32 響の変わっていく日常2
梅雨明けはまだかと差し迫る日々。
本日は残念ながらの悪天候の中、生徒達は通学路を進んでいく。
それは期末テストを控えた生徒達にとっては、足を重くさせる憂鬱な要素足りえるかもしれなかった。
どちらにせよ、梅雨が明ける頃にはテストが待ち受けているのだから。
そんな中、響は傘を差しながら悪天候を気にしないような足取りで一人歩いていた。
雨は嫌いではなかったが、一人暮らしをするようになってからは洗濯物が乾かないな程度には思うところはあった。
(花菜は、髪が跳ねるから嫌いだって言ってたなぁ……)
響自身の髪は湿気を含もうが重いストレートなのだが、花菜の髪はフワッとした軽めの髪なので今日はセットが大変かもしれない。
そんなことを考えながら、ぼんやりと歩を進める。
「あっ芳川さんだ、おはよう」
「おはようございます」
すれ違う同級生の女子に優等生の仮面を付けた響が、朝の挨拶を交わしていく。
知り合いがいたからといって、歩みを緩めることなく歩き続ける。
響のこういったところが、近寄り難さを作っているのかもしれない。
いつものことなのか、相手も気にした様子はなかった。
(雨の中わざわざ律儀だなぁ、自分なら気付いても見送っちゃいそう……)
響は高校で深い繋がりのある友人がいないこともあってか、自分が薄情な人間であるように感じることがある。
(中学でああだったし……。まぁ、高校はやっぱりこの路線でよかったと思おう……)
何度も繰り返した思考。
過去を含めた自分を認識していると、雨のせいだろうか……響は少し心が沈んでいくのを感じる。
響は昇降口に到着すると、傘の着いた雨露を払って混雑した傘立てに押し込んだ。
静々と降りしきる雨の中から解放されたためか、多少気落ちはマシになったかもしれない。
(切り替えていこう)
響はそう考えて下駄箱へ向かうと、この学校で唯一親しいと言える顔を見かける。
「かっ……相原さん、おはようございます」
「っ…………芳川さん、おはよう」
思わず名前で呼びかけてしまう響ではあったが、踏み止まる。
(朝から学校で花菜とお話できる! すっごくラッキーなのでは?)
そんな思考の中……思わず相好を崩しそうになるのだが、響は必死に耐えた。
それを受けて、怪訝な表情の花菜が響を見ている。
「どうしましたか、相原さん?」
そんな花菜の表情を見て、響は不思議そうに疑問を口にした。
「ううん……なんでもないよ!」
「では、教室までご一緒しましょうか」
「えっ、あっ……うん」
花菜はありありと分かる動揺を隠せないまま、響に言われるまま教室までの道を同道することになる。
「試験対策は順調ですか?」
「う、うん……。でも、暗記科目がちょっと苦手かも……。芳川さんは、どうやって覚えてるの?」
二人の勉強会で応用問題などは質問し終えていたのか、基本的な質問を花菜は口にした。
「日々の予習と授業、そして復習ですね。それで試験前におさらいすると、大体のものは覚えています」
響は花菜からの質問に思考することなく、サラリと答える。
「えっ、頭のいい優等生の回答⁉」
「そんなことありませんよ、結局は日数と積み重ねですから。あとは強いて言うなら、語呂合わせや関連付け程度でしか思い付きませんが……」
「まっとうだぁ……」
「頑張ってくださいね」
「はいぃ……」
学校では大っぴらに話すことは叶わないので試験のことなどを話しながら歩いていると、直ぐに教室に着いてしまう。
響にとって名残惜しいが、朝のご褒美はどうやらここで終わりのようである。
(ああ……ずっと花菜と話せてれば良いのに……)
「芳川さん、いろいろありがとう。それじゃ……」
「ええ、それでは」
そう言って、響は笑顔で花菜に向かって手を振る。
それを見た花菜が一瞬ギョッとした顔をしたが、努めて平静を装い自身の席へ向かっていく。
(花菜の様子がなんだかいつも以上におかしかったけど、大丈夫かな?)
花菜の様子を気にしながらも、響も少し離れた自身の席へと向かう。
「おはよー委員長ー」
「おはようございます」
響が席に着くと、クラスメイトから声をかけられた。
「雨ってテンション下がるねー。梅雨も試験も、早く終わって欲しいもんだよー」
「そうですね。クラブ活動をされてる方などは、今月はフラストレーションが溜まってらっしゃるでしょうから」
「委員長ってさ。相原さんと仲いいっけ?」
「はい? どうしてですか?」
響は突然の質問に心中少し動揺するが、それを表層に見せることなく対応する。
「この前も一緒に教室入ってきてたし、委員長ってあんまり誰かと登校してるイメージ無かったからさ」
「相原さんとは、途中で一緒になっただけですよ」
これには響も首を捻って考えてみたが、確かに言われる通りのような気がする。
自分が誰かと話しながら教室に入ってくることなど稀であることに。
「あと、なんだろう……雰囲気?」
「そんなこと言われましても、私は普通に接していただけですから……」
そんな人から見て分かる程……花菜に対しての感情が滲み出ていたのだろうかと響は自身を振り返る。
(えっ、私そんなに? そんなにか?)
確かに朝から偶然花菜に会うことで、多少機嫌は良くなったかもしれないと響は考察した。
ただ、それが外部に如実に漏れ出る程度のものだとはまったくもって自覚がなかった。
(えっ……ええーっ……)
これでも品行方正成績優秀な優等生を高校に入ってから一年以上続けてきたのだ。
響にも感情のコントールに関しては自負があった。
今話しかけているクラスメイトが特段勘がいいのか、自分が余程なのか響には判断が付かない。
「それより、なにかご用だったのでは?」
なので響は結論を棚上げし、話題の転換を図った。
以降特別に気を付けることで、対処することでよしとしようとした。
「ああ、そうそう! テスト範囲で分からないところがあったから教えてもらえたらなって! 後生です! お願いします! 委員長!」
「フフッ、そんな大げさな。分かりました、どちらですか?」
響は今までのやり取りがさも無かったような顔で、クラスメイトが差し出した教科書の問題を説明する。




