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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
35/58

35 久しぶりの調理部

花菜が家庭科室の扉を開けると、既に先輩が二人エプロンを着けて前準備を終えているのが見えた。

「あっ、花菜ちゃんだおひさー」

「花菜ちゃーん! あのなんだっけ……どうしようもない子って、もういいのー?」

「お久しぶりです。あっ、いえ……まだなんですけど……。久しぶりに顔を出しておこうかなって」

花菜は顧問の沢田先生にはザックリと伝えて、断りを入れていたのだが……部員にもつぶさに内容伝わっているようだった。


ちなみに顧問の沢田先生からは、「それは一大事なので是非行ってあげなさい。それも部活動の内です」と太鼓判までいただいている。

花菜からすれば心の広い、多角的に見れば大雑把な先生で非常に助かっているのだが……。


(部活動の一環だから、逆に他の部員に内容が伝わってもいいと思われたのかなぁ?)

花菜はプライベートな事情だと考えていたのだが、どうやらそういう感じではなさそうであった。


「そうなんだ! 頑張ってね! ウチってできる子ばっか入ってきて、できない子に教えるのってあんまりないし新鮮じゃない?」

調理部は元からある程度料理や菓子作りができる面々が多く、レシピや美味しかった店舗の共有など……どちらかというと調理研究会の側面が強い。

未経験者の部員も募集しているのだが気後(きおく)れしてしまうのか、なかなか捕まらないでいた。


「それあるかもねー。いい経験ってヤツ? 今日はなに作る感じー?」

「あっ、今日はその子にお菓子作ってあげようかなって……」

先輩に尋ねられ、花菜はそう答える。

響が甘いものが大好きなので、お菓子の差し入れは喜ばれるだろうと花菜は考えていた。


「えっ、花菜ちゃん優しっ……。尽くすタイプじゃん……」

「花菜ちゃん元から優しいでしょ」

「そっ……そんなことないですよ? 私も勉強教えてもらってて……。それで、今回のテスト凄く結果がよさそうなので……。お礼も兼ねて……」

花菜にとって、これは本音半分建前半分であった。

響も日々頑張っているのだ。

お菓子を作って(ねぎら)ってあげたいという気持ちがあった。


「料理できないのに、勉強できんだ……」

「いや、あんた料理できるのに勉強できないじゃん……」

「あはっ! こりゃ一本取られたね!」

久しぶりの先輩二人の愉快なやり取りを眺めながら、花菜も準備に取り掛かる。

事情がバレているのであれば、それはそれで気が楽ではある。


(響ちゃんのことってなると、なにか下手に隠しちゃいそうでボロが出てたかも……)


「で……その料理できない子ってば、どんな子?」

先輩の一人が、もちろんのように興味津々(きょうみしんしん)といった感じで響のことを尋ねてくる。


「うーん……。ちょっとズボラだっただけで、要領はいい子ですよ。だから、飲み込み自体は早い感じです」

花菜も伝わっていたと分かった時点で、この質問は予想していた。

(あらかじ)め用意していた回答を伝える。


「えーっ……ズボラなのに勉強はできんの……」

「そこ(こだわ)るねぇ、あんた……」

どうやら、先輩の一人は天が二物を与えるのを許さないタイプのようであった。


「他になにかないの? 料理の他に弱点とかさ? ってか、なんて子なの?」

「弱み探し出したよ、こいつ……」

先輩はなにやら許せないところがあるのか、花菜に対して質問をぶつけてくる。

それに対して、もう一人の先輩は流石に引き気味であった。


「ええっ……。他は個人情報です、秘密ですよ。特に個人名なんてダメですよ」

「ちぇーっ……。まぁ確かに、自分がズボラでメシマズだなんて知られたくないか……」

「あんたは勉強できるヤツに対して、なんかあるのか? というか、あんた赤点取ってないよね? 今度菓子作りで、希望者の遠征で届け出してたよね?」

「っすーっ……だいじょーぶなはずっす……。いや、ガチでマジで本当っす……。そんな目で見んといて欲しいんだけど……」

眼光を鋭くする先輩もそのはずで、先程から勉強に対して恨み節をきかせる先輩は赤点の前科持ちなのを花菜は知っている。


「あはは……」

これには花菜も、苦笑いすることしかできなかった……。

なにせテストはもう終わってしまっており、これから頑張ることはできないのだから。


「まっ、今日のところは部活動を頑張りましょうよぉ? ね?」

先輩は目の前の物事に目を逸らせようと必死であった。


「はーっ……まぁもう終わったもんだからねぇ……。しょうがないかぁ……。切り替えてこ」

仕方ないといった風に、もう一人の先輩も今日の準備を進めていく。


「遅くなりましたー。って、花菜先輩だー」

「えっ、相原さんいるのー?」

そんなことをしていると、家庭科室の扉が開き続々と部員達が集まってきた。


「お久しぶり」

これもまた、花菜にとって掛け替えのない日常であった。

久しぶりの感覚に、響との日常が夢現(ゆめうつつ)のように感じてしまう。

後から来た部員達にも先程のような質問攻めにあい、同様の答えを返していった。

ワイワイと話しながらも、調理部の部活動が始まっていく。


(響ちゃん……喜んでくれるといいなぁ……)

そんなことを考えながら、花菜は手を進めていた。

浮ついた心を現実に(とど)めながら、注意しながら。

久しぶりに二人きりで会える響のことを思いながら精一杯の愛情を込めて。

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