一目惚れした俺とお人良しの彼女の状況説明
なぜか突然小学生の時の記憶が流れ始めた。それはまさに初恋の時の記憶であり俺の中の数少ない甘酸っぱい記憶だ
『斎藤さん!俺と付き合ってください!!』
『キモイ。勘弁して』
…間違えた。甘酸っぱいどころかほろ苦い。いや、激苦だ。コーヒーには牛乳とミルクたっぷり派の俺にブラックのコーヒーはキツイ
よくよく考えてみると俺の恋がスイートだった記憶がない。大体が苦い、大人のブラックだ。大人の男の恋愛だ
そんな記憶を思い出し現実に目を向け絶望する。俺の恋愛が上手くいったためしがない。しかも今回の相手は超絶美人。この子と付き合えれば今までの失恋なんて全てチャラになるぐらいの絶世の美女だ。これは絶対俺とは正反対の世界にいる人物なのであろう。手が届かないどころか輝きすぎて見えない存在だ
話を戻そう
「あ、お、お、お前!!」
西園さんが現れてから剛田は動揺しまくりだ。明らかに西園さんのほうが年下だし力で押し切ることも簡単のはず、それなのにこの怯えよう…。もしかしたら西園さんは柔道とか剣道とか、とにかくそういった武術系の達人なのかもしれない。そう考えると俺の隣に座っている黒髪ショートの彼女も怪しい。この子だって指1本で剛田ぐらいあっという間に片付けてしまう実力者の可能性がある
……いや、それはない。いくらなんでも妄想のしすぎだった
「わかったらさっさと帰る!今後一切彼には手を出さない!!」
「…チッ。行くぞお前ら」
西園さんの指示に素直に従う剛田。一体全体彼女は何者なのだろうか
「大丈夫?ケガとかしてない?」
「ふぇ?……あ、あ!は、はい!!大丈夫でふ!!」
いきなり美人に声をかけられてテンパった返事をしてしまう。今ので完全にキモイと思われてしまった…。本当に俺のコミュニケーションは壊滅的で泣けてくる。これで俺の恋路は早くも潰えた。そして今回の件を通してあわよくば西園さんと仲良くなってやろうという邪念も打ち消されてしまった
と、思っていたのだが西園さんはさっきと変わらない素敵な笑顔を見せたままだ
「アハハ、そんなに緊張しないでいいから!」
これはもしかしたらもしかするんじゃないか!…なんて発想は全くない。いくら美人だって、いや美人だからこそ警戒をすべきだ。その笑顔の裏では醜い本音でドロドロしているに違いない。好きになった相手だからって心を許したわけではない
「ああ、はい…。ありがとうございます」
「なんで同い年なのに敬語なの?」
アンタに心を開いていないからだ。なんてことを言えるわけがない
「いや、初対面ですし…」
「ふーん…。あ、私は西園妃鬼。1年4組ね」
突然の自己紹介。もしかして本当に仲良くなれるのかもしれない、そんな思いが頭をよぎる
「で、こっちの小さくて可愛いのが 黒川瀞でL3ね」
「……」
またでた、L3。もしかしたら西園さんもそのLなんとかなのかもしれない。いや、そうに違いない
「あの、さっきからL2とかL3ってなんなんですか?」
「え!知らないの!!?」
「…常識しらずのメガネザル」
黒川さん、メガネザルは言いすぎじゃないですか?
「僕は今日転校してきたばかりなんで」
「ああ、なるほど!!」
ガッテンガッテンと西園さんは手を叩く。仕草の一つ一つが可愛らしいが騙されない。女も男も心の中では俺をさげすんでいるに違いないのだから
「じゃ、説明してあげるね!」
西園さんの説明ではこうだ
この学校、公立伊丹高等学校に集められるのは『特殊能力を目覚めさせる可能性がある高校生達』
そしてこの学校において能力者たちはL1~L5にクラスわけされているという。そしてそのクラスは学年以上に強力な上下関係を発揮する。つまりさっきの剛田は俺以上のクラスで西園さんはさらにその上のクラスという訳だ
「ヒラくんは能力を覚醒してもいないからL1かな」
「この学校での最下層。パシリ、奴隷…似合ってる」
黒川さん、いや黒川の言い方はいちいち癇に障る。そして俺の呼び方がいつの間にか平太から『ヒラ』になっていたが、それはまあいい。重要なのは俺はやはりこの学校でも最下層の人間だということだ
「わかりました。ありがとうございます西園さん」
「いえいえどういたしまして!」
「お礼は姫にだけ…?」
「…どうも……黒川」
「…なんで呼び捨て?」
うるさい、お前なんか黒川で充分だチビ
「じゃ、僕は行くんで」
これ以上面倒はごめんだ。それにこいつ等も俺以上の上の存在ということはわかった。面倒なことを言われる前に逃げるのが一番だ
「あ、ちょっと待って!」
ほら来た。このまま無視していければどれだけいいか
「…なんですか」
悲しいかな。俺は足を止めてしまう。次に出てくるのはどんな無理難題か。もうなんでもいい。好きにしてくれ
「お願いがあるんだけど…」
「…どうぞ」
なんなりとどうぞ…。所詮俺は人の下僕ですから
「私と一緒に生徒会やってくれない?」
ああ、しまった。冷静でいようとしたのに…
間抜な顔をしてしまった