22 だったら響は提案する
「花菜だけ学校で楽しそうでズルい……」
「ええーっ?」
学校での件を心に戒めたはいいものの、花菜と二人きりになった自室で響は堪らずといった風にそう零してしまったいた。
当然、花菜は困惑してしまう。
「そう言われてもぉ……」
「ムーッ……別に花菜が悪いわけじゃないけどさ……」
完全に駄々をこねる子供のようになってしまう。
「響ちゃんは、どうしたいの……?」
花菜に当然といった疑問を返され、今まで漠然と感じていた感情に形を作るよう促される。
(私? 私は……どうしたいんだろう……)
学校でも今のように花菜と話したい。
花菜と二人でいたい。
誰にも邪魔されたくない。
花菜を誰かに取られたくない。
花菜を……花菜を……。
(私は、なにを考えているんだ……)
花菜は、物ではないのだからと思い直す。
これでは、お気に入りのおもちゃを手放したくない幼い自分。
子供の頃にお気に入りのおもちゃがあったら、姉に取られまいと泣いてでも手放さなかったころ。
(私って子供の頃から何も進歩してないってことになるの……?)
「響ちゃんは、学校でも私と一緒にいたいの?」
思考に没頭してしまったのか、黙り込んでしまった響の代わりに花菜が更に質問を投げかけてくる。
「いや……そういうわけでは……あるけど……」
歯切れの悪い肯定を返してしまう。
痛いところを突かれたような、居心地の悪さがあった。
「嬉しいけど、それじゃダメでしょ?」
「それは、そうだけど……」
秘密の関係なのだから、当然の言葉であった。
これは、響が持ちかけた約束だ。
「だって……だってさ……。花菜はみんなと仲いいし、特に吉田とか距離近いしさ……」
「和樹くんとはただの幼馴染だからね?」
この答えには慣れているのか、花菜はサラリと言った。
「それに……なんだか、花菜がどこかに行っちゃいそうでヤダったんだ……」
そうだ、自分は何故かあのとき花菜がとても遠くに感じられて……手を伸ばせない自分が嫌だった。
「 私達、恋人だよね……?」
「う、うん……。そう、らしいけど……」
仮初であることを他所に迫る響に、花菜は関係についてはそう答えるしかなかった。
「大丈夫。私はね、ずーっとずーっと響ちゃんだけだよ。だから、安心して」
「そんな……」
じっと目を見て言う花菜の優しい瞳に……自分で言っておいて、たじろいでしまう。
そして、胸がチクリと痛んだ。
花菜はいくら自分を好きとはいえ、秘密を盾に恋人にしているのだ。
「だから、大丈夫だから……」
だが、優しい言葉が今は嬉しかった。
ただただ、それに溺れてしまいたかった。
それが、どこかイケないことだと分かっていたとしても。
「響ちゃん」
「な、なに?」
「私は響ちゃんの隣にいれて嬉しいの……。ありがとう……」
今度は何か、ズキンと痛んだ。
響は、大きな過ちを犯している気がした。
取り返しのつかないことをしようとしている、そんな予感めいたものが胸中を過る。
ただ、それが何なのか分からない。
分からないでいた。
「だったら、もっと一緒にいよう!」
「えっ」
「今度の土曜に勉強会ってことで、お泊り会をしよう!」
「ええっ⁉」
響はそんな不安を払拭するように、思い付いた予定を口にする。
独占欲だって、もっとたくさん一緒にいれば紛れてしまうかもしれないと考えた。
花菜と一緒にいることで、なにもかもが上手くいくような気がした。
幸せになれるような気がした。
だから、もっと……もっと……と。
そんな、響の勢いと感情を他所に面食らった花菜はしどろもどろになりながら……答えに窮することになる。
お泊りという誘惑を前に、花菜が勝てるビジョンなどありはしなかったのだが……。




