狐狗狸さん
コックリさん。
知っている方もいると思うが一応軽く説明しておこう。
コックリさんとは狐の霊を呼び出す行為とされ、そのため『狐狗狸さん』と呼ばれる。
地域や世代によっては『エンジェルさま』等と呼ぶ場合もある。
『はい、いいえ、鳥居、男、女、五十音表』を記入した紙の上に、十円硬貨を置き参加者の人差し指を添えていく。
「コックリさん、コックリさんおいでください」と言うと硬貨が動き出し、紙の上の文字で質問に答えてくれる。
高校生の頃にクラスの人間数人で遊び半分でコックリさんをやった。
今思えば浅はかだったと言うほかない。
恐怖心より先に好奇心が勝ってしまったのだ。
いざ始めると、本当に硬貨が意志を持った様に動き出す。
怖いというより、気持ち悪さが先だった。
質問は一人ひとつ。
次々と質問が交わされ終えてゆく。
やがて僕の順番になった。
僕はやる前から質問を決めていた。
「コックリさん、コックリさん。僕に可愛い彼女ができる日が来るのでしょうか?」
硬貨はズズズっと静かに動き出した。
ゆっくりと…
しかし確実に…
『いいえ』の方向へと…
「……………………」
僕は周りの人間に悟られないように全身の筋肉をフル稼働させて、静かに硬貨の動きを制する。
硬貨に添えた人差し指がブルブルと震える。
くっ、なんて力だ!
そんなにも『いいえ』なのか!?
いや、断じて認めん!
何がなんでも『はい』に持っていってやる!
「うおぉおぉぉーーー!」
僕が雄叫びをあげると、周りの人間はコイツ狐に憑かれたんじゃないか?とドン引きしていた。
頼む!
明日の朝筋肉痛で動けなくなってもいい!
指の骨が折れてもいい。
僕に力を!
僕は力任せに無理矢理硬貨を『はい』の上に持っていった。
やった!
未来を変えた!
………あれから五年。
未だに僕に彼女はいない。
気配もない。
現在。部屋で。
「…コックリさん、コックリさん。あの時、無理矢理『はい』にしたけれど未来は変わりましたか?」
『いいえ』
僕は数年振りに声を出して泣いた。