43 響の変わってしまった日常
テストが終わり夏休みを待つ状態となった時期、少し浮ついた雰囲気のある朝の教室。
響は学校の自席に到着すると、相も変わらず話しかけづらいようにと勉強を始めていた。
「おはよう。委員長は、今日も真面目だねぇ」
「おはようございます。そんなことありませんよ」
クラスメイトも挨拶程度は声を掛けられるがそれだけだった。
こうやってやり過ごせば、夏休み前のこの時期とはいえわざわざ雑談を持ちかけてくる者もそうそういない。
たまにはいるが、それぐらいなら別段響も許容の範疇であった。
だが、今朝の響は少し気もそぞろである。
一通り予習が終わっている教科書を再度眺めながら、チラリと視線を花菜の席へと向ける。
花菜はどうやら一時間目の教科に関して、席の近いクラスメイト達と何やら話し合っているようだった。
席順で当てる教諭だったはずなので、あの辺りが確か次の担当範囲だったかもしれないと響は思い当たる。
なにを話しているかまでは、朝の喧噪に掻き消されて響の耳には入ってこない。
薄っすらと花菜の声が認識できる程度だった。
女子は白いワイシャツにニットを着用している生徒が多い中、花菜は寒がりなのかカーディガンを羽織っていた。
少し大き目のサイズを購入していたのか、小柄な花菜からは緩やかな印象を与える。
花菜から視線を外し、響は重い溜息が出そうになるのをグッと我慢した。
(花菜が今日もかわいい……)
そのかわいさを再認識すると共に、恋を認識した効果なのか更にきらめいて見えた。
そして、そのときめきに伴い響を襲ってくるのは罪悪感と憂鬱感であった。
響は花菜に恋をしていると認識してからというもの、必要以上に意識するようになっている。
昨日の夜のメッセージのやり取りですら、緊張で上手く返せたのか自信すらなくなっていた。
(結局私はどうすればいいんだろう……)
結局結論の出ない自問自答が響の中で螺旋のように巡っていく。
(花菜に……謝りたい……)
響の中に真っ先に来る感情はこれであった。
罪悪感からの解放もそうだが、花菜との関係を正常なものにしたいという至極真っ当な感情である。
ただ、それも正しいのかは分からないでいる。
響は努めて冷静を装いながら、胸中はまったく穏やかではない状態で日中を過ごすことになる。
この日は、忍耐力が試される一日となった。




