38 なにやら怪しい成分が補充されていきます
「うーん……美味しい……。花菜が部屋にいて、花菜のお菓子を食べる……。花菜成分が満たされていくのを感じるよ……」
花菜がお茶を入れ、ケーキを切り分けてローテーブルに並べている。
それを早速といった感じで、響が口にしていた。
幸せそうにりんごのパウンドケーキを頬張る響を見て嬉しくなっていた花菜だったが、宣ったその成分は如何な物なのだろうという疑問がもちろんのように残る。
「響ちゃん、そんな成分はないと思うよ……」
「あるよぉ……会えない間、花菜成分が不足して大変だったんだから!」
会えない寂しさを表すバロメーターなのだろうかと花菜は考える。
そう捉えるのであれば、花菜とて響成分は常時枯渇しているのではないだろうかと考え始めてしまう。
だが、いけないいけないと頭の中で首を振る。
「確かに会えなかったのは寂しいけど、急速に接種するのは身体に毒だよ。ゆっくり、いつも通り過ごしていこうね」
花菜は先程のようなことがあっては堪らないとばかりに、響に釘を刺していく。
「えーっ、花菜はそれでいいのー?」
「いいの!」
「ちぇーっ……」
響はそう言いながらも、花菜のお菓子に満足しているところもあってか引き下がった。
花菜はそれを見て、漸く安堵する。
「あっ、そうだ! だったら、一つお願いがあるんだ」
響が思い出したかのように提案の声をあげた。
「えっ、なぁに……」
花菜は、まだなにかあるのかと気が気ではなくなる。
「花菜の写メ撮らせてよ」
「ええっ……」
花菜は自分を被写体に写真を撮られることは家族ではよくあることではあるが、学校の友人やその他の人間に自分一人を撮ってもらうことなどほぼない。
「会えないときの花菜成分を少しでも接種するために、これは必要だなって思って。私って、元々あんまり写真とか撮る習慣無かったから盲点だったなぁ……」
響はこれまで、スマホで能動的に写真を撮る行為自体を行ってこなかったようだった。
「ま、まぁ……それぐらいなら……」
「やった! というか、これから細目に花菜を撮っていいかな?」
「ええっ⁉」
「花菜の写真、あればある程いいって気付いちゃってさ」
「で、でも……カメラロールって人に見せたりしない……?」
これがあるため、花菜は響の写真を撮るのを我慢してきていたのだ。
花菜は調理部なので、自宅で作ったものや出掛けた先での料理を写真に撮ってシェアすることがある。
その際にうっかりなどは、許されることではない。
ちなみに、録音した音声のジャケットにしていた画像は加工して別のアプリで管理しているので見付かることはない。
数枚程度であれば、花菜とて抜かることはないのだ。
この辺り、花菜は徹底していたのだから。
「いや……私って、そんなの見せる友人いないし……。そもそも、あまり写真を撮らないので……で押し通せば大丈夫だよ。事実過去にそう言ってて、私ってそういう人って認識になってるっぽいし」
外行きの声音を交えつつ響が安全を説明する。
これに関しては響の論に、花菜は言い返すことができなかった。
誰かに花菜の写真まみれの痕跡を見られることは、ほぼ無いのだろう。
「えっ……そんなっ、ズルい……」
「? ああ、花菜も私の写真が欲しいってことね」
そんな花菜の口から思わず出た言葉に、響は直ぐに理解してしまう。
花菜とて背景に写った響を愛でる程度には、写真を欲しがっていたのだ。
「じゃあ、私もたくさん自撮り送るからさ。ね? だから、花菜も撮らせて?」
「そっ……それは……」
お願いされる花菜。
そして、しばしの葛藤。
「それはぁ……お願い……しますぅ……」
花菜は自分でも無駄な抵抗だと分かっていたのか、力なく項垂れながら答える。
「じゃあ、交渉成立だね!」
とても交渉と呼べるものではなかったが、そこには意気揚々とする響と複雑な心境の花菜がいた。




