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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
23/58

23 お泊りで勉強会

「おじゃましま~す」

「いらっしゃい、花菜! 今日はなにして遊ぼうか!」

「勉強会でしょ~」

響の部屋に到着すると、響は開口一番サボりの提案を花菜に持ちかけた。

今日は響が提案した、お泊り会の日であった。


花菜はいつもとは異なり、着替えや日用品を用意したバッグを持参している。

服装もいつもの制服姿ではなくよそ行きの私服姿であった。

響は相変わらずラフな部屋着スタイルである。


「ちぇーっ……。いいじゃん……ちょとぐらい……」

「ちょっとぐらいはいいかもだけど、まずは頑張ろうね」

響はそう言いつつも、ローテーブルには既に参考書とノートを開いて勉強を始めていたようであった。


「あ、あとこれお菓子。お母さんが、持っていきなさいって」

「ありがとう、わざわざ。あとで休憩のときに、一緒に食べようか」

友達の家にお泊りすると言ったら、母が気合を入れて贔屓(ひいき)にしている少々お高めの店のお菓子を買ってきてくれた。

ご両親にご挨拶を……とまで言ってきたので、そこは何度もお邪魔しているのだから、もう自分は高校生なのだから大丈夫なのだと断った。

なんとなく一人暮らしの友達の家にお泊りするというシチュエーションを伝えるのが(はばか)られた。


「というか、早速この前買った服着てきてくれたんだね。似合ってるよ」

「あ、うん……。ありがとう……」

花菜はこの前響に見立ててもらった服を(まと)っていた。

好きな人が見立ててくれた装いなのだからと、こういう日のためにと花菜は少し気合を入れて挑んでいた。


「やっぱり、花菜はかわいい」

「ええっ、そんなことないよぉ……」

響はマジマジと花菜を見詰めながら、そんなことを事もなげに言う。

そんな響に、花菜は面食らってしまう。


「いや、花菜はもっと自覚するべきだよ。自分のかわいさを」

「響ちゃんは、なんで私のお母さんみたいに私に対する贔屓目が凄いの⁉」

花菜に対して殊更(ことさら)ベタ褒めしてくる響を(いぶか)しんだような声でもって返してしまう。


「私は真実を述べているだけなんだから」

「褒めてくれるのは嬉しいけど……おだててもなにも出ないのにぃ……」

「むしろ、なんで信じてくれないの……」

今日の響はなかなかに食い下がってくる。

気合を入れた装いを褒めてくれるのは嬉しいが、流石に気恥ずかしさが勝つ。


「それよりも、もうっ! 勉強でしょ勉強!」

花菜は強引に荷物から勉強道具を取り出すと、ローテーブルへと広げていった。


「本当なのになぁ……」

響は名残惜しそうな感じではあるが、本来の目的ではあるためか花菜の提案に逆らうことはせずに筆記用具を手に取った。

花菜も響に(なら)ってローテーブルへと広げた勉強道具を手に取ると、勉強会の準備は整った。


「早速なんですけど響ちゃん、分からない問題がありまして……」

「なんでも聞いてよ、花菜のために前より勉強をしてるこの優等生に!」

響が殊更(ことさら)強調して胸を張るものだから、花菜は思わず笑ってしまった。

それでも自分のためになにかをしてくれているのだと思うと、胸が熱くなるのを止められなかった。


「ありがとう……。それじゃ、ここなんだけどね……」

「ええとね、ここはねぇ……」

そうやって響が顔を寄せて響に話しかけてくれる。

花菜はこの瞬間が好きだった。


「こうやって、解くんだよ」

「あっ、なるほど。ありがとう!」

幸せに浸りながら、その言葉を一字一句逃すまいと聞き入る。

相乗効果か、花菜の学力は確かに上がっていた。

それに花菜は一人では集中力がもたないタイプであったが、人と一緒に勉強すると集中できた。

響との勉強会は渡りに船の部分も十分あったが、二人でいられることの口実が増えるのはなによりも嬉しかった。


その後も二人は教科を変え、時には黙々と、時には言葉を交わしながら勉強を進めていった。

合間合間に真剣に勉強する響を(うかが)えるのは、やはり花菜にとって役得だった。






「流石にちょっと休憩」

響はそう言いながら、結構な時間勉強に集中していた凝りを解すために大きく伸びをする。


「うん、そうだね」

時間も頃合いであったので、花菜も同意する。

丁度集中力が切れかかってきたところであった。


「お茶入れるね」

花菜は勉強用具を仕舞うと、お茶の準備をするため勝手知ったる状態になってしまった響宅のキッチンへと向かう。


「あっ、ありがとう」

響は花菜の方が自分よりお茶を入れるのが上手いのを分かっているためか、手伝いはしたいが手を出すことはできないでいるのだろう。

素直に礼を言うと、大人しく部屋で待っていた。


花菜はお茶が入れ終わるとトレイに載せて、部屋へと向かう。


「おまたせ」

「おかえり、ありがとう」

帰ってくると、響がお土産のお菓子をローテーブルに広げてくれていた。


「シュークリーム、美味しそうだね……」

「そうでしょ、お母さん張り切っちゃって」

響の言う通り、クリームがはみ出したシュークリームは美味しそうに箱から顔を覗かせている。


「響ちゃんは、シュークリームって好き?」

「うーん……そうだね……。どちらかと言うと、大好きになるのかな?」

「えっ、大好きなのに……なんだか歯切れ悪いよ……」

こういった場合すっきり答えるケースが多い響にしては、濁した回答であった。


「いや、基本的に好きなんだけどさ。私って……小さい頃笑っちゃうほどド田舎で育ってるんだ……。こんな立派なシュークリームは食べたことなかったからさ……。小学校のころ一回引っ越してるんだけど、それでも結構な田舎で……。こっちに来てから偶に甘いもの食べたりしてるけど、こんな立派なのは食べたことないなぁって」

確かに、響が言う土地では近場に菓子店などはないのかもしれないと考える。

こちらに来て一人暮らしを始めてからでも、買ってもコンビニスイーツ程度になるのかもしれない。


「こっちに出てきたばかりのころは、結構なお(のぼ)りさん状態だったんだよ」

「響ちゃんって、そういった面では落ち着いてる感あるけど。あんまりイメージないなぁ……」

響は洗練されたイメージがあり、どちらかというと真逆の印象を受ける。

根っこの部分でセンスがいいのかもしれない。


「それは単に、はっちゃける時期が過ぎただけだと思うよ。一年以上住んでるしね」

「でも、学校ではずっと優等生さんだよね?」

「それは、頑張ってるんだよ。模範的でいたら、大体のことは許されるんだ」

どうやら優等生というロールは、あらゆる面で響をフォローしているようだった。


「まぁそんな私でも、甘い物は大好きなんだ。田舎の土地でも、近くに軽いお菓子とかなら置いてあるお店はあったし。私や姉さんの誕生日のときとかは……ケーキとかは何処からともなく買ってきてくれたりしたんだよ」

「へぇ、いいご両親だねぇ」

花菜は素直にそう感じた。


「今思うと、そうかもだね……」

「それと響ちゃん、お姉さんいるんだね」

響から家族の話はあまり聞かなかったので、興味津々(きょうみしんしん)といった感じで尋ねてしまう。


「あっ、うん……姉が一人……」

「? へぇ、歳は近いの?」

どうしてだろうか、響の答えの歯切れが唐突に悪い。


「いや、そこそこ上……。姉さん社会人で、こっちに来てるよ……。というか、結構近く……」

「えっ、じゃあ(たま)に会ったりしてるの? ここに来たりとか」

年頃の女子高校生が一人暮らししているのであれば、家族として心配して来訪したりするのではないかと考えた。


「ううん! 全然! 姉さん、忙しそうでさ……」

そう言う響の目が少し、()わったような気がした。

花菜は気のせいだろうか? と疑問を抱く。


「えっ、そ……そうなんだ」

「ある程度、メッセージでやり取りはしてるんだけど……」

そう言って脇のスマホに視線を落とす響。

言われてみると、親からのメッセージなどで二人の会話が途切れたことはあったが姉からのものは聞いたことがなかった。

そのため、花菜も今日まで存在を認識していなかったのだ。


「仲は、いいんだよね?」

家族仲は先程のやり取りからも、よさそうなイメージがある。


「うん……まぁ……。姉さんとは……よくは、あるかな?」

どうにもなにか(にご)しているように感じる言葉が返ってくる。


「姉さんは小さい頃は、面倒見てくれたりもしたし……。感謝はしてるよ……」

言葉に詰まりながらもそう言う響は、少しバツが悪そうに見えた。


「ただ姉さん、ちょっと奔放(ほんぽう)というか……自由過ぎるところがあるだけで……」

どうやら何やら少し訳アリのようなことが、その言葉から(うかが)える。

響のお姉さんは、なにかやらかしてしまったのだろうか……。

どこかしら悶々(もんもん)とした気持ちが湧いてくる。


「で、でも……私一人っ子だから。姉妹がいるの(うらや)ましいよ」

花菜は、ここは無難な話題選択で乗り切ろうと試みる。


「子供のころは、姉さんのお下がりばっかりだったから……逆に私は上の子が羨ましかったけどなぁ……」

「そこは、無いものねだりだよぉ」

「そうかもね」

響は花菜の言葉に気を取り直したたかのように笑った。

どうやら、乗り切れたようであった。


「そんなことより、早くシュークリーム食べよう」

話が長くなってしまったためか……それとも話題を切り替えたかったのか、待ち切れないとばかりに響がシュークリームに視線を向ける。


「そうだね」

カスタードと生クリームの物が二つずつあったが、響はカスタードから手を伸ばした。


「いただきまーす」

「いただきます」

花菜はそれを見て、生クリームの方を手に取った。

響がもしかしてカスタード大好きかもしれないと考えたからだ。

これは性分かもしれない。


「えっ、嘘……なにこれ美味しい……」

「うん、美味しいね」

流石に母が贔屓(ひいき)にしている少しお高めの菓子店の物だからだろう、美味しい。

こういうとき、レシピはどうなっているのだろうと少し考えてしまう。


「甘いもの食べてるときって、本当に幸せだよね……」

そう言う響の顔は本当に幸せそうであった。


「分かる……。でも、食べ過ぎには注意だよ……?」

「ん~~っ……。私って勉強と運動してるから、あんまり太ったりしないんじゃないかな? というか、もう少しウェイト欲しい」

花菜が咀嚼(そしゃく)を止め、信じられないものを見たという視線を向ける。


「えっ、女子の敵?」

思わずそんな言葉も(こぼ)れてしまう。


確かに響はスラっとしているし、無駄な肉はなく……どちらかというと筋肉が付いていそうだ。

それにしても、年頃の女の子のセリフではないのではないだろうか。


「えっ、そんなことないでしょ……」

「年頃の女の子は、大体体重を気にしながら生きているのに……」

「私みたいな女子だって、少なからずいるって……」

確かにいるかもしれないが、そんなレアケースを相手にしてはいられないのだ。


「…………。ん? 響ちゃん、そんなこと言う割には……あんな食生活してきたの?」

「あっ……そのですね、花菜先生……それは違うんです……」

女子を敵に回しかねない発言をしたあとに、自分の怠惰(たいだ)な食生活を指摘されて響は焦ったように言うがなにも取り(つくろ)えてはいない。


「ちゃんと食べないと、望んだような体型にもなれないよ」

「はい、以降気を付けます……」

反省しているのか、少し視線を落とした響がそう答えた。


「約束だよー?」

「はい……花菜先生が言うと、説得力が違うので……頑張ります……!」

そんなことを言う響の視線をよくよく辿ると、自分の胸部に行き着く。


「って、どこ見て言ってるの⁉」

視線が落ちていたのは、ただ胸部に目が行っているだけだった。


「響ちゃん、何も反省してない⁉」

「そんなことないよ!」

響の力強い否定が返るが、今となっては説得力は皆無(かいむ)に近かった。

そんな会話をしながら、休憩時間は過ぎ去っていく。

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