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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
28/58

28 花菜の就寝戦争

「さて、そろそろ寝る準備をしようか」

「そうだね」

あのあと花菜の回復を待って、湯冷ましにと少し勉強と談笑をしていた二人。

(しばら)くして、高校生にとってはいい時刻になってきたので就寝の準備を始めることになった。

そこで、花菜はハタと気付く。


「響ちゃん、そういえば来客用のお布団があるって言ってたけど。何処(どこ)にあるの? 出すの手伝うよ」

「ああ、あるにはあるよ。直ぐに出せるし」

ベッドの下か収納の中辺りだろうか。

確かに出すには、それ程困らなさそうである。


「うん、だから寝るなら出さないとだよね?」

「花菜。私のベッドを見てどう思う?」

響のベッドへと視線を向ける。


「えっ、どうって……。しっかりして寝やすそうなベッドだよね……?」

セミダブル程度で、一人で寝るには少し広めのベッドである。

そうして見ていると、そこに響は取り出した枕を更にもう一つ配置した。


「ってなにしてるの? 枕が二つあるように見えるんだけど響ちゃん……」

花菜の(いぶか)しげな視線が響を見やる。


「そうなんだ……」

予測できるのだが、嫌な予感しかしない。


「一緒に寝よう! 花菜!」

「ダメです!!」

案の定な響の提案に、少し食い気味で必死な否定を返す。

今までの中でも渾身(こんしん)の拒絶である。


「ダメだよ花菜、夜中にそんな大きな声出しちゃ」

「今の私が怒られるところなんだぁ……。でも、ごめんなさいぃぃ……」

「そうだよ」

響は、さも当然といった風に流してしまおうとする。

これは有耶無耶(うやむや)にしてしまえば、なんとかなると考えている。


「いや、そうじゃなくて……!」

もちろんだが、そうは問屋が下ろさない。


「なにが問題なのさ」

「問題しかないよぉ! 問題以外の場所が私には見付からなかったよぉ!」

「花菜、落ち着こう。まず、女子同士のお泊りで、同じベッドで寝るなんてなにもおかしなことじゃないよ」

花菜は思わずといった感じで、グッとなにかを噛み締めるような顔になる。

こういう一般的な正論で攻められると花菜は若干弱い。


「というか、私達は嘘でも恋人なんだから! 節度をですね……!」

だが、花菜としても引くに引けない。

理性の崩壊を阻止(そし)するためにも。


「えっ、恋人なら猶更(なおさら)一緒に寝るのでは?」

「えっ?」

そう言われると、確かにという感覚に(おちい)りそうになる。

花菜としては世の恋人がどうしているかなど、(うかが)い知るところでは全くないのだが……。


「だったら、尚のことなにも問題ないよ。一緒に寝ようね」

「ええっ……」

理路整然とした響の言葉に流されていってしまいそうになる。


「あっ、花菜って寝相(ねぞう)はいい方?」

「えっ、あっ……。うん、それは大丈夫……」

「そうなんだ、私もいい方だとは思うんだけど……人と一緒に寝るのなんて久しぶりだからさ」

響はなにごともなかったかのように矢継ぎ早に言葉を(つむ)いでいく。

花菜の思考が巡らない内に、話がトントン拍子に進んでいってしまう。


「花菜は奥と手前どっちがいい? というか、奥側がいいかぁ」

「えっ? えっ?」

「という訳で、花菜~。ささっ、どうぞどうぞ我がベッドへ」

「えっ、いや……。あのね響ちゃん……」

正直な話、部屋に入ったときにすら響の香りで満足しているのである。

ベッドになんて入れられてしまった暁には、花菜はおかしくなってしまう。

そんな胸中を他所(よそ)に、響は花菜の背後に素早く回ると少し強引に背中を押してベッドへと押し込んだ。


「はうっ……ま、待って……」

「待ってあげないっ」

花菜はたたらを踏むようにベッドへとダイビングしてしまう。

手を突いてベッドのマットレスとスプリングの弾力を感じる。

それと同時に響が使っているであろう寝具の香りが(ただよ)い、クラクラとする。

抵抗しないといけないとは分かっていたが、身体が硬直(こうちょく)してしまった。


「ふわぁ……」

そうこうしている間に、もう片側に体重がかかりベッドが揺れて響もあがってきたのが分かった。


「どう、ウチのベッド? 実家が布団だったからさ。ベッドは結構奮発してもらったんだ。母さんと父さんも寝具はいいもの使えって言って」

そう言われて、確かに先程の弾力と現在のふかふか感が実感できてきた。

それと同時にベッドにあがってきた響に対して更に緊張してしまい、身体の硬さは解けない。


「とっ……とてもいいと思う……」

相変わらずいいご両親だと感じたが、思考が回らず月並みな感想しか出てこなかった。


「そんな身体強張らせて。ほら、一緒に寝るぐらいどうってことないって」

「あるぅ……あるよぉ……。というか、(すで)にダメぇ……」

「ええっ、なにがさ……」

「香りが凄いぃ……響ちゃんのいい香りがするよぉ……」

響に気持ち悪いと嫌われるかもしれないが、これに関してはもう白状するほかなかった。

花菜はいつ口を滑らせるか分からない状態のまま、更に気持ち悪い形で言葉を発してしまうよりマシに考えられた。


「ええっ……。私ってそんな体臭するかな……。一応シーツも洗ってはいるんだけど……」

「いい香りがぁ、しますぅ!」

「花菜は私の香りも好きなんだね」

「ひいっ……はいぃ……」

顔も声も香りまで好きと伝えてしまって、相手にベタ惚れ状態なのが筒抜けになってしまっている。

恥ずかしい状態がまた一歩加速した。


「ああでも、その気持ちは分かるかも」

「えっ?」

響の意外な言葉に、思わずといった感じで顔をあげる。


「私も花菜の香り好きだから、おあいこだね」

「きっと響ちゃんが好きなのはウチの洗剤の香りとかだよぉ……」

花菜は自身の香りと言われてもピンと来るものがなかった。

香水なども着けていないし、今など響の家の入浴セットで身体を清めてきたばかりなのだ。


「なに言ってるのさ、さっきも膝枕してくれたときにも言ったじゃん。あれは花菜特有の香りだよ?」

「ええっ……」

そう言われても、自分の体臭など汗臭くないかを気にしている程度である。


「自分の香りって言われても……」

「そうだね、自分の香りって自分が一番気付かないと思うしね」

嗅覚は麻痺しやすい感覚なのだから、自分の体臭たるや真っ先にそうなってしまっても仕方ないのかもしれない。

花菜も響のことをいい香りだと思っているが、響が同じように感じているのだろうかという考えに至る。

それはなんだか、気恥ずかしさがあった。


「だから、花菜はまた膝枕してね」

「そう帰結しちゃうの⁉」

響の唐突な提案に思考が現実に引き戻され、状況を思い出す。

終始響ペースで物事が進んでいるような気がする。

このままではいけないと思い、花菜はベッドから逃げ出そうと試みるのだが……。


(あれ、奥側だから逃げ場が……)

ベッドは二辺が壁に隣接されており、花菜は今その壁側にいる。

そして、逃げ道は逆サイドとなるのだが……。

それを響が塞いでいた。

逃げようと体を(よじ)るが、にっちもさっちも行きそうにない。


「あっ花菜、今逃げようとしたね……」

「ヒッ……」

それを目敏(めざと)見咎(みとが)められる。


「なんのために、私が花菜に奥側を勧めたと思ってるのさ……。ダメだよ? 花菜は、私と一緒に寝るの? いい?」

どうやら、すでに花菜は敵の術中に(おちい)っていたようであった。


「無理ぃ……」

「無理じゃないよ? できるよ?」

あやすように、暗示のような言葉がかけられる。


「ほーら、諦めて諦めて」

そう言うと、響は花菜強引に横にさせると掛け布団を被せてきた。


「ひゃあああぁ……!」

響の香りや横から感じる温もりが花菜の理性をガリガリと削り、花菜に悲鳴に近い声をあげさせる。

花菜が身動ぎしてジタバタと抵抗するが、それを笑顔の響は許そうとしなかった。

明らかに響の方が力が強い。


「助けてぇ……! 助けてぇ……!」

「花菜、大丈夫。大丈夫だよ」

絞り出すような声をあげる花菜に対して、響は小さい子供をあやすような物言い。


「大丈夫、死にはしないし逃げ場はないよ」

「大丈夫のライン随分と低い⁉」

抗議を繰り返していたが(しばら)くして、花菜は観念したかのように大人しくなる。

まな板の上の(こい)のような心境なのかもしれない。

なにかから逃げるように、響に背中を向けて丸まった。

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