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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
9/58

09 響からデートへのお誘い

時間は少し(さかのぼ)る。

響は自身の部屋、スマホをハンズフリーにしながらもう何度目かとなった通話で花菜と会話をしていた。


「花菜は次の休日、暇? 家の用事とか、部活とかない?」

響は何の気なしに、終末の予定を切り出した。


『えっ、うん。なにもないよ』

調理部は基本的に土日には活動がなく、あっても月一程度だと聞いていた。


「じゃあ、私と一緒に出かけない?」

『えっ、う……うん……』

「やった!」

花菜からの色よい返事に、思わず声が跳ねる。


「付き合ってからの初デートだね」

『えっ⁉ デッ、デート⁉』

ポロっと飛び出たその言葉に、花菜はギョッとした声をあげていた。


「だって私達は恋人なんだから、そうでしょう?」

『確かに、そうかもだけどぉ……』

当たり前のように言う響に、花菜は戸惑ってばかりで上手く言葉が口から出てこない。


「じゃあ、二人でいるところバレるのもあれだし少し遠出しようか。当日は駅前集合ってことで、詳しい時間は後でメッセージするね」

響は花菜に構わずトントン拍子でデートの手続を決めていく。


『デッ……デート……』

花菜は衝撃が吸収できていないのか、言葉を反芻(はんすう)している。


「あれ、花菜はデートは嫌?」

響は花菜が乗り気ではないのかと考え、ウキウキで計画を立てていたが気を遣って尋ねてみる。


『いえっ、とてもよいと思います!』

だが、想定とは違い力強い否定の言葉が飛んできた。


「アハッ、唐突に凄い食いつくじゃん」

これには、流石に噴き出してしまう。

花菜が嬉しいのであれば、響にとっても喜ばしいことだった。


『だ、だって! 夢か幻なのかと!』

「花菜、大げさだよ」

花菜は通話していた当初などは、響と話しているのが信じられないといった体であった。

なので、デートの誘いに乗ってくれたのは相当な進歩なのかもしれない。

少し前までは響の声を暫く聞いていると、キャパがオーバーしていたのだ。

最近は(ようや)く響の声にも慣れてきたのか、花菜はそれなりの時間通話に付き合ってくれている。


『そんなことないよ……。響ちゃん……嘘でも私を恋人にしてくれてありがとう……』

「なにさ、改まって……」

噛み締めるような花菜の言葉に面食らう。嘘でもという言葉には、少しチクリとすることはあったが。


『あのね、私とっても嬉しくて……。本当にありがとう……』

響がそのことになにか返す前に、花菜の更なる感謝に感情が上書きされてしまった。


「ううん、私こそ。ありがとう、花菜」

それに対して、なにはともあれ自分も感謝を返さないといけないと感じた。

響も花菜の存在に助けられているのだから。




そして、時間は現在へと戻る。


(花菜が喜んでくれて嬉しかった。デート楽しみだな……)

響は教室の自席で花菜とのやり取りの記憶を回想しながら、改めて休日の予定に思いを()せた。


響にとっては久しぶりに人と出掛けるので、純粋に楽しみであった。

それが心を許せる者であるというのが猶更(なおさら)であるのであろう。

響は高校になり今の土地に引っ越しており、近隣を離れた土地であればまだまだ目新しさはあった。

一人で出向くことはままあるが、それでも数はたかが知れている。


(折角なら、花菜にも楽しんで欲しい……)

それは嘘の関係の中にあって、偽りのない響の本心であった。


花菜の方に視線をやると、友人と話しているようだった。

視線は合わない。

それでも、響は花菜を視界に留めて幸せな気持ちになっていた。

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