34 テスト期間が終わって
学校の教室内、チャイムが鳴ると同時に先程まで張りつめられていた空気が一気に弛緩した。
それは一学期末テストが終わりを告げるものであり、生徒達に幾分かの解放感と……またそれとは違った後悔の念のようなものが見て取れた。
試験官の教諭の指示のもと、花菜は後ろの席から答案が回されていくのを前の席へと回していく。
(今回、よくできたかも……!)
いつもは中の上から上の下程度の花菜だが、過去で一番の手応えを感じていた。
自己採点や結果が返ってきたわけではないのでまだ分からないが、確信のある問題などが確実に多かった。
(これも響ちゃんのお陰だよぉ)
分からないところを直ぐに教えてもらえる環境も素晴らしかったが、好きな人と二人という監視の目がある状況で勉強をすることも花菜にとっては集中力を維持する原動力であった。
それもあってか、一人の時間もキチンと勉強するようになった。
好きな人が折角教えてくれているのだ、格好悪いところは見せられない。
花菜はチラリと目線を立役者である響に向けると、いつものおすましモードで前を向いて姿勢正しく座っていた。
そうしていると、回答用紙の回収が終わり終了の挨拶がなされる。
そして教諭が出ていくと、教室は爆発したかのように喧噪に包まれる。
「うあー終わったー!」
「俺マジ……終わったかもしれんわ……」
「さっきの問題どうだったー?」
「私今回はイケてるかも?」
「あの問5、問5はなんだったのー⁉」
クラスメイトが席を立って口々にテスト結果を話し合っていた。
花菜達の高校は、試験期間中は最終日も含めて半日授業と日程となっている。
つまり、この後は授業はないのである。
解放感もひとしおだろう。
そんな中、花菜は響を見やる。
響は早々に荷物を纏め、帰宅準備を始めていた。
クラス委員の仕事などがない日は大体がこのような感じであった。
厄介ごとに巻き込まれる前に、さっさと帰りたいのだろうことは花菜にも見てとれた。
クラスメイトになにやら話しかけられ……なにかに誘われたようだが、それをやんわりと断り教室を後にしようとしていた。
「よぉ、花菜さんや」
「和樹くん」
そんな様子を眺めていると、和樹が声をかけてくる。
「テストの調子はどうだったかね?」
「うん、今回はよかったと思うよ~」
「おっ、花菜がそう言うってことはよっぽどだな」
日頃控えめな花菜が自信ありげな言動が目立ったのか、和樹が意外そうな声をあげた。
「私だって調子いいときだってあるよぉ」
「今回結構難しかったと思ったけどなぁ……」
「和樹くんだって、毎回なんだかんだ言ってそこそこの点数取るじゃない」
「サッカー部のレギュラーが、補習で練習サボるわけにはいかんからなぁ」
テスト結果如何では、補習や追試がある。
部活動などに影響があるので、そういったものに力を入れている生徒は勉学にも励まなければならない校風ではあった。
「目標や目的があると、人って頑張れるんだねぇ……」
「なにをしみじみと言ってるんだよ……」
訳も結果も分からない和樹からしたら、一人納得している花菜の仕草が謎に映った。
「それより、今日は花菜も部活顔出すんだろ? 弁当食べようぜ」
「うん」
今日は花菜も久しぶりに部活動に顔を出す予定になっている。
響のためとはいえ一応断りを入れているのだが、休み過ぎるのもよくないと考えた。
「あっ、相原さーん。私達もいーい?」
いつも食べていた友人達も、近くの席と結果を話し終わったのか合流してくる。
「ああ、いーぞいーぞ。存分に召し上がってくれ」
「なんで吉田の方が答えんのさ」
「アハハ、いいよ。一緒しよぉ」
席を寄せて自分の弁当を広げながら、花菜の胸中は別のことが占めていた。
(響ちゃん……ちゃんとご飯食べてるかな……)
実のところ、花菜と響は試験が始まってからは直接会ってはいなかった。
流石に試験期間はと、会うのを控えていた。
メッセージなども簡単なものしかやりとりを行っていない。
今日は、さながらその解禁日に当たるのだ。
(一応作り置きのおかずとかは、それなりに置いてきたけど……)
花菜から見ても、最近の響は朝食なども作るようになっているようであった。
食生活の改善担当として、手応えを感じている。
(それ以上に……やっぱり直接響ちゃんに会いたいなぁ……)
これまで毎日会っていたので、直接会えない期間ができたためかもやもやとしてしまっていた。
教室で見かけることはできても、直接話すことはできない。
「どうしたんだい花菜さんや、心ここにあらずって感じでまぁ。そのおかず貰っていいかね?」
「ダーメ!」
花菜はハッとしながらも、自分の弁当をガードした。
どうやら、思考に浸りすぎたようであった。
「相原さん、ボーッとしてたけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと試験が終わって気が抜け過ぎたみたい」
「部活動、刃物とか使うんでしょ? 気を付けなきゃだよ?」
「はい……それはもう……。気を付けます……」
頭の中を占める響はこの際どうしようもないと考え、極力現実を見ていこうと考える花菜であった。




