30 生還、相原花菜
花菜はフッと目を覚ました。
寝ぼけ眼もほんのひととき、目の前を見やると響の寝顔がある。
「…………っ!!」
なんとか花菜は開口一番の声を抑え、息を飲む。
すーすーと響の息遣いが、やけに大きく聞こえた。
(この状態でも、人って眠れるんだ……)
響と手を繋いだままになっているため動けなかったので正確な時間は分からないが、花菜はかなりの興奮状態にあり……夜中か下手したら明け方頃まで起きていたのは覚えている。
途中、一睡もしない覚悟のようなものがあった。
だが花菜も響の体温に心地よくなってしまったのか、寝息に当てられてしまったのか、意識を手放してしまったようだった。
(いつも起きてる時間だ……)
響の部屋の時計を確認してみると、花菜がいつも起きる時間だった。
就寝時間とは別に、身体はこの時間に起きるようにできているようであった。
響はそういったタイプではないのか、まだ安らかな眠りについている。
若しくは、いつも花菜より遅い時間に起床しているのかもしれない。
(思ったより眠くないかも……)
就寝時間が少なかった割には、意識は覚醒していた。
まだ諸々の興奮が尾を引いているのかもしれない。
(それにしても……今回ばかりは生きた心地がしなかった……。よくもったよ! 私の理性!)
花菜が自画自賛する。
流石に今回は、かなり危なかった。
今一度、響は花菜がどういう存在なのかを思い直して欲しいと切に願ってしまう。
(そ、それに……響ちゃんが、チューなんて言うから……)
花菜は思い出しただけで、頬が紅潮するのが分かった。
(というか、今も手! 手繋いだままっ……!)
どうやら、二人とも寝相はよかったのか手は繋いだままだった。
響は何度か寝返りは打っていたが、手は離そうとはしなかった。
(はああぁぁっ……響ちゃんの手……。スラッとしてて綺麗なのに、柔らかくて温かくて……握ってて気持ちいい……)
花菜は響が寝ているのをいいことに、にぎにぎと感触を楽しむ。
響が起きているときは拒絶したが、花菜としても響と手を繋ぐのは嬉しい。
好きな人と触れ合うのが嫌なわけあるはずがない。
ただ、少し現実が追いつかないだけである。
(私……こんなに幸せじゃ……いけないのに……)
それは、誰に届くでもない胸中での独白。
花菜は起きるために、響が握っている手をゆっくりと丁寧に指を一つ一つ外していった。
「んんっ……」
その際響が身動ぎしたが、起きる気配はなかった。
好きな人のために朝食を作ろうと考え、響を起こさないように花菜は身を捩るようにして布団から抜け出す。
ベッドの奥側だったので、そっと這うようにして足元の方からベッドを離れた。
花菜はそのまま抜き足差し足で、そっと部屋を後にする。
(洗面台を借りて顔を洗ったら、朝ご飯の用意をしよう)
今から起きる好きな人のために、朝食の用意ができる。
響は朝食ができても起きてこないかもしれないが、そのときは温め直せば良いだろう。
(響ちゃんのお陰で……また一つ、夢が叶っちゃったなぁ……)
花菜は一人、昨晩のことを反芻する。
忘れないように、何度も思い起こすように。
そして、それに縋るように。
(この夢を胸に、私は生きていけるんだ……)
そんなことを考えながら、花菜は朝の準備に取り掛かった。




