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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
41/58

41 響と花菜のデート予定

「響ちゃん、お礼がしたいのでなんでも言ってください」

テスト返却から数日。

響の部屋で二人の時間、花菜が唐突にそう切り出してきた。


「えっ、なに急に……」

流石の響も、花菜のこの言い方には困惑(こんわく)してしまう。


「この前のテストの結果が良かったので、臨時でお父さんからお小遣いをいただきました!」

「おおーっ!」

花菜の高らかとした宣言に、パチパチと響が拍手でもって応える。


「響ちゃんのお陰で、本当に結果がよかったの……」

「じゃあ、これからも継続的に勉強していこうね。学生は学業が一番だから。勉強さえ頑張れば、本当になんとかなるから」

「うっ、はい……。よろしくお願いします……」

響は勉強の大切さを懇々(こんこん)と説く。

テスト後も勉強会は開かれており、花菜の学力は確実に向上しているようだった。


「大体お礼なんていいのに……。日頃から、花菜には数え切れないぐらい色々貰ってるのに……」

料理もそうだが、花菜という存在が響にとっては(いや)しになっていた。

花菜がいない生活が考えられなくなっていた。


「それでは私の気がすまないのぉ」

「ええーっ……」

響は自分も頑固(がんこ)だと思うが、今の花菜も引いてくれそうにないように感じる。


「じゃあ、なんでもって言うからには……花菜をギュってハグして堪能(たんのう)するとかもアリなの?」

「そういうのはダメです! お小遣いが出たの! そういう範囲でお願いします!」

「でも、ハグにはストレス解消の効果があるっていうし……」

響は特段無理難題を吹っ掛けて花菜を引かせようとしたわけではなく、自身の純粋な希望を口にしただけであった。


「とにかく、そういうのはダメ!」

「花菜は(かたく)なに許してくれない……。そんなに嫌なの?」

「嫌……じゃない……けど……! 人には越えてはならないラインがあります!」

「なんなの、その理屈……。」

葛藤(かっとう)のある花菜の言葉と回答が、いまいち響は理解できないでいる。

花菜のキャパシティの問題なのだが、響にその理屈は通用しない。


「ハグぐらい普通じゃない? 挨拶(あいさつ)とかでもするじゃん?」

「ギュッとするのは違うと思うよ⁉」

響はならば軽めのハグならOKなのだろうかと考えたが口にはしなかった。

こういうものは、徐々(じょじょ)に解きほぐしていかねばならないと考える。


「とにかく、それ以外! なにかない?」

「うーん……そうだな……」

響はしばし、思案する。


「ああ! そうそう! テーマパークとか遊園地とかって、私こっち来てから行ったことなくて。行ってみたいかもしれない」

「そうそう、そういうの!」

響の的を得た回答に、花菜が思わずといった声をあげる。


「水族館とかなら、一人で行ったことあるんだけどね……。流石に遊園地って一人で行かないね……」

「あーね……」

花菜も自身に置き換えて考えてみたのか、水族館はともかく一人で遊園地は少しハードルが高く感じられてしまったようだった。


「響ちゃん、一人でも結構アクティブなんだね」

そもそも花菜は一人でなにかをするタイプではなかったのだろう。

一人で出掛けている響に対して、活動的なイメージを抱いているようだった。


「小学校のころド田舎からそこそこ田舎に引っ越した人間だからね、都会なんて珍しい物の宝庫だよ? お一人様だろうと、色んなところ行っちゃうよ」

響が幼少時に住んでいた土地はそもそも店舗などが稀であったし、施設など片道数時間の距離であった。

そんな中で育ったものなので、響が引っ越してきたばかりの頃は近所をウロウロするだけでも心が踊った。


「じゃあ、遊園地に行こう! 入園料ぐらいなら、私が(おご)っちゃう!」

「いいよいいよ! それぐらい私も出すよ」

豪語(ごうご)する花菜だったが、流石にとばかりに響が(さえぎ)る。


「えーっ、私のお礼なのに……」

「さっきも言ったけど、花菜には日頃から色々貰ってるから。それに花菜とデートできるってだけで私にはご褒美だよ」

「デッ……デート……かな?」

「デートでしょ」

「そっ、そうかもだね……」

食い下がった花菜だったが、響からのデートの言葉に思わず尻込みしてしまった。


「もうすぐ夏休みだし、そうしたらたくさんデートしよう」

「でも、響ちゃん帰省(きせい)とかしないの?」

「私はお墓参りには帰るけど、直ぐに戻ってくるよ……。今の実家って小さいころ過ごしたわけでもないから、思い入れあるわけでもないし。戻っても、結局田舎でなにもないしなぁ……。ただまぁ……誰かと違って顔は見せるけど……」

言葉尻は、花菜にも聞こえるか聞こえないか分からない程度の呟くような音量であった。


「? 私も同じようなタイミングで帰るかもだよ」

花菜は聞き取れなかったのか、気にした風もなく同じタイミングでの帰省を伝える。


「じゃあ、花菜がいないんだから丁度いいか」

「そんないい加減な基準で……」

「私にとっては大切なことだよ」

響の言葉を受けて、花菜は嬉しいともなんともつかない表情でいた。


「それよりも、デートの話をしよう!」

「うっ……うん……」

まだデートという言葉に抵抗があるのか、花菜の返事が覚束(おぼつか)ない。


「大きな遊園地なんて、(ほとん)ど初めてだから。本当に楽しみ! なんだろう……田舎にある、(おもむき)のあるこじんまりとしたギリギリ経営できてそうな遊園地になら連れて行ってもらった記憶があるんだよね……」

響の記憶では朧気(おぼろげ)になってしまった遊園地の記憶が(よみがえ)る。

姉が大きくなってしまったから行かなくなったのか、遊園地自体が存続しなくなったのかは覚えがない。

相当遠くにあったのだろうから、そうそう頻繁(ひんぱん)に行けるものではなかったであろうことは分かる。


「私も遊園地は久しぶりだから、楽しみだよ」

「花菜は友達と行ったりしないの?」

「私は根があんまりアウトドアな感じじゃないから。調理部のみんなで何処(どこ)か行こうってなっても、あそこのお店が美味しいらしいからみたいな感じだし」

花菜はそれなりに交友関係はあるが、その性質上同性の友達と深い仲になるのを無意識化で避けているのかもしれない。


「花菜は外出するのは好き? 嫌い?」

「好きだよ。家族で出掛けるのだって好きだし」

「だったら、一緒に色んなところに行こう!」

花菜が外出に対して消極的なのかと感じたが、そうではないようだった。

色よい返事を受け取ると、響は嬉しそうに提案を行う。


「うん……色んな所に連れて行って……。そんな響ちゃんのこと……私……」

それを受けて、花菜は(まぶ)しいものでも見るかのように目を細めた。


「じゃあ、最初は遊園地で……! アスレチックとかも行ってみたい! あとは、二人で水族館も行き直してみたいし……映画も見たいでしょ……。また一緒にショッピングもしたい! 夏だし、泳ぎにプールも行ってみたいなぁ」

響は高揚した面持ちで、様々な案を指折り数えてはあげていく。


「そんなに行ってたら、お小遣いなくなっちゃうよぉ。あと私ってプールの塩素に髪が弱いのか、直ぐに茶色になっちゃって……。夏休みデビューみたいになっちゃうから、プールは無理かも。ごめんね……」

少し茶色がかった自分の髪を摘み、花菜は自嘲(じちょう)したような笑みを浮かべて謝罪した。


「それなら、プールは厳しいかぁ……。じゃあさ、近場で花菜のお弁当持ってピクニックとか行こうよ! 絶対楽しいって! ああでも、真夏は辛いかぁ……。秋、秋になったら!」

響は代案(だいあん)に更に、先の予定まで立てようとする。


「それは、きっと楽しいね」

そんな響を花菜の瞳が、宝物をでも見るように見詰めていた。


「将来的には、旅行とかもしたい!」

「高校生なんだから、お小遣いじゃ無理だよぉ」

響は、花菜と一緒ならどこにでも行けるような気がしていた。


「ずっと一緒なんだから、いつか行けるよ」

「ダメだよ、響ちゃん」

「えっ……」

「ずっと一緒なんて言っちゃダメ」

未来図を語る響を、唐突に花菜は(とが)めた。

ただ口調も表情も優しく、悪戯(いたずら)した子供を(しか)るようなものであった。


「私はこんなだし、高校だけのお付き合いなんでしょ? だから、ずっとなんてないんだよ」

響が始めた嘘の関係。

花菜が割り切ったように口にする。


「でも、だから……。その間、いろんな所に連れて行って」

響は花菜があまりにも優しくて、近しくて、大切に思えていたから……勘違(かんちが)いをしていた。

ずっとずっと側にいてくれるように思ってしまっていた。


「楽しみにしてるから」

いつも通りの花菜の笑顔。


「う、うん……」

響はそんな花菜の言葉に肯定で応えることしかできないでいた。

少し気もそぞろになりながらも、話を続けざるを得なかった。

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