褒められたら伸びる俺と直球ストレートの彼女の勧誘術
体育館裏の使われなくなった古倉庫。そこに竜山双葉がいた。
白く染め上げられ無造作に伸びている髪、両耳につけられた複数個のピアス、射殺されるような鋭い目。
俺をびびらせる要素満点の彼は倉庫にあった箱にもたれかかっていた。
「えーと…竜山双葉くん?」
流石の西園さんもやや逃げ腰で話しかける。俺はというとまだ倉庫にも入ってすらいず、ガタガタとお約束のように震えながら様子を見ていた。クソ川の冷たい目線はもはや慣れてしまった。
「…ああ、そうだ」
一瞬の間があったが竜山は姿勢を崩さずに答える。どうやら警戒の雰囲気も無いようだ。
「アンタみたいな美人さんが何の用だ?」
表情は険しいが言動は緩やかだ。あれ、こいつもしかしたらいいヤツなんじゃね?という甘い発想は経験上持たないことにしよう。
「そうそう、私次の生徒会選挙に出ようと思ってるんだけど」
「ああ?」
直球どストレートを投げ込む西園さん。それを受け取った竜山の雰囲気が明らかに険しくなった。
やっちまったよ、デッドボールなんじゃね?
「先月の生徒会選挙は今の生徒会長の継続ってことですぐ終わっちゃったから参加できなくてさー…だからこそ来年に備えて優秀なメンバーをそろえたいの!!」
「…それで俺を勧誘しに来たと?」
「そう!!」
そう!!じゃねーよ西園さんんんんんんん!!!
今の台詞で明らかにコイツの不機嫌メーターが上がっただろうが!!!
どれだけ空気が読めないポジティブガールなんだよ。
「噂は聞いてるよー。タツさん凄い能力者なんだよね!?」
「タツ…さん?」
「竜山くん、って呼びにくいからタツさん。タツさん年上みたいに見えるからさん付けね!!」
「……なるほど」
なんだコイツら、会話が成り立っているようでまるで意味不明だ。
「じゃ、行こうかタツさん!!」
「どうやったらその結論にたどりつくんですか西園さん!!!」
相変わらずのゴーイングマイウェイぶりにつっこむため思わず飛び出してしまった。
毎度毎度その行動力には迷惑を被ってきたが今回は段違いに迷惑だよ。
この男が噂どおりの男ならばここで西園さんの誘いを断るだろう。そしてその後に…
「…フルボッコ」
「頭に思い浮かんだことをなんでもかんでも口に出すな」
微動だにしない竜山、そしてニコニコと笑顔を崩さない西園さん。
いたってシュールの光景だが全く笑えない。
「オカマ、私達の中で戦闘向きの能力持ってるのアンタだけなんだから…真っ先に死ねよ」
死ぬことは決定なんですネー。まあ大体予想はついていたんだけどな。
「まず最初にハッキリ言っとく…」
「うん!」
なんでアンタはそんなに元気一杯で期待に満ちた目をしているんですか西園さん。
「アンタの誘いの答えは…ノーだ」
「えー…」
いや、わかりきってたじゃないスか。
「で、本題だ」
「…へ?」
ほらキター。クソ川が早く行けって目をしてこっち見てるよ。
「俺はアンタの下にはつかん。そしてアンタが生徒会長を目指すというのなら…」
ゆっくりと立ち上がる竜山。これはもうアレだな…色々終わったな。
「ホラ、さっさと行けよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。ここはまずお前が行って攻撃を通過させてだな…」
「やだよ、だってアイツ顔が怖いし…」
「そんなの俺だって同じだっての!!」
「いいから行けや」
ケツを容赦なく蹴り飛ばすクソ川。コノヤロウ後で覚えとけ。
「え…っと、タツさん?」
「目指すというのなら…俺はお前を潰す『義務』がある」
振りかざされる左手。その拳には鋭く光る氷塊があった。え、ちょ…あのトゲトゲ度はやばくね?
「L3…『氷塊』!!」
「チクショウ!L1…『拒絶』!!」
竜山の拳に合わせて自分の拳を振り切る。勿論ありったけの勇気をふりしぼっての一発だ。みんなはもっと俺のことを褒めたらいいと思う。褒めて伸ばしたらいいと思う。
いつも通り能力が発動し竜山の拳は弾き飛ばされないまでも軌道をさらさせる…ハズなんだが。
なぜ俺の拳は氷の塊に直撃しているのだろう。
「ヒラくん!!」
「いっ…………!!」
激痛で返事ができない。なんでこんな物体に真正面からパンチ食らわせてるんだ。俺はバカか、バカなのか?
「レベル差も気にせずに戦いを挑むとはな。大した度胸だ」
いや、それは買い被りってヤツですよ。
「しかし、勇気と無謀は別物だぞ」
全面的に同意です。
「お前らに直接的な恨みは無いが…生徒会長を目指すというのなら俺はここでお前らを消す」
つぶやくように言うと竜山はペットボトルの水を懐から取り出した。おい、その一リットルのどデカイのをどこに隠していた。
ふたを開け中の水を周囲にぶちまける竜山。
「俺の『氷塊』の力はあんなものじゃないぞ」
それはまた素敵なお知らせですね。これ以上差をつけられたらどうしろっていうんですか。
「…凍れ……!!」
地面に手をつけ竜山が静かに叫ぶ。
それと同時にぶちまかれた水に一気に冷気が走る。そして言葉を発する前に全ての水は鋭い氷の針となって俺に襲い掛かる。はい、俺終わったー。
しかしその氷は俺に刺さることは無かった。
冷え切った冷たい水となって俺の頬を刺激する。
「L4、『調和』発動!!」
俺の隣には西園さんが凛とした表情で立っている。
「私の能力で氷を周囲の温度と『調和』させた…大丈夫、ヒラくん?」
「あ、はい…」
女子に助けられるとは情けないとかっていうレベルの話じゃない。即自害ものだ。
「ヒラくん…ここはもうわかってるよね?」
「はい!!」
メチャクチャいい返事の俺。勿論全力で逃げるんですよね。
「絶対タツさんをメンバーに加えるよぉ!!!」
この人はもしかしたら本物のバカなのかもしれない。