52 部屋に招くのって、ただでさえ緊張するのに
自分の部屋から階段を降りて花菜がリビングに向かうと、まだ母親と響の談笑が続いているのが聞こえる。
「そうなのよ。花菜ちゃんったら、かわいいお洋服なかなか着てくれなくて」
「似合うのに、もったいないですよね」
「芳川さんからも、勧めてあげてね」
「それに関しては、もちろんですよ」
(仲よくなってる……)
好きな人と母親が仲よくしているのは、なんとも言えない感情が湧いてくる。
花菜はそのまま入ろうかと思ったが、躊躇われたのでコンコンとノックをする。
「あら、花菜ちゃん?」
母親の声と共に扉を開けて入室する。
「うん、お待たせしちゃってごめん」
扉を開けると、にこやかにしている母親と、そして振り返った響……メイクをしていつもより数段美人度が増しているように見えた……が微笑んでいた。
服装もいつもの快活なものではなく、落ち着いた大人な女性のコーデといった感じの趣で雰囲気がまるで違う。
以前確かにこういう服装も持っているとは聞いていたが、実際目の当たりにすると花菜にとっては想像以上の破壊力だった。
制服以外でスカートを身に纏っている響を見るのは初めてかもしれなかった。
「ぴゃっ……!」
「どうしたの花菜ちゃん?」
思わず声にならない声をあげてしまう花菜に対して、母親が心配そうな声を漏らす。
「やっほ、花菜」
「や……やっほ、響ちゃん……」
いつものような調子で挨拶してくる響に、花菜はオウム返しのように挨拶を返すことしかできずにいる。
花菜の思考に暫しの空白が生まれる。
「花菜ちゃん? どうしたの? お部屋、行くんでしょ?」
「そっ、そうだね! 響ちゃん、私の部屋に行こうか……」
響を自分の部屋へと招くことになる……。
散々響の部屋へ赴いておいてだが、やはり心のハードルは高い。
「芳川さん、私ったらお茶も出さずにごめんなさいね。あとで部屋に持っていくわね」
「お茶、私が用意しに行くから! お母さんはいいよ!」
「あら、そう?」
「うん!」
なにが起こるか分からない空間に、突然母親が乱入してくるなど避けねばならないと花菜は判断する。
「わっ私の部屋二階だから……。行こう……」
「うん」
今の響が分からないこと、好きな人を案内することなど何重の壁を越えて花菜は自身の部屋へと案内をする。
学校の友人すら招いた記憶が曖昧なほどである花菜は、自分のテリトリーに家族以外がいることに違和感を感じる。
「ここ、私の部屋。狭いけど、ごめんね」
建売住宅の子供用の部屋なので、本当に決して広くはない。
二人が入るだけで、少し手狭に感じてしまう。
「ごめんだけど、響ちゃんはベッドにでも掛けてて」
来客用の椅子などもないため、ベッドへと案内する。
「分かった」
「私、お茶入れてくるから待っててね」
「ありがとう」
響はドキッとするような笑顔で微笑みながら感謝の意をこちらに示してくる。
いつも以上に朗らかで純真な様子に見受けられた。
ここに来た響の意図、心情などがまったく読み取れない。
心の焦燥ばかりが募っていく。
花菜はそんな響を自分の部屋に一人にさせるのは気がかかりではあったが、お茶を入れに階下へと向かった。




