助けられた俺と姫な彼女の初接触
剛田の文字通りの鉄拳は俺を殴り倒すことはできなかった。勿論それは俺が突然秘められていた運動神経や動体視力を開花させたから、なんてことはまるでなく。ヤツの拳が俺の顔面を『通過』していたからだ
「…は?」
自分で状況を説明してなんなのだが、意味が全くわからない。普通に考えて鉄の拳が体を通過するわけが無い。いや、もしかしたら貫通は可能なのかもしれない。もれなく俺が死亡するが…。まあ今のところ血も流れていないし何より今の俺の体は健康そのものだ。顔面を鉄拳が通過していることを除けば、だが
しかし理屈はわからないが原因はすぐにはわかった。いつの間にか俺の隣では小柄で黒髪ショートの女の子がちょこんと座っていた。その子が人差し指を俺の肩にのっけている
「…えーと……?」
「………」
その子は肩に指をのっけたまま微動だにしない。というかこちらを見てくれてさえいない。なんというか…天然、というヤツなのだろうか。とにかく女子に耐性がない自分としては非常に緊張する状況だ。顔面に鉄拳が通っているし
しかしさっきまでいなかった彼女が突然現れて俺の命が助かった、というのはどうやら紛れもない事実のようだ
「おい…なんのつもりだお前……」
「…最近L3になってボス気取り?…お猿のボス?」
「テメェ、ふざけてるのか?」
「ふざけてるのは貴方の顔」
俺を放っておいて2人は火花をちらし始める。勘弁してくれ
「あの…」
「なに?」
やっとこちらの声に反応してくれた。ただし目線は俺でも剛田でもなく地面を歩くダンゴムシをボーっと見つめたままだが
「なんで指一本だけ僕の肩に乗せているんでしょうか?」
「そうしないと私の能力が発動しないじゃない」
そんな当然のように言われても…
「顔だけなら指一本で充分だから。それ以上は触れたくない」
なるほど、わからん。わかったのは俺の心がさりげなく傷つけられたということだけだ
「…いい加減にしろよ、お前ら」
いつの間にか拳を引き抜いていた剛田はスキンヘッドの頭に漫画でよく見るような怒りのマークを浮かべていた。正直に言うと完全に忘れていた
「お前ら2人とも誰かはしらねぇが、ただでは帰さねぇぞコラァ!!!」
ただ事ではない剣幕に流石の彼女も目線を上げて剛田を見つめる。しかしその顔に動揺とか恐怖とかそういうものは一切無く、ただただ無機質とも言える無表情のままだった。俺はその剣幕にびびりまくってガタガタ震えているというのにだ
「怖いの?」
「だ、だって…あんな馬鹿げたパンチくらったら……!!」
「…情けない」
なんとでもいえ。いじめられ続けた俺にとっては力による制裁はいつでも恐怖でしかないのだから
「でもまあ…大丈夫」
「は?」
「姫が…来るから」
言った直後だった。俺の前に『彼女』が現れたのは
「ただでは帰さないってのはこっちのセリフだっての!!」
彼女は自分より一回りも大きい剛田にも恐れを見せずに近づいてゆく
「この私の前では暴力制裁なんて認めない…」
長く鮮やかな茶髪。惚れ惚れするほどの整った顔立ちと抜群のスタイル
「したがって私の目の届く所では喧嘩は禁止!!」
そう、彼女はまさに完璧だった。俺が到底届かない人間だった
そして俺はその到底届かない人間に…
「私の名前は 西園妃鬼!この学校の生徒会長になる人間よ!!」
無謀すぎる恋をした