第五話
ちょっと急展開かもしれないけど話が動きます。今回は会話シーンが多めです。
その日の朝、べイルは昨夜聞こえたローの遠吠えを思い返し、嫌な予感にさらされていた。
「(確かローには何かあった時には俺に知らせろと言っておいたよな……)」
べイルの相棒であるローは図体がデカいため、普段は街の外で待機している。食事は?と思うだろうが元々ローは常識的な生態系から外れた幻獣種に属する存在である。なので食べる量は少なくて済んだり、食いだめが出来たり、場合によっては界力をエネルギー源とすることも可能なのだ。
「……様子を見に行くか」
そう思い、外を見に行くこととした。
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「おいおい……何だよあれは……」
俺はローが警告する場所まで一緒に来てみたところ、遠くの方にとんでもないものが見えた。それは……
眠っている巨大なワニだった
「(あれは、〈暴食ワニ〉!?何でこの地域にいるんだ!?)」
──〈暴食ワニ〉──幻獣種の魔獣型に属する存在である。特徴はとにかく大食らいであることに尽きる。普段は土の中で眠っており、腹が空くと目覚め、その辺の生物を食らうという。外見は赤と緑の斑模様の鱗に覆われていて、尻尾には鉄球のようなものが付いている。大きさは大体馬車位だ。しかし……
「何故一般的な個体より大きいんだ!」
そう、遠くに見えるワニは明らかに一般的な個体よりもデカいのだ。通常個体が馬車位なのに対し、遠くに見える個体は一軒家に相当する大きさだった。最も、眠っているため、起き上がれば更に大きくなる可能性が高いが。
「まさか異常個体か!クソっ!急いで協会と領主に知らせないと!」
俺は急いで街へ報告に向かった。
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「よもやこのような事態が起ころうとは……!」
街の中心にある領主館。そこでブレナの街を治めるクリル・ブレナ導兵師と理術協会のブレナ支部、支部長のカミルが各々の部下を連れて緊急会議を行っていた。
なお、導兵師についてだが、これはこのユーリア圏における貴族の階級のことである。階級は一番上は王様。その次が王佐、三番目が政司、四番目が導兵師、そして一番下が闘兵師、といった感じである。
「べイルからの報告が正しければこれは極めて急を要する事態です。クリル殿、すぐに兵の準備を。我々理術士も参戦いたします」
「言われなくともわかっておる。マリル、ハリム、エリク、すぐにお前たちの部隊の出撃準備を。マイル、お前の部隊は街の住民の避難誘導をしろ!」
「「「「ハッ!!」」」」
彼らはすぐに行動を開始した。
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街の住民の避難誘導が行われる中、べイルはリリの元へ向かっていた。今回の〈暴食ワニ〉の討伐において、べイルにも召集がかかったのだ。なので孤児院の皆と、何よりリリに伝えたいことがあり、こうして向かっていた。
そして孤児院に着いた時にはすでに皆避難を始めていた。
「リリ……」
「べイル……」
そうしてべイルはリリの前に立った。ちなみにリリは院長に支えられていた。
「皆、俺は今回の討伐作戦に参加する。帰ってこられるかは分からない」
そう告げると小さい子たちは泣きそうな顔になった。
「だけど俺は死ぬつもりはない。絶対生きて帰る」
そう言ったべイルは近くにあった水を使い、理術を行使した。
「〈Ix〉」
その呪文と共に水が氷結してゆき、やがて氷で出来た薔薇の花束が完成した。ちなみに少し作りすぎたのか、花束に収まらずに何本かは地面に落ちていた。
「べイル、それ……」
「リリ、これでも見ながら待っていてくれ。お前薔薇の花が好きだろ」
「……ッ!私はあなたが生きていて欲しい……!」
「大丈夫。必ず帰ってくるって」
そして彼はリリから目を離し、近くで呆気に取られたような顔をしていたセーサに話しかけた。
「セーサ、孤児の子たちの面倒を見ていてくれ、頼んだぞ」
「あ、ああ。わかってる。でもべイル、あのリリって子はもしかしてお前の……」
「セーサ。それ以上は言わないでくれ。それじゃあ行ってくる」
そしてべイルは向かった。戦いの場へ──
しばらくはべイル視点で話が進みます。




