


「今回はハンターの適正があるかを判断する試験です。行きすぎた場合は審判として止めに入りますが……不慮の事故もあると認識していますね?」


 命懸け。


 レオは相手の刃のない魔具を見た。ウルハルトは短く返事をする。


「理解しています」


 レオも続くように。


「は、はい!」


 そう返事をする。すると、ライエルが溜息を吐いた。


『緊張しすぎ。強そうな相手なんだから、自分の実力を試せると思えないかな? まぁ、ここに来て小物が相手じゃないのは喜ぶべきだよ、レオ。楽しんでいこうよ』


(楽しめない。少しも楽しめませんよ!)


 内心でライエルの図太さを羨みつつ、レオはいくつかの注意事項を審判から受けた。基本的に殺しは禁止だが、不慮の事故なら仕方がないという三次試験。死者は出ていないが、それでも病院送りになった受験生もそれなりにいた。


 死亡者が出てもおかしくない試験だ。


 ただ、ライエルたちにはそれがとても甘く感じられているのか、緊張感がない。


 緊張しているレオに、ライエルは呆れていた。


「では、試合を始めます。両者、構え!」


「全力だ。手は抜かない!」


 ウルハルトは本気だった。刃のない大剣型の魔具に、黒い刃が出現する。エアハルトが持っていた大剣よりも細いが、それでも子供が大人でも振るのが難しい大剣を持って構えていた。


 審判が試合の開始を告げようとすると、ライエルが言う。


『モニカ、出番だ』


 すると、会場に赤いメイド服を着たモニカが二階から飛び降りてきた。レオの真横に着地をすると、会場内がざわめく。


「レオ様の魔具であるこのモニカ、今日はメイドとしてではなく武器として参戦いたしましょう!」


 ポーズを決めた後に、深々とメイドらしく頭を下げて周囲の視線を集めるモニカ。


 会場は呆気にとられていた。


 審判がすぐに他の職員に確認を取ろうとすると、モニカはウルハルトの魔具を見た。


「ほぅ、素晴らしい魔具をお持ちのようで。しかし、レオ様もとても優秀な魔具を持っております。お見せしましょう……ポォォォタァァァ!!」


 モニカが左手を掲げ、指を鳴らすと会場の真上から一台のポーターが振ってきた。装甲車タイプのポーターは、レオの真後ろに落下する直前で変形をする。


「なにこれぇぇぇ!!」


 レオも聞いていない展開に驚きを隠せないでいた。だが、驚いているのはライエルも同じである。


『まさか、ポーター……お前、こんなに立派になって』


 車体の前部分が胴体になり、荷台の部分がバックパックに。そして、大きな手足が出現する。金属自体が変形して形を整え、人型の八メートルクラスはあるロボットが出現した。


 ただし、頭部のような部分だけは、円柱の筒にビー玉を二つ取り付けたようなものが、胴体部分の右端の方へ付けられていた。


 そこだけ妙にチープである。見ようによっては、排気口にもみえなくはない。


 着地したロボットは、背中から大砲やミサイルのポッドが出現し、両腕にはガトリングが装備されていた。


 コレには流石のウルハルトも冷や汗を流していた。ガトリングの銃口はウルハルトに向けられていないが、これだけ大きな重火器を向けられては無事では済まない。


「ちょっ、おま……ちょっと待って」


 流石にこれと戦えと言われても、ウルハルトも困る。レオも突然出現したポーターに驚いて、固まっていた。


 モニカが自慢気にツインテールの左部分をかきあげ、そして説明する。


「第八世代型ポーターです。乗り心地も快適にしながら、戦闘力も確保した優秀な機体に仕上がりました。コロニー防衛用の兵器を超えた殲滅兵器……それが、今のポーターです。さぁ、ポーター、我々の力を見せてやりましょう!」


 ポーターの頭部分が頷くと、ガトリングを回転させ足幅を広げて構えだした。下手をすれば会場ごと吹き飛ばしてしまいそうなポーターの登場に、会場内では逃げ出す者まで出始める。


 審判が大慌てでウルハルトの前に飛び出て両手を大きく振る。


「ストップ! ストップゥ! 使用禁止! その魔具は使用禁止とします!」


 すると、モニカが腹立たしいのか意見した。


「何故です! 参加者は魔具の持ち込みは自由であるはず。ポーターはレオ様の魔具! 昨日から天井で待機して出番を待っていたポーターが参加できないとは、いったいどういう事ですか!」


 レオはモニカの言葉に叫んだ。


「昨日どこかに行っていると思えば、そんな仕込みをしていたの!? どうしてソッチ方面に頑張るのさ! もっとまともな方向に努力しようよ!」


 モニカは頬を指先でかくと、何か思いついたのか口を開いた。


「なる程、正面から正々堂々とポーターを引き連れて入場したかった、と。レオ様の好み、このモニカは理解しました」


「ちっとも理解してないよ! モニカさんは、俺のなにを理解しているのさ!」


 騒ぐレオとモニカ。


 すると、会場内に女性の声が響いた。ナナヤだ。


「オートマトン、モニカ。そしてポーターの使用を禁止します。それを認めないのならば、この場で失格にしますよ」


 会場の三階部分からの声に、試験会場全ての視線がナナヤに集まった。モニカは片眉を上げながら、ナナヤに意見する。


「魔具の使用は認められているはずですが?」


 すると、ナナヤは冷ややかに笑っていた。


「この三次試験の趣旨は我々にハンターの適正を見せることにあります。貴方とポーターを使用して、受験者にハンターの適正があると認められるとでも?」


 魔具を使用する才能を示せる。


 モニカやポーターといった強力な魔具を扱える。


 これらだけでも十分に資格がある、などと意見も出来た。だが、モニカはそうはしなかった。


「仕方がありませんね。失格は嫌です。だから、私とポーターは引き下がりましょう。レオ様」


 モニカはレオに、黒と金色の刀を渡した。鞘に収められた刀――基本は黒だが、周りを金で装飾している刀だ。


「モニカさん?」


「【ヤマタノオロチ】。それも立派な魔具です。どうぞお使いください。これは、レオ様が持つべき武具ですよ」


 すると、ライエルが刀を見て笑い出す。


『なんだ、お前が持っていたのか。確かに魔具ではある。まぁ、レオになら使いこなせるかも知れないな』


 ライエルが知っている魔具。それを受け取るレオ。


 モニカは、肩を落として残念そうに会場を後にするポーターを引き連れて出て行く。


 会場が騒然とする中、レオは汗だくのウルハルトや審判の方を見た。レオの持っている武器に視線が注がれている。


「えぇ、それでは試合を再開します。両者、構え!」


 ウルハルトが大剣を構えた。


 レオも、鞘から刀を抜く。抜くのだが――。


「え?」


 ――刀の刃部分は、鞘がそれなりの長さなのに拳一つ分の長さもなかったのだ。赤く短い刃を見て、周りが一気に静かになる。


 そして、直後――会場が爆笑に包まれた。モニカやポーターの登場から、見かけ倒しの武器の登場。


 しかし、ウルハルトだけは、レオを睨み付けていた。


「お前、馬鹿にしているのか!」


「え、いや、違うよ!」


 鞘を左手に。刀を右手に持ったレオが構えた。






 会場の三階では、フランディアがレオの武器を見ていた。


 ベイラルの方は汗を拭っている。息子の相手が拠点防衛用の兵器にならず良かったという安堵の表情だ。


 そして、ハルバはレオの武器を見て笑っていた。


「いや、実に虚仮威(こけおど)しでしたね。アレだけ場をかき乱しておいて、あのような粗末な武器を――」


 だが、フランディアの隣に立つエレノアは違っていた。その金色の瞳で、レオの武器を見ていた。


 そして、ベイラルが淡々と言う。ハルバを無視したような発言だった。


「それにしても、随分と珍しい魔具ですな。息子の持っている魔具と似ている」


 フランディアも同意見のようだ。


「さっきのポーターもだ。希少金属を贅沢に使っていた。それに、動力には魔鉱石か? 拠点防衛用にコロニーでも五台あれば多い方だが……個人でそれを所有するなどどんな金持ちだ?」


 すると、ハルバが言う。


「いえ、あの小僧――いや、少年は中層でも下層に近い場所の出身です。それに、魔具の適正が極端に低かった。大方、何かトリックでもあるのでしょう。きっと、オートマトンというのも嘘です。さっきの兵器も中身はスカスカでしょう」


 レオを嫌っているハルバの物言いを聞きながら、フランディアはレオを見ていた。銀色のペンダントには青い玉。


 ベイラルも真剣にレオを見ていた。


「あの刀。随分と古いものですな。アンティークとして飾られていてもおかしくない。あれと同じようなものを、十四番コロニーで見かけたことがあります。トレース家所有でしたけどね」


 フランディアが、エレノアの方を見て声をかけた。


「お前の意見は?」


 エレノアは、レオの武器を見て。


「あの武器の素材は見た事がある。ルソワースのコロニーにもあったから。でも、博物館で保管されていた」


 ハルバが慌て出す。


「ま、まさか!? いや、もしやあの小僧、盗みを働いたのでは? これはいけません。すぐに調査を――」


 すると、ナナヤがハルバを一括する。


「騒ぐな! ……アレはあの少年が持つべき物です」


 あまり説明もないが、ナナヤがそう言い切るのでフランディアは肩をすくめた。


「まぁ、お前がそう言うならそうなんだろうさ。しかし、そこまでお前が気にする相手、ってのも興味がある」


 試合が再開され、苛立っていたウルハルトが踏み込む。大きく大剣を振ると、レオはその斬撃を紙一重で避けた。


 ベイラルの視線が鋭くなる。


「不用意な。だが、あの少年……見た目以上にやるようですな」


 見た目からはそこまでの実力を持っているようには見えなかった。隠しているようにも見えない。


 フランディアも同意見だ。


「素質はある。基礎が足りないとは思うが……いったいどんな魔具を使っているのやら」


 すると、エレノアが言うのだ。


「違う。アレは魔具じゃない。今、あのオレンジ色の髪をした少年が使っているのは……複数のスキル」


 エレノアが言い切ると、ハルバが笑った。


「スキル? まさか。スキルは一人につき一つです。それに、あの小僧にスキルが発現する訳が……」


 ハルバを無視して、フランディアがエレノアにたずねた。


「見えるのか?」


 エレノアは小さく頷いた。


「彼を中心に球体状の魔力の薄い光が見える。会場全体が彼のテリトリー。でも、動きが悪い」


 ベイラルが少し笑っていた。


「ほう、そのような逸材がこのコロニーにいるとは」


 ただ、エレノアの説明は終わらない。


「それに、常時発動している光も見える。小さいけど、球体状の光とは別物。明らかに系統の違うスキル。二段階目じゃない」


 その言葉に、周囲が驚いていた。スキルは一人につき一つだけが発現するのは変えられない事実。スキルを発動するために、体をそれに適応させる必要があるためだ。他のスキルを使用するには、魔具などを利用しなくてはいけない。


 ただ、そんな周囲の中でナナヤだけは微笑んでいた。誰にも聞き取れない声で呟く。


「正統なる後継者の誕生ですね」






「うわっ!」


「逃げるな!」


 黒い大剣を振り回すウルハルト。レオの行動に腹を立てている様子で、大振りが目立っていた。


 早く試合を終わらせようとしている様子だ。


 それに対して、レオは【オール】を使用してウルハルトの攻撃をギリギリで避けていた。ライエルは笑っていた。


『なんだ、気が短いじゃないか。やっぱりエアハルトの子孫だよ。ほら、次がくるぞ、レオ』


 レオが黒い大剣を避け、少し距離を取ろうとする。しかし、ウルハルトはレオを逃がさない。


「こんな武器でどうやって――」


 手に持った刀は、柄よりも短い赤い刃だけ。とても防ぐなど出来そうにない。すると、ライエルが言う。


『あぁ、使い方を教えてなかったか。レオ、意識を集中しろ。柄の中央に透明な宝石が埋め込まれているだろ。ガラス玉みたいな奴』


 ガラス玉ではないし、とても高級な素材で作られた刀だ。レオがウルハルトの斬撃を避けながら確認できる訳もない。


「知りませんよ!」


「さっきからブツブツと……真剣にやっているのか!」


 ウルハルトが更に怒りで大剣を大きく振るっていた。若いためか、余裕が感じられない。そのために、つけいる隙ができていた。


『念じろ。なんでヤマタノ、なんて大層な名前がついていると思う? そいつはな――』


 すると、レオが握っていた柄――その中央部分の宝石が光り出した。透明な宝石には三の数字が浮かび上がる。【Ⅲ】と、表示され、カタナの柄が少し変形した。鍔の部分も大きくなり、そして赤い刃が両刃になり伸びる。


「ちっ!」


 ウルハルトの一撃を受け止めるレオ。


 その手には、両刃の剣が握られていた。ライエルが笑っている。


『いや、皇帝も引退すると暇でね。モニカと一緒に魔具でも作ろうとした訳よ。それで贅沢に作ったのが、レオが持っているヤマタノオロチね。モニカ命名だけど、八つの首を持つドラゴンか何かだって。その名の通り、八つの姿を持つ武器だ。まぁ、試作品とか結構人にあげていたけどさ』


 帝国の象徴であった凶悪な魔物――レジェンドドラゴンの素材を使用して作られたその武器を、レオは握っていた。


(こういうのがあるなら、早く渡せば良かったのに)


 ただ、モニカ登場からポーターの登場と、無駄な流れがあったために少し呆れるレオだった。


 しかし、そのおかげかレオに当初のような緊張は感じられない。


 赤い刃と黒い刃がぶつかり合い、火花を散らす。ウルハルトは、レオに苛立っていた。


「そうやってふざけて……恥ずかしくないのか!」


「ご、ごめんなさい!」


 謝るレオ。本当に申し訳ない気持ちがあった。しかし、それがウルハルトの神経を逆なでする。


「お前はぁぁぁ!!」


 すると、ライエルは楽しそうだ。


『いいね。レオも随分と煽るじゃないか。それでこそ、ウォルト家の血筋! さぁ……楽しんでいこうかぁ!!』


「全然楽しめないです!」


 こうして、レオとウルハルトの戦いが始まるのだった。


ライエル( ゜∀゜)「なんだ、レオも煽りの才能があるだな。流石はウォルト家の血筋! 煽るという行動は遺伝子に刻まれているんだね」


レオ(;゜д゜)「なんて嫌な遺伝子だ」

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