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神は、間に合わなかった  作者: 臥亜


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第四章 神殺しの噂

噂は、思っていたより早く広がった。


「最近さ、神が消えるらしいよ」


昼休みの教室。


パンの袋を破る音と一緒に、そんな声が飛ぶ。


「消えるって?」


「願ってないのに、いなくなるんだって」


「バグじゃね?」


笑い声。


でも、どこか落ち着かない空気がある。


僕は窓の外を見る。


校庭の端で、誰かが神に向かって怒鳴っている。


「違う! そんな代償聞いてない!」


周囲が距離を取る。


神は静かに立っているだけだ。


救いの顔で。


放課後、スマホのニュース通知が鳴る。


【“神消失”報告、全国で増加】


記事を開く。


・願っていないのに神が消えた

・願いが発動しない

・奇跡発生率の低下


奇跡発生率、という言葉に違和感を覚える。


まるで統計みたいだ。


コメント欄は荒れている。


《神殺しのせいだ》

《願わない奴が世界を壊してる》

《自己責任だろ》


指先が止まる。


胸の奥が、冷える。


そのとき。


「やっぱり、あなただったんだ」


振り向くと、凛が立っていた。


屋上以来、距離が少しだけ空いている。


「何が」


「最初の一人」


心臓が跳ねる。


「最初に神を殺したの」


否定できない。


「どうしてわかった」


凛は少しだけ笑う。


「私の神が、言った」


視線を横にやる。


神は、いつも通り美しい。


だが今日は、どこか楽しそうだった。


「不完全な選択は、連鎖する」


神の声が、頭に響く。


「君は世界の均衡を崩した」


「均衡?」


「奇跡と代償は釣り合っていた。だが奇跡が減れば、代償だけが残る」


意味がわからない。


「偶然の幸運。事故回避。小さな成功。人は気づかず奇跡に支えられている」


神の瞳が、冷たく光る。


「それを奪った」


喉が詰まる。


交差点の事故。


最近増えた小さな不運。


それが、僕のせいだと?


「……証拠は?」


「ないよ」


凛が答える。


「でも、みんなそう思い始めてる」


スマホを見せられる。


掲示板。


《神殺しを見つけろ》

《世界の敵》

《奇跡泥棒》


奇跡泥棒。


笑いそうになる。


盗んだ覚えはない。


ただ、拒否しただけだ。


「怖い?」


凛が聞く。


少しだけ、優しい声で。


「怖くない」


嘘だ。


「私は、怖い」


彼女は言う。


「奇跡がなくなる世界」


空を見上げる。


雲が、いつもより低い気がした。


「弟が戻る可能性も、消えるってことだから」


言葉が刺さる。


その横で、神が囁く。


「見ろ。不完全な選択の結果だ」


教室の外が騒がしくなる。


誰かが叫ぶ。


「消えた! 俺の神、消えた!」


足音。


泣き声。


廊下に人が集まる。


僕と凛も出る。


男子生徒が、壁に背を預けて座り込んでいる。


「願う前だったのに……!」


その肩越しに、何もいない空間。


本来なら、そこに神が立っているはずだ。


ざわめきが広がる。


「マジで神殺しのせいじゃん」


誰かの視線が、僕に向く。


一人。


また一人。


広がる。


凛が、僕を見る。


迷いの目。


守るか、離れるか。


その一瞬。


彼女の神が、静かに微笑んだ。


「選べ」


頭の奥で声が響く。


凛が一歩、僕から距離を取る。


小さな距離。


でも、決定的。


「……私は、まだ願える」


それだけ言った。


責めるわけでもない。


庇うわけでもない。


ただ、立場を示した。


僕は理解する。


これが対立だ。


奇跡に縋る者と、


奇跡を拒む者。


その夜。


ニュース速報が流れる。


【政府、“神現象”に関する緊急会見へ】


世界が、動き出していた。


そして僕は、初めて思う。


もしかして。


あのとき。


神が笑ったのは――


解放ではなく。


始まりだったのかもしれない、と。

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