09 響からデートへのお誘い
時間は少し遡る。
響は自身の部屋、スマホをハンズフリーにしながらもう何度目かとなった通話で花菜と会話をしていた。
「花菜は次の休日、暇? 家の用事とか、部活とかない?」
響は何の気なしに、終末の予定を切り出した。
『えっ、うん。なにもないよ』
調理部は基本的に土日には活動がなく、あっても月一程度だと聞いていた。
「じゃあ、私と一緒に出かけない?」
『えっ、う……うん……』
「やった!」
花菜からの色よい返事に、思わず声が跳ねる。
「付き合ってからの初デートだね」
『えっ⁉ デッ、デート⁉』
ポロっと飛び出たその言葉に、花菜はギョッとした声をあげていた。
「だって私達は恋人なんだから、そうでしょう?」
『確かに、そうかもだけどぉ……』
当たり前のように言う響に、花菜は戸惑ってばかりで上手く言葉が口から出てこない。
「じゃあ、二人でいるところバレるのもあれだし少し遠出しようか。当日は駅前集合ってことで、詳しい時間は後でメッセージするね」
響は花菜に構わずトントン拍子でデートの手続を決めていく。
『デッ……デート……』
花菜は衝撃が吸収できていないのか、言葉を反芻している。
「あれ、花菜はデートは嫌?」
響は花菜が乗り気ではないのかと考え、ウキウキで計画を立てていたが気を遣って尋ねてみる。
『いえっ、とてもよいと思います!』
だが、想定とは違い力強い否定の言葉が飛んできた。
「アハッ、唐突に凄い食いつくじゃん」
これには、流石に噴き出してしまう。
花菜が嬉しいのであれば、響にとっても喜ばしいことだった。
『だ、だって! 夢か幻なのかと!』
「花菜、大げさだよ」
花菜は通話していた当初などは、響と話しているのが信じられないといった体であった。
なので、デートの誘いに乗ってくれたのは相当な進歩なのかもしれない。
少し前までは響の声を暫く聞いていると、キャパがオーバーしていたのだ。
最近は漸く響の声にも慣れてきたのか、花菜はそれなりの時間通話に付き合ってくれている。
『そんなことないよ……。響ちゃん……嘘でも私を恋人にしてくれてありがとう……』
「なにさ、改まって……」
噛み締めるような花菜の言葉に面食らう。嘘でもという言葉には、少しチクリとすることはあったが。
『あのね、私とっても嬉しくて……。本当にありがとう……』
響がそのことになにか返す前に、花菜の更なる感謝に感情が上書きされてしまった。
「ううん、私こそ。ありがとう、花菜」
それに対して、なにはともあれ自分も感謝を返さないといけないと感じた。
響も花菜の存在に助けられているのだから。
そして、時間は現在へと戻る。
(花菜が喜んでくれて嬉しかった。デート楽しみだな……)
響は教室の自席で花菜とのやり取りの記憶を回想しながら、改めて休日の予定に思いを馳せた。
響にとっては久しぶりに人と出掛けるので、純粋に楽しみであった。
それが心を許せる者であるというのが猶更であるのであろう。
響は高校になり今の土地に引っ越しており、近隣を離れた土地であればまだまだ目新しさはあった。
一人で出向くことはままあるが、それでも数はたかが知れている。
(折角なら、花菜にも楽しんで欲しい……)
それは嘘の関係の中にあって、偽りのない響の本心であった。
花菜の方に視線をやると、友人と話しているようだった。
視線は合わない。
それでも、響は花菜を視界に留めて幸せな気持ちになっていた。




