第二話「下調べくらいしようよ」
外伝はパラレルかな。
ライエルを含めて八人もご先祖様がいても、今の自分には回せないと思う。プロットも前に作ったものを流用しているだけだし。
本気でやるなら一ヶ月くらい練り込んで、それから投稿しないとグチャグチャになるし。
まぁ、軽い気持ちでこれからも「せぶんす・あふたー」をよろしくお願いいたします。
「ハンターになるには、ですか? えっと、魔具の適性が高い場合はスカウトされて……その、そうでない場合は試験を受ける事になると聞いています」
レオが食事を済ませ、モニカが食器などを台所で洗っていた。
時間は夜とあって、コロニー内中層では天井の明かりが制限され暗くなり始めている。
そんなゆったりとした時間が流れている時に、青い宝玉から――ライエルからの質問に、曖昧に返答したレオだった。
ただ、この答えにライエルの反応が悪くなる。少し低い声で、レオに対して怒っている様子だった。
『……ねぇ、ハンターになりたいんだよね?』
レオが慌ててハンターの試験を思い出そうとする。すると、日頃から知っている情報や、日常での会話。父の話を思い出し、そこからの情報で答えた。
「は、春くらいに新人ハンターの試験があります! そこで試験を受けて、合格するとハンターになれるんです。そうすると、外に出られる許可を貰えて」
ライエルはそれだけを聞いて理解したのか、レオに対して「もういい」と言うのだった。
『つまりは、たいした情報を持っていないのにハンターになるつもりだった、と。悪いけど、本気でハンターになりたいの?』
すると、レオは俯いてしまう。ハンターにはなりたい。だが、試験内容は知る事ができないのだ。それに、詳しい事は上層のギルドに行かなければ分からない。十三番コロニーにあるギルドは支部扱いだ。
本部はレダント――かつて、レダント要塞が近くにあった場所に、新型のコロニーが建造されそこに本部が置かれていた。
「詳しい事はその……でも、上層に行くにはお金もかかるんです。ハンターなら自由に行き来が出来るんですけど」
ライエルはその言葉を聞いて、レオが情報を知らない理由を理解した。学校で友人が少ない。いや、見下される対象になっていたのでいなかった。そして、厳しい生活の中で、そういった余計なお金を使いたくなかったのだろう。
『まぁ、気持ちも理解できるが、必要な情報を知らないでどうするの? だいたい春に試験がある、っていうけどさ。春、って季節はいつからいつまでを指しているの? 期間中なら試験を受けられるの? それとも、試験日が決まっているの? 必要な手続きは? 試験は有料? 無料?』
「あ、あぅ……」
答えられないレオに対して、ライエルは溜息を吐いた。
『必要経費だ。きつくても払って情報を求めに行くぞ。というか、お金の方は――』
いくらある? そう聞こうとしたライエルを遮ったのは、モニカだった。
「呼ばれなくても登場するモニカ参上! お金でお困りですか? お困りですよね! ならばこのモニカ、そんなレオ様にお金をご用意いたしました。さぁ、お受け取りください」
小さなテーブルの上に「ドンッ」と音がするような札束をエプロンから取り出し、レオの目の前に置くモニカ。
ライエルは紙幣を見ながら。
『金貨や銀貨じゃなくて紙幣か。時代の流れを感じるね』
皇帝として、一度は金貨や銀貨などから紙幣を流通させる事を考えたライエル。しかし、それはライエルの時代では無理と判断して諦めていた。
一番高価なお札が束になっているのを見て、レオが固まってしまう。
「こ、これ――」
「とりあえず十万ですかね。まだ欲しいならご用意しますが?」
「い、いいよ! それにこんなに使わないから! そ、それに、色々とやって貰っているのにお金まで貰えないよ」
レオがモニカにお金を突き返そうとすると、モニカが唖然としていた。
「や、やはりレオ様もヒヨコ様たちと同じなのですね。私たちが理想とする駄目なヒヨコ様はどこにもいないと――」
金を貰ったら遊びに行くくらいの駄目さが欲しいと呟くモニカを見て、レオが困惑していた。宝玉から声が聞こえてから、レオは困惑し続けていた。
しかし、ここでライエルが言う。
『十万。どの程度か分からないな。レオ、一般的な家庭がどれだけ稼いでいるか知っているか?』
そんな質問をされ、レオも詳しくは知らないと言いながら、ライエルに説明する。
「俺の家はそんなに裕福じゃなかったです。母さんが一人の時は、月に一千くらいで……普通なら三千とかくらいだと。でも、中層の下層手前なので一般的かどうかは……」
すると、ライエルは大きな声で言った。
『なる程、そうなると一般家庭の二年から三年分の金か。まぁ、初期費用はこれくらいでいいだろう』
レオが驚いて声を上げた。
「え、あの……えぇぇぇ!! もしかしてこのお金を使うんですか? 駄目ですよ。これはモニカさんのお金で!」
すると、嘆いていたモニカが起き上がって頬を染めて喜んでいた。
「ウフフ、流石はチキン野郎ですね。受け取りを拒否するなど考えないその思考、私は大好きです。まぁ、先行投資というのが悲しいですが。……レオ様は、もっと遊んで駄目になれば良いのに」
モニカと一緒にいると、駄目になるのではないか? そんな事を思ったレオは、気を付けようと思うのだった。
「あ、あの、初期費用、って」
『ん? あれだろ? 上層は金持ちがいて、中層は一般的で、下層がスラムとは言わないが貧困層なんだろ? なら、見た目にも気を使わないとな。世の中、見た目を馬鹿にしたら駄目だぞ。第一印象なんか見た目でしか判断できないし』
すると、モニカが手を叩く。
「いいですね。ヨレヨレの服を着ているレオ様もそそりますが、駄目な恰好をさせてはメイドの恥。ここはお洋服も揃えましょうか」
『服を買って外見を整えてから上層に向かう。ギルドで情報を聞くにしても、それくらいしておいた方が無難だからな。まぁ、金があるなら使わないとな!』
レオはライエルの言葉に反論したかった。だが、大喜びのライエルとモニカに割って入るなど、今のレオには無理だった。
『ついでにコロニー内を見て回りたいな! 俺、結構興味あるんだよね』
「お任せください。このモニカ、チキン野郎とレオ様をご案内して満足させて見せます。まぁ、私もこのコロニーに来たのは最近なんですけどね!」
嬉しそうなモニカ。ライエルも観光を楽しみにしていた。
『十万もあればなんとかなるだろ。レオ、観光しようよ。観光! お前も上層とかそんなに詳しくないだろ?』
「は、はい……」
(モニカさんの金なのに使って後ろめたさとかないのかな? ちょっと、この人たちが理解できないよ)
コロニー内の中心を貫くような柱は、エレベーターにもなっている。
お金を払って利用するエレベーターで、上層のギルドがある場所を目指すレオは新しい服装に身を包んでいた。
身なりを整え、お金を払って上層を目指す。エレベーターには椅子が設置されており、座って上層に到着するのを待っていた。窓から見えるコロニー内の景色は、まさに閉鎖された環境そのものだ。
ソレを見て、宝玉内のライエルは喜んでいた。
『凄いな! 迷宮みたいだと言ったけど、本当に迷宮だぞ。建物が入り組んでいて、まるで迷路だ』
中層から上に上がっていく。すると、上に上がるほどに建物は綺麗になっていく。そして、空間が広々と使われていた。
下に行けば行くほどに柱が太くなり数も増える。そのため、下層に行けば行くほどに使えるスペースは限られ、天井も低くなり狭さを感じる。
モニカはレオの隣に座り、レオの世話をしていた。
「レオ様、お茶になります」
「ありがとう」
まるでどこかのお坊ちゃんが、使用人を連れているように見えた。ライエルから軽く立ち居振る舞いに気を付けるように言われ、レオも緊張した様子でそれを守っている。
そうして中層を抜けると、天井の高さも中層の倍はありそうな、ゆったりとした空間が広がっている上層の光景が見えた。
『おぉぉ、金持ちがいそうな感じだな。まぁ、貧富の差なんてどこにでもあるよな』
達観しているライエルの言葉。レオは、上層の光景を見ながらこれまで自分が暮らしてきた場所がいかに狭かったのかを実感する。
植物が植えられ、空には青い空が映し出され、上層はとても綺麗だった。
「これが、上層なのか」
下手をすれば一生見ないで過ごして死ぬ者もいる。それを考えると、レオは外の世界はもっと広いのではないか? そういう気持ちが芽生えていた。
(もっと広い世界が外にはあるのかな。……見てみたいな)
モニカがレオに言う。
「レオ様、到着の時間です。降りる準備をしましょうか」
六十人前後が乗れるエレベーターの中には、その半分も乗客がいなかった。ほとんどが中層で降りてしまうためだ。巨大な柱にいくつものエレベーターが上下に移動しており、窓からはその光景も見える。
初めて中層を出るレオは、少し緊張していた。
「……うん」
ハンターギルド。
コロニーを支配しているような組織であるギルドは、上層の中でも立地の良い場所に建物があった。
支部とは言われているが、元々レダントコロニーの支配下に入る前は、ここも本部であった。支部扱いを受ける前の話だ。
そのため、立派な建物である。
そんな建物の一階に入ると、広いロビーにはいくつもの受付が用意されていた。天井の電子掲示板には、色々と案内が表示されていた。
レオが困っていると、モニカがレオに一つのカウンターを勧めた。
「レオ様、あちらが相談窓口の場所になっております」
「うん!」
緊張して声が上ずってしまった。顔を赤くするレオだが、モニカは嬉しそうにしている。そして二人で相談窓口に到着すると、そこにはギルド職員の制服であるスーツを着た女性がいた。
「ようこそ、ハンターギルドへ。今日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
レオは声を出そうとするが、なにを言って良いのか分からなくなってしまう。明らかに動揺していた。
「あ、あの、あのですね!」
緊張した少年を見た受付の女性職員は、少し微笑ましそうに見ていた。モニカがレオの代役として話を進める。
「ハンター試験について確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
女性職員は頷いた。レオを見て納得した様子だった。
「もちろんです。ただ、ハンターは報酬や待遇も保障されますが、命の危険が伴う職業です。それをご理解された上で、試験を受けるかを判断してくださいね」
そう言って職員の女性が差し出したのは、パンフレットだった。そこには十三番コロニーの試験の日程が書かれている。
「必要な書類はパンフレットに書かれています。書類を持ち帰り、受付でも郵送でも良いので出してください。試験を受ける意思を確認した後、受験番号を発行します。試験開始の二週間前までに出さないと、その年の試験を受けられませんから注意してくださいね」
レオは知らなかった内容を聞いて、安堵した。日付は一ヶ月以上も先になっている。試験を受ける事は可能だった。
(……良かった。当日に来て試験を受けられない、なんてなくて)
女性職員は説明を続ける。
「受験番号を発行しますので、それを持って当日はこのギルド支部に集合して貰います。集合した後、試験会場に全員で移動となります。それと、魔具の持ち込みは可能です。いくつでも可能ですが、巨大過ぎる場合は自分で持ち運ぶ手段を用意して貰う事になりますね。まぁ、そんな巨大な魔具を持ち込む事はないと思いますが」
それを聞いて、ライエルが考え込んでいた。
『魔具、ね。まぁ、広義の意味ではモニカも……』
「試験内容は当日に発表されます。一次試験は簡単な筆記試験と体力試験になります。ただし、二次試験からは死亡も有り得る過酷な内容が用意されます。毎年のように試験内容は変わっており、ここではお伝えできません」
二次試験を突破後、更に次の試験。
三次試験を突破すればハンターになれるようだ。レオはそれを聞いて、筆記や体力試験に不安を覚えた。
「あの、筆記とか体力試験は――」
女性職員が微笑む。
「大丈夫ですよ。一般レベルです。体力試験も健康チェックのようなものですからね。二次試験を受けられるのかどうか、を調べるためのものですから。さて、詳しい内容はパンフレットに記入しています。そちらはお持ち帰りください」
すると、モニカがレオを一度見てから。
「……書類を頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
書類を受け取るモニカ。レオは、受け取ったパンフレットに目を通していた。
説明が終わり、ギルドを後にしたレオとモニカ。
観光をするために上層を歩く事になった。
上層の街並みは綺麗だった。
木々も植えられ、道は広くてゴミゴミした感じがない。中層との違いにレオが興味深く見ていると、モニカが咳払いをした。
慌てて前を見るレオ。ライエルは微笑ましいのか、笑っていた。
『そう珍しがるな。いずれハンターになればここが仕事場になるんだぞ』
「なれれば、ですけどね」
不安そうな事を言うレオに、ライエルが言う。割と真剣な声だった。
『失敗すると? その時はその時で考えろ。今は試験の前になにを準備すればいいのか分かったんだ。よく考えれば、お前一人で試験に挑むより格段に合格率が上がったな』
知らなければ試験すら受けられなかったかも知れない。
取りあえず試験を受ければ良いと思っていたレオにしてみれば、いかに自分が物事を知らなかったかが恥ずかしかった。
「俺一人だと試験も受けられませんでしたからね。もう、今は先に調べておいて良かったと思いますよ」
中層や下層から抜け出すために、ハンターになろうとするものはいる。だが、多いとは言えなかった。情報も曖昧なものが広がっており、レオのような少年は少なくはない。
ギルドからしても、下調べをしない者など論外なのか救済するつもりもないようだ。
モニカはレオの斜め後ろを歩きながら、
「まぁ、これで試験は受けられるようになりました。二次試験はともかく、一次試験の内容も知る事ができましたからね。二次試験まではいけるようにこの一ヶ月で準備も出来ますよ」
『一ヶ月、ね。基本的な訓練をやって、戦い方を教えるにしては少し短いな。スキルを複数教えても使いこなすまでに時間もかかる。なら、ここは絞って教える事にしようかな』
二人が楽しそうにレオのハンター試験について話し合っていた。
そして、レオはライエルが戦い方を教えると言うのを聞いて、実感するのだった。
(そうだ。俺はもう魔物と戦うハンターになるんだから、戦い方も覚えないと)
漠然とハンターになれば戦い方も教わると思っていた。だが、レオは魔具の扱い――適性が極端に低い。自分のやり方で強くなる必要があった。
(そうだ。普通のやり方じゃ駄目なんだ。ご先祖様にしっかり習わないと)
そう決意をするのだが、ライエルから放たれた一言は――。
『よし、今日は観光ついでに飯を食おうぜ。戻れば時間的に夜だろうし……今日は寝て明日から頑張ろう!』
――明日から頑張ろうというものだった。
モニカ( ゜∀゜)o彡°「流石チキン野郎! 女から差し出されたお金でも、後ろめたさを感じる事なく使いきる姿勢……大好きです!」
モニカ(* >ω<)「ヒヨコ様たちもこのチキン野郎の精神を受け継げば良かったのに。良かったのに! すぐに手のかからないヒヨコ様たちに、このモニカは……全然はぁはぁできなかった!」
ライエルΣ(´∀`||;)「人聞きの悪い事を言うな! 今は借りているだけだ。いつか返すから! ……レオが」
レオ(;゜д゜)「いや、あの……まぁ、返しますけど。返しますけど! なんか納得いかない!」