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プロローグ

「はっ・・・あっ・・はっ・」

息が切れる音だけが聞こえる。

何度も木の枝などに引っ掛かり、体中傷だらけだ。

腕も、足も肌が露出してる部分に傷が付いていない場所は無い。

しかし、今はそんな事を気にしている余裕は無いのだ。


早く、早く。


1秒でも早く逃げないと彼らに捕まってしまう。

幸い地の利はこっちにある。

なんせ私は生まれた時からここで育ったのだ。

しかもこの暗い中では誰も私には追いつけない。

でもそれは私が万全な状態だったらの話だ。


一瞬でもあいつらに見つかれば今の私を殺すのは容易だろう。

とっくに体の限界は過ぎているし、何より対抗できる手段も武器も無い。

ああ、こんな事ならアレを無理してでも持ってくるべきだったか…

今頃になって後悔がこみ上げてくる。

しかし後悔したところで何かが変わるわけではない。


急げ、急げ、急げ…


「いたぞ!早く鍵を奪え!」


あいつらの声が次第に大きく聞こえてくる。

このままでは追いつかれるのも時間の問題か…


ざわざわ…ざわざわ…


木々がざわめいていたのを察知し、私は歩を止める。

あからさまに自然の風とは違う異質な音が混ざっているのを感じたからだ。


「もう追いつかれていたか…」


息を切らしながらつい独り言をつぶやいてしまう。

正確には待ち伏せされてたと言った方が正しいみたいだ。

4、5…8人は見えるが気配はそれ以上ある。

目的地はもう少しなのにどうしてこうも私は運が無いのか。

神様を信じるわけでは無いがこういう時ぐらいは助力して欲しいものだ。


「さあ、大人しく捕まるんだ。悪いようにはしないから。」

「早く施設に戻ろう。君は私たちの最後の希望なんだから。」


彼らは優しい口調で私に言葉を投げ掛ける。だが私は彼らの本性を知っているが故に首を縦には振らない。

捕まれば施設に逆戻りさせられ良いように使われた後、殺されるのは確実だろうし、逃げようとしても即射殺されるのは目に見えている。

よくもまあそんな事が言えたものだ。


それに彼らがしてきた事は許される事では無いし、許すつもりも毛頭ない。

それは私にとっても同じ事が言える。用は気付くか気付かないかの違いだ。


同意を得られないと分かったのか、周りの空気が一気に静かになる。

交渉は決裂。どうやら彼らは私をこの場で抹殺するという意見で一致したようだ。


(さすがにこの数相手では分が悪いな…)


彼らは私の動きを牽制する様に少しずつ距離を詰める。

打つ手が無い私は目で相手を威嚇しながらじりじりと後退するしか手段は無い。


(もう駄目か…)


そう思った瞬間、後方から嵐の様な強風が吹き荒れた。

あまりにも唐突な出来事にそこに居た誰もが虚を突かれる。

私は彼らが驚いて怯んだ一瞬を見逃さず、身を翻して目的地の小屋に一目散に駆け出した。

これほどの強風なら銃もまともに狙いが付かないし、方向感覚も狂って私を追い辛くなる。

正に逃げるのにこれほど良い条件は無い。


私はこの時だけは神様を信じてみても良いと思った。

単なる自然現象と言ってしまえばそれまでだが、今の私にとってこれほど運が良かったと思ったことは無かったのだから。


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30分くらい走っただろうか、やっと目的地の小屋に付いた。

もう立ってるだけでも辛くて、歩くだけで激痛が体中を駆け巡る。


「この機械があればいつかきっと彼の元へ辿り着けるはず。」


カプセルの様な機械の構造を一通り見渡した後、起動の準備をした。

電源を入れると低い音とともに無機質な機械音が辺りに響く。

とても心地の良い音とは言えないが、今の私には安らかな子守唄に聴こえてきた。


「メインシステムヲキドウシマス…[カンリパス]ヲニュウリョクシテクダサイ」


機械のセキュリティはまだ生きているみたいだ。

確か管理パスワードには自身の名前も登録されていたはずだ。


「a…l……」


私は自分の名前を口に出しながら次々とパスを打ち込んでいく…

焦る必要は無いのに何故か文字を打つ手が震えていた。


「p……l…u………m……e…入力承認」



ボタンを押すと更に複数の画面が辺りに出現した。


「ショウニンシマシタ。セーフモードヲカイジョシマス」



機械が起動し私の周りを不思議な光が包み込む。

どうやら起動は成功したみたいだ。

ここまでくれば後は運に天を任せるのみだ。

また神頼みとは情けないばかりだがこれも仕方無いだろう。


「いつか必ず…」


そして、後には感情の無い機械の音だけが寂しく残されていた…

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