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三嶋与夢のメモ帳  作者: 三嶋 与夢
せぶんす・あふたー
19/63

第七話「俺は大悪党だよ」

 レオはハンターが持つ銃をみていた。


 銃口はこちらに向いている。緊張で体が思うように動かない。そんな時だ――。


『レオ……信じろ。お前の扱うスキルは、ウォルト家の歴代当主たちが使ってきたものだ。俺はそれで皇帝にまで上り詰めた。一つだって無意味なスキルなんかない。全てが有能。その一つを扱えるお前は……強い!』


 ライエルの声がした。宝玉からはレオの勝利を信じているライエルの声。


 レオは銃口を向けられるが、軽く息を吸い込んで言う。


「……オール!」


 レオは、自身を中心に球体状に感覚が広がるのを感じた。ライエルやモニカと訓練してきたスキル――それは、かつて二代目であるクラッセル・ウォルトが発現したスキルである。


 本来はスキルを他者に使用する、というスキルだ。しかし、自身と他者の位置を把握する必要があり、自分を中心にスキルを相手に使用できる距離まで――レオを中心とした球体状の空間は、レオの認識化に置かれる。


 すなわち。


「外れる」


 銃口が微妙にレオから外れており、レオは自分に銃弾が当たらないのを理解した。動かないでいると、レオの後方の地面に銃弾が当たった。


 モヒカンのハンターが舌打ちをする。


「くそっ、こいつ壊れてんじゃねーのか? まぁ、いい。今日は四人も連れてきた。あの暴力女は囲んで叩けばいい。俺はお前をなぶり殺しにしてやるよ。許可も出ているからな」


 レオがモニカの方を見ると、ハンターたちが全身を覆うようなプロテクターを装着し、大きな盾まで持ちだしていた。手にはマシンガンも持っており、四人でモニカを囲んでいる。


 モニカはその場に手を前で組んで姿勢良く立っていた。


「モニカさん!」


「馬鹿が」


 モニカを助けようとするレオだったが、目の前のハンターが銃口を向けてきた。今度は当たると思い、レオは体を低くする。


 発砲音が聞こえたが、またしても銃弾はレオに当たらなかった。


 ライエルの方は、レオにモニカの事を気にしないように言う。


『モニカは大丈夫だ。お前は目の前の相手だけ見ていればいい。それに、そろそろ苛立って連射されるかも知れない。動き回れ』


 レオが走り出すと、ライエルの言うとおりになった。目の前のハンターは苛立って引き金を連続で引く。侮って最初は片手持ちだった拳銃が、今では両手持ちになっていた。


 レオが走ると、狙いが定まらないのか当たらない。


『動いている相手を狙うのは大変だよな。まして、こっちは射線が分かる。ま、俺の声は聞こえていないだろうが』


 レオが動き回って銃弾が当たらないでいると、ハンターは弾倉を交換しようとしていた。


「くそっ! ちょこまか逃げ回りやが――」


 すると、ライエルはニヤリと笑って言うのだ。


『こいつたいして強くないな。レオ、今だ――踏み込んで顔面に拳を叩き込め!』


「うわぁぁぁ!!」


 レオが言われた通りにハンターに駆け出すと、相手は焦ったのか弾倉の交換が上手くいっていなかった。焦っている間に、レオはハンターに接近し、そして右手に拳を作ってハンターの顔面に叩き込む。


 全力を出したレオの拳は、綺麗にハンターの顔面を捕らえた。オールで周囲の状況を把握している事もあり、当てやすかったのもある。相手がレオの勢いもあって後ろに倒れ込む。


 そしてレオが喜ぶと。


「やった!」


『馬鹿、まだだ! 何発も打ち込め! 容赦をするな。相手がお前よりも強いことを忘れるなよ』


 ただ焦っただけ。すぐに起き上がり、今度はナイフでも取り出してレオを押さえつけでもすれば、簡単に勝負がついてしまう。


 ライエルがレオを怒鳴りつけ、すぐにマウントポジションに持ち込ませた。


『目だ。目を狙え。それからアゴ! その辺に石があるな? 拾って徹底的に叩け!』


「そ、そこまでするんですか!」


『しないと負けるんだよ! 忘れるなよ……こいつはお前を殺しに来たんだ。動かなくなるまでやれ!』


 レオがそのまま息を切らせるまでハンターをボコボコにすると、相手がピクピクと痙攣していた。


 血だらけでボコボコになったハンターの顔。途中で腕が伸びてきたが、たいした抵抗もなかった。返り血でレオも血だらけになっていた。


「……お、俺」


 震える手を見るレオに対して、ライエルは言う。


『問題ない。まだ生きている。さて、それではモニカの方は――』


 モニカの名前を呼ばれ、レオも慌てて振り返った。そこでは、手を叩いたモニカが丸裸にしたハンターたちを四人重ねてその上に立っていた。


「まぁ、こんなものでしょう。三下らしく色々と喋ってくれましたし、命までは取らないでおきましょう」


 周囲には綺麗に切断された盾。溶けた盾。グチャグチャに曲がった盾。レオは自分の事に意識がいきすぎて、周りで戦闘が起きているのも気が付かなかった。


『ほう、見事に丸裸だな。首尾の方はどうなんだ?』


 ライエルの質問に、モニカは笑顔でポーズを決める。可愛らしいポーズだが、その下には丸裸にされたハンターたちが四人も折り重なっていた。


「お任せください。ペラペラと自供してくれました。これだけの装備を手配したのは、どうやら十三番コロニーのギルドマスターのようですね」


 それを聞いて、レオが驚く。


「そんな……このコロニーのトップが」


 信じたくなかった。レオにも悪いところは確かにあったが、それでも殺される事になるとは思ってもいなかった。


 それに、十三番コロニーのトップであるギルドマスターに目を付けられたのだ。ハンターになるのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。


 モニカはハンターたちから飛び降り、レオの下に歩いてくる。


「どうやらギルドマスターの私兵に近いハンターたちですね。装備もある程度融通されているようです。質が悪いのが少し気になりますね。B級ハンター……怪しい限りです」


 レオがボコボコにしたハンターを見てから、モニカは周囲を見ていた。ライエルはモニカの言葉を聞いて、頷いている様子だ。


『まぁ、油断してくれていて助かったな。鍛えてはいるようだが、強いかどうかでいうと……弱い。武器に頼りすぎなのに、その武器も使いこなせていない。こいつが標準なら迷宮みたいな場所に隠れ住むのは正解だよ』


 モニカはエプロンからロープを取り出した。


「さて、見せしめに縛り上げますか」


『いいな! ギルドマスターにメッセージも付けておこうぜ』


 十三番コロニーのトップに目を付けられたというのに、一向に心配する気配もないモニカとライエル。


 レオは力なくその場に座り込み、二人に言うのだ。


「どうしてそんなに余裕なんですか! ギルドマスターに目を付けられたら、ハンターになる事だって……」


 すると、ライエルはレオに向かって当然のように言う。


『馬鹿だな。ギルドマスターが潰しに来るなら……ギルドマスターの方を潰せばいいだろうが。まぁ、心配するな。その辺のやり方も教えてやる。さて、今はこいつらだな』


 モニカが手際よくハンターたちを縛り上げ、そして手頃な木を見つけるとハンターたちを吊していく。


 五人のハンターが逆さ吊りにされると、モニカはスプレー缶を取り出して振り始めた。カシャカシャと音を立てながら、モニカは吊したハンターたちにスプレーを吹きかけるのだった。






 ナナヤがハンターに呼び出され、現場に到着するとハンターが二小隊も集まっていた。


(この程度の事で三小隊近く――十名も集めて。十三番コロニーの質の低下は問題ですね)


 そんな状況に腹立たしく思いながらも、スーツ姿という場違いな恰好で吊されたハンターたちを見る。


 腹の辺りにはスプレーで書かれたのか。


『売られた喧嘩は買う主義です』


 冗談のような事が書かれていた。吊されているハンターたちは、日頃から素行が悪い者たちで、恨みを買っていてもおかしくない。


 だが、ナナヤはこれをやった連中に心当たりがある。


 目を細め、眉間に皺を寄せて握り拳はギチギチと音が聞こえてきた。


「……モニカか。だが、これをやらせたのはおそらく」


 考え込むナナヤに、ハンターの一人が近づいて来た。


「ナナヤさん、周辺を捜索しましたが死体ばかりで受験者の姿は見当たりません。他のハンターたちもこの周辺には配置されておらず、目撃者を探すのは困難かと」


(やはり、受験者にやられたとは考えていませんか。まぁ、スカウトされなかった者たちが、魔具を持つハンターに勝てるとは思いませんからね)


 ナナヤはアゴに手を当てて考え込む。自然豊かな場所でスーツ姿。しかもスカートだ。しかし、ナナヤは少しも汚れていない。乗り物に乗っていた訳でもない。


 それだけで、周囲のハンターたちもナナヤの実力を察していた。何かしらの魔具で身を守っている。実力でこの程度の場所に来るのに汚れない。どちらにしても実力者であるのは間違いない。


 魔具とて、使い手次第だ。扱いに長ける者が持てば、その能力を何倍にも発揮する。逆に扱いが下手な者が持てば、正しく性能を発揮しない。


「この辺りに凶悪な魔物が出た可能性はありません。すぐに持ち場に戻って、一小隊は救護班がくるまで護衛をしておきなさい。ついでに、この馬鹿共はそれまで吊しておくように。戻ったら牢屋に放り込むのよ」


 報告に来たハンターが驚く。


「え? ですが、こいつらは何者かに襲撃を――」


 ナナヤはハンターを睨み付けた。


「私がそうしろ、と言ったのです。ギルドマスターにもそのように報告しなさい」


 ハンターが慌ててナナヤの指示通りに動くと、それを見てナナヤはその場を見て回る。破壊された魔具。だが、一部が持ち去られていた。


(こいつらが持つにして随分と上等な魔具ね。それに、ギルドが管理していた魔具まで持ち出している。許可など出されていない装備ばかり……)


 モヒカンのハンターたちが持つには質の良い装備。加えて使用届が出ていないギルド管理下の装備。Cポイントだけ妙に配置されているハンターが少なく、意図的なものはナナヤも感じていた。


(……モニカがいるなら問題ないと思いましたが、もしかして狙われている? だとしたら、急がなければ)


 ナナヤは吊されたハンターたちを睨み付けた。ただ、少し笑っている。


(まぁ、一人だけ怪我の質が違いますし、あの少年が倒したのなら……これは少し面白い事になりますね)






 レオが十三番コロニーを目指して移動を再開し、三日目になるとコロニーの外壁が見えてきた。巨大な壁は上に行くほど円が狭まっている。ドーム型の天井は、太陽光を集めている設備だ。


 ボロボロのレオは、コロニーへの到着に安堵の表情を浮かべた。


「やった……やったぁぁぁ!!」


 喜んで飛び出そうとするレオに、モニカが襟を掴んで持ち上げた。


「な、なにをするの、モニカさん!」


 モニカではなく、ライエルがレオに呆れた声を出す。


『なにをするの、はこっち台詞だ。ゴールが見えたから、って飛び出す奴がいるか。百位以内を合格にする試験だぞ。このタイミングでゴールする他の受験者は敵だ。それを思い出してから周りを見てみろ』


 そこにはトラップらしきものが置かれていた。いや、わざわざ設置するタイプではなく、ばらまくタイプのようだ。


 モニカはソレを見ながら言う。


「きっと、競い合っている相手に使用したのかも知れませんね。血がついていますし、追いつかれそうになった時に使用したのかも知れません」


 レオはそれを聞いて信じられない様子だった。


「え? で、でも、そこまでしなくても」


『そこまでするのが人間なの。ここに来るまで協力して、ゴール前で裏切る奴だっていたはずだ。ハンターになると生活が変わるんだろ? 底辺から抜け出すために必死になる奴らもいるんだよ』


 レオが俯く。ライエルに気概が足りないと言われたと思ったのだ。


(そうか、俺にはこんな気持ち……きっと甘いんだろうな。でも、俺にはこんなこと出来ないよ)


「……俺はこんな事までやりたくないです」


 すると、ライエルは怒っていた。


『当たり前だ、馬鹿! お前、自分が人を助けられるハンターになりたいとか言っておいて、こんなセコイ手段をこの場面で使うとか言ったらドン引きだよ』


「え? で、でも、今の話は俺にもこれくらいの気持ちが必要とか、そういう意味の話では?」


 ライエルは溜息を吐いていた。


『馬鹿。お馬鹿。手段を選ばない奴もいる、って教えたかったんだよ。というか、合格しても今後は同じハンターになるかも知れない奴に、こんな罠を使用したとなれば今後どうなると思う?』


 レオは簡単に予想がついた。


「凄く、恨まれるかと」


『信用がゼロじゃない。マイナスからのスタートで、ずっとあいつは信用できないとか言われるんだぞ。こういう事をする奴は馬鹿なの。やる時はしっかり止めを刺して証拠を残さない。そこまでやらないとね』


 モニカは不敵に笑うのだった。


「流石はチキン野郎。やる時は徹底していますね。そんなところも大好きです」


 レオは二人の会話を聞いてどこか怖くなった。


『まぁ、やる時は徹底的に、だ。本当なら、あの五人は始末しておきたかったけどな。証拠さえなければ、ギルドマスターに無言の圧力をかけるのも可能だったのに』


「まぁ、いくらでも潰す手段はあるんですけどね。しかし、色々と揃いましたね。これでレオ様の服を用意できそうです」


 はぎ取った装備を普通に利用するという行動に、レオは目眩を覚えそうになった。


「俺、あの五人より二人の方が悪党に見えてきましたよ」


 すると、ライエルは笑いながら言うのだ。


『なにを言っている? 小物と一緒にしないで欲しいね。……俺は大悪党だよ』


ヽ( ´ー`)ノ「レオ、宣伝しよう。宣伝! セブンスの一巻が12月28日に発売なんだ。俺の活躍が書籍になるんだよ。外伝のお前との決定的な差だね。俺本編。お前オマケ!」


レオ(;゜д゜)「そ、そうですか。どんな話なんですか?」


ライエルΣ(´∀`||;)「お、俺が宝玉で意識が蘇った歴代当主七人と旅をして……頑張る話です」


レオΣΣ(゜Д゜;)「えぇぇぇ!! ライエルさんみたいなのが七人もいたんですか!」


ライエル(゜言゜)「……俺をらいえるサンと呼ぶんじゃない」

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― 新着の感想 ―
久しぶりに読み返したけど、やはりライエルとモニカは最高だ
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